僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Final Season

    僕達ルール(5)

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 律の唇に僕の唇を重ねることも随分と久し振りのような気がする。
(前にキスしたのっていつだったっけ?)
 はっきりとすぐには思い出せないということは、ここ数日前の話ではない。
 全く、一緒に住んでいる恋人同士なら、キスくらい毎日していてもおかしくないっていうのにさ。律って本当、日常的に僕とイチャつく習慣というものがないよね。
 それと言うのも、僕と律が子供の頃からの幼馴染みで、一緒にいるのが当たり前みたいになっているからだろうな。
 まだ恋愛感情なんてものを知らない頃からの付き合いでもある僕と、数年後に恋人同士になったからって、今更イチャつこうって気持ちにはなれない、というのが、案外律の本音だったりするのかもしれない。
 僕なんかは、逆に子供の頃から知った仲の律となら、なんの気兼ねも遠慮もなく、好きなだけイチャイチャし放題な関係になれると思っていたのにさ。
「んんっ……ぁっ、んっ……」
 なかなか僕とイチャついてくれない律に拗ねたくなる僕は、“僕はもっと律とイチャイチャしたい”という想いをキスに込めた。
 優しく啄むだけだったキスから、吐息と舌が絡まり合うキスに変わった瞬間、律の唇からはか細い甘い声が漏れ、体温も少し上がったような気がした。
 律はなかなかその気になってはくれないけれど、一度こういう流れになってしまうと、身体の反応はわりと早い方だった。
 心より身体の方が素直ってことなのかな。身体がちゃんと反応してくれると、さっき律が言った
『それに、僕は海とスるのが嫌ってわけでもないから』
 って言葉も信じられるから安心する。
「っ……ぁっ……ゃ……」
 濡れた音を立てて何度も重なり合う唇に律が気を取られている隙を衝いて、律のシャツの中へと手を滑り込ませると、律の身体がビクンっと小さく震えた。
「んっ……んんっ……ぁっ……」
 律の声が更に甘くなった。
 それは注意深く律の反応を観察していないと、うっかり見逃してしまいそうな小さな変化ではあったけれど、律が感じてくれているという確かな証拠だった。
 普段から律のちょっとした変化や反応を見逃すまいと気を付けている僕は、こうした律のちょっとした変化や反応を見つけるたびに嬉しくなったりもする。
 愛情表現が控えめな律は、感じ方も控えめだからな。律からの何かしらのリアクションを見つけるのは宝探しをしているみたいで楽しくもある。
 まあ、宝探しというほどに見つけにくいものでもないんだけれど、律が僕に隠したい感情を視線で暴いていくことは、僕の密かな楽しみであったりもする。
「ぁんんっ……」
 律のシャツの中に滑り込ませた手で、律の脇腹から脇の下までを擽るように撫で上げると、それと一緒にシャツの裾も捲れ上がり、陶器のように綺麗で滑らかな律の素肌が僕の目の前に晒された。
 本当に何度見ても息を呑むほどに綺麗だ。このきず一つない綺麗な身体に好きなだけ触れ、時には――。
「んぁっ……! ゃっ、あぁ……っ」
 これは僕のものだという所有の印をつけることができるのは、恋人である僕だけの特権だ。その権利を誰にも譲る気はない。
 もっとも
「海っ……痕は付けないでって……言ってるのに……」
 律は僕に僕のものだという印を付けられることを嫌がったりもするんだけれど。
「ごめん。久し振りだからつい……ね」
 これは日頃お預けを喰らうことが多い僕からのささやかな仕返しだったりもする。
 それに、律が僕にキスマークを付けられることを嫌がるのは、それを誰かに見られてしまうかもしれないという不安があるからで、僕にキスマークを付けられること自体を嫌がっているわけではない。
 だから、僕も仕返しだと言いつつも、律が心配するようなことにはならないようにと注意はしている。
 万が一、僕に付けられたキスマークを誰かに見られでもして、律が本当にキスマークを付けさせてくれなくなっても困るし。
 それに、僕は僕の所有の印が付いた律を誰かに見せびらかしたいわけじゃない。そもそも律の素肌を人前に晒すつもりも毛頭ないのだから、僕が律にキスマークを付ける理由はただ一つ。僕の個人的な楽しみのためである。
