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Season 3
さよならスクールデイズ(2)
しおりを挟む「どうして悠那君の方が僕達より学校出てくるのが遅いんですか?」
「しかも、司さんと一緒ってどういうことですか? まさかとは思いますけど……」
「違う違うっ! 変なことは何もしてないよっ!」
教室で司とキスした後、気持ち的に盛り上がって危うくその先に進み掛けてしまったものの、さすがにここでは不味いと思い止まり、やや乱れた制服を整え、再び体育館に戻ると、陽平とマネージャーだけじゃなく、帰り支度の済んだ律と海もそこにいた。
卒業式の片付けは終わり、在校生も解散になったようだ。報道陣の姿もほとんどない。
「ちょっと司と同じ学校に通ってる気分を味わってただけ。司と一緒の学校に通ってたらこんな感じかな~って」
ちょっと苦しい言い訳に聞こえたかもしれないけど、全くの嘘ではない。司と一緒に学校でしてみたかったことをしてたんだから。
「いいんじゃね? そういうのも。卒業しちまうとなかなか学校って場所には入れないし、司は高校中退しちゃったからな。悔いみたいなものも残ってたんじゃね? 今日の卒業式に参列して、悠那と一緒に学校で過ごした時間があれば、少しは満たされるものもあったかもな」
「そうだね。俺が出られなかった高校の卒業式を体験できたのは良かったって思うよ」
「ま、来年もまた来るけどな。今度は律と海の卒業式に」
「その時は俺も行く」
俺と司が何をしていたのかを、あまり深く追及されなくて良かった。
今日でこの学校ともお別れする俺だけど、来年は律と海の卒業を見守る側の人間として、俺はまたここに来るだろう。
「さて、みんな揃ったならご飯食べに行きましょう。予約の時間に間に合わなくなっちゃうわ」
「はーい」
うちの学校に来客用の駐車場はないけれど、こういう学校の近くだからか、周辺に有料駐車場は結構ある。そのどこかに車を停めているマネージャーは、指先で車のキーを回しながら、俺達の先頭に立って歩き始めた。
「それにしても、祝辞を朔夜さんが述べるとは思わなかったな。そういうのって年配の人に頼むイメージがあるから」
「今や国民的アイドルになったAbyssなら、年齢関係なく祝辞を頼みたくなるんじゃない?」
「それもそっか。歓声凄かったもんな」
マネージャーの後ろについて歩く俺達は、卒業式だというのに、壇上に上がった朔夜さんの姿を見た途端、出席者全員から歓声が上がった時のことを思い出すと、当然その話題になった。
やっぱりAbyssの人気って凄いんだな。
「祝辞を頼まれたことは本人も驚いたみたいだけどね」
「ん? 悠那は朔夜さんと会ったの?」
「え……うん。今朝校舎に入ったところで捕まって……」
「ふーん……」
あ……もしかして余計なこと言っちゃった? でも俺、別に疚しいことなんか何もしてないし。隠す方がなんか嫌だって思っちゃう。
司は急に面白くない顔になったけど
「大丈夫ですよ。悠那さんは何もされてませんから。キスをせがまれてはいましたけど、必死に抵抗してましたよ」
「そうそう。そこに悠那さんのクラスの担任の先生がやってきて、ちゃんと救出されてましたから」
律と海がすかさずフォローをしてくれた。
ってか、そこまで見てたんなら助けてくれても良かったじゃん。二人とも大先輩の朔夜さんには逆らえないってこと?
