僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Season 3

    トラブルメーカーにご用心⁈(6)

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 翌朝――。朝早い時間にいきなり押し掛けてきたマネージャーは、まだベッドの中で熟睡中の俺を叩き起こすと、物凄い勢いで説教してきた。
 そう言えば、マネージャーに言われていた帰宅メールを送るの忘れてた。テレビ局から出る時はそんな余裕なかったし、司に迎えに来てもらった後は、車の中でいっぱいエッチしちゃって、そのまま意識を失っちゃったから、スマホを手に取ることさえしなかったもんね。
 俺の代わりに、マネージャーには諸々を含め司が連絡をしてくれたみたいだけど、俺、あの後一体どうやって帰ってきたんだろう……。ちゃんとパジャマに着替えてるし、お風呂にも入ってるみたいだから、司が全部してくれたのかな?
 全く記憶にないけれど、お風呂に入れられた記憶はあるようなないような……。
「ちゃんと聞いてるの⁈ 悠那君っ!」
「ひっ……」
 無理矢理起こされたからまだ脳味噌が覚醒していないらしい。ぼーっとしてしまう俺を、マネージャーの怖い顔が覗き込んできて、俺は思わずビクンっとしてしまった。
「き……聞いてるよ。ごめんなさい……」
「全くもうっ! 今回も何事もなかったから良かったものの、どうしてそう狙われやすいのかしらっ! 警戒心が足りな過ぎるんじゃない?」
「うぅ……」
 俺が説教される姿を、司と陽平の二人が少し離れたところから眺めている。二人ともあえて口を挟もうとはしない。律と海は数分前に家を出てしまったから、マネージャーにしこたま説教される姿を、二人には見られなくて良かったと思う。
「いい? あなたは特別可愛いのっ! 近づいてくる人間は全て敵だと思いなさい。特に男!」
 褒められているのか怒られているのかわからないことまで言われてしまい、一瞬、説教されていることを忘れてしまいそうになった。
 っていうか、どうして異性よりも同性に警戒心を抱かなきゃいけないんだか……。アイドルになる前は、そこに危険を感じたことなんかなかったんだけどな。
 もしかしたら、昔からそういう目で見られることもあったのかな。全然気付かなかったけど。何事もなく過ごせてこれたのは、俺の周りの人間がいい人ばっかりだったからってこと?
 もしかしたら、お兄ちゃんの存在も大きかったのかもしれない。
「今後、男の人には充分に注意するのよ! それと、知らない人から安易に物を貰うのも禁止!」
「はーい……」
 今回の一件は、俺が安易に人から貰ったものを、なんの疑問もなく口に運んでしまったことにある。あれさえなければ、俺もあそこまで酷い状態にはならなかったと思う。
 こんなナリでも一応は男子だもん。いざとなったら力任せに逃げ切ることだってできたはず……だと思う。
 とにかく、身体の自由さえ奪われなければ、トラブルを回避することも可能だったかもしれない。マネージャーの言う通り、知らない人から与えられたものには絶対手を出さないようにしなくちゃ。
「ったく……。樹さんにちゃんとお礼言っとけよ? 樹さんがいなかったら、お前、今頃どうなってたかわかんねーんだからな」
 俺の身に起こったことは、マネージャーだけでなく、メンバー全員も知るところになっている。司がマネージャーに報告したついでに、メンバーにも
『……ってことがあったから、みんなも気をつけてね。特に律』
 って注意を促したからだ。
 名指しされた律はちょっと不満そうな顔をしたけれど、俺と一緒に襲われかけたことがある律だから、律も安全ってわけじゃないよね。
 律にはあまり自覚がないみたいだけど、律は律で可愛いもん。俺より律みたいな子がタイプって人はいると思う。事実、海は俺より律の方が好みだし、海の性欲は律に刺激されている。
「わかってるよ。今日会ったら改めてお礼するもん」
 陽平にダメ押しの嫌味を言われた俺は、ちょんと唇を尖らせて言い返した。
 そんなこと言われなくても、樹さんにはちゃんとお礼するつもりだもん。
 昨日もお礼は言ったけど、俺のピンチを救ってくれた樹さんには、もっとちゃんとしたお礼をした方がいいよね。
「Zeusには事務所の方からもお礼をしておいたわ。でも、今日の撮影には何かお礼を持って行きなさい」
「そうする」
「俺も一緒に行く。今日はオフだし、昨日はちゃんとしたお礼を言えなかったから」
「え? 司も一緒に来てくれるの?」
 お礼をすると言っても、こういう場合はどういうものをあげればいいのかよくわからない俺は、“とりあえず、お菓子でも持って行けばいいのかな?”と考えていたところに、司も一緒に来るって言ってくれたから、一気に顔が明るくなった。