 まるでこの世のものとは思えないほどに整った綺麗な顔をしている律は、僕の中では出逢った瞬間から天使そのもののような存在で、こういう言い方をしてしまうと陳腐でちょっと古臭いのかもしれないけれど、僕にとっての結城律とは、まさに《地上に舞い降りた天使》といった存在であった。
 そんな、ある意味神聖視している律を自分の手で犯し、穢すという背徳的な行為に興奮してしまう僕は、律の胸元にたった今咲いたばかりの紅い一片の花弁を見ると、身体の奥底からゾクゾクとした感覚が湧き上がってくる。
 なんて言うと、「変態?」と引かれてしまいそうだけど、人というものはわりとアブノーマルな世界や背徳的な行為に興奮し、深みに嵌ってしまうものである。ただ、人前ではそんな自分の本性に気が付かれないようにと気を付けているだけのことだ。
 まあ、中には司さんや悠那君のように、自分達のアブノーマルな部分をあまり隠そうとしない、オープンな人間もいるにはいるんだけどね。
 どちらにせよ、人は誰しも変態的な部分を持っていることは間違いないと思う。
「大丈夫。しばらくは人前で着替えるような仕事は入ってないし、仮に人前で着替えることがあったとしても、律は人前で堂々と素肌を晒すこともしないでしょ?」
「そう……だけど……」
「心配しなくても、僕が律に付けたキスマークを誰かに見られることなんてないよ。っていうか、僕が見せないし」
「ん……うん……」
 この見るからに真面目そうで、実際に真面目で純粋無垢な律にだって、変態的な要素を感じさせてくれる部分は絶対にある。と、僕は思っている。
 一般的な目から見ると変態でもなんでもないけれど、僕の目には僕の愛撫に感じる律の姿が、既に変態っぽくも見えている。
「ねぇ、律。脱がしちゃってもいい?」
 脱がしちゃってもいい? も何も、僕の手によって胸の上まで捲り上げられたシャツはほぼ着ている意味がなく、僕に半裸状態にさせられている律の姿にもそそられてしまう。
「ダメって言っても脱がすんでしょ?」
「うん」
 今の状態の律も充分に僕を興奮させてくれるんだけど、これからもっと律に色々しようと思ったら、僕と律を隔てる服の存在はやっぱりちょっと邪魔だった。
 僕に素肌を晒した時点で観念したのか、律にもう抵抗する気はないようだった。
 ひょっとしたら、僕の悲痛な訴えが多少は律の胸に響いてくれたのかもしれない。
 あるいは、あまり僕に我慢をさせてばかりいると、そのうち制御不能な暴走をしてしまうかもしれないと危惧し、たまには海の我儘も聞いておかないと……って気分になったのかもしれない。
 どんな経緯だったにしろ、今日は新居に引っ越してきてから三回目になる律との恋人同士の時間を堪能できる許可を得られたらしい。
 今回のことで改めて実感したけれど、律とセックスするためにはある程度の強引さも必要だな。
 律は僕が強気な態度や強引な行動に出ない限り、口でどうにか僕を退しりぞけられると思っているところがある。
 それもそのはず。自分で言うのもなんだけど、僕って律にベタ惚れだからさ。律に対して強気な態度や強引な行動に出るのはちょっと苦手なんだよね。
 ベタ惚れな律の前では頗る過保護にもなっちゃうから、律のことはどうしても甘やかしたくなっちゃうし。
 だからこそ、先月は月に二回という、蓋を開けてみれば愕然とするセックス回数で終わっているわけである。
 律も律で僕があんまり強気な態度で出られないことを知っているから、大概のことはちょっと怖い顔をしてみせれば大丈夫だと思っている節がある。
 律の彼氏という立場としてはやや舐められている感が否めないし、完全に彼女の尻に敷かれているみたいでちょっと情けない気もするけれど、世の中には“かかあ天下”とか“鬼嫁”って言葉があるくらいだから、彼女の尻に敷かれている男なんて山のようにいるだろう。
 現に、司さんと悠那君のところだって、どちらかと言えばその傾向にある。
 あそこは司さんが悠那君の尻に敷かれているって感じはそこまでしないものの、司さんは悠那君に頭が上がらないからな。なんだかんだと悠那君の言いなりになっていたり、悠那君が望む通りの行動を取っていることが多い。
 まあ、僕にしても司さんにしても人間的に柔らかいっていうか、温厚で柔和な人間だからな。彼女に対しては頗る優しい彼氏になってしまうんだろう。
