僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Final Season

    僕達ルール(3)

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「え? 自分が上手いかどうかを知る方法?」
 世間はゴールデンウィーク真っ只中。一般的な休日とはやや無縁になりつつある僕は、仕事から帰って来るなり、勇気を出して司さんと悠那君に相談を持ち掛けることにした。
 今日は午前中から夕方に掛けてFive Sの仕事が入っていて、その後、陽平さんと律にはそれぞれ別の仕事が入っていたため、夕方から家の中にいるのは僕と司さんと悠那君の三人だった。
 夕飯は悠那君が作ってくれることになっていたけれど、陽平さんにしても律にしても帰りがそんなに遅くなるわけじゃないらしいから、今日の夕飯はメンバーが全員揃ってからにしよう、という話になり、悠那君も帰宅早々すぐに夕飯作りに取り掛かるつもりはなさそうだった。
 多分、帰宅から夕飯作りに取り掛かるまでの間を司さんとイチャイチャする時間に充てるつもりだったんだろう。それなのに、僕の個人的な相談を持ち掛けて二人を邪魔してしまうことが少し躊躇われもしたんだけれど、律がいなくて、かつ司さんと悠那君の二人が揃っている機会も滅多にないから、このチャンスを逃すわけにもいかなかった。
 今回僕が二人に持ち掛ける相談はできれば律の耳に入れたくなかったし、そもそも律は僕が司さんや悠那君に相談を持ち掛けること自体、あまり良しとしていない。
 というのも、僕が二人に相談を持ち掛けると余計なことを吹き込まれると思っているからだと思う。
 別に二人は僕に余計なことを吹き込んでいるつもりなんてないとは思うけど、二人に相談を持ち掛けると二人の実体験や惚気話を沢山聞かされちゃうからな。二人のイチャラブっぷりを羨んだ僕が、無意識のうちに二人から聞いた話を律にしてみようとしてしまうところはあるのかもしれない。
 それで、律は僕に対して
『海はすぐにあの二人に影響されちゃうんだから』
 と、苦々しく思っているところがあるみたいなのだ。
 でもね、僕にだって恋の悩みはあるし、律に相談し辛いことだってあるんだよね。
 そんな時、真っ先に相談しようと思うのは司さんと悠那君になっちゃうから、どうしても二人に相談を持ち掛けちゃうんだよね。
 もちろん、陽平さんに相談するのが嫌だとか、相談し辛いってわけではないんだけれど、陽平さんは現在進行中の自分の恋愛に手一杯っていうか、色々思うところがあるみたいだから、恋愛相談はしない方がいいのかも……と気を遣ってしまう。
 なので、僕の中で恋愛相談は司さんと悠那君、仕事の相談は律や陽平さん、という形が自然と出来上がってしまっているところはある。
 そして、僕と律の日常が今までより周囲に気を遣わなくてもいい環境へと変化したにも拘らず、あまりイチャイチャラブラブしたものにならないのは、僕にセックステクニックがないからなのでは? と不安になった僕は、陽平さんや律が留守にしているこのタイミングで、司さんと悠那君から何かしらの意見や助言を求めようと思ったのである。
 僕からの切実な悩みを打ち明けられた司さんと悠那君はちょっとだけ驚いた顔になり、冒頭の言葉を僕に向かって聞き返してきたのであった。
「はい。自分が上手いか下手かを知る方法があれば是非とも教えてもらいたいんです。司君と悠那君はほぼ毎日のようにセックスをしていても全然飽きる気配がないじゃないですか。それってつまり、お二人にはお互いが何度でもシたいと思えるようなテクニックがあるからなんですよね?」
 これは僕が心の底から二人を尊敬しているところでもあるんだけれど、いくら司さんと悠那君がヤりたい盛りの盛んなお年頃でも、ほぼ毎日のようにセックスできるって本当に凄いと思う。
