僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Season 3

    終わり良ければ総て良しっ!(2)

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「陽平~っ」
 12月21日。
 その日は律と海の修業式で、二人の修業式が終わるまでは自宅待機の年上三人組は、二人が帰ってくるまでの時間を、各自のんびり過ごすことになっていた。
 俺はいつもより早く目を覚ますと、まだ寝ている司をそのままに、自分の部屋で寛いでいるであろう陽平の元へ行き、満面の笑みで陽平に声を掛けた。
「あ? んだよ」
 既に朝御飯を食べ終わり、着替えた状態でベッドの上に寝転がって雑誌を読んでいた陽平は、あからさまに面倒臭そうな顔をしたけれど、そんなことはどうでもいい。
 冷たくされても笑顔を崩さない俺を見て、陽平は何かしらの違和感を覚えたらしい。眺めていた雑誌から目を離すと、不審そうな目を俺に向けてきて、俺が何を言い出すのかと構えている様子だった。
「俺、知らなかったな。陽平と湊さんが一通りのことが終わってる仲だったなんて。ま、キスくらいはされてるだろうと思ってたけどね」
「なっ……!」
 途中で脱線してしまったものの、俺は昨日、司から陽平と湊さんの話を聞き出すことに成功していた。危うく有耶無耶にされてしまいそうなところではあったけど、そこは身体を張ってなんとか食い止めた。
 第二ラウンド……いや、第三ラウンドかな? とにかく、一度火がついてしまった身体が欲望を吐き出した後は、余裕が生まれ、当初の目的を遂行しようと動いた俺は
『わかった……言う……教えるからっ……悠那っ……』
 司を観念させてしまうと、司の気が変わらないうちに、聞きたいことを全部聞き出してしまった。
 真実を知った俺はそりゃもうびっくりしたし、信じられない気持ちでいっぱいになったりもしたけれど、知ってしまった以上、それについて陽平と話をしないわけにはいかないって感じだったから、今朝はちょっと早起きして、陽平とお喋りする時間を作ることにしたんだ。
「おまっ……誰からそれを……」
「司♡」
「あのクソ野郎っ!」
 秘密が俺にバレてしまったことを知った陽平は、俺に秘密を知られてしまったことには大いに焦って取り乱し、俺に秘密をバラした司のことは激怒した。
 気持ちはわからないでもないけどさ。そんなことをずっと隠していた陽平だって悪いじゃん。それに、司は陽平の秘密を一年以上も俺達に黙っていたわけだから、結構頑張った方だと思う。
 先日の詳細については、聞いてすぐに暴露した形になるかもしれないけど、去年の湊さんの誕生日から始まった陽平と湊さんの痴情のもつれに、司は司なりに奮闘していたと思うから、秘密を暴露したくらいで怒らないであげて欲しい。
 自分の秘密をバラした司に腹を立てた陽平は、ベッドから飛び下り、物凄い勢いで俺と司の部屋へと走った。
「待って、陽平。司はまだ……」
「おいこらぁっ! 起きろボケっ!」
「あ……」
「ってぇっ! なんで素っ裸で寝てんだよっ! 見たくねーよっ! お前の裸なんかっ!」
 せっかく人が止めたのに……。昨夜は俺とエッチしたまま寝ちゃったんだから、司が服着てないのはしょうがないじゃん。俺が今着ている服だって、さっき部屋を出る前に着たばっかりなんだから。
「うー……何……? もう起きなきゃいけない時間?」
「じゃなくてっ!」
 勢い良く俺達の部屋に乱入し、寝ている司の上から思いっきり布団を引っぺがしたまでは良かったものの、布団の下の司が裸だったことで、慌てて司の上に布団を掛け直している陽平がちょっと間抜けで可愛い。
 なるほど。湊さんは陽平のこういうところが可愛くて、陽平のことを振り回したくなっちゃうんだな。
 陽平って普通に接している限りは普通の対応しかしないから、それだと“可愛いっ!”って感じにはならないもんね。湊さんがわざと陽平を怒らせるようなことをするのも、ムキになって怒る陽平が可愛いからなのかも。感情を乱された陽平はすぐ取り乱しちゃうから、その慌てっぷりが可愛いのかもしれない。
「俺はお前に言いたいことがあんだよっ! さっさと起きろっ!」
「後にしてー……もうちょっと寝たい……」
「ふざけんなっ!」
「うぐっ……」