 それでも、僕や司さんにだって可愛い彼女に対して強気な態度に出る時はあるし、愛してやまない可愛い彼女だからこそ、たまには意地悪して虐めてみたくなることもある。
 だってさ、好きな子の泣き顔ってそれはそれで物凄く可愛いし、そそられるものがあるじゃん。
「ほんと……こういう時の海ってちょっと強引だよね」
 おとなしく僕にシャツを脱がされるままになっている律は、服を脱がされること自体には一切の抵抗を見せないものの、口では非難めいたことを言ってくる。
 最後の悪足掻きみたいなものなのかな? ちょっと拗ねている顔が可愛い。
 あっという間に律の腕からシャツを抜き取り、今度はズボンを脱がしに掛かろうとしたら
「あ……待って。その前に部屋の電気消してよ」
 と、更に拗ねられてしまった。
 律は明るい中で僕に裸を見られることにまだ抵抗があるらしいのだ。
 そんなに頻繁ではなくてもセックスはしているし、煌々と電気がともる中、一緒にお風呂にだって入ったことがあるのに。律の恥じらう気持ちはいつまでも経っても健在なままだった。
「あれ? 電気のリモコンは?」
「知らない。テーブルの上じゃない?」
「あ、ほんとだ」
 律の要望通り、部屋の電気を消そうと思った僕は、僕の手が届く範囲にはない電気のリモコンに舌打ちしたくなった。
 一度律から離れてベッドを下りた僕に、律はベッドの上から
「ついでに部屋の鍵も掛けといてね」
 と、追加注文をつけてきた。
「了解」
 随分と用心深い彼女である。
 でもまあ、うちには人の部屋に入る時にノックをしないのが当たり前の悠那君がいるからな。家全体の防音性が高くなったぶん、部屋に近付く人の気配を感じられないから心配なんだろう。
 でも、逆を言ってしまえば、部屋に鍵なんか掛けていると、中でそういうことをしているのがバレバレになっちゃう気もするけどね。
 別に構わないと言ってしまえば構わないか。僕と律が付き合っていることは、一緒に住んでいるメンバー全員が知っていることだし。僕と律もたまにはセックスしていることだって、みんなに知られちゃっていることではあるもんね。
 だって、翌朝の律がいつもと全然様子が違うから。朝から明らかに疲れ果てている律を見て、うちのメンバーも「ああ。昨日は海とヤったんだな」とわかってしまうらしい。
 当の本人である律自身はいつもと同じように振る舞っているつもりで、バレバレにしているつもりはないみたいだけれど。
「じゃあ電気消すよ」
「うん」
 僕は律に言われるがまま、二つある部屋のドアの鍵をどちらとも掛けてしまうと、リモコンではなく、それぞれのドアの横にあるスイッチで部屋の電気を消した。
 この部屋は元々二部屋を一部屋として使っているから、電気のスイッチも二つある。そして、今は二つとも電気が点いている状態だから、リモコンを二つ見つけて電気を消すより、ドアの横のスイッチを使って電気を消してしまった方が楽なのである。ドアとドアの間隔は比較的近いし。
 部屋の鍵を掛け、電気も消してしまうと部屋の中が一気に真っ暗になってしまったけれど、部屋の中の物の配置は既に頭の中に入っているし、僕はわりと夜目が利く方だから、暗闇の中でも全く何も見えないという状況にはあまりならない。
 僕が二つある部屋のドアに鍵を掛け、天井に二つある部屋の電気を消し、覚束なさを感じさせない足取りで律のいるベッドに戻って来るまでは一、二分掛かっただろう。
 その間に、律は布団の中へと身を隠し、やや乱れた布団を自分の上にきちんと掛け直し、鼻の下まですっぽりと布団に包まれている状態になっていた。
 寒いというわけではないだろうから、単純に素肌を外気に晒したくないだけだろう。電気を消した部屋の中でも、律の大きな瞳は室内に入り込む僅かな月明かりを受けてキラキラと輝き、暗闇に慣れてきた僕の目には律の位置から表情までが一目瞭然といった感じであった。
 布団の中から大きな瞳でジッと僕の様子を窺っている律がまた、なんとも言えなく愛らしい。
 僕はベッドまで戻って来ると、律が自分の上にしっかりと掛け直した布団を捲り、ベッドの中へと身体を滑り込ませた。
 ちょっとした邪魔が入ってしまったけれど仕切り直しだ。と言わんばかりに、ベッドの中ですぐさま律のズボンに手を伸ばした僕は――。
「あれ? 自分で脱いじゃったの?」
 既に布団の中の律は全裸になっていたから、僕は普通に驚いた。
(一体いつの間に?)