 あからさまに嬉しそうな顔をする俺に、マネージャーと陽平は呆れたような顔になる。
「お前……ほんとに反省してんの?」
「不安だわ。悠那君の天真爛漫なところはいいところだし可愛いんだけど、能天気なところは不安しかないわ」
 俺との温度差を感じたのか、陽平もマネージャーも手厳しいことを言う。
 心配しなくても、俺だってちゃんと反省してるもん。もうこういうことでみんなに心配かけるようなことはしないもんね。
「そういうわけですから、今日は俺が悠那を撮影現場まで連れていきますね」
「わかったわ。樹さんによろしくね」
「はい」
 朝早くから説教しにきたマネージャーだけど、説教が済めばそのまま俺を仕事場に連れて行く予定だった。それを司が引き受けてくれたことにより、忙しいマネージャーにも少しはゆっくりする時間ができたんじゃないかと思う。
 最近、ロクに休みも取ってないみたいだから、今日くらいちょっとのんびりさせてあげたい。
「ついでに帰りも連れて帰りますから」
「助かるわ。でも、いいの? せっかくのオフなのに」
「いいですよ。マネージャーもたまにはのんびりしてください」
「ありがとう」
 デビューが決まって以来、俺達の世話をせっせと焼いてくれるマネージャーは、俺達の信頼を得て、メンバーから慕われる存在になっていた。





「……………………」
 今日はテレビ局内のスタジオでの撮影になる俺は、司と一緒に現場入りした途端、先に来ていた樹さんに「はあ?」って顔で見られた。
「おはよう、樹さん。昨日はありがとう」
 一夜明け、すっかり元気になっている俺を見て、樹さんはどういう反応をしていいのかわからないようだったけど
「お前……仕事先にまで彼氏を連れてくるとはどういうつもりだよ」
 周囲を気にしつつ、俺にしか聞こえないくらいの小声でぽそっと言ってきた。
「司も昨日のお礼がしたいって。だから、今日は俺の送迎役を引き受けてくれたの」
「あっそ。そりゃわざわざどうも」
 ドラマの撮影現場は初めてではない司も、自分が出演しないドラマの撮影現場は初めてのようで、物珍しそうに辺りを見回したりする。
 中には知ったスタッフもいるみたいで、軽く会釈なんかをしている。
「樹さん。これ、どうぞ」
「ん?」
「昨日のお礼です。樹さんの好みは陽平経由で朔夜さんから聞きました」
 まだ撮影が始まる前の時間を利用して、手短に樹さんにお礼をすることにした司は、ここに来る途中で購入した菓子折りを樹さんに差し出した。
 もちろん、樹さんだけに渡すのはなんだか不自然だから、スタッフにも差し入れを用意している。そっちはこの後に渡すつもりだ。
「なんで朔夜なんかに聞くんだよ。別にいいけど」
 照れ隠しなのか、樹さんは不満を零しながらも菓子折りを受け取ってくれた。
 これで、昨日のお礼は完了だ。
「悪いな。気を遣わせて」
「いえ。こちらこそ、樹さんのことを誤解していたみたいですみません」
 去年の事件以来、司の樹さんに対する認識はあまりいいものじゃないままだったんだろう。まだ完全には樹さんのことを許せなくても、昨日の一件で樹さんへの認識を改めないといけないとわかった司は、素直にその非礼を詫びた。
 司の男らしい選択に、これから仕事だっていうのにぽーっとしてしまう。
『俺の彼氏格好いいでしょ!』
 と、ここにいる全員に自慢したくなる。
「いいよ。お前は誤解なんかしてない。そう思われるようなことを俺はしたんだから」
 対する樹さんは樹さんで格好いいことを返すから、このシーンだけでドラマになりそうだと思ってしまった。
 でも、二人の間にあったわだかまりも少しは解消されたみたいだから、俺としては気分がいいことこの上ない。これからは、AbyssやCROWN同様、BREAKのメンバーとも仲良くできそうだよね。個人的なあれこれはあるにせよ、同じアイドル同士、できれば仲良くしたいもん。後は……。
「悠那~っ!」
「えぇっ⁈ 朔夜さん⁈」
 朔夜さんの俺に対するちょっかいがもう少しおとなしくなってくれれば、司ももっと安心できるのに……って思ったところに、まさかのご本人登場でびっくりした俺は、俺に向かって一直線に駆け寄ってくる朔夜さんの姿に、ギョッとせずにはいられなかった。
「聞いたよっ! 大変だったじゃん! 大丈夫?」
「えっと……あの……」
 司がいるというのに、またしても俺を揉みくちゃにしてくる朔夜さんに困惑する俺は、どうして朔夜さんがここにいるのかが全くわからなかった。
 っていうか、なんで朔夜さんが昨日のことを知ってるの? まさか、陽平がまた余計なことでも言った?
