僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Season 3

    終わり良ければ総て良しっ!(4)

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「なるほどね。それで、あんなに焦って必死の言い訳してたんだ」
「そう。だって……」
「朔夜さんにアドバイスを貰おうとしてまで、どうして悠那はそんなに陽平と湊さんをくっつけたいの?」
「それは……」
 朔夜さんを誤魔化すことにはどうにか成功した。が、朔夜さんが陽平と湊さんの関係に、少なからず疑いを持ってしまったのは完全に俺のミスだったと思う。
 でも、まさか朔夜さんの勘がそこまで鋭いとは思っていなかった俺は、こんな結果を予想することができなかったんだもん。
 陽平の秘密が朔夜さんにバレそうになったのは俺の責任だってことは重々承知してるし、反省もしている。幸い、陽平には気付かれていないようだから、今後はおとなしくしていようと思っているわけだけど……。
「陽平と湊さんが上手くいってくれないと、俺が陽平にヤキモチ焼いちゃうんだもん」
 司には俺の気持ちをわかって欲しかったから、クリスマスライブが終わり、ようやく二人っきりになれた時にでも、司には正直な気持ちを伝えようと思っていた。
 俺が言い出す前に、司の方から聞いてきてくれたから、俺としては話しやすくて助かった。
「ん? どうして悠那がヤキモチ焼くの? ヤキモチ焼くところがなくない?」
「あるもんっ! だって陽平、湊さんとのことは司にしか話さないから、それだと俺が陽平にヤキモチ焼いちゃうんだもんっ!」
「そうなの?」
 俺が陽平に対してヤキモチを焼くだなんて思っていなかったらしい司は、俺の言葉に目を丸くして驚いた。
 前に司と陽平がキスしたことで俺が怒った時も、単純に自分と陽平がキスしたことに対し、俺が腹を立てたんだと思った司は、俺が陽平にヤキモチを焼いていたとは思っていなかったらしい。
「司と陽平だけの秘密が増えるみたいで嫌なんだもんっ! 自分でも心が狭いとは思うけど、俺、司が大好きだから司のこと独占したいって思っちゃうし、司が知ってて俺が知らないとかも嫌なのっ! そりゃ司にだって言いたくないことはあるだろうし、司なりの人付き合いがあるのはわかってるから、これはただの我儘なんだってこともわかってるけど……」
 自分の胸の内を言葉にしてみると、自分が如何に子供で、我儘の塊なのかということが良くわかった。
 そんな自分の情けない姿を、わざわざ司の誕生日に晒さなくてもいいのに……とは思うけど、心の中にもやもやしたものを溜め込んだままだと、司の誕生日を心から祝ってあげられない気がして……。俺はそっちの方が嫌だった。
「悠那。おいで」
 言いたいことを言った俺は、恥ずかしいのと情けないのとで、ついつい顔を伏せてしまったけれど、司はそんな俺に優しい声を掛けてくれて、俺に向かって手を伸ばしてきてくれた。
 クリスマスライブが終わった後の俺達は、都内の某ホテルに泊まりに来ている。
 去年は事務所からのクリスマスプレゼントとして、ホテルのスィートルームをプレゼントしてもらったけれど、今年は自分達でホテルの予約を取った。
 今年の事務所からのクリスマスプレゼントは、来年に引っ越しが決まっている俺達の新居ってことになっているから、マネージャーは
『それまでお預けね』
 なんて言っていたけれど、新居をプレゼントなんかにされてしまっては、今後事務所からのプレゼントなんて一切受け取れないレベルだよ。俺達、どんだけ事務所に甘やかされてるの? って話だよね。
 しかも、そう言いながらもマネージャーはちゃんと俺達へのクリスマスプレゼントを用意してくれていたし――もちろん、俺達もマネージャーへのクリスマスプレゼントは用意していた――、司の誕生日プレゼントも忘れていなかった。
 事前にメンバーからも勧められ、今年の司の誕生日は司と二人っきりで過ごせることになった俺は、クリスマスライブが終わった後、他のメンバーを家に送り届ける前に、マネージャーに司と一緒にホテルの前で下ろしてもらい、今は夜景が綺麗に見えるホテルの一室にいる。
 そのホテルのベッドの上で司と向かい合う俺は、俺に伸ばされた司の手をジッと見詰めた後、ゆっくりと司の腕の中へと顔を埋めていった。
「ほんと、悠那のヤキモチ焼きは筋金入りだね。俺ってそんなに信用ない?」
「違うよっ! 司を信用してないんじゃなくて、俺が司を好き過ぎて、司に近付く人間がみんな敵に見えるだけっ!」
「敵って……それはちょっと穏やかじゃないね」
「ごめんね……俺、ちょっと面倒臭いよね」
「ううん。全然」
 司の胸に埋めた顔を、更に司の胸に強く押し付け、情けない声で言う俺の頭を、司の大きな手が撫でてくれる。
 その感触に思わずうっとりしちゃいそうだけど、こうして司に手を焼かせてばかりの自分を思うと、胸がチクッと痛むような感じもした。
「悠那がそれほど俺を好きだって気持ちは嬉しいよ。それに、俺も悠那のことをとやかく言えないくらい、ヤキモチ焼きなのは一緒だから。悠那に近付く男は全員敵だと思ってるよ」
「男? 男だけ?」
「うん。だって、悠那って女の子に全然興味ないし、女の子の方も悠那と付き合う勇気がある子なんていないでしょ?」
「うーん……」
 これって褒められてる? 早い話、俺は異性にとって恋愛対象外だと言われているのと同じなのでは?
