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Season 3
願いは叶えるためにある⁈(7)
しおりを挟む「なんか……少しずつ公になっていきますよね。司さんと悠那さんの関係」
「司さんに片想いしてるありすちゃんに知られて大丈夫なんですか? 二人の仲を引き裂くため、あちこちで言い触らしたりしませんかね? それがちょっと心配なんですけど」
「というより、ありすさんが司さんに告白していたという事実に驚きですし、振られて一年以上経った今も、司さんを想い続けていることにも驚きですね」
「そりゃ悠那君もヤキモチ焼いちゃうし、強硬手段にも出ちゃいますよね」
悠那が途中参戦してきたことにより、ありすさんや夏凛さんにまで俺達の関係が明らかになってしまった飲み会の翌日――。俺は念のため、律や海にも昨日のことを報告しておいた。
こういうことはグループ内で共有しておかないと、後々面倒があった時に困るし、知っていれば、何かとフォローできることもあるだろうから。
「うーん……今のところ、二人が他の人間に言い触らすようなことはないと思うし、二人も“言わない”って約束はしてくれたけど、不安がないとは言い切れないって感じではあるんだよね」
ドラマ撮影が終わって帰ってきた律と海は、自分達の知らないところでそんな騒ぎがあったことを、ほんの数分前に知ったばかりだった。
昨日は明け方近くになって帰宅してきた俺、悠那、陽平の三人は、帰ってくるなりお風呂にも入らずベッドに潜り込み、律や海が出掛ける頃にはまだ夢の中だった。
お兄ちゃん連中がいなくても、ちゃんと朝ご飯を作り、後片付けまでして出掛けて行った末っ子達は、午前中は学校で授業を受け、午後からはドラマの撮影を熟し、日が変わる少し前に帰ってきてから
『みなさん、昨日はどこに行っていたんですか?』
と、丸一日顔を合せなかった俺達に、律が小首を傾げながら可愛らしく聞いてきたから、俺も昨日の話をしてあげることにしたのである。
話を聞き終わった後の二人の反応は、呆れるの半分、心配するの半分ってところらしい。どうも我が家は末っ子達の方がしっかりしている傾向にある。
「大丈夫だろ。一応あの二人にもバラされたくないもんがあるし。口の軽い湊に、“二人のことを誰かに喋ったら、ありすちゃんが司に告白した話とか、夏凛が陽平と付き合ってた話とか言っちゃうよ”って言われれば、言いたくても言えない、ってなるんじゃね?」
「えっと……それは脅迫になるのでは?」
「しかも、陽平さんもしっかり巻き込まれてますよね?」
「それな。マジ迷惑。俺は関係ないっつーのに」
昨日はひたすら災難に巻き込まれるだけだった陽平は、ありすさんと夏凛さんの二人に、俺と悠那の関係がバレてしまったことのとばっちりもしっかり受けていた。
それはもう、最早怒る気力も湧かないほどの災難だったらしく、今日は一日中投げやりな感じで過ごしていたりする。
しかし、事態はそう悪い方向に進んでいるばかりでもなかった。
悠那が加わった飲み会――うちのメンバーは誰一人として飲んでいないけど――は、俺と悠那の関係が明るみになった後、思いもよらない展開へと発展したのだ。
どういうことかというと、全員のぶっちゃけトークが始まってしまい、湊さんが陽平に抱く恋心までが暴露されることになった。
これは、陽平にとって一番知られたくない事実であることに間違いなく、そういう意味では、今回一番痛手を負ったのは陽平だったのかもしれない。
さすがに、陽平が湊さんに酔った勢いで無理矢理犯された話までは暴露されなかったものの、湊さんが
『俺、陽平のことが好きなんだよね』
と言った時の陽平の驚きと絶望に満ちた顔は、しばらく忘れられそうにない。
俺や悠那、湊さんに触発されたありすさんや夏凛さんまでもが自分の想いを語り始めてしまい、 “五人の間に秘密はない”と言い切れるほどのぶっちゃけトークの末、それぞれの関係がより親密になり、仲が良くなってしまったのは悪いことではなかったと思う。
