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Season 3
さよならスクールデイズ(4)
しおりを挟む「はぁ~……緊張したぁ……」
「そう? あんまりそんな風には見えなかったよ?」
「そんなことないよ。めちゃくちゃ緊張してたよ」
俺の実家で夕飯を食べ、実家を後にしたのは9時過ぎだった。
夕飯を食べてる最中にお兄ちゃんが帰ってきて、俺がいることには大喜びしたけど、司が一緒にいることには盛大に文句を言ってきた。
『なんでこいつがいるんだっ! お前っ! 一度ならず二度も我が家の敷居を跨ぐとは何事だっ! お前は一体悠那のなんなんだっ!』
年始同様、ウザい感じで司に絡むお兄ちゃんに、呆れた俺の両親が
『司君は悠那の大事な人なのよ』
『そうだぞ、克己。もし悠那がお前の妹だったら、お前の義理の弟になる人間なんだぞ』
と言うと、お兄ちゃんは絶句し、そのまま石化した。
そして、それから俺達が家を出るまでの間、お兄ちゃんが再び動き出すことはなかったけど、その方が都合がいいからほっといた。
夕飯前に司の気持ちを聞かせてもらった俺の両親は、最早司を義理の息子、娘婿――俺は娘じゃないけど――のように思っている様子だった。
『せっかくだから泊まっていけばいいのに』
と言うお母さんの言葉に、俺は一瞬悩んだし、司も俺がそうしたいならそうしていいって言ってくれたけど、明日は夕方から仕事が入っているから、運転する司が疲れちゃうかな? って思い、今日は帰ることにした。
ついでに言うと、着替えも何も持ってきてなかったし。
俺の実家なんだから、俺の着替えならいくらでもあるんだけど、司の着替えとなると、お兄ちゃんの服を借りなきゃいけなくなる。今は石化しておとなしいお兄ちゃんだけど、時間が経つとまた騒ぎ出すに決まってる。せっかく両親と司がいい感じなのに、お兄ちゃんに余計な邪魔をされたくはなかった。
それもあって、今日のところは帰ることにしたわけだけど、司が「いつでも連れて帰ってあげる」って言ってくれたから、近いうちにまた帰って来ようと思う。今度は泊まりで。
もちろん、その時は司も一緒の予定だから、その時までに、お兄ちゃんにはなんとか司と仲良くしてもらえるようになっていて欲しい。
「でも、良かったね。これで本当に親公認になったし、司も俺の両親に後ろめたいものを感じなくて良くなったもんね」
司の話を全部聞き終わった後、二言三言厳しいことも言われたけれど、それは俺が言われたこととほとんど同じで、大変だから覚悟しろって意味の言葉だった。
だけど、最後には
『悠那をよろしくお願いします』
って、俺を司に任せてくれた。
「そうだね。あとは俺の両親の説得が残ってるけど」
「尊さんは何か言ってる?」
「それとなく探ってくれてるみたいだけど、どういう探りを入れてるのかが全然見えてこないんだよね。俺の姉ちゃんってそういうのには向いてないと思う。どうでもいいことばっかり聞いてそうだし、あんまり役に立ってない気がする」
俺との一件があってからというもの、それまでほとんどやり取りをしなかった姉弟間で頻繁にやり取りをするようになったという。
それによると、蘇芳家では特に目立った動きはなく、俺と司の仲を勘づかれている様子もないらしい。
「なるべく近いうちになんとかしたいんだけどなぁ……。やっぱり、姉ちゃんなんかに頼まず、自分で伝えに行こうかと思ってる」
「でも、せっかく尊さんが頑張ってくれてるのに」
「そうかもしれないけど、夏までにはなんとかしときたいじゃん」
「え? どうして?」
夜のドライブはまたちょっと違った雰囲気で、なんだか少し大人になった気分がする。
司には悪いけど、このまま真っ直ぐ家に帰るんじゃなくて、いろんなところに寄り道して欲しいなって思ってしまう。
「だって、夏には初の単独ライブをすることになってるでしょ? その時にはみんなで家族を招待するって言ってるじゃん。悠那の両親は俺達の仲を認めてくれてるのに、俺の両親が何も知らなかったら良くないでしょ?」
「あ……そっか」
そうだった。そういう話になっているんだった。単独ライブはまだまだ先の話だと思っていたから、あんまり意識してなかったな。
「遅くても6月には一度話をしに行くよ。姉ちゃんの言った半年も経つしね」
「うん」
自分の息子が同じ男の俺と付き合ってると知って、司の両親がどんな反応をするのかは想像もできないけど、俺の両親みたいに、すんなり認めてくれればいいな……って思ってしまう。
そんなに世の中は甘くないかな?