 まあ……別に恋愛対象外でも一向に構わないし、俺自身が女の子に全く興味がないのも事実だけど。
「それに、俺だってメンバーにヤキモチ焼くことだってあるよ。特に律。悠那って律のこと大好きじゃん。律への可愛がり方とか半端ないし、律の前なら平気で恥ずかしいところも見せちゃうでしょ?」
 メンバーにまでヤキモチを焼く俺を呆れられるかと思ったら、司もメンバーにヤキモチを焼くことがあると知り、俺もちょっと驚いた。驚いたし、嬉しかった。
 でも、よりによって律なんだ。俺と律なんて、絶対怪しい関係になんてならないのに。
 だけど、そっか。これと同じ気持ちなんだ。俺が陽平にヤキモチを焼くって聞いた時の司の気持ちと、司が律にヤキモチを焼くって聞いた時の俺の気持ちって、多分全く一緒の気持ちなんだろうな。
「そ……それは……律は年下で可愛いし、俺と同じ立場の人間だから、つい……」
「それを言ったら、海も年下だし、陽平は年上だけど悠那と同じ立場になり得る存在だよ?」
「海も可愛いけど、律の方が可愛いって思っちゃうの。陽平はちょっと……なんか“同じ”って感じがしない」
「そこはまだ違和感があるんだ」
「うん」
 海には申し訳ないけど、海は年下でも俺よりずっと背が高くて大人っぽい顔をしているから、律の可愛いとは質が違うって感じ。もちろん、海を可愛いと思う気持ちはあるけれど、律ほど甘やかしたくなる対象ではないんだよね。
 陽平に関しては、いっぱい意地悪された記憶があるし、俺の目にはどう見ても兄貴肌の頼れるお兄ちゃんって感じだから、愛でる対象にはならない。
 陽平と湊さんには早くくっついて欲しいと思っているけれど、陽平と湊さんがエッチしたという事実、陽平が湊さんに抱かれたという事実は、未だに信じられないものがある。
 最初は酔った勢いだったらしいから、仕方ないって感じなのかもしれないけど、二回目はそうじゃなかったらしいから、素面でも陽平が抱かれる側なんだ……と、俺はその意外性を素直に認めることができなかった。
「正直、俺が陽平にヤキモチ焼く時だってあるんだよ。湊さんにとって陽平は可愛くて仕方ない存在なんだろうけど、俺にはやっぱり格好いいと思う面も多いからさ。その陽平と悠那が仲良さそうにしてると、悠那が気移りしちゃわないかって心配になる時もあるんだよ」
「えー……」
 心外である。こんなに司を好きな俺が、どうして司を差し置いて、他の人間を好きになるだなんて思うんだよ。司こそ俺を信用してないの?
