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Season 2
世界で一番特別な日(3)
しおりを挟む「クリスマスプレゼント?」
「そう。今年はデビューした年だし、年末の音楽授賞式の新人賞にもノミネートされてるじゃない? デビューから今まで頑張ったご褒美ってことで」
「へー……」
司の誕生日である12月24日が刻々と近付いてくる中、クリスマスライブの後、事務所からクリスマスプレゼントにと、ホテルのスイートルームが用意されているという話をマネージャーから聞かされた俺は、どこか他人事のようにも感じてしまったわけだけど……。
「その日は司君の誕生日でもあるから、みんなで楽しんでね」
と言われると、またまた頭が痛くなってしまうのだった。
事務所がそんな豪華なプレゼントしてくれちゃったら、俺は益々どうしていいのかわかんなくなっちゃうじゃん。
ここ数日、ネットを駆使してあれこれ検索しているだけでなく、学校でも
『恋人に誕生日を祝ってもらうなら、どういう風に祝ってもらえるのが嬉しいもの?』
と、クラスの男子に聞いて回っていたりする。
俺が男子にばっかりそんな話を聞いているのも変な話なんだけど、返ってくる答えは大体
『祝ってもらえるならなんでも嬉しいけどな。イチャイチャできればそれでいいかも』
だった。
それじゃいつもと変わらないじゃん。俺と司、毎日充分過ぎるほどイチャイチャしてるわけだし。
俺と司が共同生活を送っていなければ、彼氏の家にお泊り……みたいな、特別な過ごし方もできたんだろうけど。既に一緒に住んでいて、部屋まで一緒な司とは四六時中一緒にいるようなものだし。二人っきりって特別感は最早ない。
「あーん……どうしよー……」
学校から帰ってきた俺は、陽平と司が留守なのをいいことに、律と海に相談してみることにした。
俺が司の誕生日の祝い方で悩んでいるという話を聞いた二人は
「司さんは悠那さんと一緒にいられるだけで満足だと思いますけど」
「そうですよ。あまり深刻に考えなくても大丈夫だと思いますよ?」
そう言って、俺を慰めてくれるくらいだった。
確かに、特別なことをしようと思っても、そんなに特別なことなんてできないよね。どんなに頭を悩ませたところで、誕生日の祝い方なんて大体決まっているものだし。
「俺、プレゼントに何あげたらいいのかさえ決まってない。司って何あげたら喜ぶと思う?」
なら、せめて誕生日のプレゼントは特別感を出したいんだけど、それもよくわからないままの俺だった。
「司さんって物欲ないし、物に対する拘りもあまりないですからね」
俺と同じように思っている律も、俺からの質問には少々頭を悩ませてしまうようだった。
一方
「悠那君そのものがプレゼントっていうのが一番喜ぶんじゃないですか?」
海はわりと楽観的だった。
俺じゃプレゼントにならないよ。だって、俺はもう司の物なんだから、今更「どうぞ」ってならないでしょ。
「俺はもう司の物なのっ! 今更プレゼントにならないもんっ!」
「そうでもないですよ? たとえば、普段は見られないような姿を見せてくれるとか、いつもはしてくれないようなことをしてもらえれば嬉しいものですよ」
もっと真面目に考えてっ! と言いたげな俺に、海はあまり困った様子もなく、のうのうとそんな事を言ってくる。
「たとえば?」
「そうですねぇ……」
海のアドバイスを更に追求しようとすると、海はチラッとだけ律を見て
「たとえば、物凄くエッチな下着つけてくれるとか、生クリームを身体に塗って、“ケーキの代わりに僕を食べて”みたいな奴とか」
なんて言う。
「~……」
聞いて損した。そんな変態みたいなこと、いくらなんでもできるわけないじゃん。っていうか、海は律にそういうことして欲しいと思ってるわけ? 律がそんなことするわけないのに。
「変態。僕は絶対そんなことしないからね」
俺がげんなりした顔をすると同時に、怖い顔になった律がすかさず海を非難している。
でも、俺や律は言ってしまえば恋人同士の彼女役という立場だから、そういうことに理解がないだけで、男ならそういうことをして欲しいと思うものなのかな? ちょっと前にお風呂でエッチした時、司は
『実は一回シてみたかったんだよね。お風呂でエッチ』
って言ってたし。
あの時、俺はたまたまそういう気分になっただけで、お風呂でエッチをしたいと思っていたわけじゃない。お風呂でエッチしたいと思ったこともなかったから、そういうものなんだ……って、ちょっと意外に感じたりもしたんだよね。
