196 / 286
Final Season
第1話 Happy Together(1)
しおりを挟む「今回、司君と悠那君は恋人同士を演じるということですが、同性かつ同じグループのメンバーが相手役に選ばれたことについて、お二人はどう思っていますか?」
「そうですね。ちょっと照れ臭いですけど、相手が悠那で良かったと思ってます」
「俺も。司が相手で良かったです」
「撮影が始まる前から相思相愛という感じですね。お二人はデビュー当初から仲がいいと評判でしたが、仲良しの秘訣みたいなものはありますか?」
「秘訣ですか? 何かあるかなぁ……」
「やっぱりあれじゃない? 同じ部屋を一緒に使ってるから」
「そうだね。ルームメイトっていうのは大きいね」
年末年始休暇が終わって10日ほど過ぎた都内某所。俺と司は間もなく始まる映画撮影の製作発表会見の席にいた。
休暇が終わった後の俺達は多忙な毎日を送っており、なかなか一息つく暇もなかったけれど、楽しみにしていた司と共演する映画の仕事が始まるのは嬉しかった。
先日、全国五カ所を回るツアーも無事終了して、ちょっとだけ肩の荷が下りたって感じだしね。
「先程監督さんや脚本家の方から、今回の映画では今までとは違うお二人の魅力が見られるとお伺いしましたが」
「そこは僕達の演技次第になると思いますが、映画を見ていただいた方に少しでも新しい僕達を見せられるように頑張ります」
「気合は充分ということですね」
「はい」
こういう畏まった感じの席が少し苦手な俺は、取材陣からの質問に淡々と答える司の隣りで
(今日の司は頼もしくて格好いいなぁ……)
なんて思っていた。
制作発表会見が始まる前、マネージャーから
『悠那君は司君と一緒だと何を言い出すかわからないから、質問には司君がメインで答えてね。悠那君は聞かれたことだけに答えるようにして』
と言われているから、積極的に口を開く気にもなれない。だったら、好きなだけ司に見惚れていようかなって。
マネージャーも普段はそんなことなんか言わないんだけど、司と絡む時だけはちょっと厳しい。
多分、司と一緒だと浮かれてしまう俺が、浮かれついでにとんでもないことを言ってしまわないかと心配しているんだろう。俺としても、ほっといたら何を言い出してしまうか自分でもわからない。そんな時はおとなしくしているに限る。
幸い、この映画は俺と司のダブル主演ってことになっているから、俺より司がメインで喋っていても不自然にはならないし。
「最後に、これから始まる映画の撮影に向けての意気込みをお願いします」
いくつかの質疑応答が飛び交った後、ようやく最後の質問になり、俺の中ではちょっと手持ち無沙汰だった制作発表会見も終わりを迎えそうだった。
意気込みってことは俺も答えていいやつだよね。でも、まずは司に答えてもらおう。俺はそれを聞いてから、マネージャーに怒られないような返事を返すことにする。
「今回は内容も少しダークで、これまで演じたことがある役とは一味も二味も違う感じがして苦戦しそうですが、こういう役を貰った以上、本気で悠那を好きになるつもりで挑みます」
司の発言に意識を集中させていた俺は、最後の一言で胸がキュンとなった。
こういうのは言ってもいいんだ。
「悠那君もお願いします」
「俺も本気で司を好きになります」
司の真似みたいになっちゃったし「好きになります」も何も既に司と付き合っている身である俺は、今更「好きになる」もないんだけどね。だって、もうこれ以上ないくらいに司のことが好きなんだから。
でも、司とキスシーンを演じたり、エッチしてる(ように見せる)シーンなんかもあるから、これくらい言っておかなくちゃ実際にそのシーンを見た人が
『え? ガチじゃない? これって演技なの?』
ってなる可能性が大いにある。
俺、司とのそんなシーンを単なる演技だけで終わらせられる自信なんてないもん。絶対日常が滲み出る。ガチだと思われるほど本気で挑んだと思わせておいた方が、後々楽だと思うんだよね。
もちろん、俺はガチだと思われても一向に構わないし、むしろガチだと思われたいんだけど。
俺や司の後に監督や脚本家の人もそれぞれコメントを述べ、制作発表会見はお開きになった。
「悠那君ってほんと、肝心な言葉が足りないっていうか、本心を隠しきれないわよね」
制作発表会見場所から移動する車の中で、マネージャーから溜息交じりでそう言われた俺は、何か問題でもあったのかな? と小首を傾げた。
俺、余計なことは言ってないし、聞かれたこと以外の発言は極力控えたつもりだったんだけど……。
「何かいけなかった? 俺、変なこと言ってた?」
「変なことっていうか……“つもり”が抜けてたわよ」
「つもり?」
“つもり”とは?