ずっとありすさんをライバル視していたはずの悠那でさえ、最終的にはありすさんと打ち解けてしまい、最後は“ありすちゃん”とか呼んでいたくらいだ。
だからといって、ありすさんに俺を譲る気はないし、そこだけは
『司は俺のだから手を出さないでね』
と何度も念を押していたけれど。
だから、仲良し五人組になってしまった俺達は、お互いの秘密を暴露しないって気持ちが芽生えたような気もするけれど、その友情を信じていいのかどうかはまだよくわからないから、油断は禁物って感じなのである。
「済んでしまったことを今更とやかく言うつもりはありませんけど、今後はもう少し慎重になってくださいよ。うちのメンバーは誰一人としてまともな恋愛をしていないんですから。一人バレると芋づる式にバレてしまう可能性だってあるんですからね」
最後にやんわりと忠告をする律相手に、悠那は
「はーい。今度からは気を付けるね」
と、多少は反省した様子で返事を返し、陽平は
「俺まで含めんなよ。俺はまともだから」
自分もみんなと一緒にされたことに不満を零したりした。
「でもま、これで悠那君のヤキモチ焼きも少し収まるんじゃないですか? 一番気掛かりだったありすちゃんに自分達の関係を明かせたわけだから」
「うん。なんかスッキリしたって感じだよ」
海の言葉に笑顔で返す悠那は、本当に気を付けるつもりがあるのかどうかが怪しい。
ま、もともと悠那は俺との関係をあまり隠しておくつもりがないし、俺も悠那との関係はバレたらバレたでしょうがないと思っているところがあるから、悠那同様、俺もあまり反省する気持ちにもならなかったりはする。
「なんかさ、海とエッチした後の律って、ちょっとだけ丸くなった気がしない?」
「そう?」
「うん」
順番にお風呂に入り、部屋に戻って来た俺と悠那は、当然のように同じベッドの上に腰掛け、お風呂上がりのスキンケアをしていた。
アイドルになったものの、その手のことには無頓着で、興味もなければ関心もなかった俺だけど、同室になった悠那のおかげで、お肌のお手入れにも少しくらいは気を遣うようになった。
言っても、そういうことに疎い俺の代わりに、悠那が色々お薦めしてきてくれるから、悠那の薦めるものを使っているだけではあるんだけど。
悠那は俺の肌質なんかも研究し、俺の肌に合ったものをちゃんと選んでくれるから、俺のお肌はここに来た頃に比べると、ずっと綺麗になったと思う。
悠那の素肌が男とは思えないくらいに綺麗で滑らかなのは、日々のお手入れの賜物なんだろう。悠那はアイドルになる前から、スキンケアが習慣になっている様子だったから。
「だって、前の律ならもうちょっと怒ってたと思うんだよね。でも、今日は少し小言を言うくらいで終わったから、海と肉体関係を持ったことで、律も大人になって、気持ち的にも余裕ができたってことなんじゃないかな」
「かもね」
律と海がようやくちゃんとした恋人関係になったことを、俺や悠那は心から祝福しているわけだが、その後の二人の変化というものに、俺はあまり気付けなかったりもする。
だって、俺と悠那みたいにイチャイチャする時間が増えたわけではなさそうだし、部屋でエッチしてる感じもしないから、俺的には“何が変わったの?”と思わざるをえない。
ま、あの二人にはあの二人の世界があるから、俺は別に構わないけど。
でも、悠那の目から見れば変わったところもあるようで、それが悠那にとっては嬉しいみたいだった。
特に、自分と同じ立場にいる律の変化には敏感で、律のことは特に気に掛けている様子の悠那は、律と海が進展することによって、少しずつ変わっていく律の姿を見るのが楽しいらしい。
律には注意されたり、呆れられることも多い癖に、悠那の中ではしっかりお兄ちゃん気分なのがクソ可愛い。
メンバーの中では一番背が低く、見た目年齢も一番下に見えなくもない悠那が、お兄ちゃんぶっている姿というのは、見ていて微笑ましいだけだった。
「それはそうと、司」
「ん?」
悠那に貼られたフェイスシートを剥がした俺は、俺と同じタイミングでフェイスシートを剥がした悠那に、グイっと詰め寄られてビクッとした。
俺、悠那に詰め寄られるような何かしたっけ?
