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Season 3
第6話 トラブルメーカーにご用心⁈(1)
しおりを挟むどうして……どうしてこうなった?
「はい、オッケー! 良かったよ、悠那君」
「本当ですか?」
5月下旬。7月から始まるドラマに出演することになった俺は、撮影が始まって以来、1シーン撮り終わるごとに監督から絶賛されていたりする。
もちろん、撮り直しをすることもあるし、演技指導が入ることもある。今回がドラマ初主演になる俺は、NGなんかもいっぱい出しちゃってはいるんだけど……。
「うん。もう最高だよ。最高に可愛い。こういう役は悠那君の右に出る者はいないね」
「え~? 嬉しいです~」
基本的にはベタ褒め状態。俺、そんなに上手く演技できてるのかなぁ……。自分ではちょっとよくわからないんだけど。
自分の演技を褒められるのは嬉しいけど、ここまで褒めそやされるのはちょっとなぁ……って思ってしまう。
っていうか……。
「早く放送されて、可愛い悠那君の姿いっぱい見せたくなっちゃうよ。ほんと、美味しそうな太腿してるねぇ~」
「う……えっと……ありがとうございます……」
褒めついでにセクハラ発言みたいのをされるのがちょっと……。ぶっちゃけ、褒められても全然嬉しくないんだよね。そもそも、俺だって好きで太腿丸出しにしてるわけじゃないし。
最初にドラマ主演の話が来た時は凄く嬉しかったけど、役柄を聞いた瞬間、“またそういう役なの?”とがっかりした。
俺が過去に出演したドラマは、朔夜さんが主演しているドラマのゲスト出演のみで、朔夜さんに指名された俺は、ドラマの中でふりふりのメイド服姿を披露した。
あれはあれで好評ではあったみたいだけど、俺的には凄く恥ずかしかったし、できればこういう役は二度ときて欲しくないと思った。
にも拘わらず、今回は主演でそんな役がきてしまった。女装するっていうのとはちょっと違うんだけど、俺が主演を務めるドラマは、男の娘の日常を描いたラブコメタッチのドラマ。主演の俺が男の娘役を演じることになるから、衣装は毎回女装に近いものがある。
どうしてこうなるの? 司や陽平は普通の役を宛てられて、女の子からキャーキャー騒がれているのに、どうして俺はこんな色物を……。俺だって、ドラマに出るなら格好いいと思われる役がしたいよ。
そもそも、男の娘の日常を描いたドラマなんて需要あるの? あるとしたら、どの層に需要があるのか教えて欲しい。
しかもしかも、ラブコメっていうから、相手役は女の子だと思ってたのに……。
「お前、よくそんな格好してドラマに出られるな。いくら主演だって言われても、俺なら絶対断るぞ」
「ほっといてっ!」
相手役はまさかの男。それも
「っていうか! なんで俺の相手役が樹さんなのっ!」
去年の夏、俺と律にとんでもないことをしようとした、BREAKの真壁樹が相手役だなんてどういう嫌がらせ?
「はあ? お前が承諾したんだろうが。こっちはお前の相手役って聞いて、断られると思ってたのによ」
「だって! そんなことしたら俺達の間に何かあったと思われるじゃんかっ!」
「あったじゃん」
「知られたくないでしょっ! そんなことっ!」
あの事件の後、年内いっぱい活動休止処分を受けたBREAKは、年が明けるなり活動を再開させていた。
活動再開最初の仕事は、事務所の先輩でもあるAbyssのカウントダウンライブのゲスト出演だった。年が明けたのと同時に、先輩に見守られる中復活したのだ。
これまでBREAKはアーティスト色強い売り方をされていたから、ドラマ出演はしてこなかった。が、活動再開後は売り方を少し変えたのか、ドラマ出演もするようになったらしい。
このドラマは俺の初主演ドラマでもあるけれど、復活したBREAKのメンバー、真壁樹の初出演ドラマにもなるわけだ。
先に出演が決まったのは俺の方で、俺の相手役に樹さんの名前が挙がったのはその後のこと。樹さんの耳にドラマ出演の話がいった際、樹さんは俺の相手役だと知り
『向こうの承諾を取って欲しい。こっちから“出ます”とは言えない』
と答えたそうだ。
で、樹さんにそう言われた製作側のスタッフに、再度確認の連絡を受けた俺は、一瞬悩んだ末、樹さんとの共演を承諾することにした。
だって、せっかく活動再開させたBREAKの邪魔をしたくないって思っちゃったし。“アイドルとして頑張る”って約束を守ってくれるなら、樹さん達のしたことを許すって言っちゃってるし。
それに、BREAKとは一度しか共演していない俺が、いきなり共演NGなんか出しちゃったら、絶対何かあったと思われちゃう。BREAKの急な活動休止の謎は未だに明かされていないから、俺が共演を断ったことにより、変に勘繰られたくはなかった。今のとこ、Five SはZeusのタレントと仲良くしているから、BREAKだけ避けるわけにはいかない。物凄く不自然になっちゃう。