 司から布団を取り上げて無理矢理起こすことを断念した陽平は、今度は布団の上から司に馬乗りになって、なかなか起きようとしない司の首を絞め始めた。
 殺意ある起こし方に唖然としてしまう俺は、しばらくはポカンとしてその様子を眺めているだけだったけど、司の首が絞まったら大変と、慌てて陽平を司から引き離そうとした。
「やめてやめてっ! 司が死んじゃうっ!」
「死なねーよっ! 殺してやりたい気分だけどっ!」
「ダメーっ! 司に乱暴しちゃ嫌~っ!」
 グループ一背が低い俺は、グループ三番目の身長ではあるものの――もともとは二番目だったのに、デビュー直後に海に身長を抜かされている――、180cmはある陽平の身体を司から引き剥がすのに、身体中全ての力を腕に集中させる必要があった。
 そうやってなんとか陽平を司から引き剥がすと、今度は陽平が俺の上に倒れ込んできたから、俺は陽平の身体に押し潰されることになってしまった。
「痛ぁ~いっ! 重いっ! 潰れちゃうよっ! 陽平っ!」
「お前が力任せに引っ張るからだろ。どいてやるから手ぇ離せ」
 全くもう……朝から酷い目に遭うじゃん。陽平の秘密を知っただけで何事なの。
「大丈夫か?」
「うん……」
 俺が掴んでいた陽平の腕を離すと、陽平はすぐに身体を起こしてくれて、陽平に潰された時の体勢から起き上がれない俺を助け起こしてくれた。
 それと同時に
「悠那に何してくれてるの? 悠那を泣かせたら陽平でも許さないよ」
 さっきまで全く起きる気配がなかった司がむくっと身体を起こし、怒っているからなのか、眠たいからなのかはよくわからない、どんよりとした目で陽平を睨んできた。
 司がすんなり起きてくれていれば、こんなことにはならなかったんだけどね……。
「なんで俺が加害者扱いなんだよ。どちらかと言えば、俺の方が被害者なんだけど?」
「なんの話?」
「とぼけんなっ!」
 俺を助け起こした陽平は、それと一緒に司が目を覚ましたことを知り、急いで司を怖い顔で睨み付けた。
「なんで喋ったんだよっ! 言うなっつっただろっ!」
「喋った? ああ、陽平と湊さんのこと?」
「他に何があるんだよっ!」
「だってぇ……」
 目は覚ましたものの、服を着るつもりはまだないらしい司は、腰から下を布団で覆ったまま、自分に食って掛かる陽平に困った顔をして見せた。
 俺に見せる困った顔とはちょっと違う。俺に見せる顔より幼く見えてしまう司の顔に、俺はちょっとだけモヤっとした。
「悠那に乗っかられて、“教えてくれなきゃイかせてあげない”って言われながら腰を絶妙に使われたら、俺だって観念しちゃうよ。ずっと締め付けられたまま、こっちの動きは封じられてるんだよ? 頭がおかしくなりそうじゃん」
「なんの話? 俺、お前らがどういうセックスしてるのかなんて、これっぽっちも興味ないし、聞きたくもねーんだけど? っつーか、なんでお前は悠那に主導権握られてんの?」
「それがね、悠那がどんどんテクニックを身に付けていって、最近では俺から主導権を奪うまでになっちゃって。もちろん、最終的には俺が主導権を取り戻すんだけどね」
「どうでもいいわっ! そんな話っ! 俺が言いたいのは、そんなことで俺の知られたくない秘密を簡単に暴露すんなってことっ!」
「ごめんね、陽平。言うつもりはなかったんだけど、悠那に黙ってるのも心苦しくて……」
「あーあーっ! 遅かれ早かれそうなるだろうとは思ってたよっ! 期待した俺が馬鹿だった!」
「そんなに怒んないでよ~」
 ああ、やっぱり……。やっぱり司、陽平の前では“年下の顔”になるんだ。
 司は恋人である俺にも甘えてくれることがあるし、可愛い顔もいっぱい見せてくれるけど、それって全部“彼氏の顔”なんだよね。
 もちろん、司は俺以外の人間に“彼氏の顔”を見せないから、俺が見ている司の表情は、全部俺しか見れない特別なものではあるけれど、俺が見られない特別な顔があると知ったら、やっぱり俺は面白くない。
 俺は司より年下だから、どう頑張っても年下としての司の顔を見られないことくらいわかっているけれど、それを俺じゃない相手に目の前で見せられるのはちょっと嫌。悔しいと思ってしまう。
 多分、司は尊さんにもこういう顔を見せているんだとは思うけど、実際に姉弟関係にあたる尊さん相手なら、俺もヤキモチの対象にはならないんだけどなぁ……。
 自分が如何にヤキモチ焼きなのかは知っていたけれど、ここまでヤキモチ焼きだったとは思わなかった。もしかして俺、相当心が狭い?