 僕も気持ち的には律と毎日エッチなことがしたい気分ではあるけれど、じゃあ実際に本当に毎日エッチなことができるのか? と言われると、正直ちょっと自信がない。
 いくら気持ちの面では“毎日律とエッチがしたい!”と思っていても、体力的に無理な時はあるだろうし、そういう気分になれない時だって絶対にある。それは何も愛が足りないという問題ではなくて、人の性欲は無尽蔵ではないというだけのことだ。
 それに、そんなに毎日のように盛ってエッチなことばかりしていたら、そのぶん飽きるのも早いんじゃないかって心配にもなる。セックスのやり過ぎで恋人に飽きるとかなんか最悪だし、自分がそんなセックス狂みたいになる姿も想像ができないけれど。
 もちろん、小さい頃からずっと一緒にいる律に、今更僕が飽きるなんてこともあり得ない話だ。
 でも、僕が律のことを飽きなくても、僕が下手くそだったら律の方が僕に飽きちゃうかもしれないよね。
 もともと律はエッチなことに関しては消極的だし、たいして気持ち良くもない行為に付き合わされているだけだとしたら、そのうち僕との恋人同士の営みを苦痛に思ってしまうかもしれないし。
(って……そんなことを考え始めたら益々凹んじゃう一方だよ、僕……)
 今のところ、律は僕からの愛撫にちゃんと感じてくれているように見えるし、最終的にはイってもいるわけだから、それなりに気持ち良くなってくれているんだろうとは思うけれど、その中に苦痛や憂鬱を感じているのだとしたら、僕はもう男としての自信を失ってしまい、一生立ち直れないほどの心の傷を負っちゃうよ。
 せめて、律が僕とするセックスに満足してくれているという確信が欲しい。
「うーん……正直言って、俺も自分が上手いか下手なのかはよくわからないし、上手いって自信も全くないからなぁ……」
「え? そうなんですか?」
 僕達と出逢うまでは初恋もまだだった悠那君を自分とのセックスに夢中にさせてしまうくらいだから、司さんはそれなりに自分のテクニックに自信があるものだと思っていた。そういうものでもないらしい。
「だって俺、悠那以外の人間とのセックス経験なんてゼロだもん。どうしたら悠那が感じるかはわかるけど、悠那以外の相手にそれが通用するかどうかはわからないでしょ? まあ、俺がこの先、悠那以外の人間とセックスする可能性なんて皆無だから、悠那を気持ち良くさせてあげられる方法だけ知っていれば問題ないって感じではあるんだけどね」
 僕が二人の部屋を訪れた時、二人はベッドの上でそこはかとなくイチャイチャしていたわけだけど、僕が二人の部屋に入って来ても、二人にベッドから下りる様子はなかった。今もベッドの上でいい感じにイチャつきながら、僕の恋愛相談に対応してくれている。
 床に正座をして、ベッドの上の二人を見上げる形になっている僕は、恋愛相談をしている傍ら、二人のイチャイチャシーンを見せつけられているようでちょっと複雑だったりもする。
 でもまあ、二人が家の中で常にくっ付いているのは最早常識みたいなものだし、僕も
『真面目な相談をしているのにっ!』
 とは思わない。
 むしろ
『この二人、一緒に部屋の中にいる時にベッド以外の場所で過ごすことがあるのかな?』
 と、素朴な疑問を抱いてしまう。
「俺が思うに、恋人とするセックスに一般的な上手い、下手のテクニックは必要ないと思うよ。大事なのは自分の恋人をちゃんと満足させてあげることなんじゃないかって思うけど」
 仰る通りである。僕だって自分が上手いのか下手なのかが気になってはいるものの、それは律にとって上手いか下手かが重要なのであって、一般的に上手いと思われるようになりたいわけじゃない。
「その恋人をちゃんと満足させてあげられているのかどうかがわからないから、僕は不安なんです」
 そこの自信が少しでもついてくれていれば、僕もこんなことで悩んだりはしない。