 それとも、昨日のお詫びをZeusしたっていうマネージャーの口から、洗いざらい全てが明らかになってしまったんだろうか。そして、それを朔夜さんが聞きつけたとか?
「よーしよーし。怖かったよな」
「ちょっと……朔夜さんっ……」
 俺にすりすり頬擦りしながら頭を撫で回してくる朔夜さんに、俺は必死になって朔夜さんの身体を押し返そうとするんだけど、体格のいい朔夜さんはビクともしなかった。
 俺は危機管理能力のアップと共に、筋力アップもした方がいいのかもしれない。筋トレが苦手な俺は、律と違って身体を鍛える努力はあまりしていないから、いざという時に簡単に力でねじ伏せられてしまうのかもしれない。
 そのことに、朔夜さんに揉みくちゃにされ放題になってから気が付いた。
「あの……俺がいるんですけど」
「お? なんだ。司もいたのか。今日は悠那の護衛か?」
「そういう朔夜さんこそ、どうしてこんなところにいるんですか?」
「俺は仕事で来てるんだよ。これから上の階で撮影があんの。で、ついでに悠那の様子を見にきたってわけ」
「様子を見にきたわりには必要以上に触り過ぎですよね? あんまりベタベタ触らないでもらえます?」
「なんだよ。抱き締めるくらいいいだろ? ケチケチすんな」
「ケチとかいう問題じゃないですからっ!」
 あー……。結局こうなる。またいつものパターン。せっかく人がいい気分になってたのに、これじゃいい気分も台無しじゃんか。
「おい、朔夜。馬鹿っぽいからやめろ」
「ん? 何? 樹も悠那狙い?」
「んなわけねーだろっ! お前と一緒にすんなっ!」
 しかも、朔夜さんときたら止めに入ってくれた樹さんまで巻き込むから、撮影前のスタジオ内は騒然となった。
 騒々しい俺達に、誰か他のスタッフさんが止めに入ってくれるんじゃないかと期待したのに
「あれ~? 朔夜君まで来たの?」
「なんだかみんな仲良しですね」
「いや~、見てて微笑ましいね」
「ほんとほんと。目の保養になるね」
「悠那君ってドラマの世界だけじゃなく、現実世界でも男を虜にしちゃうんだね~」
 誰も止めに入ってくれないっ! 撮影してるドラマがドラマだから、男同士の戯れに寛大ってことなの?
 ついでに言うと、俺が今撮影しているドラマは、俺が男を虜にする話じゃないよね? 俺が同性の樹さん(の役)に片想いして、振り向いてもらえるように頑張る話だよね?
「朔夜さんっ! どさくさに紛れて悠那のお尻触らないでくださいっ!」
「変態エロ親父かっ! お前はっ!」
「しょうがないだろ? この柔らかマシュマロボディーがいけないんだ」
「開き直らないでもらえます?」
「柔らかマシュマロボディーってなんだよっ!」
 全くどうしてこんな目に……。昨日の今日でまたしてもこんなトラブルに……。
「もーっ! いい加減にしてよーっ!」
 一日の始まりがこんなに騒々しくなるなんて、ほんと勘弁して欲しい。俺に平穏無事な日々は訪れないの?
 トラブルはもう沢山なのにぃ~っ!



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