「ならいい」
二人の言葉を素直に信じた司は、それ以上機嫌を損ねることはしない代わりに、俺の手をギュッと握ってきた。
朔夜さんのことになるとすぐヤキモチを妬いてくれる司が可愛い。でも、俺が好きなのは司だけなんだから、そんなに心配しなくてもいいのに。
俺がいつも朔夜さんにわりとやられたい放題だから、司も心配しちゃうんだろうな。これからは、そういうところももっとしっかりしていかなくちゃ。
「それじゃ、悠那君の卒業を祝って乾杯っ!」
マネージャーがお昼に連れてきてくれたお店は、某一流ホテルに入っている中華料理店で、よくテレビなんかで見るお店だった。
前もって予約をしてくれていたうえ、個室を用意してもらっていたから、俺達は心置きなく有名店の中華料理を堪能することができた。
「美味しい~。ここの中華料理食べてみたかったんだよね。ありがと、マネージャー」
「悠那君がここの中華を食べたいって言ってるのを司君から聞いたのよ。律君と海君の時もこっそりリサーチするからね」
「楽しみにしてます」
「それにしても、時が経つのは早いものね。今年は悠那君が卒業して、来年は律君と海君が卒業だもんね」
「ほんとそれ。陽平ももう成人しちゃったし、今年は司が成人するんだもん。人生なんてあっという間なのかもね」
「そうだ。律君と海君が卒業したらどうするの?」
「え? どうって?」
学生から解放された解放感と、ずっと食べてみたかったお店の料理に上機嫌な俺は、自然と口数も多くなった。
話の流れで聞かれたマネージャーからの質問に、俺は一瞬、なんのこと? って顔をしてしまった。
「ほら。メンバー全員が高校を卒業するまでは共同生活を送るように言ってるけど、みんなが学生じゃなくなった後はどうしたいのかなって」
「ああ……」
そっか。その問題があったな。最早みんなで一緒に暮らすのが当たり前になっちゃってて、律と海が卒業した後のことなんて考えてなかったよ。
「それなんですけど、今までの生活を続けるでも構わないんですか? もちろん、家賃や生活費は自分達で払いますけど」
「え?」
ここにいる誰もが返答に困ったのは、誰もそれについてまだ考えていなかったというか、“こうしたい”っていう希望がなかったからだと思われる。そんな中、最初に口を開いたのは司で、その司の発言に驚いたのは俺以外の全員だった。
「今までのって……お前、悠那と二人で暮らしたいんじゃねーの?」
俺と司、律と海の関係がマネージャー公認になったことは全員知っている。だから、マネージャーの前では言葉を選ぶ必要はないし、どんな発言もできる。
司が“みんなと一緒がいい”と言ったことに、一番驚いたのは陽平だったかもしれない。
俺が驚かなかったのは、俺も司と同じ気持ちだったからだと思う。
「そりゃいつかはって思ってるけど、すぐにそうしたいってわけでもないんだ。悠那もそうだよね?」
「うん。俺ももうちょっとみんなと一緒がいい」
司に聞かれたことにはすぐに答えることができた。
俺も司と二人で暮らしたいって気持ちはもちろんあるけど、来年になったらすぐにってわけでもない。これまでの生活を送っていても司とは一緒にいられるし、俺は五人での生活が結構気に入っているから。
「意外ですね。二人がそう思ってるとは思いませんでした」
「来年になったら真っ先に引っ越ししたいって言い出すかと思ってました」
「そんなこと思ってないよ。俺、今の生活好きだもん」
俺と司がみんなと一緒にいたいって思うのはそんなに意外なことなんだろうか。
確かに、俺と司は人目を憚ることなくイチャイチャしてはいるけれど、だからってみんながいない方がいいだなんて思っていない。むしろ、みんなと一緒にいる方が、毎日がもっと楽しくなるって思ってるくらいなのに。ただ……。
「でも……みんながそうじゃないっていうなら仕方ないけど……」
これはあくまでも俺や司の希望であって、みんなもそうだとは限らない。俺と司はみんなに迷惑を掛けることもあるから、みんなの方は別々に暮らしたいって思ってるかもしれないよね。
「僕もできれば一緒がいいって思いますね。司さんと悠那さんには困るところもありますけど、それでも一緒の方が楽しいですから」