「昨日みたいなことはもう絶対ダメだからねっ! 今度同じようなことがあったら、次は記者会見でも開いて、司との関係を世間に公表にしちゃうんだからっ!」
俺に向かって精一杯怖い顔をしてみせる悠那だけど、その顔は全然怖くなくて、むしろ可愛いだけだった。
「う……うん……」
とりあえず頷いてみせたけど、未だに昨日のことが面白くないと思っている悠那が可愛い俺は、口元が緩みそうになるのを我慢するのが大変だった。
昨日は散々みんなの前で惚気た癖に……。それでもヤキモチを焼き足りないのかと思うと、“悠那は俺のことが大好きで仕方ないんだな”って気持ちになるから、真面目に反省するどころじゃなくなってしまう。
「ほんとにもう……俺以外の人間に膝枕してあげるなんて最悪」
「ごめんね。でも、してあげたつもりはないんだよ?」
「でも、結果的にしてあげる格好になってたら一緒なんだからね」
「はいはい。ごめんね。もうしないから」
ぷくっと可愛らしくほっぺたを膨らませる悠那を引き寄せると、まだお肌の手入れが途中だった悠那の身体を転がして、頭を俺の膝の上に乗せてあげた。
「俺の身体は全部悠那専用」
急に身体を横にされ、俺に膝枕してもらう形になった悠那は、最初はきょとんとしてされるがままになっていたけれど、俺に膝枕してもらっているのだとわかるなり
「絶対だよ」
と、嬉しそうな顔になって、俺の膝の上で笑った。
それから、悠那に膝枕したままお肌のお手入れを終わらせてしまうと、一つのベッドに潜り込み、戯れのようにイチャつき始め――。
「ぁんっ……やだぁ……」
「ん? 嫌なの?」
「ううん。嫌じゃない」
「だよね」
結局はそういう流れになってしまい、お風呂上がりに着たばかりのパジャマを早々に脱ぐ羽目になるのだった。
もう数えきれないくらいに抱いてきた悠那の身体は、見飽きるほどに見てきたはずなのに、いつ見ても堪らなくそそられるし、どこもかしこも綺麗なままだった。
白くて柔らかい肌に吸い付くと、そこだけ反応するように色が変わり、悠那が俺のものだという証が、ハッキリと浮かび上がってくる。
「悠那の肌ってキスマーク付きやすいよね。そんなに強く吸ってないのに、すぐ紅くなる」
「肌が弱いのかな? 今まで意識したことはなかったけど」
「あんまり吸わない方がいいのかな?」
「それは嫌。司にいっぱいキスマーク付けて欲しいもん」
「そう?」
悠那とエッチするようになった時から、悠那はどこかしらにキスマークをつけて欲しいと強請る。
もちろん、誰からも見えるようなところには付けられないし、露出の高い服を着る仕事の前は――そんな仕事も早々ないが、悠那のドラマ撮影中は気を遣った――、キスマークを付けることを躊躇う時もある。
それでも、悠那は
『司の物だって証が欲しいから付けて』
とせがむから、俺は悠那とエッチするたびに、身体のどこかに必ずキスマークを付けてあげることにしている。
悠那はその容姿のおかげか、太腿を晒すことは多いけど、胸元はしっかりガードされているので、キスマークを付けるのは胸元がちょうどいい。胸元にキスマークを付ける流れで胸全体を愛撫し、そこから更に悠那が恥ずかしがるところを愛撫してあげるのが俺の楽しみであり、そうされることによって悠那もどんどん淫らになっていくから、気付けば悠那の身体の至るところにキスマークが付いている状態になっていたりもする。
因みに、キスマークを付けるのがちょっと苦手な悠那は、頑張って俺にもキスマークを付けようとするんだけれど、なかなか上手くいかなくて、一個付けられればいいって状態だった。
俺がキスマークを付けにくい肌質なのかもしれないけど、頑張っても小さなキスマークしか付けられない悠那が、悔しそうにしているのもまた可愛い。
「ゃ、あ……ぁんっ……んんっ……」
「悠那はほんとに可愛いね。堪んない……」
「司ぁ……」
せっかくお風呂に入った身体はしっとりと汗ばみ、悠那の小さな入り口に熱くなった俺を押し付ける頃には、汗以外のもので濡れそぼったお尻はぬるぬるだった。
これはまたお風呂に入り直さなきゃいけないな。
幸い、うちのお風呂はこんなこともあろうかと、全員がお風呂に入り終わった後も、すぐにお湯を抜くことはせず、翌朝になってからお湯を抜くことにしているから、追い焚きボタン一つ押せば、手間をかけることなくお風呂に入り直すことができる。