樹さん達が俺と律にしたことをまだ許したわけじゃないけど、今でも根に持っているわけでもない。過去は水に流して、BREAKの再始動を見守る立場を取った俺は、樹さんを拒否する立場でもないと思ったから、樹さんとの共演を承諾したまでの話。
そうは言っても
「しかしまあ……そういう格好を平気でしてるの見ると、俺らに襲われそうになるのも仕方ないって感じだな」
ニヤニヤした顔で太腿辺りを眺められると、ゾッとしてしまわなくもない。俺、本当に樹さんが相手役で大丈夫なんだろうか。
男同士のラブコメだからギャグ要素が強く、現時点では妙なシーンは入っていない。俺が樹さんに片想いしている設定で、樹さんに振り向いて欲しくて、可愛い男の娘になろうとする物語になっているんだけど、台本はまだ完成していないから油断できない。
もし、樹さんとのキスシーンとかあったらどうしよう……。たとえドラマであっても、俺は司以外の人間とキスなんかしたくないんだけど……。
「変な目で見るのやめて。別に平気なわけでもないんだからね」
「そのわりには、可愛いって言われて浮かれてんじゃん」
「浮かれてないもんっ!」
少しは性根を入れ替えたのか、活動再開後のBREAKに悪い噂は立っていない。が、樹さんの性格自体はあまり変わっていないように思う。前ほど嫌な感じはしなくなったけど、意地悪なのには変わりないって感じ。
「そ……そんなことより、朔夜さんとはちゃんと仲良くしてるの?」
「あ? まあ……あいつの方からちょくちょく飯に誘ってきたりするから、たまに付き合ってるけど?」
「へー」
「でも、俺がお前と共演するって話を聞いた時はクソ怒ってたぞ」
「ああ……そう……」
Abyssの後輩としてデビューしたBREAKは、ことあるごとにAbyssと比べられることに嫌気が差して、すっかりやさぐれたグループになってしまったけど、活動再開後はAbyssともそこそこ仲良くしているみたいだ。
Abyssは後輩想いで有名だし、いつも俺にちょっかいばっかり出してくる朔夜さんも、根は優しくていい人だから、復活したBREAKのことは気に掛けてあげているんだろう。朔夜さんと樹さんは同い年だし。
特に朔夜さんのことを目の敵にしていたBREAKも、事件後はそれもやめたみたいで安心した。
「陽平のことももう恨んでないよね?」
「あいつのことはもともと恨んでねーよ。ただ、ちょっと気に入らなかっただけだ」
「陽平に意地悪したら許さないからね」
「はいはい。仰せのままに」
事務所を移った陽平のことも許してるみたいで良かった。約四ヶ月という短い活動休止期間ではあったけど、その間にちょっとは改心したと見た。それがわかっただけでも良かったと思う。
「んなことより、お前、彼氏いるんだってな」
「え?」
不意にされた質問に、俺は内心ギクッとした。
なんで樹さんがそれを……。
「朔夜と付き合ってんの?」
「ちっがぁ~うっ!」
朔夜さんだな。樹さんと仲良くするのはいいけど、余計なこと言わないでよね。
っていうか、樹さん達の手から俺を救いにきた時の司を見れば、俺の恋人が誰だかわかりそうなものなんだけど。
あの時、あの場には司も朔夜さんもいたけれど、真っ先に俺に駆け寄ってきたのは司だった。朔夜さんも物凄く怖い顔はしてたけど、俺には指一本触れていない。
ひょっとして、見つかったことに驚いちゃって、周りのことなんか見えていなかったのかな? それならそれで別にいいんだけど。
「なんだ、違うのか。あいつ、さも自分がお前の彼氏のような感じだったけど?」
「~……」
もう……どうしてそうなるんだよ。なんでそんな誤解を生むようなことしてるの?
そりゃ一度はいい感じになりかけたし、俺が朔夜さんを拒んでいなかったら、今頃俺は司じゃなくて朔夜さんと付き合っていたかもしれないけどさ。
でも、俺が付き合ってるのは司。俺が選んだのは蘇芳司なんだからね。変に誤解されるような言動は慎んでもらいたい。
「ま、誰と付き合っててもいいや。男同士の経験があるってことは、こっちもあんま気を遣わなくていいってことだよな」
「え……」
「さすがにベッドシーンとかはないと思うけど、キスシーンくらいはあるかもしれないだろ? でも、経験済みなら別に気にしなくていいってことだよな」
「……………………」
ちょっと待ってよ。普通逆じゃない? 彼氏がいるってわかってるんだから、そこは“しない”って風にはならないの?
「樹君。次、樹君のシーン撮るよー」
「はい」
あまりのことにポカンとしていると、樹さんを呼ぶ監督の声にハッとなった。
素直ないい返事を返した樹さんは
「勘違いすんなよ? 俺は別にお前みたいなガキにキスしたいわけじゃねーから」
フッと鼻で笑った笑顔で俺に言い残すと、颯爽とカメラの前に向かった。
「……………………」
台本って主演の希望を聞いてもらえたりとかするんだろうか。
キスシーンがあったらどうしようと思っていた俺は、そんなシーンがあったら迷わず俺にキスするつもりでいる樹さんを知り、なんとしてでも阻止したい気持ちでいっぱいになった。
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