「それより、せっかくだからどこか連れてってあげようか?」
せっかくのドライブだから、もう少し明るい話をしようと思ったのか、司は気分を変えるようにそう言った。
「え? いいの?」
「うん。明日の仕事は夕方からだし。今頃は陽平が律と海を連れてドライブしてる頃だろうしね。俺と悠那もドライブする?」
「うんっ! するっ!」
司を疲れさせちゃ悪いって気持ちはあるものの、司からのドライブの誘いは断れなかった。そうじゃなくても、あと数分走ったあたりで、休憩を口実にどこかに寄ってもらおうと思っていたんだから。
「どこ行きたい?」
「夜景と海が見えるとこっ!」
「夜景と海か。了解」
ドライブデートで夜景や海なんてちょっとベタ過ぎるかな? でも、初めてのドライブデートなんだから、ベタでもいいよね。
それに、夜のドライブならやっぱり夜景って見たいものじゃん。夜景は夜にしか見られないんだから。
「わーっ! 綺麗~っ!」
ライトアップされた大きな橋のすぐ傍に車を停めると、橋の向こうの建物の明かりが無数に見えて、その色とりどりの光に目を奪われてしまった。
「今度夜景が綺麗なデートスポットも調べとくね。俺、そういうのあんまり知らないから」
「うん。でも、ここも充分綺麗だよ」
去年免許を取ったばかりの司は、ドライブデートなんてしたことなくて自信がなさげだったけど、俺は司と一緒ならどこでもいいし、どこに連れて行ってもらっても嬉しい。
平日の夜だからか、周りに人の姿はなく、車から出た俺は司の腕を抱き締めて、思う存分、司とイチャイチャしながら綺麗な夜景を堪能した。
こういうカップルっぽいことを外でしてみたかったんだよね。車があるとこういうこともできちゃうんだ。
「それにしても、こんな時間に制服着てる悠那を連れ回すのも、ちょっと悪いことしてるみたいだね」
「司が着替えるなって言ったんじゃん」
「そうだね。でも、家の中で見るのと、こうして外で見るのとではちょっと違う感じがする」
「そう?」
「もしかしたら、今日で悠那が学生じゃなくなっちゃうからかもね。なんだか凄く愛しく見えるし、ちょっと寂しく感じるかも」
「司は制服着てる俺の方がいいの?」
「そういうわけじゃないよ」
ぷくっとほっぺたを膨らませる俺を、司が謝るみたいに優しく抱き締めてきてくれた。
司の腕の中に包まれると、それだけで幸せな気分になってしまうから、俺も随分と単純だよね。
「学生でいられる時間って凄く短いじゃん。だから、学生姿の悠那が見られなくなるのは残念だなって。もちろん、学生じゃなくなっても、悠那への気持ちはずっと変わらないよ」
「俺は学生姿の司を見られなかったんだからね。ちょっとでも見られたんだから贅沢言わないでよ。それに、誰だって学生じゃない時間を過ごす方が圧倒的に長いんだから、学生じゃない俺にも早く慣れてよ」
「うん」
俺を抱き締めてくれる司の身体を抱き返すと、俺と司の唇が自然と重なった。
外で司とキスしちゃった。それも、制服着たまま……。なんかこれって……。
「ぁ…ん……」
凄くエッチなことしてる気分。教室で司とキスした時も凄く気持ちが昂ぶったけど、外で制服着たまま司とキスするのも凄く興奮しちゃう。
「司……」
「うん?」
キスだけで完全に蕩けきった顔になってしまった俺は、このまま司にめちゃくちゃにして欲しいって思っちゃって、疼く身体を抑えることができなかった。
でも、だからってここでどうこうして欲しいとはさすがに言えないし、それはいくらなんでも節操がなさすぎるって感じもする。
世の中には外でしちゃうカップルもいるらしいけど、俺と司はアイドルだし。万が一、そんなところを誰かに見られちゃったら、事務所にもメンバーにも物凄く迷惑かけちゃう。せっかく司との仲を認めてくれた俺の両親も、そんなことはさすがに許してくれないよね。
「俺……今日は帰りたくない……」
だから、遠回しにエッチしたいって気持ちを伝えると、司はちょっと目を丸くしたけど
「だったら朝帰りしちゃおうか」
悪戯っぽく笑い、もう一度俺の唇にキスを落とした。
実家に泊まるのを断った癖に、結局よそに泊まるなら変わらないじゃん。って感じだけど、一度火がついてしまったら、それも致し方ない話。
今日は学生最後の一日なんだから、いつもと違う特別な夜になってもいいよね。
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