「司君は“悠那を好きになるつもりで”って言ったのに、悠那君は“司を好きになります”って言ったでしょ」
「あー……そう言えば……」
「あれじゃ司君を好きになります宣言じゃない。ま、先に司君のコメントがあったから、軽く流される程度で済まされるとは思うけど」
さすがマネージャー。細かいところまでチェックしてるな。
でも、マネージャーの様子からして焦っている感じではないし、俺のことを怒っている風でもなかった。俺もマネージャーに言われるまで気付かなかったくらいだから、マネージャーの言う通り、そこまでの問題発言じゃなかったってことだろう。
ただ、マネージャーは俺と司の関係を知っているから、俺の発言には神経質になっちゃうだけなんだよね。
こうしてちょっとのことでも指摘することで、俺の注意を促そうとしているのかもしれない。
「司君は良かったわよ。聞かれたことにスラスラ答えられてたし、一人称を“僕”にしていたのも印象が良かったわ」
「そうですか……」
「制作発表会見の様子は今日のお昼のワイドショーで早速放送されるけど、反響がどうなるかが気になるところよね」
「そう? 大丈夫だよ。俺が樹さんと恋人同士になるドラマに出た時も問題なんてなかったじゃん。今回は相手が司なんだからもっと問題ないよ。俺と司が共演することで盛り上がってくれたらいいなぁ~」
「盛り上がるは盛り上がるでしょうよ。問題はその盛り上がり方なんだけどね」
「?」
何やら意味深な発言というか、先が思いやられるような顔をするマネージャーに、俺は再び首を傾げるしかなかった。
俺の隣りに座る司は、俺とマネージャーの会話をぼんやりした顔で聞きながら、移動する車の中でずっと俺の手を握ってくれていた。
その夜のこと――。
「凄いですよ。司さんと悠那さんが映画で共演するって知ったファンの子達の盛り上がり」
「司さんと悠那君の組み合わせって需要が凄いんですね。映画のタイトルがトレンド入りしてますよ」
「ま、もともとファンの前で堂々とイチャついてるような二人だからな。映画で恋人同士を演じるって聞いたら、そりゃ盛り上がるだろ」
「キスシーンやラブシーンを希望する子も多いですね」
「ほんと、最近の子ってよくわからないな」
「律もその“最近の子”なんだけどね」
お昼のワイドショーで流された制作発表会見の様子は、放送された直後からSNSで話題沸騰になったらしいけど、俺も司もあまりSNSをチェックする方ではないから、律達に言われるまでは全然気が付かなかった。
そんなに話題になってるの? どれどれ……。
「わ……ほんとだ。映画のタイトルがトレンド入りしてる。嬉しいなぁ」
「お前が会見で司を好きになる宣言したことも話題になってるんだけど?」
「あれは司の真似をしただけだもん。狙ったわけじゃないよ」
「狙ったわけじゃない……ね」
「何?」
「いや。お前ってつくづく嘘がつけねーなと思って」
一緒に住むメンバーにまで話題にされてしまっては、当人である俺と司もSNSをチェックせずにはいられない。
アプリを開き、トレンド入りした映画のタイトルのハッシュタグをタップしてみると、リアルタイムでどんどん書き込みが上がってくる。
制作発表会見が放送されてからだいぶ経つのに、まだ書き込みをする人がこんなにいるんだ。
「制作発表会見だけでこの盛り上がりなら、映画が放映されたらもっと凄そうですね」
「なんかもう、司さんと悠那君は世間公認のカップルみたいですね」
「実際、マネージャー公認のカップルだからな。世間公認になるのも時間の問題って感じがする」
「同感」
楽しそうな海と、やや呆れ気味な陽平と律。俺と司はスマホの画面をスクロールしていきながら、書き込みのほとんどが俺達にとって好ましいものであることを喜んだ。
「でもさ、悠那はともかく司には本気のファンも多いだろ。いくら同じグループの仲良しルームメイトだからって、司と悠那のラブシーンなんて見たくないって子も多いんじゃね?」
「それが、そうでもなさそうなんですよね。確かに嘆いてる子もいますけど、相手が悠那君なら仕方ないって諦めてる子がほとんどですよ」
「悠那さんじゃ勝ち目ないって書いてる人も多いです」
「女の子と絡むよりマシって意見も」
「ああ、そう。そうなんだ……」
うちのグループで最もリアコファンが多い陽平は、俺相手におとなしく引き下がる司ファンに軽く引いている様子だった。
っていうか、“悠那はともかく”ってなんだよ。そりゃ確かに、俺のファンは司や陽平のファンとはちょっと違う感じがするっていうか、俺をあんまり男として見ていない感じの子が多いけどさ。でも、中には「彼氏にしたい」って言ってくれる子もいるにはいるんだからね。
「あれ? 司さん、なんか元気なくないですか? 疲れてるんですか?」
「え? あ、いや……」
今日はやけに静かな司に気が付いた律は、あまり会話に入ってこず、スマホの画面をぼーっと見ている司に首を傾げた。
どういうわけだか、司ったら制作発表会見が終わってからなんかおとなしいんだよね。会見の時は普通だったのにどうしちゃったんだろう。