「僕も一緒にいられるならその方がいいです。もうこの生活が当たり前になってますし」
俺達に“一緒がいい”って言われたのが嬉しかったのか、律と海はすぐに返事を返してくれた。
こうしてお互いが“一緒がいい”って思っているのも嬉しい話だ。
残るは陽平だけど、実は陽平が一番今の生活から解放されたいんじゃないかな? と俺は思っている。
だって、メンバーとの共同生活を送るにあたり、一番大変な思いをしているのは陽平だと思うから。
自分以外のメンバーがそれぞれカップルとして成立している中、一人だけそうじゃない陽平には思うところもいっぱいありそうだよね。
もともと陽平は一人暮らしをしていたし、いい加減一人の生活に戻りたいと思っているかもしれない。
「お前らなぁ……いつまでも五人一緒ってわけにもいかないだろ。一緒に暮らしてないとダメってわけじゃないし、一緒に暮らしてないから仲が悪いってわけでもないんだから」
俺達四人の意見を聞いた陽平はちょっと呆れた顔になる。
やっぱり、陽平は今の生活から解放されたいみたいだ。
陽平はみんなで暮らすのが嫌なんだ……と思い、しょんぼりとした気分になっていた矢先……。
「これまでの生活を続けるにしても、せめて引っ越しはしようぜ。今の部屋は事務所に用意してもらってるものだから、次は自分達で探したらいいじゃん。もうちょっとお互いのプライベートが守られそうなとこを」
「え……それじゃあ……」
「んだよ。別に五人で暮らすのが嫌って言ってるわけじゃねーけど? 俺だって、みんなと一緒の方が楽しいと思ってるよ」
陽平が五人一緒が嫌なわけじゃないとわかり、全員の顔が一気に明るくなった。
なんだ。全員みんな一緒がいいって思ってたんじゃん。俺達って思ったよりも仲良しグループなんだな。
「じゃあ、みんなはこれからも共同生活を送りたいって思ってるのね?」
「うん」
下手すると雰囲気が悪くなりかねなかった会話のやり取りを黙って聞いていたマネージャーが、そこでいきなり口を挟んできたから、俺達は全員で首を縦に振った。
「そう! それは良かったわ! 実は今、うちの事務所がタレント寮込みの施設を建設中でね。Five S専用の建物も作り始めたところだったのよ。Five Sが大成功してくれたから、社長はアイドル育成にもっと力を入れようとしてるみたい。まだ建設途中だけど、今度そこに連れてってあげる」
「へ……?」
初耳なうえ、物凄くスケールが大きい話に、俺達全員の目が点になった。
タレント寮を所有している事務所はいくつかあると聞いたことがあるけれど、新設するという話は初めて聞いた。俺が知らないだけかもしれないけど。
タレント寮は維持費が大変だって聞くし、次第になくなっていく施設だと思っていたのに、寮込みの施設っていうのはどんなものなんだろう。
「もちろん家賃はいらないわ。でも、生活費は自分達で払ってね。レッスン室や作業室。トレーニングルームまで完備だから、わざわざレッスン場に行かなくてもよくなるんだけど、どう?」
「どうって言われましても……」
そんな美味しい話が世の中にあるものなの? 俺達、どれだけ事務所から尽くしてもらってるんだよ、って話じゃん。
「今の賃貸の部屋とは違ってみんなに適した家の造りになる予定だし、部屋もちゃんと人数分あるからプライベートはしっかり守られるわよ」
「はあ……」
嬉々として話してくれるマネージャーとは裏腹に、俺達は全員ポカンとした顔で話を聞くことしかできなかった。
俺達って、そんなに事務所に貢献できてるんだろうか。あんまり実感できてないんだけど。
「実はこの話、ずっと言いたかったのよね~。良かった。ようやく言えて」
そんな言葉で締め括ったマネージャーだったけど、聞いてる俺達は半信半疑って感じだった。
Lightsプロモーションは確かに大手芸能事務所だけど、タレント専用の施設を建てちゃう太っ腹さには驚かされた。
マネージャーがどうして来年の話なんか出してきたのかと思ったけど、俺の学生最後の一日は、とんでもないサプライズ発表まで用意されていたらしい。
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