僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Final Season

    Happy Together(4)

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 耐えろ……耐えるんだ……。
「カットぉ~っ! オッケーっ!」
「うわぁ~んっ!」
 映画の撮影も二週目に入ると軌道に乗ってきた感じがして、司との撮影シーンも少しずつ撮り始めた。
 がしかし、司以外の人とのシーンはまだ残っていて、今日は司じゃない人とのラブシーン撮影もあった。
 ホテルの一室でのラブシーンを別アングルも含めて全て撮り終わった俺は、最後のカットを撮り終わるなりベッドから飛び降りて、今日はカメラの横で様子を見ていた司に飛びついた。
「司ぁ~……」
「よしよし。頑張ったね。俺も死ぬほど我慢したけど」
「消毒……消毒して……」
「はいはい」
 撮影が終わった途端に共演者から逃げ出すなんて失礼極まりない話だとは思うけど、身体がどうしても拒絶反応を起こしてしまうから仕方がない。後でちゃんと言い訳して謝っておこう。
 司は撮影現場のゴタゴタに紛れて俺を抱き締めると、俺を人目から隠すようにしながら唇にキスをしてくれた。
 撮影が始まったばかりの時は浮き沈みが激しかった司のテンションも、俺と一緒の撮影が始まるとだいぶ安定してきたと思う。
 さすがに今日みたいなシーンを見せられるとしっかりヤキモチは焼いちゃうけど、俺が司以外の相手とのラブシーンを心底嫌がっているのを知っているから、撮影が終わった後の俺をちゃんと慰めてくれる。
「後でちゃんとしたのしてね」
「もちろんだよ」
 ただでさえ撮影直後に司に泣きつく俺が不自然なのに、司からの消毒キスをちゃんとしてもらうわけにもいかない。ほんとは5分くらいキスしてもらいたいところを、一瞬触れるだけの軽いキスで我慢した俺は物足りなかった。
 とは言え、司にキスしてもらったおかげで気持ちも少しは落ち着いたし、司以外の人としたキスの感触も消えてくれたから良かった。
「良かったよ、悠那君。正直ここのシーンは悠那君にはまだちょっと早いんじゃないかと心配してたんだけどさ。男を誘う演技がサマになってたじゃないか。ひょっとして、そういう経験でもあるの?」
「いいえっ! ないから一生懸命研究したんですっ!」
「何もそんなに力いっぱい否定しなくても……。でもそっかぁ。頑張って研究したのかぁ。うんうん。いいなぁ~。凄く良かったよ」
「俺もオッケーが貰えてホッとしてますぅ」
 頑張って耐えた甲斐もあり、このシーンでの撮り直しはなかった。
「ちなみに、どうやって研究したの? 参考までに教えてよ」
「え……それはちょっと……。企業秘密です……」
「お? 何やら意味深だねぇ」
「まあ……あはは……」
 そこは突っ込んでくれるな。聞かれても答えようがないから。
 撮影前にどう演じるべきかと悩んでいたこのシーンは、先日葵さんから貰ったアドバイスを元に司で練習し、司の反応や感想を頼りに改良を重ねてみたんだよね。このシーンが上手くいったのは葵さんと司のおかげだよ。
 ま、俺としては練習と称して司といっぱいエッチできる口実ができて良かったりもしたんだけどね。口実がなくてもいっぱいエッチするけど。
 問題は共演者の方で、シーンがシーンなだけにまたNGを連発されたら堪らない、と気が気じゃなかった俺だけど、今回の人はNGを出すどころか本気で襲われるかと思うほどに真に迫った演技を見せてくれた。
 打ち合わせよりキスシーンが濃厚になっちゃったのと――打ち合わせやリハーサルは振りだけで実際にキスはしていない――、ベッドに押し倒されてからも何回もキスされたのには参ったけど、一回きりで済ませてくれたのであれば文句は言うまい。とりあえず、撮影直後に逃げ出したことへの謝罪をしておかなくちゃ。
「あの……」
「俺、ちょっとトイレ行ってきます」
 ……って、あれ? 撮影が終わってすぐトイレ? 撮影が始まる前にも行ってたような気がするんだけど。
 せっかくさっきの非礼を謝ろうと思ったのに。なんでそんな前傾姿勢でトイレに行っちゃうの? まるで俺から逃げるようにして……。
「あいつ……悠那で抜く気だな」
「えっ⁈」
「だから嫌だったんだよ。悠那にこんなシーンやらせるの」
 そ……そんな……演技じゃなかったの? 演技じゃなくて本気でその気になってたってこと?
