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Season 3
トラブルメーカーにご用心⁈(4)
しおりを挟む「っ……ん……」
「おい。大丈夫か? っつーか、お前の家ってどこだよ」
俺を楽屋に連れて帰ってくれた樹さんは、身体を震わせることしかできない俺を一旦下ろし、自分の楽屋に戻って荷物を取ってくると、俺の荷物と一緒に再び俺を抱き上げ、地下の駐車場に向かった。
どうやら樹さんも自分の車で仕事場に来ているようで、俺は樹さんの車の中に押し込まれた。
助手席に乗せた俺にシートベルトを掛けてから運転席に乗り込んだ樹さんは、俺の様子を気にしながら車を発進させた。でも、俺がどこに住んでいるのかがわからないから、車を走らせながら聞いてきた。
「事務所……事務所に連れてってくれればいい……」
テレビ局からだと、俺達が住んでいるマンションよりLightsプロモーションの事務所の方が近い。これ以上樹さんに迷惑を掛けるわけにもいかないから、自宅より事務所に連れてってもらおうと思ったのに
「そんな状態なら家に帰った方がいいだろ。早く言えよ。送ってってやるから」
樹さんはイライラした声で言い返してきた。
仕方ないから自宅のマンションの場所を教えると、樹さんは一度車を路肩に停めて、ナビに目的地を入力した。
その間も、俺の身体は震え続けているし、身体はどんどん熱くなる。身体の奥の方からゾクゾクもしてきて、再び車が走り出すと、その振動が辛く感じた。
「ぁん……車……車が揺れるの嫌……」
「無茶言うな。車は走ると揺れるんだよ」
「でも……んっ……ぁ……」
綺麗に舗装されている道路ならいいけど、ひび割れなんかがある道路の上を走ると、車がガタンって揺れたりするから、その振動が身体に伝わるたびに、俺の口から吐息混じりの声が上がった。
「んんっ……ぁんっ……ゃ……」
「おいこらっ! 変な声出すなっ!」
「出したくて出してるんじゃないもん……出ちゃうんだもん……」
「クソっ……運転中だってのに気が散ってしょうがねー」
車が揺れるたび、まるでエッチしてる時みたいな声が上がってしまう俺は、樹さんにそんな声を聞かれたくないと思うのに、それを抑えることができなかった。
多分、俺が食べたチョコレートの中には強力な媚薬が仕込まれていたんだと思われる。それも、即効性のあるものが。
最初はあまりにも急激に異変をきたした身体に、毒でも盛られて死んじゃうんじゃないかと思ったけど、今の自分の状態を考えれば、毒ではなく媚薬だったことに間違いない。その証拠に、ズボンの中の俺のナニは、触れてもいないのに爆発寸前だった。
身体がちょっと揺れるだけでも全身に刺激が走ってイきそうになる。もしかしたら、既に何回かイっちゃってるのかもしれない。だけど、そんなこともハッキリわからないくらい、俺の身体はグズグズだった。
「あぁんっ! 車……車停めて……」
「はあ⁈ 停めてどうすんだよ。もうちょっと我慢しろって」
「無理っ! これ以上揺れるの無理っ! 出ちゃうっ……」
「で……出ちゃうって……お前っ! 俺の車の中で出しやがったら承知しねーぞっ!」
「だったら停めてよっ! お願いっ!」
「クソっ……」
俺の切羽詰まった声に、樹さんは辺りを見渡すと、ちょうど良く目に入った建物の駐車スペースに車を停めた。
何かの会社の建物のようで、入口のシャッターが下りているということは、建物の中に人がいないってことだろう。しばらく車を停めていても怒られなさそうだ。
道路の交通量は多いけど、歩道を歩く人の姿は見えない。高い建物が多いからオフィス街なんだろうか。仕事の終わった夜になると人通りがなくなるのかもしれない。
だとしたら、ある意味好都合。人通りがなければ車の中を覗き込まれる心配がないもんね。駐車スペースに車を停めていても、中にずっと人が乗っていたら、何をしてるんだろう? って車の中を覗かれちゃうかもしれないもん。