「悠那との共演はもちろん嬉しいんだけど、ついに映画の撮影が始まるのかと思うとちょっとね……。自分のメンタルが心配」
「メンタルですか?」
なるほど。そういうことか。
もともと司はこの映画の出演には渋り気味だったもんね。撮影が始まったら俺が司以外の男の人と絡むシーンを見ることになるのが嫌なんだ。
映画の出演を決めた時点でその気持ちは充分にあったんだろうけど、制作発表会見をしちゃったらもう後には引けないし、映画の撮影も始まっちゃうから憂鬱なんだ。
「僕達、映画の内容を詳しく教えてもらっていませんけど、司さんがメンタルやられちゃうような内容なんですか? 僕、司さんは鋼のメンタルだと思っていたんですが」
「いや。司は悠那が絡むとわりと豆腐メンタルだぞ」
「会見でも内容がダークだって言ってましたよね? どういう意味でダークなんですか?」
「それは俺の口から言いたくないかな」
「既にメンタルやられてるっ⁈」
「そんなに精神を蝕まれる内容なんですか⁈」
司との共演に浮かれるだけの俺と、俺みたいに手放しで浮かれていられない司のこの温度差。実際、撮影が始まったら俺も浮かれてばかりじゃいられないし、司以外の人とのキスシーンや際どいシーンを演じる時は「嫌だっ!」って思っちゃうんだろうけどさ。
でも、まだ撮影は始まっていないから、何がどうなるかなんてわからないじゃん。今から先のことで気を病んでいたら撮影が始まる前に疲れちゃうよ。
今はすっかり凹んでいる司だけど、俺が撮影にストレスを感じた時はちゃんと司が俺を慰めてくれるはず。この映画の仕事はお互いに精神的な負担が大きいだろうから、お互い励まし合いながら乗り切っていくしかない。
「元気出して、司。今からそんなに気を病んでたら、せっかく俺と一緒にできる仕事が楽しくなくなっちゃうよ?」
とりあえず、まずは撮影が始まる前から凹み気味な司を元気づけてあげなくちゃ。撮影は来週から始まるから、それまでには司のテンションを通常に引っ張り上げておかなくちゃ。
「そうは言っても、俺はやっぱり憂鬱だよ。悠那に俺以外の相手とあんなシーンがあることが」
「一度覚悟を決めたんだから頑張ろうよ。俺だってやりたくないシーンだと思ってるんだよ? その時は司に慰めてもらうつもりなんだからしっかりしてよ」
「悠那ぁ……」
会見では涼しい顔をして頼もしく見えていた司だったのに、家の中ではヤキモチを焼き過ぎて凹む可愛い司だった。
俺がソファーに座る司の前に立ち、司の顔を覗き込むようにすると、司は俺の腰にぎゅぅっと抱き付いてきて、俺を誰にも渡さないと言わんばかりに俺のお腹に顔を埋めてきた。
いつもは俺が司に甘えてばかりだけど、たまにこうして甘えてくる司が物凄く可愛い。
「結局、司さんが凹んでる理由はよくわからないままなんですけど、これはもう始まっちゃう感じですかね?」
「ヤるならヤるで部屋行けよ。リビングですんな」
「そういえば僕、お風呂がまだでした」
「ああ、俺もだ」
「だったら先に陽平さんどうぞ。僕は学校の宿題でもしていますから」
「そうさせてもらうわ」
司を慰めてあげようと、俺の腕が司の頭をギュッと抱き締めたのを合図に、恋人同士の雰囲気に居たたまれなくなった三人は、取って付けたような理由を口にしながら一人二人とリビングから消えていく。
そんなことにはお構いなしに、俺を抱き締めて離さない司の頭を撫でながら
「どうしたら元気になってくれるの? ダーリン」
って聞くと、司はチラッと俺を見上げてきて
「愛しいハニーからの愛」
と答えた。
腰に回された腕に力が入り、俺が司の腕の中へと引き寄せられると、誰もいなくなったリビングのソファーの上で俺は司と何度もキスを交わした。
(きっと、明日になったらいつもの司に戻ってくれるよね)
だって、俺の司への愛は底なしだもん。俺の愛で元気になるっていうのであれば、司が元気にならないはずがないもん。
司と共演したいがために、半ば強引に映画出演を引き受けた俺だから、そのせいで司に嫌な思いをさせてしまうのが申し訳ないと思う気持ちはある。
でも、こうしてヤキモチ焼いてくれる司は可愛いし、司にヤキモチ焼いて貰えるのが嬉しいと思っちゃう俺ってちょっと意地悪かな?
「司……部屋行こ?」
「うん……」
キスだけですっかり蕩けた顔になった俺が欲情した目で司を促すと、司も俺と同じ目をして頷いた。
司には悪いけど、俺は早く映画の撮影が始まって欲しい。
だって、司とこういうシーンを演じられるんだって思ったら、やっぱり嬉しくて仕方ないんだもん。
気に入らないシーンがあるのは事実だけど、そんなシーンなんて全部忘れてしまうくらい、司とのシーンでは思いっきりイチャイチャしてやる。映画を見た人に俺と司のイチャつきっぷりを見せつけてやるんだ。
そして、俺と司は本当の意味で世間公認のカップルになってみせるんだから。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる