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Season 3
初めてのホワイトデー(4)
しおりを挟む電気を消した部屋で律をベッドの上に優しく押し倒した僕は、暗闇の中でも輝きを放つ律の大きな瞳に吸い込まれそうになった。
「律……」
「ん……」
鼻先がぶつかりそうな距離で囁くと、律が擽ったそうに身を捩る。
でも、僕から逃げようとはせず、再び僕に視線を戻してくれた。
あえて確認はしていないけど、この流れ、この雰囲気はオッケーってことだよね? 律も嫌がってないし。
司さんと悠那君のところに比べれば、控えめでおとなしい僕達は、いつまで経っても初々しさが抜けない感じがする。
それが原因かどうかはわからないけど、僕は律と恋人っぽいことをしようとすると、いつも初めての時みたいにドキドキする。
まあ……実際にまだなんだけどね。
律にエッチなことしたり、一緒に気持ち良くなることはするようになっても、ちゃんとしたセックスはまだなんだ。
律に拒まれてるってわけでもないんだけど、だからって望まれているわけでもなさそう。僕とエッチなことをすること自体は嫌いじゃないと思う。ちゃんと感じてくれるし、気持ち良さそうにもしてるから。
だけど、今のところはそれで満足しているようにも見えるから、なかなかその先に進むタイミングが掴めないっていうか……。
僕自身、もう少し綺麗なままで律を取っておきたいって気持ちもある。
もちろん、律を抱きたいって気持ちは物凄くあるし、エッチなことはしてるんだからいいじゃん、って思ってもいるんだけど、僕にとっての宝物である律を、この手で汚してしまうのがもったいないって気持ちもある。
だからって、他の誰かに汚されたくはないし、いつまでも大事に取っておけるような我慢強さもない。律に触れる機会が増えていけば増えていくほど、律をもっと奥深くまで知りたくなる。
要するに、僕の中の矛盾が、律との進展にブレーキをかけているってことなんだろうな。
律のことは本当に大好きだし、愛しくて堪らない。律でいろんな妄想もしちゃうし、これでもかってくらいに性欲も掻き立てられる。
でも、いざとなったら全てを手に入れてしまうのがもったいなくて、大事に箱の中にしまっておきたくなってしまう。律は僕の宝物だから、綺麗なまま大切に保管しておきたくなる。だけど――。
「律……」
それもそろそろやめようと思う。
律は物じゃないし、不変の存在でもない。僕と恋人同士になり、みんなとの共同生活を送る中で、少しずつ変わってきたところもある。ちょっとだけ大人にもなった。
まだまだ発展途中の律と一緒にい続けるためには、僕も変わらなくちゃいけない。律との関係も変えていかなくちゃ…………。
なんて、格好つけたことを思ってみたけど、早い話、もう限界ってだけだ。日増しに可愛くなるばかりの律に、僕の我慢ももう限界ってだけだ。僕にとっては神聖で聖域そのものみたいな律を、どうこうしたくて堪らなくなっただけの話。
そもそも、もう手を出しちゃってはいるんだから、今更“汚したくない”なんて気持ちは嘘っぱちだろ。
本当に汚したくなかったのであれば、自慰行為もしたことのない律を、そのまま保護しておくべきだったんだ。そうすれば、律は性に目覚めることもなかったし、“気持ちいい”を覚えることもなかったんだから。
「ぁ……んん……」
律と見詰め合う時間の中で、一つの決心がついた僕は、薄く開いたままになっている律の唇に吸い付いた。
形のいい艶やかな唇は、見た目より質感がしっかりしていて、僕の唇にしっとり吸い付いてきた。
唇の感触を味わうように、啄むだけのキスを何度かした後、開きっ放しの唇から口内に舌を差し込み、律の舌を絡め取った。
「ん……んん……」
鼻から抜けるような甘い吐息を漏らす律に、それだけで下半身が熱くなっていく。
日頃、悠那君の喘ぎ声を聞かされているせいか、律はなるべく声を出さないように頑張るけど、息継ぎのついでに出てしまう声は抑えられないみたいだ。
控えめではあるけれど、可愛くて色っぽい律の吐息に僕は大興奮である。
「ぁ、ん……ぁ……」
わざと濡れた音を立てて舌を吸い上げると、律の声は更に甘くなったような気がした。
恥ずかしがり屋の律は、恥ずかしいと思う羞恥から感じてしまうこともあるようで、身体の熱をどんどん上げていった。
キスしすぎて唇が腫れぼったく感じるようになる頃には、弛緩した身体は小さく震え、ズボンの下のナニは可愛らしく勃ち上がっていた。
「海……」
肩で息をする律が、濡れた唇と潤んだ瞳で僕を見詰めてくるから、そんな律に煽られてしまった僕は、止まらなくなりそうだった。
こんなにそそられる表情までするようになった律に、僕は嬉しいやら末恐ろしいやら……だ。こんな顔、僕以外の人間には絶対に見せないで欲しい。
「凄く可愛い顔してる」
「可愛いって言うな……」
“格好いい”や“可愛い”、“綺麗”も散々言われ慣れているだろう律でも、ベッドの上で容姿を褒められることにはまだ慣れない。恥ずかしそうに肩を竦める姿が、僕の目には余計に可愛く映る。
「どうして? 本当のこと言ってるだけなのに」
「海に言われるのは恥ずかしいんだよ。だって……」
人差し指で律の頬を撫でると、律は擽ったそうに肩を竦めながら、恨めしそうな顔で僕を見てきた。
「海は本気でそう思って言ってるでしょ? それは恥ずかしいんだ」
拗ねた顔で言われた僕は、一瞬ポカンとしてしまいそうだった。
いやいや……みんな本気で言ってると思うけど?