「そんなことあるわけないでしょ。俺は月城朔夜より蘇芳司を選んだ男だよ? 司以外なんて絶対あり得ないから」
「そうだったね。その選択は本当に信じられなかったし、心の底から嬉しいって思ったよ」
 俺の頭を撫でていた司の手が今度は背中に回されて、俺をぎゅう~って抱き締めてきた。
 それに応えるかのように、俺も司にぎゅうぅっと抱き付いて、お互いに恋人と過ごす幸せな時間を噛み締めた。
 俺だけじゃなかった。司もメンバーにヤキモチを焼くことがあるんだって知ったら、それまでもやもやしていた気持ちが嘘みたいに晴れていく感じがした。
「確かに、俺にとって陽平はちょっと特別なところはあるかもしれない。唯一年上のメンバーだし、同じ年上組として、いろんな話もしてきたし。でもね、俺はメンバー一人一人がそれぞれが特別で、みんな大切な存在なんだよ。その中で、悠那だけがメンバー以上の感情を持っている相手だってことは忘れないで」
「うん。忘れない」
 多分、俺はこれからもメンバーにヤキモチを焼くことがあると思う。だけど、司もそうなんだって思うと、同じヤキモチを焼くのでも全然違う気持ちになれる気がする。
「多分、俺の中での陽平は、悠那の中での律みたいなものだよ。俺が律にヤキモチ焼いても、悠那は“え?”って思うでしょ?」
「うん」
「それと一緒。お互い心配しなくていいってことだよ」
「わかった」
 心のわだかまりが消えたところで、俺はふと思い出した。
「ところで司。今年は朔夜さんから何貰ったの?」
「ん? あ、そうだ。そう言えばまだ見てなかった」
 俺を散々揉みくちゃにしてくれた朔夜さんだったけど、去り際にちゃんと司への誕生日プレゼントを渡していっていた。
 去年はエッチな玩具をプレゼントしてきた朔夜さんが、今年は何をプレゼントしてくれたのかは気になる。
 因みに、俺からの誕生日プレゼントはホテルに着いてすぐ渡してあって、司はとても喜んでくれたから、俺も一安心って感じである。
 今年も散々悩んだけれど、二十歳という節目の歳を迎える司のプレゼントには時計がいいんじゃないかと思って、ちょっと大人っぽくてシックなデザインの腕時計をプレゼントした。
 もちろん、クリスマスプレゼントはクリスマスプレゼントで別に渡した……っていうか、今年のクリスマスプレゼントは司と一緒に買いに行って、司とお揃いのピアスを買った。
 去年のクリスマス、司からペアリングをプレゼントされて以来、毎年クリスマスプレゼントはお揃いのアクセサリーを買おうって決めたんだよね。
 司とお揃いのアクセサリーが毎年増えていくのって凄く嬉しいし、俺にとっては最高のクリスマスプレゼントって感じがする。
 今日、俺達に二人っきりで過ごす時間を与えてくれたメンバーからも、ここに来る前にプレゼントを受け取った司は、それより前に渡されていた朔夜さんからのプレゼントを、すっかり忘れてしまっていたみたいだ。
「正直、あの人からのプレゼントは油断がならないって言うか、半分お遊びって感じもするけど……」
 俺の発言によって朔夜さんからのプレゼントを思い出した司は、一度俺から離れ、鞄の中から朔夜さんに貰ったプレゼントを取り出して戻って来ると、俺の前に朔夜さんからのプレゼントを置いた。
「今年はなんか細長い箱だね」
「嫌な予感しかしない」
「開けてみてよ」
「うん」
 去年は小さい箱の中にローターとローションが入っていたよね。今年も似たような趣向なんだろうか……。
「っ⁈」
「え……何? これ」
「~……」
 箱を開けた司は、中に入っている物を目にした瞬間、なんとも言えない顔になって額を押さえたけれど、俺はそれが何をするものなのかがさっぱりわからなかった。
「なんか……俺へのプレゼントを通じて、悠那を開発していこうって企みを感じる」
「どういうこと? これ、何するものなの?」
 箱の中に入っていた物は、丸い玉が一列に繋がった棒状のもので、俺が初めて見る物だった。
「悠那はエッチ大好きなのに、エッチな玩具には無知だよね」
「え⁈ ってことは、これもエッチな道具なの⁈」
 またしてもエログッズ! 朔夜さんは司の誕生日にはエッチな玩具をプレゼントするって決めてるの⁈
「アナルビーズっていうんだよ。お尻に入れて気持ち良くなる道具」
「アナル……ビーズ……?」
 名前の響きだけで完全にエログッズじゃん。そんな名前の商品があること自体にびっくりだよ。
「しかも、ご丁寧に大きめサイズだね。通常サイズじゃ悠那が満足しないと思ってるみたいだよ?」
「何それっ! なんで朔夜さんにそんなことがわかるのっ? 司っ! まさかそれ使わないよね⁈ 使ってみよう、とか言わないよね⁈」
 冗談じゃないよっ! なんで俺、今年も司の誕生日に朔夜さんからのプレゼントで気持ち良くさせられなきゃいけないの? 司の誕生日に俺が司とエッチしないわけがないって思われているから、朔夜さんもこういう物をプレゼントしてくるってこと?
「え? 使うの嫌?」
「なんで司は使う気満々なの?」
「いや、せっかくだから使ってみたいじゃん。悠那がどんな反応するか気になるし」
「~っ!」
 結局、司も司でそれなりに喜んじゃってるじゃん。自分の誕生日に他の男からの贈り物で俺が気持ち良くなるのはいいの? そこはヤキモチの対象じゃないの? 誰からの贈り物でも、実際に使うのは自分だからいいってこと?
「去年、初めてローター使った時も凄く感じて可愛かったから、今年はこれで感じちゃう悠那が見たい」
「そ、そんなぁ……」
 ああもう……これを使うのはほぼ決定なんだ。司に楽しみにされちゃったら、俺も「嫌っ!」だなんて言えなくなるじゃん。
「ヤキモチ焼かせちゃったぶん、いっぱい気持ち良くしてあげるね」
 アナルビーズとやらを手に、にっこり笑う司を見た俺は
(司に気持ち良くしてもらえるならなんでもいいや……)
 と、過去最短レベルの諦めの早さを発揮した。



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