僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Season 2

    イチャラブライフを取り戻せ!(5)

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「どうぞ」
 本来なら、今頃みんなで夕飯を食べているはずだったテーブルに、陽平、俺、悠那、湊さんの四人が座り、みんなのお茶を淹れた律は、四人分のお茶をテーブルの上に置き、自分と海の分は少し離れたリビングのテーブルに持って行った。
 ダイニングテーブルには椅子が五人分しかないから、律と海はソファーに座って話し合いに参加することにしたようだ。
 メンバー全員+湊さんとの話し合いに、陽平の表情は冴えない。話し合いをすることには同意した陽平だけど、みんなの前で全てが明らかになるのは好ましくないのだろう。その気持ちを汲んで、事情を知っている俺が上手く立ち回れればいいんだけど……。
「やっぱり、俺が酔った陽平に手を……」
「わーっ! ちょっと待って!」
 当事者である湊さんがそういうことに全く気を遣わないみたいだから、上手く立ち回れる自信がなくなりそうである。
 いきなり暴露話から始めようとする湊さんに、俺は慌てて口を挟み、湊さんを引っ張って部屋の隅に連れて行った。
「何? なんなの?」
「できれば陽平とヤっちゃったことは言わないでくれませんか?」
「なんで? そこ言わないと話し合いにならなくない? 陽平が怒ってる原因ってそこなんだよね?」
「そうなんですけど……。俺以外のメンバーは知らないんですよ。陽平が湊さんにヤられちゃったなんて話、知ったらショックを受けると思うんで……」
「なるほど。そういうことね」
 ぶっちゃっけ、本当にショックを受けるのは律くらいのものだろうけど、陽平が男にヤられるタイプではないと思っている悠那も、事実を知ったらそれなりの衝撃を受けると思う。海は別として、悠那や律が持っている陽平のイメージは守ってあげたい。
「わかった。言わないようにするよ」
 CROWNの最年長かつリーダーである湊さんは、同じ最年長の陽平の立場や、メンバーを想うリーダーの俺の気持ちはわかってくれるようである。
「何やってるの? 司。怪しいんだけど」
「ん? ちょっとね。最初に言っておきたいことがあったなと思って」
 出だしから湊さんを話し合いの席から連れ去った俺に、悠那は怪訝そうな顔をする。もちろん、律や海も。唯一陽平だけが、少しだけホッとした顔であった。
「じゃあ気を取り直して」
 湊さんと一緒にテーブルに戻ってきた俺は、どうしても引き攣ってしまう笑顔を浮かべながら、話し合いを再開させることにした。
「えっと……」
 言おうと思っていたことにNGを出された湊さんは、何から話せばいいのかわからなくなった様子だったけど
「お願いします。俺の彼女になってください」
 諸々をバッサリ省略し、一番言いたいことだけ単刀直入に言うことにしたらしい。
 待て待て。今、“彼女”って言ったよね? 陽平が彼女役ってことを、あからさまに示唆してきたよね?
 確かに、陽平とヤったことは隠してくれたけど、ここでも気の利かない発言をしてしまう湊さんに俺は頭を抱えたい。陽平もムッとした顔になっちゃうし、悠那や律も「え?」っ顔してるじゃん。
「ちょっと待って? 彼女? 湊さんって陽平を彼女にしたいの? それってつまり、陽平を抱きたいってこと?」
 できればスルーして欲しかった言葉に反応した悠那は、動揺を隠せない様子で湊さんに確認したりする。悠那の反応を見た湊さんは、グループ内での陽平と、自分の中での陽平のイメージに大きな違いがあることにようやく気付き
「へ? あっ……いやっ! それはまあ……俺はそう思ってるって話。だって、陽平って料理上手いし、部屋の掃除なんかもチャッチャとやってくれるし。俺の食生活を心配して、おかずの作り置きとかしてくれるから、彼女にしたいな~……って」
 陽平を彼女にしたいのは認めつつ、どうにかその場を上手く切り抜けてくれた。
 っていうか、陽平って湊さんの家で何やってんの? 掃除して、手料理まで振る舞ってあげてるの? それはもう彼女じゃん。一人暮らしの男の家でそんな家庭的な姿見せたら、そりゃ惚れられちゃうでしょ。嫁にしたい! って思われるでしょ。
 俺がもし一人暮らしをしていたとして、悠那が遊びに来るたび俺の身の回りの世話をせっせと焼いてくれたら
『結婚しよう』
 ってなるわ。
 今現在では、どちらかと言えば俺が悠那の世話を焼いている感じだし、それはそれで楽しいんだけど。
 でも、もう二、三年したら、悠那が俺のために掃除や洗濯して、ご飯を作ってくれる日がくるかもしれない。そうなったら、俺は悠那と結婚する。法律上は無理でも、悠那にプロポーズする。
「確かに、陽平は家事が得意だし、料理も上手だけど……。でも、彼女って感じじゃないと思うんだけど?」
 湊さんが陽平をどうしたいのかが気になっていた悠那は、湊さんの口から直接その話を聞かされても、あまりピンとこない様子だった。
 それは律も同じで
「そういう意味で付き合って欲しいと言われても、陽平さんは首を縦に振らないと思いますよ?」
 少し離れたソファーから口を挟んできた。
「え? じゃあ……俺が彼女役でいいって言ったら、陽平は俺と付き合ってくれるの?」
 二人からダメ出しされた湊さんは、ちょっと困った顔になって、やや見当外れな質問をしてきた。
 湊さんに聞かれた悠那と律は、品定めするような目で湊さんをジッと見詰め
「そういう問題でもないかと」
 二人揃って全く同じ回答をした。陽平同様、湊さんも彼女役ではないという判断をしたようだ。
 そう。そういう問題じゃないんだよ。そもそも、陽平に男と付き合う気が更々ないということが問題なのだ。いい加減、そのことに気付いてはくれないのだろうか。
「どっちがどっちではなく、陽平さんにその気がないのが一番の問題なんですよ。同性の恋人がいる僕達からすれば、性別なんて気にすることないって思いますけど、陽平さんはそういう風に考えられない人ですし。男の人を好きになれないわけですから」
 少し残酷ではあるけれど、的確な指摘をする海に、湊さん以外の全員が「うんうん」と頷いた。
「それはわかってるんだけど、俺は陽平がいいって思っちゃうんだけど」
 すっかり困った顔になってしまう湊さんに
「だから、諦めろって言ってんの」
 ようやく陽平が口を開いた。
「それは無理」
「無理って言えばいい問題じゃねーだろ。お前はすぐ無理って言って、自分を改める努力をしねーだろ」
「そんなことないよ。でも、無理なものは無理なんだって」
「あのなぁ……」
「陽平こそ、お試しでもいいから俺と付き合ってくれてもいいじゃんか」
「男とお試しでも付き合えるかよ。それこそ無理って話だろ」
「そんなことないよ。付き合ってみなきゃわかんないことだってあるでしょ?」
 まるで聞き分けのない子供に手を焼く母親のようだ。陽平が湊さん相手にこんな苦労ばかりしているのかと思うと、同情を通り越して哀れにさえ思えてくる。
 きっと、酔っ払った時も、今みたいに「無理」の一言で通されて、あれよあれよという間にヤられちゃったんだろうな。
「恋人同士になれなくても、友達として一緒に過ごすのはダメなんですか? 湊さんの気持ちを知っていても、友達として付き合うというなら、陽平さんも今まで通りの関係を続けてくれると思いますけど」
「そうだよ。湊さんの気持ちは迷惑だろうけど、陽平だって湊さんが嫌いなわけじゃないんだし。友達のままで我慢しなよ」
「湊さん的には辛いでしょうが、好きな人と一緒に過ごせるのであれば、それはそれで幸せじゃないですか」
 聞き分けのない湊さんに、うちの高校生達も陽平に同情してしまうのか、三位一体の援護射撃を放ったりする。
 今まで陽平からも似たようなことは言われただろうが、高校生にまでそう言われてしまっては、湊さんも我儘を通すことを難しく感じてしまうようだった。
「選べ、湊。今ここで、俺とは友達以上の付き合いをしないと宣言するか、俺を諦めない代わりに俺との関係を断つか。友達として付き合うって言うなら、俺も今までの全てを水に流してやる。でも、そうじゃないなら……お前とは絶交する」
 そして、陽平からトドメの一撃を喰らった湊さんは、ぐったりと項垂れ
「わかった。陽平とは友達として付き合う」
 陽平に絶交されるくらいなら……と、苦渋の選択をしたのであった。