「そこはもう、直接律本人に聞くか、律の反応を見て判断するしかないんじゃない?」
「そうなんですけど……。直接律に聞いてみても、律の反応を見ても、自信に繋がるような確信が持てなくて……」
「なるほどね。俺も最初の二、三ヶ月はそんな感じだったよ。ちゃんと悠那を気持ち良くさせてあげられているのかな? って不安に思う時期はあったな」
「そこが不安にならなくなったきっかけはなんですか?」
「悠那とエッチする頻度と回数かな」
「エッチの頻度と回数……ですか」
「あとは悠那が俺を頻繁に誘ってきてくれることかな」
「うー……」
 それは僕にとってはちょっと難しい条件だな。だって僕と律、司さんや悠那君ほど頻繁にセックスなんてしてないもん。律も僕といっぱいエッチしたいなんて思ってくれていないし、律が僕を誘ってくることもない。
 律とセックスする頻度や回数が少なくても、律から僕を誘ってくることがあれば、僕もまだちょっとは“求められているんだな”って思えるから、自信がつきそうなものなんだけどなぁ……。
 まあ、律の性格を考えると、律に「僕を誘ってこい」という方が無理な話って感じではあるんだけどさ。
「律が海とのセックスをどう思っているかは、俺より悠那に聞いた方がいいんじゃない? ねえ、悠那」
「え~?」
 僕が部屋に入った時、ベッドの上で司さんに組み敷かれていた悠那君は、身体を起こしてベッドの上に胡坐をかいた司さんの太腿の上に頭を乗せ、司さんに膝枕をしてもらっている状態だった。
 つまり、悠那君は僕からの恋愛相談を寝転がったまま聞いているわけだけど、悠那君にとっては大事な司さんとのイチャイチャタイムを僕に邪魔されているわけだから、僕もそれくらいは許してあげる。
 でも、司さんから僕に何かしらのアドバイスをあげるように促されると、悠那君は司さんの膝の上から身体をむくっと起こし、今度は胡坐をかいて座る司さんの足の間に腰を下ろした。
 悠那君が自分の足の間に座るなり、司さんの腕がすぐさま後ろから悠那君の腰に巻き付くあたりが微笑ましいやら羨ましいやら……だ。
 この二人の日常は常にイチャとラブで成り立っている。
「正直言って、俺は律じゃないから律が海とのエッチをどう思っているのか、正確なところはちょっとよくわからないんだけどさ。でも、前に二人がエッチしているところを見た感じだと、ちゃんと気持ち良くなってるように見えたし、特に不満を持っているようには見えなかったけどな」
「そ……そうですか?」
「うん。俺の目から見た限りではね」
 そうだった。僕と律って司さんと悠那君がセックスしているところを見ただけじゃなくて、僕達がセックスしているところを二人から見られてもいるんだったな。
 あの時は僕も調子に乗り過ぎたと反省したし、律も物凄く怒っちゃって、しばらくは口も利いてくれなくなるしで大変だったんだよね。人前で律とセックスするなんて、僕的には物凄く興奮する貴重な体験ではあったけれど。
 でも、そうか。あの時の律の様子や反応を悠那君はちゃんと見ていて、憶えてもいるんだ。その記憶を元に、僕に何かしらのアドバイスを授けてくれようとしているんだな。
 それとまあ、結構前に悠那君が律と触りっこをした時の記憶も参考にしているのかも。
 何せ律に“気持ちいい”を教えたのは悠那君だからな。律に“気持ちいい”を自覚させることに成功した悠那君は、その過程で律の表情や仕草なんかを観察して、律が気持ちいいと感じる時、どんな反応や表情を見せるのかをチェックしていたのかもしれないよね。
 正直、自分の恋人に自分以外の人間から“気持ちいい”感覚を教えられてしまったことは面白くないんだけれど、おかげで律が僕のすることに「気持ちいい」って言葉を遣ってくれるようになったから、それはそれで良しとすることにした。
 悠那君に悪気はなく、僕と律のためにしてくれたことでもあったし。あの後、悠那君は司さんからしっかりお仕置きもされていたしね。