 陽平相手にまでヤキモチを焼いてばっかりになると、さすがに司も呆れちゃうよね。それは嫌だ。早くなんとかしなきゃ……。
「いいじゃん。陽平が湊さんと付き合うことになったら、秘密でもなんでもなくなるわけでしょ? 知られて恥ずかしいと思うなら、いっそのこと付き合っちゃえばいいんだよ」
「お前……しばらくおとなしくしてるかと思ったら、ロクなこと言わねーな」
「何が問題なの? 俺としては、二回もエッチしたのに付き合っていない方がおかしいって気もするけど?」
「合意のもとじゃねーんだよっ! そう簡単に付き合ってやれるかっ!」
「湊さんのこと嫌いじゃない癖に。陽平も意地っ張りだよね」
 かくなるうえは、是が非でも陽平には湊さんと付き合ってもらいたいと思うわけだけど、陽平はなかなか首を縦に振ってくれない。
 一体何がそんなに嫌なんだろう。合意のもとじゃなかったとしても、嫌いじゃない相手と二回もセックスしたら、普通は「付き合おう」ってならない?
 俺のヤキモチ焼きも相当だけど、陽平の意地っ張り具合も相当だよね。
「まあまあ悠那。陽平には陽平のペースっていうか、心の準備もあるだろうから、温かい目で見守ってあげようよ」
「それはそうかもしれないけど……」
 俺の気持ちを知らない司はそう言うけど、それじゃ俺のもやもやが晴れないんだよね。俺としては、この気持ちを来年まで引き摺りたくないんだけど……。
「おい、お前ら。俺と湊が付き合うのを前提に話すのはやめてくんない?」
「え? 違うの? 湊さんの気持ちと向き合うって言うから、てっきり付き合うつもりでいるのかと思ったんだけど」
「向き合うだけで付き合うかどうかなんてわかんねーだろっ! もしかしたら、俺に新たな出逢いがあるかもしんねーじゃんっ!」
「そこは否定しないけど、仮に出逢いがあったとして、陽平は普通に女の子を好きになって、その女の子をどうこうしたいと思うのかな?」
「ぐっ……」
「多分、これからどんな出逢いがあったとしても、陽平は湊さんに抱かれた過去に邪魔されて、女の子を好きになることに躊躇いが生まれてくると思うんだよね。これはもう、湊さんの作戦勝ちみたいなものだよ」
「そんな作戦があってたまるかぁっ! “抱かれた過去”とか言うなっ! 俺にも自由に人を好きになる権利くらいあるっ!」
 俺と司の両方から、「湊さんと付き合え」と言われているようなものの陽平は、それが我慢ならないようで、顔を真っ赤にして怒るだけだった。
 今の段階でこんな状態の陽平が、年内に湊さんと上手くいくとはとてもじゃないけど思えない。せっかく今年中に片付けてしまいたいことを見つけたのに、それが俺の努力だけじゃどうにもならないことだったら、頑張りようもないってものだよね。
 それならば、二人がくっ付いてくれない限り、陽平に感じてしまう俺の嫉妬心をどうにかする努力をするべきなのかもしれないけれど、生まれ持っての性質って、努力次第で簡単にどうにかなるもの?
 司のことになるとすぐカッとなって、頭に血が上ってしまう俺だから、その性格だって今年中になんとかできるものではなさそうだよね。
「っつーか! なんで朝っぱらからこんな話されなきゃなんねーんだよっ! 司も起きたんならさっさと服着ろよっ! 服着て今日の準備でもしろっ! どうせなんの準備もしてねーんだろーがっ!」
「起きたっていうか、無理矢理起こされたんだけどね。まだ寝れたのに……」
「お前は律達が帰って来るまで寝てるつもりか? 二人が帰ってきたらすぐに出掛けるってわかってんだろうな」
「わかってるけど……まだちょっと寝足りなくて」
「だったら、いつでも出られる準備をしてから寝ろっ! 叩き起こしてやっから!」
「じゃあそうする」
 あーあ……俺はただ、陽平と湊さんとのことで話をしようと思っただけなのに……。すっかり話ができるような雰囲気じゃなくなっちゃってるじゃん。陽平ってば怒り過ぎ。そんなに俺達と湊さんの話をするのは嫌なわけ?
「悠那もなっ! お前もまだ準備してないんだろっ!」
「はーい……」
 湊さんのことになるとすぐ怒っちゃう陽平相手に、司はどうやって話を聞き出したんだろう。
(やっぱり、二人には二人にしかわからない世界みたいなものがあるのかな……)
 そう思うと、俺の中で再びモヤッとした気分が湧き上がってきて、俺は不満そうに唇を尖らせた。


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