 僕がほんの少し律から目を離した隙に、まさか律が自分で服を脱いじゃうなんて。
 僕からの問いに律は決まり悪そうに肩を竦めて見せると
「だって……海って時々いやらしい服の脱がせ方するから……」
 と答えた。
「そ……そう?」
 自分ではそんな自覚はなく、ただ普通に服を脱がせているだけのつもりなんだけどな。
 僕のどういう服の脱がせ方がいやらしいのか、今度じっくり律に聞いてみたいものである。
 でも
「律が自分から服を脱いでベッドの中で待っているっていうのも、僕としては興奮しちゃうし嬉しいなぁ」
 ってなるよね。
 僕とセックスすることに関しては頗る消極的な律だから、こうして自分からアクションを起こしてくれると、律も僕とシたくないわけじゃないんだって思えるし。
「そんなことで興奮しなくてもいいってば。毎回海にやられっぱなしなのも癪だから、服くらい自分で脱ごうと思ったのもあるし」
「その発想が既に可愛くて、僕は興奮しちゃったりもするんだけどね」
「そういうもの? っていうか、海は僕のことになるとわりとなんでも可愛いになるみたいだから、よくわからないよ」
「よくご存じで。それだけ僕が律にベタ惚れってことだよ。僕にとっては律の全てが可愛くて仕方がないからね。律のことになるとなんでも可愛いになっちゃうんだよ」
 部屋の鍵は掛けた。電気も消した。そして、ベッドの中で僕を待つ律は自ら服を脱いで全裸待機。
 最早僕と律の恋人同士の時間を邪魔するものは何もなければ、律もその気だ。
 心なしか律との会話に恋人らしい雰囲気が出てきたように感じた僕が、逸る気持ちを抑えながら、律のおでこに優しいキスを落とすと
「んっ……」
 律は擽ったそうに肩を竦めながら、キュッと目を閉じた。
 それから、僕の唇がゆっくりおでこから離れるのを待って、大きな瞳を細く開いて
「海は脱がないの?」
 僕に甘えているようにも聞こえる可愛い声で聞いてきた。
 そうだ。僕と律の邪魔をするものがまだ一つだけあったじゃないか。僕が今着ている僕自身の服だ。
「脱ぐよ。律が脱がせてくれてもいいんだけど」
「やだ。人の服を脱がせるのなんて面倒臭いよ」
「そう? 僕は結構楽しいよ」
「変態」
「いやいや。男はきっとみんなそうだよ」
 いつも僕にやられっぱなしなのが癪だと言った律だから、“服くらい脱がしてやろう”ってなるのかと思ったのに。そこはいつも通りの律だった。
 まあいい。僕も本気で律に服を脱がせて欲しいわけじゃなくて、ただ言ってみただけだし。面倒臭いという理由で嫌がる律が素直で可愛いから許す。
「そんなことないよ。僕はそう思わないもん」
「うーん……律はねぇ……」
「ん? 僕は何?」
「いや。なんでもないよ」
 どうやら律の中で人の服を脱がせたがる人間は“変態”になってしまうようだけど、恋人の服を脱がすという行為はある意味前戯みたいなものだったりもするから、嫌いな男はいないと思う。おそらく、司さんも悠那君の服を脱がせるのは好きだろうし、なんなら悠那君も司さんの服を脱がしたがったりしていそうだよね。
 悠那君の場合、脱がせるのが好きというより、服が邪魔でしょうがないから早く取り除いてしまいたいだけって感じだけど。
 だけど、律には悠那君のような積極性はないし、僕と付き合うことになってしまったから、男として恋人に接する機会がなくなってしまったようなものだからな。僕や司さんとは少し感覚がズレているのかもしれない。
 今後、律に突然の変化が起こって悠那君ばりのエッチ大好き人間にでもならない限り、律は一生人の服を脱がす楽しみがわからないままかもしれない。
 もちろん、そんなことを律本人に言おうとは思わないから、僕も口を噤んでしまったわけだけど。
「でもね、律」
「何?」
「律はこれからその変態に抱かれちゃうんだよ」
「っ……」