「はぁ……どうすりゃいいんだ……」
俺の希望通り車を停めたものの、こんな状態の俺の扱いに困った樹さんは、長い溜息と一緒に呟いた。
「ちょっとは収まりそうか?」
「ううん……全然……」
「ったく……知らねー人間から貰ったもんなんか食うなよ。お前はほんと危機管理が甘いな。そんなんだからすぐ付け入られるんだ。次は助けてやんねーぞ」
「ごめんなさい……」
俺を家まで送り届ける任務が中断されてしまった樹さんは、手持ち無沙汰から説教を始めた。
言われていることはもっともだけど、これでも俺なりに警戒してるつもりだったんだけどな。危ないと思ったから、早く楽屋に戻ろうとも思ったし。
だけど、危険を察知するのが少し遅くて、結果としては危機一髪になってしまった。
「あの西田って野郎だけどな、良くない噂が絶えないエロ親父で有名なんだ。あいつのやってる番組も、まだメジャーになってない地下アイドルを集めて、無駄に露出の多い服とか着せて喜んでるんだぞ? なんでそんな番組が潰れないのかは謎だけど」
「そう……なんだ……」
「プロデューサーって立場を利用して、気に入った子には片っ端から手を出そうとするらしい。ちゃんとした事務所なら、あいつの番組に自分のとこのタレントは出さないくらいだ。若い女の子好きのエロ親父なのかと思っていたが、男にも興味があったとは驚きだな」
「じゃあ……俺があのままあの人に連れて行かれてたら……」
「間違いなく食われてただろうな。それ目的でお前に一服盛ったんだろうし」
「最悪……」
芸能界にはそんな闇の部分があると聞いたことがあるけれど、実際目の当たりにすると恐怖しかない。知らなかったとはいえ、樹さんに聞かされた話にはゾッとせずにいられない。良かった。樹さんが助けてくれて。
「樹さん……」
「あん?」
「助けてくれてありがと」
そう言えば、まだちゃんとお礼を言っていなかったことを思い出した。一度は西田さんと同じようなことをしようとした樹さんだけど、今回は逆に助けてくれたことに感謝する。
「まあ……俺もお前には借りがあるからな。今回のことで貸し借りなしだ」
「うん……」
ホッと一息つくと、今度は身体の疼きに頭の中が支配されそうになった。
「あの……樹さん……」
「あん?」
「ありがとうついでにお願いがあるんだけど……」
「なんだ?」
「本当にもう無理そうだからイかせて欲しいんだけど……」
「はあ⁈」
この場合の“イかせて欲しい”は、樹さんにどうこうしてもらいたいという意味ではなくて、樹さんの車の中でイくのを許して欲しいという意味だった。さっき
『お前っ! 俺の車の中で出しやがったら承知しねーぞっ!』
って言ってたから。
「な、な、何言ってんだっ! 勘弁しろよっ!」
「だって……もう……」
ぶるぶる震える身体をどんなに抑えようとしてみても、身体の内側からゾクゾクと湧き上がってくる感覚に耐えられそうにない。
何度も下半身に伸びそうになる手を、さっきから必死に堪えているんだけど、それももう限界だった。
「お……おい……そんなに辛いのか?」
触ってしまいたい自分自身に触れまいと、ギュッと握り締めた手は力が入り過ぎて色が変わるほどの俺を見て、樹さんはちょっと心配そうな顔になる。
「ん……うん……」
首を振ることさえ辛い俺が小さく頷くと、樹さんはしばらく逡巡した後……。
「し……仕方ねーな……」
シートベルトを外し、俺の方にグッと身体を寄せてきた。
「だったらイかせてやるよ」
え……ちょっと待って? 違う違うっ! 樹さんにイかせて欲しいんじゃないよっ! 俺の言い方が良くなかった⁈
確かに、ちょっと誤解を招くような言い方をしたかもしれないけど、本当にそういう意味で取られるとは思ってなかったのにっ!
