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番外編 ~Go Home~
八神陽平の五日間(2)
しおりを挟む大晦日を家族と一緒にのんびり過ごし、新年を迎えた俺は、一年の始まりに相応しく晴れ渡った気持ちのいい空に
(今年がいい一年になりますように……)
なんて、思いを馳せたりしたものだった。
ところが……。
「ハッピーニューイヤーっ! 陽平っ!」
午前中に家族と初詣に行き、家に帰って来たところで、玄関先に立っていた人影に元気良く声を掛けられ、俺はギョッとならずにはいられなかった。
新年早々、この能天気でお気楽な声は……。
「あれ? どこかで見た子……」
思わず立ち止まってしまう俺の隣りで、母さんが首を傾げている。
どこかでって……そりゃテレビの中で見たんだよ。
「湊……お前……」
せっかく家族水入らずで過ごしている貴重なオフに、なんで湊が乱入してきた? 俺、実家の住所なんて湊に教えた記憶ないんだけど?
「何しに来たんだっ! 帰れっ!」
「酷っ! せっかく新年の挨拶に来たのにっ!」
「電話かメールですりゃいいだろっ! 実家にまで押し掛けて来るとはどういう了見だっ!」
「えー? 新年の挨拶は顔見てしたいものじゃん。幸い、俺の実家もわりとここから近いんだよね。電車で三駅」
「知るかっ! お前も久し振りに帰省してるんなら、もっと家族と一緒に過ごせよっ!」
「平気平気。ちゃんと一緒に過ごしてるから。おせち食べ過ぎたから、運動がてらにちょっと出てきただけだし」
「~……」
俺達が年末年始にオフを貰っているのと同様、CROWNも年末年始にオフを貰っているようである。
それはそれでいいんだけど、だからって俺の実家に来ることはなくない? こいつ、オフの使い方を絶対に間違っている。
「あ! 南条湊君だっ! CROWNのっ!」
俺と湊がひとしきり玄関先で騒いだ後に、ようやく湊が誰なのかがわかった母さんは、パンッと手を打って声を上げた。
「初めまして~。CROWNの南条湊です。知っててくれて嬉しいなぁ。陽平のお母さんですよね? 若いなぁ~。若いし綺麗ですね」
「ありがと~」
「お父さんも若いですね。おまけにイケメン。お二人を見ると、陽平が恵まれた容姿に生まれてきたのも納得がいきます」
「そ、そうかな? ありがとう」
おいおいおい。いきなり俺の両親に取り入ろうとするな。うちの親は褒められるのには弱いんだよ。そんな風に言われると……。
「陽平と仲良くしてくれてるの? せっかくだから上がっていきなよ」
「いいんですか? ありがとうございま~っす」
ってなるだろうがっ!
ついでに言うと、湊の底抜けに明るいキャラクターと、ノリの良さはうちの親好みだ。おそらく、俺の両親は第一印象で
『この子好きっ!』
と思ったに違いない。
「陽平が他のグループの子とも仲良くしてるなんて知らなかったよ。いろんな人と付き合うのはいいことだよ」
母さんに招かれてうちの玄関を潜る湊の背中に、父さんが満足そうな顔で言ってきた。
が、今のやり取りを見て、“仲良くしてる”ように見えたんだろうか。俺、湊のこと罵ってしかいないんだけど?
「改めまして、明けましておめでとう、陽平。今年もよろしくね」
俺の家のリビングに通された湊は、嬉しそうな顔でにこにこと新年の挨拶をしてきたが
「おう……よろしく」
いきなり実家に押し掛けて来られた俺としては、笑顔で新年の挨拶……という風にはならなかった。
「なぁに? 陽平。なんでそんなに不愛想なの? ダメじゃないの」
「そうだぞ。せっかく湊君が新年の挨拶に来てくれたんだから、もっと歓迎してあげないと」
「~……」
何も知らない両親は、俺がぶすっとしているのが気に入らないようである。
いやいや。こいつ、そんな歓迎してやるような奴じゃないんだって。なんなら俺、こいつに一度強姦紛いに犯されてんだけど?