 律が脱がしてくれないのであれば、と、早々に自分で服を脱ぎ始めた僕は、脱いだシャツを邪魔だと言わんばかりにベッドの下へと投げ落としてから、再び律の上に覆い被さった。
 律は自分が変態扱いをした僕に「今から抱かれるんだよ」という僕からの指摘に、瞬間的に顔を真っ赤にさせた……んだと思う。僅かな月明かりだけが頼りな部屋の中では、さすがに赤くなった律の顔まではよく見えないから。
 僕を変態扱いしてきたのは律なのに。その変態に抱かれるという指摘は恥ずかしいらしい。
「そ……そういう余計なことは言わなくていい」
「ん?」
 恥ずかしがった後の律がどうするのかと期待した僕は、照れ隠しなのか、はたまた、恥ずかしがっている自分の顔を見られたくないのか、僕にぎゅっと抱き付いてきて、僕から自分の顔を隠した。
「~……」
 なかなかに可愛過ぎる照れ隠しである。裸の律に抱き付かれた僕は心臓が大きく脈打ち、下半身の一点に熱いものが集まっていくのを感じた。
 律ってたまにこういう大胆なことを突発的にするよね。僕としてはとても嬉しいんだけれど、全く心の準備ができていないぶん、それなりに動揺をしてしまう。
 加えて、お互い裸になった素肌が触れ合う感触が気持ち良くて、僕はもう……この段階で色々と我慢できなくなっちゃいそうだよ。
「あんまり激しくしないでね」
 少しだけ僕に抱き付く腕に力を加え、より隙間なく律が僕に抱き付いてきたと思ったら、律の甘えた声が耳元でそんなことを囁いてきたから、僕の理性のネジが二、三本吹っ飛んでしまったような気がする。
 でも、せっかくそんな可愛いお願いをしてきた律に
『それは無理』
 なんて言えないから
「自信はないけど努力はするね」
 とだけ答え、律の背中に腕を回すと、少しだけ不安そうな顔になっている律を安心させるような優しいキスをしてあげた。
 そして、それが合図だったかのように、キスと一緒に律の身体への愛撫が始まると
「ぁっ、ん……んんっ……」
 律はあっという間に翻弄の渦に呑まれていった。
 控えめな可愛い感じる声を断続的に漏らしながら、与えられる刺激に必死に耐える律の姿は本当に可愛くて、僕は何度も逸り、暴走しそうになる自分を抑えることが大変だった。
 だけど、前戯にたっぷり時間を掛け、すっかり蕩けきった顔になった律と一つになるところまでくると、もうあれこれ我慢する必要もないだろうと思い、僕は自分の心と欲望に従うことにした。
 その結果、わりと容赦なく律を突き上げることにはなってしまったけれど
「ぁあっ、ん……んっ……あ、んんっ……」
 律は激しく揺さぶられる身体に可愛い嬌声を上げて感じるだけで、僕を責めてきたりはしなかった。
 律と一つになって溶け合う感覚は、僕の身も心も存分に満たしてくれて
「っ……海っ……ぁんっ……海っ……」
 時折僕の名前を呼びながら僕を求めてくれる律を見ると、僕がここ数日の間に感じていた不安が完全に消え去ってもくれた。
「ゃあっ…んっ……ぁっ、あ…ん……海っ……そんなにいっぱい奥ばっかり……僕……壊れちゃうっ……」
「大丈夫っ……律を壊したりなんかしないからっ……」
「んんっ……あっ、ん……ぁあっ……」
 律のいいところを擦りながら奥まで突き上げられる快感に、律は感じすぎて怖いのか、泣きながら僕に訴えてきたりもしたけれど、そんな律の姿は僕を煽ってくるだけでしかなかった。
 少しは努力するつもりだったものの、結局はちっとも自分を制御することができないくらいに理性が崩壊してしまった僕は
「律っ……可愛いよ、律……大好きっ……」
 律への想いが爆発するままに律に感情をぶつけ、手加減しようと思う気持ちは完全に忘却の彼方だった。


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