悠那と付き合い始めてからというもの、俺は一日に何度もお風呂に入る機会が増えた気がする。
でも、それを面倒だとは思わないし、また悠那と一緒にお風呂に入れるのかと思うと、それはそれで楽しいし、幸せな時間だと思う俺だった。
夜が更け、他のメンバーは深い眠りに堕ちてシンと静まり返った室内を、物音を立てないように気をつけながら浴室まで足を運んだ俺と悠那は、本日二度目のお風呂タイムである。
一度お風呂に入っているから、二度目のお風呂は身体を綺麗にするというよりは、恋人同士の時間の延長みたいになってしまうのはいつものこと。悠那は湯船の中で俺の胸に背中を預けると、悠那の腰に回した俺の手を握りながら
「実は俺、密かな野望があるんだよ」
と切り出した。
「野望? 一体どんな野望なの?」
悠那の可愛い頭頂部に顎を乗せたまま、腕の中の悠那の感触を堪能している俺は、悠那の野望とやらを聞きたいような聞きたくないような……。
悠那は結構突拍子のないことを言い出したり、とんでもないことを言い出すことがあるから、“夢”とか“目標”ではなく、“野望”という言葉を遣う悠那に、ちょっとだけハラハラしてしまうのは仕方がないことだろう。
「世界中の人に、司との関係を祝福してもらうこと」
一体どんな野望が? と、内心ハラハラしていた俺は、得意気な顔で言った悠那に、ホッと安心するのと同時に、心の底から「可愛いなぁ」と思ってしまった。
確かに、“世界中”ってなるとスケールが大き過ぎるし、だからこそ野望になるんだとは思ったけど、俺との関係を沢山の人に認めてもらい、祝福してもらうのが悠那の望みなのだと思うと、可愛い以外の何者でもないのは事実だろう。
「それはまた……随分可愛い野望だね」
「あ、馬鹿にしてる? 俺、本気なんだけど?」
「馬鹿になんかしてないよ。可愛いな~って思ってる」
「へへへ」
一瞬、俺に馬鹿にされたかと思った悠那は、思わずしかめっ面をしてみせたけど、俺が馬鹿にしていないとわかるなり、すぐさま嬉しそうな顔に戻ってくれた。
馬鹿にするわけがない。そんな可愛い野望を抱いている悠那を、どうして馬鹿にできるというんだ。
「今度の映画の話はその第一歩みたいなものだよね。昨日、ありすちゃんに司との関係を話したことも、俺にとっては重要っていうか、司を付け狙う敵を排除するためにも必要な行動だと思ってたから、実行に移せて良かったと思ってるんだよね」
「ってことは、悠那はあそこに着く頃には、あの場で俺との関係をバラすつもりでいたってこと?」
「うん。司からのメール読んだ瞬間から決めてた」
「そうなんだ」
乱入とほぼ同時に俺にキスしてきた悠那だから、そのつもりがあったのは疑いようがないけれど、俺からのメールを読んだ瞬間に即決していたとは……。どうしようかと悩む必要なんてなかったらしい。
「律や陽平は俺達の関係が公になるのを嫌がるけど、俺と司がそういうものだって、周りの人間が当たり前のように思ってくれるようになれば、隠す必要もなくなるよね。俺、そうなることを狙ってるんだ」
「ファンの間では、もうそう思われてるような気もするけど」
「まだ全員がそうってわけじゃないでしょ?」
「まあね」
今のところ、ファンの目から見る俺と悠那の関係は“仲良しルームメイト”止まりで、“恋人同士”とまではなっていない。が、一部のファンの間では、“恋人同士みたい”と言われるくらいにはなっている。
悠那の目標は、俺達のファン全員が、俺と悠那を“恋人同士”と認識してくれることのようなので、そのためには、今度の映画の仕事は確かに重要になってくるのだろう。
映画で悠那とリアルなキスシーンを演じたり、愛し合っている姿を披露すれば、ただでさえ仲がいいと思われている俺と悠那を、“本当にそういう関係なのでは?”と疑い始める人間はいると思う。
もちろん、そうであって欲しくないと願うファンも出てくるだろうけれど、悠那の狙いとしては、そう思う人間を極力抑え、“お似合いの二人”という認識に持っていきたいのだろう。
そうなると、俺と悠那が並んでいる姿が絵にならないといけないわけだから、俺としても気を引き締めてかからなくてはいけない。どうやったら悠那と“お似合いの恋人同士”という風に見られるのかも研究しなくておかなくては。
雑誌の仕事で悠那とのツーショットを撮ることもあるけれど、出来上がった写真を見ても、あまり恋人同士って風には見えないと思うのは、同じグループのメンバーっていう先入観があるからだろうか。もしくは、単に表情やポーズの問題なのかもしれないけど。