「あー……そうなるか。悠那君も罪だねぇ」
「監督っ⁈」
「ありゃしばらく帰ってこないな。ここでの撮影は終わったからいいけど」
「そんな……」
 そんなあっけらかんと……。共演者に欲情された俺の精神的ケアは? 俺、司以外の人に欲情なんかされたくないのに。
「さてと、んじゃ撤収作業でも始めるか。司君と悠那君は先にホテルから出てていいよ。次のシーンの撮影もあるからロケバスの中で待ってて。車のキー渡しとくから」
「ありがとうございます。じゃあ先に出ときますね。悠那、行こ」
「え? あ……うん」
 このシーンでの共演者とはこれっきりっだからちゃんと挨拶しておこうと思ったんだけどな。
 今頃トイレで俺をオカズに抜いているんだと思ったら、“挨拶なんていらないかな”って思っちゃうよね。向こうも気まずいだろうし。
 監督に勧められてホテルを出た俺と司は、駐車場に停めてあるロケバスに乗り込むなり――。
「んっ……ぁんんっ……ぁっ……」
 めちゃくちゃキスした。
「ゃっ……ぁんっ……司ぁ……」
「ん? どうしたの? ちゃんとしたのして欲しかったんでしょ?」
「そうだけどぉ……んんっ……」
「こんなところでエッチなキスしてることに感じちゃう?」
 俺が司の目の前で他の男にキスされてるシーンを見た直後だからか、司からのキスはいつもより濃厚で、激しくて、とびっきり甘かった。
 司とは普通にキスしてるだけでもすぐエッチな気分になっちゃうのに、こんなキスされたらひとたまりもないよ。これは消毒の域をとっくに超えてるキスじゃんか。
「ぅ、んっ……感じちゃう……エッチしたくなっちゃうよぉ……」
「しちゃおっか」
「え……」
 何を言い出す。ホテルでの撮影は終わったけど今日の撮影はまだ残ってるんだよ? これから移動して俺と司のシーンを撮るんだからね? 撮影前にエッチなんて……。
「俺以外の男と悠那のあんなシーンを見せられたのはもちろんだけど、悠那の練習に付き合った俺としては、あんなシーンを見ると自分が誘われてるような気分にもなっちゃうんだよね。だから、二つの意味で内心穏やかじゃない」
「ちょっ……司……」
「撤収作業ってどれくらい掛かるかな? 作業ついでに一服もするだろうから20分は掛かるよね」
「え? え? まさか……まさか本気で……」
 ヤるつもりなの? ここで。そりゃ俺だって司と貪るようなキスをしてその気になりつつはあるけれど……。
 でも、20分は短いよ。できなくはないけど、司とエッチするならもっと時間を掛けていっぱい愛し合いたいのに。
「ゃんっ! ぁっ、んんっ……」
 スると決めたら司の手は早かった。俺の脚からパンツと一緒にズボンを素早く抜き取ってしまうと、まだ眠っている俺を手の中に握り込み、ゆっくりと扱き上げてきた。
 それと一緒にお尻の孔にも指を挿し入れてきて、前を擦りながら後ろも解してくる。
「ぁあんっ! んっ……ぁ……ダメっ……ダメぇっ……」
「ダメじゃないでしょ? 悠那のココは期待してるよ? 可愛いお口がヒクヒクしてる」
「だって……だって、ここロケバスの中……ダメだったらぁ……」
 なんてことなの? まさかロケバスの中でエッチすることになるなんて。誰かに見られでもしたら言い逃れできないよ。
 全ての窓にはカーテンが掛かっているから外からは見えないだろうけど、いつ誰が入ってくるかもわからない状況でこんなこと……。
「ほら。もう濡れてきた。ダメって言いながら感じちゃうんだよね、悠那は。しかも、ダメって言ってる時の方が感じやすい」
「やだぁ……言わないでよぉ……」
 ああ……これもう絶対最後までヤらないと気が済まないやつじゃん。お互いに。
 今まで仕事中にキスすることはあったけど、エッチするのはさすがに初めてだよ。司と一緒の仕事をしてるとこんなことにまでなっちゃうんだ。
 自分達の見境のなさにちょっと呆れてしまいそうになるけれど、人目を盗んで司とイチャイチャするのが大好きな俺は、こういう展開も悪くない。
 結局、戸惑う素振りを見せながらもすっかりその気になってしまった俺は
「早く……誰か来る前に早くシよ……早くれてよ、司ぁ……」
 あまり時間がないわりには俺の反応を見て楽しむ司を促すまでになり、ロケバスの中であられのない姿を晒け出してしまうのだった。
 ロケバスの最後尾で司に押し倒されている俺は、丸出しの下半身を惜しげもなく司の前に晒し、大きく開いた両脚の奥は熱くなった司を根元までしっかりと咥え込んでいった。
「悠那っ……かわい……悠那……っ」
「司好きぃ……大好き……ぁんんっ……」
 まさか先にホテルを出た俺達がロケバスの中でエッチしてるだなんて、今頃一服しながら撤収作業をしているスタッフの誰一人として思っていないだろうな。
