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Season 3
Love Fighter!(6)
しおりを挟む「つまり、見守るって形では認めてくれたってこと? 俺達のこと」
「うん。そういうことになるね」
「それを恋人同士として認めてもらうためには、どういう努力をしなきゃいけないんだろう」
「俺も具体的な方法はよくわからないけど、この先もずっと気持ちが変わらないままでいれば、それでいいんじゃない?」
「だったら大丈夫だね。俺、絶対司のこと好きでい続けられる自信があるもん」
「俺もあるよ」
帰宅した俺は、俺が実家から帰ってくるのを今か今かと待ち侘びていた悠那に、どうにかいい方向に纏まってくれた結果を報告してあげた。
完全に認めてもらえたわけじゃないことは残念だし、悠那もちょっと悲しそうな顔はしたけれど、うちの家族が悠那を好きであることは変わらないから、悠那が悲しむ必要は何もないってことも伝えてあげた。
悠那との関係を明かしたことによって、俺の両親の悠那に対する感情に変化があったのでは……と心配していたが、確認してみたところ、それは全くなかったから安心した。
そもそも、最初から俺の両親は俺と付き合うことになった悠那のことは全然責めていなかったもんな。それは、悠那が男の俺でも好きになってしまうくらいに可愛いのが明らかなのと、悠那を好きになったのは俺の意思だから、悠那を責めるのは筋違いと思ってくれたからなのだろう。
というよりも、今日の家族のやり取りを見ている限り、問題は全て俺にあるようにも思う。俺が後先考えず、ただ“悠那が可愛いから”という理由だけで悠那を好きになり、無責任に悠那と付き合い始めたんだと思われたんだろう。その俺の無責任さを、父さんは怒ったってことなんだろうな。
酷い話である。息子に対する信用が低すぎる。いくらなんでも、無責任に男とは付き合わないよ。相手が女の子なら、あまり将来のことを考えないまま付き合う可能性があったかもしれないけど。
俺がまだ実家で暮らしていた頃は、自己主張というものをあまりしてこなかったし、流されやすいところもあった。家族からしてみれば、俺は毎日ぼーっと過ごしているようにも見えていたことだろう。
でも、流されやすい人間がいつも流されるとは限らないし、何も考えていなさそうに見えるからって、実際何も考えていないわけでもない。実家を離れ、仕事と呼ばれるものをするようになってからは、人として成長したとも思うんだよね。
何が言いたいのかというと、俺にも多少の責任感はついたってことと、実家でのほほんと暮らしていた頃よりは、色々考える時間も増えたってこと。親の目から見るとまだまだなのかもしれないけど、少しはしっかりしてきたんだとわかって欲しい。
「でも、良かった。俺とのことで司が家族と険悪になったらどうしようって心配だったんだ。実家に帰る前の司、なんか浮かない顔してたし」
「心配させてごめんね。うちの親は悠那のところより融通が利かないから、俺も不安だったんだよ」
一度は険悪になりかけたけど、解決したなら問題ない。悠那に余計な気を遣わせたくないから、俺が父さんに殴られるほど怒られた話はしないでおこうと決めた。
そのうち話す日がくるかもしれないけど、話すとしても、悠那との関係をちゃんと認めてもらった後にしたい。
「今回は姉ちゃんに助けられたよ。正直、姉ちゃんにはあんまり期待してなかったんだけどね。姉ちゃんのおかげで、父さんと母さんが納得してくれたような気もする」
説得の仕方に疑問は残るし、俺自身はいいとこなしって感じになってしまいはしたけれど、今回一番の功労者は姉ちゃんだったことに間違いはない。
「そうなんだ。やっぱり尊さんって頼りになるね」
「今回に限り。かもしれないけどね」
姉ちゃんが頼りになったのは事実だが、姉ちゃんが親を説得させようと頑張ってくれたのは、俺のためではなく自分のため。自分と悠那のためであったことは否定のしようがない。
「姉ちゃんは悠那に“お義姉ちゃん”って呼ばれたいんだってさ」
「え? そうなの?」
「そのために、俺が親を説得する手助けをしたんだって、本人も認めてるよ」
「だったら、今度尊さんに会った時、“お義姉ちゃん”って呼ぶべきなのかなぁ?」
「いいよ。別に呼ばなくて。でもま、そのうち気が向いたら呼んであげて」
「うん。そうする」
結婚するわけでもない俺達だから、悠那と姉ちゃんに戸籍上の繋がりができるわけでもない。悠那が姉ちゃんのことを“お義姉ちゃん”と呼ぶ必要は全くないわけだけど、俺と悠那の関係を認めてもらった暁には、お礼を兼ねて悠那にそう呼ばせてあげてもいい。
悠那が俺の家族ともっと親しくなれば、本当の家族みたいな感じになって、そう呼んでもおかしくない日もくるだろう。そういう日がくることを願いたい。
「お正月に司の家に遊びに行った時は、司の家族に会えることが単純に嬉しかったけど、今度会う時は緊張しちゃいそう」
「大丈夫。悠那はいつも通りの悠那が一番魅力的だよ」
「え~?」
来月に控えた初の単独ライブを前に、心配事が一つ減ってくれたのは嬉しい。これで、俺もライブの準備に専念できるというものだ。
今はほぼ毎日ドラマの撮影がある悠那だけど、ライブが近くなると、スケジュールはライブの準備がメインになるように調整されている。