それに、初めて司とエッチした時、俺はたまたま女の子用の紐パンを穿いていたんだけど――あくまでも“たまたま”であって、好きで穿いていたわけでは断じてない――、あの時の司は、女の子用の紐パンを穿いている俺に、少しは興奮していたようにも思う。
「ベビードールとかいいんじゃないですか? 司さん好きそうじゃないですか」
「ベビードール? 何? それ」
律に冷たくあしらわれたことにもめげず、自分の意見を推してくる海に、俺と律は揃って首を傾げてみせた。
「女性下着の一種で……こういうのです」
スマホを取り出し、何やら検索をした海が、俺と律に向かってスマホの画面を向けてくる。
「なっ……!」
「ひっ……!」
海のスマホの画面を覗いた俺と律は、肌色の多い女の人の下着姿に思わず赤面してしまった。
俺は初恋が司で、それまで異性に対して性的欲求を感じたことがないから、女の人の身体を見る機会なんて全然なくて、免疫もついていなかった。漫画雑誌のグラビアなんかも基本的にはすっ飛ばしていたし、エロ本やAVなんかも見たことがない。だから、裸でなくとも、こういう写真はちょっと刺激が強く感じてしまう。
スマホの中の女の人達は、パッと見ワンピースを着ているようにも見えるけど、生地が薄く、中にはスケスケなものまであって、その透けてる具合が余計にエッチに見えてしまわなくもない。
世の中にはこんな下着もあるんだ。世の女の子達はこんなものを着ているものなの?
「一度は着てみて欲しいって思う男性は多いと思いますよ? 悠那君なら絶対似合うだろうし、司さんが喜ぶこと間違いなしって感じなんですけど」
「無理無理っ! これ、絶対恥ずかしい奴じゃんっ!」
前に女の子の紐パン穿いたのだって凄く恥ずかしかったのに。そもそも、俺だって一応は男なんだから、女の子用の下着を付けるのは恥ずかしいんだよっ。サイズの関係で、レディースの服を着ることはあっても。
「そうですか? 全裸ってわけじゃないんだから、そんなに恥ずかしくもないんじゃないですか?」
「女の子の下着ってことが恥ずかしいのっ!」
「でも、悠那君って前に女の子の紐パン穿いてましたよね?」
「あ……あれは……撮影の衣装で穿いたから仕方なく……」
「ドラマに女の子の下着つけて出た人が、今更何を恥ずかしがるっていうんですか?」
「~……」
だから、好きで穿いたんじゃないんだってば。陽平の影響か何か? 最近、海がちょいちょい意地悪発言してくるようになった気がする。
「エッチな下着の話はもうおしまいっ! 普通のプレゼントを一緒に考えてよっ!」
俺は海のスマホを海に向かって押し返すと、無理矢理話題を変えることにした。
でも、海に見せられた画像がどうしても頭から離れなくて……。
「買ってしまった……」
数日後。家に届いた俺宛の荷物に、がっくりと肩を落とす俺がいた。
だって、司が喜ぶかもしれないって思ったら、一応検討してみようかな? ってなっちゃったんだもん。探してみるといろんな種類が沢山あって、凄くエッチなのもあれば、下着とは思えないくらい可愛くて、スケスケじゃないやつもあった。
でも、司が喜びそうなものとなったら、やっぱりちょっとエッチなやつの方がいいのかと思って、俺が買ったのは薄いピンクで生地の透けているもの。胸の下のところから前が開いているタイプのやつだった。パンツとセットになっていたから、俺はまた、女の子用のパンツを手にすることになってしまった。
「ほんとに……こんなので司は喜ぶの?」
そんなに高い買い物でもなかったから、懐的には痛くないんだけど。これで司に“何買ってるの?”と思われてしまったら、精神的ダメージが凄いことになりそう。俺、安易に海に乗せられ過ぎ?
「着るか着ないかはさておき、司に見つからないところに隠しとかなきゃ」
心配しなくても、司は俺の持ち物を勝手に物色したりしないから、届いた箱のまま部屋に放置していても安全であるけれど。
その箱でさえ、司に見られるのが恥ずかしい。
「っていうか、こんなもの買う前に、普通のプレゼントを買わなきゃいけないのに……」
律と海に相談したところ、いくつかいい案が出たけれど、その中でも迷っている最中の俺は
『いつになったら司のプレゼントを買うんだよっ!』
って、自分で自分に突っ込みたくなってしまった。
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