 お願いだから今だけは入って来ないで。さっきのラブシーンでは撮影終了後に共演者から逃げ出すほどの純情っぷりを見せた俺が、数分後には司とエッチしてる姿なんか見られちゃったら俺の人格が疑われちゃうよ。
「あんっ、ぁっ、んんっ……ダメっ……そんなに激しく……しないでぇ……」
「ごめん……でも、なんか我慢できなくて……」
「俺も我慢できなくなっちゃうっ……そんなにいっぱい突かれたらすぐ……すぐイっちゃうよぉ……」
「んっ……いいよっ……俺もイきそうだから……」
「やぁっ……一緒……一緒にイくのっ……」
「うんっ……一緒にイこうね……」
 司に突き上げられているうちに頭が真っ白になり、ここがいつ誰が入って来るかもわからないロケバスの中であることを最早忘れてしまった俺は、いつも通りに司と盛り上がり、予定の20分を5分過ぎた頃に昂ぶった欲望を司と一緒に吐き出した。
 そして、射精の余韻に浸る間もなく身だしなみを整えたのとほぼ同時にロケバスの周りが騒がしくなり始め、鍵の掛かっていないドアから監督が車内に乗り込んできた時には、俺も司も何食わぬ顔で監督を迎えたのであった。
「お待たせ。あれ? エンジン掛けてないの? もしかして、エンジンの掛け方わからなかった? 暖房入ってないと寒くない? 窓も開けてるし」
「いや……なんか空気が籠ってると思って。エンジン掛ける前に空気の入れ替えしておこうかなって」
「そうなんだ。言われてみればなんかちょっと生臭いね。お昼の弁当にイカの煮付けが入ってたからかなぁ」
「さあ? どうでしょうか。ははは……」
 間一髪だった。真冬の寒い中、エンジンも掛けずに窓を開け、暖房が入っていない車内に30分近く乗っていた俺達は監督の目に不審に映ったようだけど、“空気の入れ替え”というもっともらしい言い訳であっさり納得してくれたようだった。
 ぶっちゃけ、俺は暖房が入っていないことなんてどうでも良かったし、お昼のお弁当にイカの煮付けが入っていたことすら覚えてない。お弁当自体をロケバスの中で食べてもいないわけだけど、昼食タイムにお弁当を食べ損ねたスタッフ数人が移動時間を利用してロケバスの中で遅めのお弁当を食べている姿は見た気がする。
 ありがとう、スタッフ。ありがとう、イカの煮付け。イカの煮付け万歳。
「そうそう。悠那君と共演した彼ね、もう撮影はないし悠那君にも顔を合わせ辛いからって帰っちゃったよ。悠那君によろしくってさ」
「そうですか。ちゃんと挨拶したかったんだけどなぁ」
「ま、映画が完成した時は全ての出演者とスタッフ集めて身内だけの試写会もするから。その時にまた挨拶すればいいよ」
「そうですね。そうします」
 そんな人のことも忘れていた。司とエッチしたせいで、今日の仕事の記憶は全部どこかに飛んでっちゃったのかもしれない。
 監督に言われて決まり悪そうにしていた共演者の後ろ姿を思い出した俺は、監督に向かって当たり障りのない返事を返しておいた。
 あの人、ほんとに俺で抜いたのかな。だとしたら、一体どんな妄想をしてくれたんだか……だ。
「司君も覚悟しといた方がいいかもなぁ。なんたって君、悠那君とは彼よりもっと過激なシーンを撮るんだから」
「心しておきます」
 からかうように監督に言われた司は涼しい顔で答えたけれど、司にその心配は必要ないと思う。
 むしろ、心して掛からないといけないのは俺の方で、司相手だと見境がなくなってしまう自分が今から心配だった。
 俺、司と今日以上に過激なシーンなんか演じちゃったら絶対声とか出ちゃうよ。どうしよう……。
 これから司とエッチする時は声を出さない練習もしておかなくちゃ。
「まあ、司君は悠那君と一緒に住んでるし、同じ部屋を一緒に使うルームメイトだから多少免疫はあるのかな? でも、撮影前にキスシーンの練習くらいはしといた方がいいんじゃない?」
「そうですね。考えておきます」
 それも無用な心配だよ。言われなくても、俺と司はキスしない日なんてないもん。キスもエッチもいっぱいしてるから今更練習なんて必要ないんだよね。
「監督。機材運び終わりました」
「よーし。じゃあ次の撮影現場に移動しようか」
「はい」
 情事の後の倦怠感に包まれる俺は、既に仕事どころじゃないくらいの心地良い疲労感に包まれているわけだけど、実際は今日の撮影の三分の一ほどがまだ残ってたりするんだよね。
 司と一緒の仕事は嬉しいし楽しいけど、司が傍にいると色々我慢できなくなるのはちょっと困りものかも。



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