活動を再開した樹さん率いるBREAKも、夏にはライブを行うことになっているから、それを見越し、ドラマの撮影も早めにスタートしている。体力のない悠那にはハードスケジュールになるだろうけど、無理のないスケジュールにはなっていると思う。そういうところの調整は、きっちりしてくれる俺達のマネージャーだ。
因みに、9月から始まるドラマの出演が決まっている律と海は、初ライブ直後からドラマ撮影が始まることになっている。
夏休みが終わっても、撮影の都合で学校を休まなくてはいけない日が増えるだろうけど、そのための芸能科である。初めてのドラマの仕事と、堂々と学校を休めることに、海は喜んでいるみたいだった。
「ところで、初ライブには悠那のお兄ちゃんも来るんだよね?」
「へ? うん。そりゃ招待するし、招待しなかったとしても来ると思うよ」
「そうか……」
俺の親、悠那の親の問題は解決したが、悠那の兄という問題がまだ残っている。そして、その問題が一番面倒臭いって気もする。
悠那の卒業式が終わった後、悠那を連れて悠那の実家にお邪魔した際、悠那の兄ちゃんにも俺達の関係が知られてしまったわけだけど、あの時は石化したまま別れた悠那の兄ちゃんが、次に俺と顔を合わせた時、どんな感じで絡んでくるのかは想像に難くない。あの兄にあの調子で絡まれるところを俺の両親に見られたら、いくら悠那の両親に認めてもらってるとはいえ、俺が言っていることの信憑性がなくなるんじゃないだろうか……。
つまり、悠那の家族に俺達の関係を認めてもらえていない、と思われてしまうのは困る。
そう思うと、できれば悠那の兄ちゃんだけには来て欲しくないって気もするけど、悠那にとっては一応大事な兄ちゃんだもんな。兄ちゃんだけライブに招待しないって選択肢は、端からないに違いない。
「お兄ちゃんのことが心配?」
「心配っていうか……悠那の兄ちゃんに絡まれるところを家族に見られたくはないかな」
「大丈夫。そこはちゃんとお母さん達にお願いするし、もし、お兄ちゃんが司に絡もうとしたら、俺が追い払ってあげるから」
「それは頼もしいね」
自分を溺愛している兄の行動は想像がつくのか、悠那も兄対策は考えてくれているらしい。
悠那が可愛い気持ちはわかるけど、あの兄、自分がいかに異常な兄なのかを自覚するつもりはないんだろうか。
今のところ、メンバーの中で悠那の兄ちゃんを見たことがあるのは俺だけだけど、悠那の兄ちゃんを見たら、陽平や律と海もびっくりするだろうな。顔はイケメンだと思うけど、悠那とは全然似てないし、悠那への溺愛っぷりが激しくて。
「それはそうと、陽平や律や海の家族に会えるのが楽しみ。特に、生まれたばっかりだっていう陽平の妹の陽菜ちゃんに会いたいな。写真見せてもらったけど、物凄く可愛いんだもん」
年末年始休暇に帰省した際、母親の妊娠を聞かされた陽平は、5月が終わる頃、歳の離れた妹のお兄ちゃんになっていた。
妹が生まれて以来、暇を見つけてはちょくちょく帰省しているみたいだけど、陽平にとって二十歳も歳の離れた妹は可愛くて仕方ないみたいだった。
陽菜という名前も、陽平が考えた名前が採用されたと聞く。
「悠那は子供が好き?」
「好きだよ。だって可愛いじゃん」
「そう……」
気になる俺からの質問に、悠那は即答だった。
父さんに言われたばかりだからついつい考えてしまう。俺と一緒にいる限り、悠那は自分の子供を作ることができない。俺はあまり子供に興味がないから――子供嫌いということではない――、子供ができないことに不満を感じてはいないけど、子供好きな悠那は本当にそれでいいんだろうか……。
「ん? あ……もしかして、俺達に子供ができないことを気にしてる?」
「うん」
若干の心の迷いが生じたところを速攻見透かされ、俺はちょっと気まずい顔になってしまった。
そんな俺に悠那はにっこり微笑みながら
「大丈夫。子供は好きだけど、自分の子供が欲しいっていうのとは違うから。俺は司と一緒にいられることが何よりも幸せだよ」
俺の唇にちゅってキスしてくれた。
ほんの僅かな不安も早々に取り払ってくれる悠那に、俺は自分の未熟さみたいなものを感じる。
悠那は俺より一つ年下だけど、俺よりよっぽどしっかりしている部分がある。特に、自分の気持ちには正直で、一切の迷いがない。自分の想いを貫く熱量も人一倍強いんじゃないかと思う。そんな悠那だから、俺との関係を両親に認めされることができたんだろう。
俺も悠那への想いに迷いはないけど、ついつい余計なことを考えて、あれこれ不安になってしまうところがまだあるから、少しは悠那を見習いたいものである。
「子供がいないくても、いっぱいいっぱい幸せになろうね」
「うん」
ホッとした顔になる俺に抱き付いてきた悠那は、そんな可愛いことを言って俺を更に安心させてくれるから、俺は益々悠那を愛しく思ってしまう。
まだ問題はいくつか残っているし、これから新しい問題もどんどん出てくるのかもしれないけど、どんなことがあっても、俺は悠那と一緒にいる未来を選びたい。もし、俺と悠那を引き離そうとするものがあれば、その全てを排除できる男になりたい。
「愛してるよ、悠那」
「うん。俺も司が大好き。愛してる」
今日一日の疲れが癒されていくような心地良い時間を感じながら、俺は悠那の温もりへと堕ちて行った。
とりあえず、親の問題が解消された今、次なる課題は『打倒! 悠那の兄ちゃん』かな。
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