ファンの子の中には、律を“格好いい”と思っている子も、“可愛い”と思っている子も、“綺麗”だと思っている子もいっぱいいる。みんな本気でそう思っているから、律のファンになっているんだろうし。
もちろん、律の魅力は容姿に限ったことじゃないけど、一般的な目で見ても、律の容姿が申し分なく整っているのは明らかだ。
「えっと……みんな本気で言ってると思うよ?」
少し機嫌を損ねてしまった律に、遠慮がちに言ってみると
「他の人に言われるのと、海に言われるのとでは違う」
という返事。
それってつまり、律にとっての僕は特別だって言ってるんだよね。またしても、律は僕を喜ばせる発言を当然のような顔でする。
「律がそう思ってくれてるのが嬉しい」
「ちょ……ちょっと……」
すっかり調子に乗ってしまった僕が、律にキスの雨を降らせながら律の服を解きに掛かると、律は少し焦った声を出した。
散々僕を煽っておいて、誰が悪いの? って言いたい。
「ゃ……ぁ……」
ボタンを外したシャツを腕から抜き取り、ズボンも脱がせてしまうと、下着一枚の姿になった律は、自分の素肌を隠そうと身体を縮めた。
僕に裸を見られるのはやっぱり恥ずかしいらしい。僕と触れ合うことには免疫がついてきたとはいえ、慣れることはなかなかできない律だった。
だからこそ、いつまで経っても初々しい気持ちでいられるし、新鮮な気持ちにもなれる。
律が僕と触れ合うことに慣れた時、律はどんな反応を見せてくれるんだろう。その時のことを、僕はあまり想像ができない。
「相変わらず綺麗な身体だね。肌も陶器のように滑らかだ」
「いい……そういう感想はいい……」
露わになった律の身体を撫でながら褒めると、律は顔を真っ赤にして身体を震わせた。
指先に吸い付くような律の潤った素肌は、肌触りがとても良く、撫でてるだけでうっとりしてしまいそう。
僕は律以外の人間の素肌に触れたことがないからよくわからないけど、僕達くらいの男子の身体ってこんなに綺麗で滑らかなものなんだろうか。
自分の肌の感触はあまり興味がないし、触ってみても特になんとも思わないけど、律の肌質とは少し違うように思う。前に一緒にお風呂に入ったことのある悠那君の肌は綺麗だと思ったけど、全体的な印象は“綺麗”より“可愛い”で、悠那君の白い肌は陶器というよりマシュマロっぽかった。
触ってないからわからないけど、見た感じだと律より柔らかそう。太っているわけでもないのに、ぷにぷにもちもちしてそうだった。
ムダ毛というものが全く生えていない悠那君――今もそうなんだろうか――は、正直男子の身体とはあまり思えない。身体に女性的な丸みがあったりもするし。だから、律と悠那君の身体を比べても、あまり参考にならないと思う。
悠那君は稀に見る女性的な身体を持った男子であり、律は男子としては綺麗過ぎる身体の持ち主って感じかな。
こんな時に、悠那君と律の身体を比べてみるのもおかしな話だけど、そのへんの話は、今度司さんとじっくり語り合ってみるのも楽しそうだ。
その司さんも、今頃部屋で悠那君とイチャイチャしている頃だろう。今はまだ頑張って抑えているみたいだけど、少し前から、悠那君の小さく上がる嬌声が、隣りの部屋から聞こえてきてるもん。
隣りの部屋の二人がそういうことを始めてくれると、僕達のことがバレなくて助かる。
「感想の一つだって言いたくなるよ。だって、本当に綺麗なんだから」
愛しさを込めて落とすキスは、律の薄い胸元から脇腹を這い、おへそのすぐ傍に紅い印をつけた。
悠那君ほど白くはないけど、健康的に見える律の肌も充分に白い。白い肌に、紅いキスマークはとても映えて見える。
「痕……付けるな……」
「一つくらいいいでしょ? 一つしか付けないから」
「うぅ……」
今のところ、人前で脱ぐといったら学校の体育の時間で着替える時くらいだけど、律は僕にキスマークを付けられることは嫌がった。
誰かに見られた時のことを考えると嫌なんだろうし、お風呂に入った時、自分で見るのも恥ずかしくなるからだろう。
でも、僕だってそのへんのことはちゃんと考えている。律本人にしか見えないところ、僕にしか見えないところなら気にしないけど、それ以外の場所にキスマークを付ける時は、ちゃんと他の人には見えないところに付けるように気を付けている。
人前で肌を晒すことを極端に嫌がる律は、人前で着替えなきゃいけない時は必ずタンクトップを着用しているから、その範囲は結構広いけど。
それに、僕だって見られたくはないんだよね。もし、律に付けたキスマークを人に見られて、律で変な妄想なんかされたら絶対嫌だもん。
律に付けたキスマークを見詰める僕は、ささやかではあるけれど、律が僕の物であるという確かな所有の印に、少しだけ満足した。
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