でも、今度の映画は実際に恋人役を演じることになるわけだから、映画を撮る方も、そう見える二人を求めてくるだろう。
ただ求められる表情やポーズを撮るだけの写真と違って、動きを加えて恋人同士を演じるのであれば、俺と悠那が恋人同士に見える可能性も出てくると信じたい。
「ま、世界中っていうのはちょっと無理かもしれないけどさ。でも俺、俺達を知ってる人には、俺と司のことを認めてもらいたいなって思うんだ」
「そうだね」
一人でも多くの人間に俺達の関係を認めて欲しいと願う悠那だけど、俺の願いは少し違っている。“俺達を知っている人”ではなく、“俺達が知ってる人”には、悠那との関係を認めて欲しいと思うくらいだ。
だけど、悠那との関係を認めて欲しいという気持ちは同じだから、悠那の願いは俺の願いにもなるってことなんだろう。
「だから、そのためにはいっぱい努力するし、頑張ろうって気持ちになるんだよね。人って目標があると頑張れるし、願いって叶えるためにあるものでしょ?」
「うん」
悠那の腰に回した腕に少し力を入れて、「悠那と一緒に頑張るよ」って意思を伝えると、悠那はとびっきり可愛い笑顔で笑ってみせるから、俺ももっと頑張らなきゃって気持ちにさせられた。
「あ……でもその前に……」
「ん?」
「悠那の兄ちゃんの克己さんをどうにかしないと」
「ああ……」
「今度の映画、克己さんが見た時がちょっと怖いんだけど」
今のところ、俺達の願いは順調に進んでいるようにも思えるけど、一人だけ例外がいることを忘れていた。
悠那の両親や俺の家族は俺達の関係をそれなりに認めてくれているし、応援もしてくれている。マネージャーだって見守ってくれてるし、Abyssのメンバー、湊さんやありすさんや夏凛さんにも俺達の関係は受け入れられているけれど、悠那の兄ちゃんである克己さんだけは未だに俺達の関係に難色を示し、なかなか認めてくれようとしない。俺の顔を見るたびに、物凄い剣幕で俺に絡んでくる。
これが赤の他人なら、俺もそこまで気にしないんだけど、悠那の身内が俺達の仲を祝福してくれないというのも悲しいから、まずはそこをなんとかしなくちゃいけないよね。
「そうだよねぇ……なんで認めてくれないんだろう。俺のことを大事に想ってくれるなら、俺の幸せを一番に考えてくれてもよくない?」
「克己さんは悠那を好き過ぎるからね。克己さんに彼女でもできれば、少しは認める気になってくれるかもしれないけど……。彼女とかいないの?」
「昔はいたこともあったけど、最近は全然聞かなくなっちゃったんだよね。お兄ちゃんに彼女がいるって話」
「彼女がいたことはあるんだ」
「一応。でも、俺が原因ですぐ別れちゃってたみたいだけど」
「ああ、そう……」
なんで弟が原因で彼女と別れることになるんだよ。意味がわからない。まさかとは思うけど
『私と弟、どっちが大事なの⁈』
とかいうやり取りがされていたんじゃないだろうな。
だとしたら怖すぎるし、そんな理由で別れるなら最初から彼女なんか作るな、と言いたい。
克己さんが悠那を溺愛していることは知っているけれど、悠那がまだ実家で暮らしているのならまだしも、実家を出て二年以上も経っているんだから、そろそろ自分の将来とか考えればいいのに。いつまで経っても弟離れができないらしい。
「今度悠那と休みが被ったら、悠那の実家に行って、克己さんの説得でもしようかな」
「ほんと? 俺の実家に来てくれるの?」
「もちろん。愛しい恋人の家族は大事にしたいし。悠那もお父さんやお母さんに会いたいでしょ?」
「うんっ!」
克己さんの説得をメインにすると気が滅入りそうではあるけれど、悠那との仲を認めてくれた悠那の両親には、定期的に会いに行くべきだとも思っている。そうじゃなきゃ、悠那との関係を認めさせるだけ認めさせておいて、あとはほったらかしって感じに思われても印象が悪い。
あの兄がそう簡単に俺達の関係を認めてくれるとは思えないけど、これも悠那の可愛い野望のため。悠那の願いを叶えてあげるためにも、俺にできることは全部してあげようって思う。
だって、悠那の言う通り、願いは叶えるためにあるんだから。
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