「や……違……あの……」
この場合、悪いのは俺……になる?
っていうか、樹さんも早まらないでっ! 俺をイかせたいなんて思ってるわけじゃないんだったら、ちゃんと断ってくれてもいいんだからねっ!
で……でも……一度は俺に手を出そうとしたことのある樹さんだから、こんな状態の俺に頼まれたら――頼んだわけじゃないけど――、しょうがないからイかせてやろう、ってなるのかもしれない。
男相手はしたことないから興味がある。なんてことも、前に言ってた気がするし。
「待って……ちょっと待って……」
俺に向かってゆっくり伸びてくる手に、本日二度目の絶体絶命的ピンチ。もし、俺がここで樹さんにエッチなことでもされちゃったら、司になんて言い訳したらいいんだよ~っ!
「っ……!」
樹さんの指が俺の頬に触れた瞬間、身体がビクンっと震え、同時にズボンの中のアレもピクンッて反応してしまった。
身体に触れてもらえることが嬉しいみたいだ。一度触れられてしまうと、もっと触って欲しくなる。
でも……だけど……司以外の人間はダメ~っ!
「ゃ……ん……」
触って欲しいけど触って欲しくない。気持ち良くして欲しいけど司じゃないと嫌。
そんな感情でどうしていいのかわからなくなった俺は、困った挙げ句、泣きそうな顔をしてしまった。
(司……司がいい……)
今目の前にいない司の姿を思い浮かべ、どうしてここにいるのが司じゃないのかと悲しくさえなった。
「痛っ!」
すっかりその気になっちゃったのかと思っていたら、俺の頬に触れていた樹さんの指に、思いっきりほっぺたを抓られた。
「な……何するの?」
「ざけんな。ここでお前に手なんか出したら、なんのために活動停止処分喰らったかわかんねーだろが」
「樹さん……」
良かったーっ! 思い止まってくれたっ!
「今すぐ彼氏呼べっ! でもって、彼氏になんとかしてもらえっ!」
「そうするぅ~……俺のスマホ取ってぇ~……」
心の底から安心した俺は、泣きながら樹さんに自分のスマホを取ってもらった。
「どれくらい掛かるって?」
「10分あれば着くって」
「10分か。それまで我慢できそうか?」
「なんとか……」
司に連絡したところ、司も車で家に向かっている最中だったらしく、あと10分もしたらここに来られるそうだ。
司が来てくれるとわかった途端、ちょっとだけ身体が楽になった気がする。まだ身体は疼くし、快楽を求めてはいるけれど。
あと、樹さんに手を出されるかも……という恐怖に、身体が委縮しちゃったのもあるかもしれない。
「悪かったな。俺の早とちりでとんでもないことするとこだった」
「ううん。あれは俺の言い方も悪かったから……」
俺の発言の真意を知った樹さんは、勘違いしてしまった自分を恥じているようだった。
それについて、樹さんを責めるつもりはない。俺の言い方が不味かったのは事実だし、実際樹さんは思い止まってくれたわけだから、俺が樹さんを非難する筋合いなんてない。
「あと……今更だけど、お前やもう一人の奴にしたことも悪かった」
「え……」
駐車スペースの停めたままの車の横を、帰りを急ぐ車が何台も通り過ぎていく。車を動かすことができない樹さんは決まり悪そうな顔になり、今から一年近く前のことに対する謝罪を急に述べてきたから、俺は何についての謝罪かが一瞬わからなかった。
確かに、あの件に関する樹さんからの謝罪の言葉は聞いていない。だけど、なんかもう謝ってもらった気分になっちゃってた。
メンバーの代わりにマネージャーさんが散々謝ってくれたからかな? それとも、BREAKの処分を決めたのが俺だったからかな? その処分を樹さん達が素直受け入れたことで、それを謝罪と受け取っていたのかもしれない。
「……………………」
「なんだよ」
「いや……今更過ぎてちょっとびっくり……」