 その後。俺達の見ている前でいくつかの取り決めを作り、湊さんとの問題をどうにか解決した陽平は、湊さんが帰った後
「悪かった。お前らにまで迷惑かけて」
 これまで不機嫌な態度を取ってしまったことへの謝罪をしてくれた。
「陽平も色々大変だったんだね。湊さんがあんなに聞き分けのない人だと思わなかった。あれじゃ陽平の機嫌も悪くなるってものだよね。ま、それだけ陽平のことが好きってことなんだろうけどさ」
 ようやく陽平のイライラの原因が解消されたと思った悠那はホッとして
「でも、油断は禁物ですよ。今後は友達としての関係を続けるといっても、湊さんもそう簡単に陽平さんへの気持ちを諦められないと思いますから、隙だけは与えないように」
 解決はしたけれど、懸念の残る律は注意を促し
「何かあってしまっては、友達として……なんて言ってられませんからね」
 既に何かあったことを知らない海は、ブラックジョークにも取れるような冗談を口にした。
「わかってるよ」
 結局、みんなに知られたくなかったことを知られずに済んだ陽平は、俺のところにやってくると
「サンキュー、司」
 俺の肩にポンと手を置き、ちょっと疲れた笑顔でそう言った。
「どういたしまして」
 自分が上手く立ち回れたとは言い難いし、役に立ったとも思えない。お礼を言われるほどのことなんて何もしていないとも思った。でも、陽平の抱えている問題がちょっとでも解決して、みんなも安心したなら良かったと思う。
「それよりお腹空いた。陽平。早く夕飯作ってよ」
 事態が一件落着したらお腹が透いたのか、すっかり遅くなってしまった夕飯に、悠那が唇を尖らせると
「今から作るからちょっと待ってろ。夕飯できるまで、お前は司とイチャイチャでもしてろ」
 陽平は今まで口煩くしたことの謝罪なのか、そんなことを言ってきた。
「そうするっ」
 悠那は嬉しそうに笑うと、早速俺にぎゅぅっと抱き付いてきたりする。
 どうやら、俺は悠那とのイチャラブライフを無事に取り戻せたようだ。



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