もちろん、そんなことを両親に言えるはずもなく、二人から責められた俺は何も言い返せないわけだけど。
「いえいえ。お構いなく。陽平はいつもこんな感じなんですよ。俺には憎まれ口ばっかり叩くんですよね。俺はそれが結構気に入っているっていうか。ツンデレみたいで可愛いと思ってるんですよ」
「そう? 湊君がそう言うならいいけど。でも、陽平ってツンデレだったかな?」
湊の言葉に若干の疑問を感じるものの、あっさり信じてしまう母さんだった。
ツンデレじゃねーし。ツンツンはしてるかもしれないけど、デレたことなんか一度もねーじゃん。
それに、もともとはツンツンもしていなかったのに、湊が俺を好きとか言い出すから、こういうことになったと思うんだけど? なんで俺が最初から湊にこういう態度を取ってるみたいな言い方されなきゃなんないの? 納得がいかん。
「陽平とはいつから仲良くしてるの? 何かの番組で一緒になった時からの付き合い?」
「陽平とはZeusの養成所時代からの付き合いですよ」
「あ……そう言えば、前に陽平の口から湊って名前を聞いたことある気がするな」
「その頃からの付き合いなんだ。じゃあ、Five Sの子より付き合いが長いのね」
「そうなんですよ~」
すっかり俺の両親と打ち解けてしまっている様子の湊に、俺はどうしていいのかわからなくなる。
湊は人当たりが良く、人懐っこいところもあるから、初対面の人間ともすぐ仲良くなれるという性質を持っている。うちの両親はもともと湊と似たような性質の持ち主だから、余計に湊とは気が合うんだろう。
だが、向こうでの生活の中で湊と色々あった俺は、湊のいきなりの訪問も、家族のようには歓迎できないのである。
「向こうでは陽平と仲良くしてくれてるんだ」
「はい。お互いのオフが被った時は遊びに行ったりしてますよ」
「へー。そうなんだ」
さすがの湊も、俺の両親の前で
『実は俺、陽平とはセックスもした仲でして……』
だなんてことは言い出さないだろうが、さっきから調子のいいことばかり言う湊には油断がならない。
最近では、一応友人としての付き合いが続いている俺と湊だが、こうして新年早々俺の家に押し掛けて来たりと、湊は相変わらず何をしでかすのかがわからないところがある。
多分、俺のこともまだ諦めていないと思う。
「そうだ。陽平って凄く料理が上手なんですけど、家にいる時から料理とかしてたんですか?」
湊がどういうつもりでいるのか知らないが、ここぞとばかりに俺のことを両親に聞くのはやめて欲しい。俺の話で盛り上がると、うちの親と湊が益々仲良くなりそうじゃん。そうなると、なんか湊が益々調子に乗りそうじゃん。
「陽平の手料理食べたことあるの? 美味しいでしょ? 小学校の高学年あたりから、ちょこちょこ手伝いとか始めてくれたのよ。中学の時は普通にご飯作ってくれることもあったし。ちゃんと教えたつもりはなかったのに、私より上手に作るようになっちゃって。器用なのかな? 陽平ってなんでもすぐできるようになっちゃうんだよね」
最後は息子自慢みたいになっているのがちょっと恥ずかしい。でも、なんでもそつなく熟す息子が誇らしい様子の母さんは、見ていて悪い気がしないものだった。
「なんだ。ちゃんと仲良くしてるんじゃない。ご飯まで作ってあげてるなんて」
「だって、こいつの食生活がマジで悲惨なんだもん」
「たまにはそうやって作ってあげなよ。友達は大事にしなきゃね」
「わかってるよ」
俺と湊が単なる友人同士だと信じて疑わない母さんに、一応そう答えておいたけど、当分は湊に飯を作ってやる予定もない。
飯を作るだけならしてやらなくもないんだけどな。湊に飯を作るとなると、湊の家に行かなきゃいけなくなるわけで、あそこに行くとロクなことが起こらないと知っている俺は、湊に飯を作ってやる機会もすっかりなくなっているのである。