 二人に便乗して、僕も律にちょっとしたお仕置きみたいなものができたことは楽しかった。あれも僕の中では忘れられない刺激的な体験の一つだ。
 今思い返すと、あの時の律はまだ勃起と射精を覚えたばかりで、僕とセックスするようになる随分前でもあったんだよね。
 そう考えると、今では僕とちゃんとセックスしてくれるようになっているわけだから、律の成長っぷりが窺えるというものである。
「だから、律が海とのエッチを気持ち良く思ってないとは思わないし、律が海のことを下手だと思っているとは考えにくいんだよね。そもそも、律に海が上手いか下手かを判断する材料なんてないじゃん。律がそんなことを考えるとも思えないしさ」
「ですかね? だといいんですけど……」
「大丈夫だって。エッチなことにすぐいっぱいいっぱいになっちゃう律に、そんなことを考えられる心の余裕なんてないよ」
 ふむ。悠那君の言葉には何一つとして証拠になるものがないのに、得も言われぬ説得力がある。
 それというのも、悠那君が律という人間について人並み以上に知っていて、律とは同じ立場にいる人間だからかもしれない。
 僕と律は同じ男同士だけれど、受け入れてもらう側と受け入れる側の違いがあって、受け入れてもらう側の僕に受け入れる側の律の気持ちはわからないところがある。だからこそ、自分がわからないところで不安になってしまうこともあるんだろうな。
 そこへくると、律と同じく受け入れる側の人間である悠那君の方が律の気持ちは理解できそうだし、自分と同じ立場の律のことはなんとなくわかってしまうものなのかもしれない。それで、僕も悠那君の言葉をすんなり受け入れられてしまう説得力を感じてしまうのかもしれないよね。
「それに、海とのエッチに何か不満があるんだとしたら、律はそこを隠さないと思うよ? こう言っちゃなんだけど、律って恋人とのエッチが絶対に必要不可欠だとは思ってなさそうだもん。だから、海とのエッチが気持ち良くないと思っていたら、シたくないって言ってくる気がする」
「た……確かに……」
 言葉はかなりストレートではあるけれど、これもまた納得せざるを得ない内容だった。
 もともと律は男同士ではセックスができないと思っていたからな。そのうえで僕と付き合う選択をした律は、僕とは一生セックスをするつもりがなかったとも言える。
 ということは、今悠那君が言ったように、律の中で僕とするセックスはさほど重要ではない……ってことになるのかな?
 仮に最初は僕とセックスをする気がなかったとしても、僕と経験した後でなら、その考えを改めてもらいたいものだけど。
「でも、律は特に不満や文句を言うでもなく、海とはちゃんとエッチしてるんだよね?」
「ええ、まあ……。そんなに頻繁ではないし、わりと断られることも多いですけど」
「そうなの? どういう時に断られちゃうの?」
「仕事で疲れている時とか、スケジュール的な問題ですかね。翌日の仕事が午前中から入っている時はシてくれないです」
「え? それじゃ全然できないじゃん。まあ、仕事で疲れた時はわかるけど。俺だって仕事で物凄く疲れた時は、気持ち的には司とエッチしたくても身体が無理って言ってくるもん。ね? 司」
「うん。でも、無理な時は無理って言ってくれた方が俺も助かるよ」
「そう言ってくれてありがと。でも、本当は司とシたくない日なんて一日もないんだからね」
「わかってるよ。俺もそうだから」
「えへへ♡」
 ちっ……。恋人とセックスするのに苦労のないカップルは余裕があっていいよね。基本的にはヤりたい気持ちがいつも一致しているんだから。
「っていうか、どうして海は今更そこが気になり始めちゃったの? 回数は少なくても律とはちゃんとエッチしてるんでしょ?」
「それは……確かにちゃんとシてるにはシているんですけど……」
「けど?」
「~……」