「あーあー! 悪かったよ! 謝るのが今更になって!」
俺が目を丸くして驚いているのが恥ずかしいのか、樹さんは悔しそうにハンドルを叩いた。
「ダメっ! 車揺らさないでっ!」
「ああ……悪い」
思い切りハンドルを叩いたせいで、車が大きく揺れた。せっかく落ち着きかけている身体に振動が走り、俺は焦った声を上げてしまった。
一体いつになったら収まってくれるんだろう。俺の身体……。いい加減、媚薬の効果が切れてくれないものだろうか。
でも……そっか。ちゃんと悪かったって思ってくれてるんだ。ちゃんと反省してから、アイドルとして再スタートしたってことなんだな。
だったら、俺も自分の言った言葉通り、樹さん達がしたことは許してあげなくちゃ。
「ところで、今から来るお前の彼氏って俺も知ってる奴?」
「え? うん」
俺が司に電話している間、樹さんは自分の存在を消すかのように静かにしていてくれた。
司との会話もなるべく聞かないようにしていた感じだし、俺も司の名前を呼ばなかったから、俺の彼氏が司であるということに、樹さんはまだ気付いていなかった。
多分、司に変な誤解をさせないよう、気を遣ってくれたんだろう。前に陽平から聞いた通り、悪い人ではないということがよくわかった。
「俺が一緒にいない方がいいならそうするけど?」
「ううん。そこまでしてくれなくてもいい。でも、俺の彼氏の正体を知っても、他の人には黙ってて欲しいかな。朔夜さん達は知ってるけど」
「言わねーよ。っつーか、朔夜は知ってんだな」
「うん」
「だったら、なんであいつは俺の前でお前の彼氏面すんだ」
「それは知らない。っていうか、そもそも二人の間で俺の話題が出てることの方が驚くんだけど」
「知らねーよ。あいつが“可愛い、可愛い”って騒いでるだけだ」
「そうなんだ……」
朔夜さんが俺を揉みくちゃにするのは、俺と顔を合わせた時だけに起こる発作なのかと思ってたのに……。俺がいないところでもそういうこと言ってるんだ。
でも、朔夜さんは俺が司と付き合っているのを知ってるし、司と恋人同士になった俺を、本気でどうこうしようとは思ってなさそうなんだよね。だから、なんでそんなに俺にご執心なのかはちょっとよくわからないところがある。
俺と司のことも、さり気なく応援してくれるようなところもあるし。
司を待つ10分間は、不思議と穏やかな気分で過ごせた。ジッとしていることで、身体の疼きも多少は薄れてくれていた。
なんだか変な一日だったな。俺はバラエティー番組の収録に来ただけなのに、面識のないプロデューサーに声を掛けられ、一服盛られたうえ、危うく連れ去られそうになっちゃって……。それを樹さんに助けてもらって、今こうして樹さんの車の中にいるんだもん。
アクシデントやハプニングはそれなりに経験してきたと思うのに、そういうものに遭遇する時は遭遇しちゃうものなんだな。
ひょっとして、俺はトラブルに巻き込まれる体質なんだろうか。それとも、樹さんが俺にとってのトラブルメーカーなんだろうか。
樹さんって言葉遣いがちょっと荒いし、見た目も若干悪そうに見えるから、俺の中ではトラブルメーカーのイメージに合っちゃうんだよね。
実際、活動停止処分を受ける前のBREAKは、問題の多いトラブルメーカーだったんだし。
そういうトラブルを起こす体質の持ち主の傍にいると、自分もトラブルに巻き込まれちゃうんじゃないかって気がしなくもない。
でも、意地悪な問題児だと思っていた樹さんが、実はいい人だとわかった今、俺に降り掛かるトラブルは自分自身のせいなんだって反省する。
「あ……」
深く身体を沈めた助手席の上で長い溜息を吐いたところに、見覚えのある司の車が近づいてくるのが見えた。
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