どうせまた酷いことになっているんだろうな、湊の部屋。食生活はなんとかしているにしても、掃除や洗濯はちゃんとやっているんだろうか。また、足の踏み場もないくらいに散らかしてるんじゃないだろうな。
二度目に行った湊の部屋を思い出すと、お節介の血が騒ぎそうになる俺だった。
ちょっと出てきただけのわりには、湊は充分過ぎるほどの時間をうちで過ごし、夕方になってから帰って行った。
「明るくていい子じゃない。私、ああいう子は好きよ」
「まあ……悪い奴じゃないよ」
俺に手を出してきた奴ではあるが、湊が悪い奴ではないことはわかっている。だから、そんなことがあった後も、俺はこうして湊と付き合っているわけなんだし。
「今度Five Sの子にも会ってみたいな。特にあの子。あの可愛い子。実際目の前で見てもあんなに可愛いのかな?」
「悠那のこと?」
「あの可愛さは異常だもん。お肌も凄く綺麗だし、どういうお手入れしてるのか気になる。とても男の子には見えない。全然男の子って感じがしないなんて不思議じゃない? ほんとに男の子なの?」
「あれでもちゃんと男だよ」
スカウトされてメンバーに加わっただけのことはあり、やはり悠那の容姿には興味を惹かれるらしい。
確かに、悠那の男の証に触ったことのある俺でも、未だに“こいつ、ほんとに男?”と思うことがなくもない。特に、司と付き合い始めてからは、益々性別が曖昧になっている気もする。
だってあいつ、司を喜ばせるためとはいえ、自分で女物の下着とか付けたりするし。ヤってる時の声も男の声には聞こえない。女みたいな可愛い声で喘ぐんだよな。司の手によって、どんどん女にされてるって感じ。
女装が趣味とか、女の子に見られるような努力をしているわけではないけれど、悠那っていわゆる“男の娘”ってやつになるんじゃないか? と思ってしまう今日この頃である。女装はしなくても、日常的に可愛い格好はしてるし。サイズが合わないとかで、よくレディースの服も着てるし。
そんな悠那は、このオフの間にも司と会う約束をしているようだ。俺は二人の関係がお互いの両親にバレたりしないかと、ちょっと心配していたりもする。
あいつら、見境なくイチャイチャしてばっかりだからな。俺からしてみれば、別段イチャイチャしていなくても、一緒にいるだけでもう既にイチャついてるようにしか見えないくらいだ。
醸し出すオーラっていうの? そういうのがもうラブラブっつーか……爛れてる関係って感じ。
でも、司と悠那の仲が良すぎるからといって、その関係をすぐに疑うようなこともされないだろう。共同生活を送る中で、家族同然の親近感が生まれたとしか思われないはずだ。まさか、自分の息子に同性の恋人ができたなんて、普通は家族も思わないものである。
事務所の指示で共同生活を余儀なくされた末、息子が同性と付き合い始めたとなったら、事務所が責任を取らされそうだよな。あいつらが好きで付き合っているにせよ。
「今年は夏に初ライブする予定なんだ。その時は家族を招待しようって話になってるからさ。その時にみんなを紹介するよ」
「初ライブするんだっ! 楽しみっ! 絶対行くっ!」
デビューしてからもうすぐ一年が経つ俺達は、今年の夏に初の単独ライブをすることになっている。なかなかメンバーに家族を紹介する機会もない俺達は、ライブの話が出た時、『家族を招待しよう!』って話になっていた。
共同生活を送っている以上、お互いの家族にはちゃんと挨拶しておきたかったし。ライブというイベントなら、家族も呼びやすい。
「その頃には、お腹の赤ちゃんも生まれてるだろうな」
「お兄ちゃんの初ライブが、この子にとっても人生初めてのライブになるんだね」
俺の言葉に、嬉しそうにお腹を撫でる母さんだった。
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