 律とセックスする頻度がいつまで経っても少ないままで自信がなくなった。なんて言ったら笑われちゃうかな。もしくは、それは単なる僕の我儘だってことで片付けられちゃうかも。
 でも……でもね、律が人生初の銀髪にしてからというもの、僕は律が可愛くて可愛くて……。それはもう、司さんと悠那君じゃないけど、仕事に関係なく律とイチャイチャしたくて堪らないんだよね。
 もちろん、銀髪になる前から律は僕にとって可愛くて仕方がない存在ではあるんだけれど、見慣れない髪色が凄く新鮮に思えるし、律の整った綺麗な顔に銀色の髪は物凄く似合っていて、律の天使度大幅アップって感じなんだよね。
 実際、律の銀髪姿は周りの人間からも頗る好評で、律と擦れ違った何人もの人間が、たった今擦れ違ったばかりの律の後ろ姿を見送りながら
『ほんと、天使みたいに綺麗な子だよね』
 と言い合っている姿を目にしたことが何度もある。
 可愛さと天使度が増し増しになった律を、僕は毎日どうこうしたくて堪らないのに、肝心な律がつれないし素っ気ない。それが僕には遣る瀬ないし辛いのである。律に悪気がないとわかっていても。
「ぼ……僕はっ! 司さんや悠那君のように、可愛い律ともっと沢山イチャイチャしたいんですっ!」
 結局、日頃から溜め込んできた心の声を誰かに聞いて欲しかった僕は、司さんと悠那君に向かって切実な思いを吐露すると同時に
「でも、律は全然僕のことを求めてきてくれないし、最近では僕と一緒にいるより、陽平さんと一緒に講義動画を見ている方がなんか楽しそうなんですぅ~っ!」
 最早ただの愚痴みたいなものまでさめざめと零してしまうから、司さんと悠那君はギョッとした顔になった。
「そ……そんなことはないよ。ただほら、律って勉強熱心だし、陽平は陽平で真面目なところがあるからさ。一緒に勉強する相手としては最適ってだけじゃない?」
「そうそう。陽平と律ってちょっと似てるところがあるし」
「そう……ですか?」
「そうだよ。大体、律が陽平に恋愛的な意味で好意を抱くはずがないじゃん。律は愛情表現が苦手なだけで、心の中では“海一筋”って思いが強いんだから」
「うぅ……ありがとうございます……」
 なんか僕、二人から全力で慰められているな。ちょっと申し訳ない。
 だけど、僕が自信を無くし、愚痴を零してしまうほどに弱気になっていると、この二人は全力で僕を慰めてくれることが判明したことは嬉しかった。
「律は性に対して淡白っていうか、積極性に欠けるからな。海が不安になる気持ちもわかる気はする」
「でしょ?」
 恋人とのセックスライフにこれといって悩まされたことがなさそうな司さんは、自分が僕の立場だったら……と考えたのか、僕に同情的な姿勢を見せた。
 そうだろう、そうだろう。もし、自分が僕の立場だったら……と考えたら、僕に同情せざるを得ないだろう。
「ねえ、悠那。律が海とのセックスに積極的になるのは難しいとしても、海の不安が解消される方法って何かある?」
 だがしかし、僕を助けるための策は思いつかなかったようだから、そこは悠那君に丸投げした。
 司さんに解決策の提案を丸投げされた悠那君は、ちょっとだけ難しい顔をしてから
「これといって特別な解決策っていうのはないと思う。ただ、そういう話を沢山律とすることが大事だと思うよ。俺だって司と付き合い始めたばかりの時は、なかなか司がちゃんとしたエッチをしてくれなくて、エッチして欲しいって何回も言ってたもん」
 と言った。
 そう言えば、司さんと悠那君にもそんな時期があったよね。
 悠那君が僕達に
『司が全然ちゃんとしたエッチをしてくれないっ!』
 って不満を零していた日々が遥か遠くのように思える。
 まあ、その司さんは悠那君との初エッチに向けて、ありとあらゆる方面からの情報収集に勤しんでいたわけだけど。
「もしかしたら、律と海の間でエッチに関するルールみたいなものを作ってみたらいいのかもしれないよ」
「ルールですか?」
「うん。律がエッチなことに積極的になるのは難しくても、ルールを作ったら少しは意識するようになるだろうし、エッチなことが習慣になりそうじゃない? 律って約束とか決まり事は絶対に守るタイプだから、海とのエッチなこともルール化しちゃったら?」
「なるほど。それは確かにいい案かもしれないですね」
 律とのセックスライフにルールを作ってしまうのも微妙な話ではあるけれど、その発想はなかった。そこはさすが悠那君というべきか。
 悠那君の言うように、ルールがあれば律も僕とのセックスを意識してくれるようになるし、《最低でも週に一回》というルールを作ってしまえば、律の中で僕とのセックスが習慣になることも間違いない。
 で、習慣になれば律も多少はエッチなことに免疫がついて、積極性みたいなものも生まれてくるのかも……。
(これはちょっと希望が見えてきたぞ)
 やっぱり、思いきって司さんや悠那君に相談してみて良かった。僕一人で悶々と思い悩んでいたら、いつまで経っても解決策なんて一生思い付かなかったよ。
 僕との間にエッチに関するルールを作ってしまったら、律にそういうことを強要している気がする罪悪感はあるものの、それも律が承諾してくれる範囲にまでとどめて、僕と律の中で恋人同士の営みに関する暗黙のルールみたいなものができるまでと、期間限定の決まり事にしてしまえば、それも僕達にとっては必要なことのように思えるし。
「確かに、ルールを作るのはアリだね。律もその方が心の準備ができて安心かもしれないし」
「でしょ?」
「うん。悠那は凄いね。俺なんて全然そんなこと思い付かなかった」
「ふふふ」
 僕も考えたことがなかった悠那君の提案は司さんも大絶賛だった。
「ありがとうございます。悠那君。今夜早速律と話し合いをしてみますね」
 せっかく名案を授けてもらった僕は、早速その案に乗っかることにしてみた。
 最近は部屋の中に一緒にいても大学の講義を視聴してばかりで、律と恋人同士らしい会話自体をしていないからちょうどいいし。
 引っ越し、新しい仕事、大学生活の始まりと、環境の変化に対応することで忙しかったところもあるけれど、そろそろ新生活にも慣れてきた頃だから、律もゆっくり腰を据えて、僕との話し合いに付き合ってくれそうだしさ。
「どういたしまして。くれぐれも最初から無理難題なルールを押し付けないようにね。ルールの内容なんていつでも好きな時に変えればいいんだから。まずは律の希望を優先してあげてね」
「はい。そうしてみます」
 僕はこの部屋に来た時とはまるで別人のように元気良く立ち上がると
「二人とも本当にありがとうございました。僕、今から今夜の話し合いについて色々考えることにしてみますね」
 改めて司さんと悠那君の二人にお礼を言い、二人の部屋を後にした。
 せっかく二人でイチャイチャするつもりだった時間を邪魔してしまったことは本当に申し訳ないけれど、おかげで僕はとても晴れやかな気分になれた。この恩はいつか二人にお返ししよう。
 僕に相談を持ち掛けられてしまったせいか、司さんとイチャイチャする時間が減ってしまった悠那君は、特に残念がる様子もなく、司さんに向かって
「そろそろ夕飯作らなきゃ。司、手伝わなくてもいいから俺の傍にいて」
 なんて、甘えた声でなんとも可愛らしいお願いをして、司さんも
「うん、いいよ。傍でエプロン姿の可愛い悠那を眺めてる」
 とまあ、二人の頭の中には砂糖でも詰まっているんですか? と聞きたくなるくらい、甘々な会話になるべく返事を返していた。
 日常的にイチャイチャが止まらない二人は、今夜も熱い夜を過ごすことになるんだろうな。
 僕もいつか二人のように……とまではいかなくても、今より少しは律とイチャイチャできる毎日を、少しでも早く手に入れたいものである。


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