僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Season 2

    イチャラブライフを取り戻せ!(4)

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 陽平の調子は相変わらずだし――それでも、少しは我慢しようと努力してくれるようにはなった――、日増しに興味が増してうずうずしてくる悠那や海が、今にも何かしらの行動を起こしそうな今日この頃。
「あ」
「お」
 俺はランキング番組の収録が終わったテレビ局で、偶然湊さんに遭遇した。
 今日はCROWNとしての仕事ではないのか、湊さんは一人の様子だった。
「お疲れ様です。湊さ……」
「司ーっ!」
「え? は?」
 とりあえず挨拶を、と思った俺は、挨拶し終わる前に湊さんから悲痛な顔で飛びつかれてびっくりした。
 なんだなんだ。俺、出会い頭に飛びついてこられるほど、湊さんと親しい間柄でもないと思っているんだけど。
「あの……湊さん?」
 戸惑いと困惑の面持ちで湊さんを見下ろすと、湊さんは捨てられた子犬のような顔で俺を見上げてきて
「陽平が俺と全然会ってくれないんだけどっ!」
 初っ端から盛大に嘆かれた。
 いやいやいや。あなた、自分のしたことわかってます? そりゃ会ってくれないでしょうよ。
「えっと……それは、なんて言うか……仕方なくないですか?」
 やや呆れた顔になって言い返すと、湊さんはきょとんとした顔になり
「あれ? 司は俺と陽平がヤっちゃったの知ってるの?」
 なんて聞いてきた。
 俺が事情を知っているから泣きついてきたわけじゃないんだ。
「成り行きで。っていうか、そのせいで俺や悠那にまでとばっちりなんですけど」
「え? なんで? どういうこと?」
 最初の嘆きはなんだったのかと思うくらい、急に普通に話し出すじゃん。あまり話したことがないから仕方ないけど、湊さんの人柄やテンションがよくわからない。
「俺と悠那がイチャイチャしてると突っ掛かってくるようになったんですよ。おかげで悠那の機嫌まで悪くなりそうなんです」
 うちの陽平に手を出すだけじゃなく、間接的に悠那の機嫌まで損ねてくる湊さんをあからさまに責めると
「それは悪かった。謝る」
 湊さんは早々に自分の非を認め、謝罪してくれた。
 が、いまいち反省しているように見えないし、謝罪の言葉も軽く聞こえてしまう。この人、自分が悪いことしたと思っているんだろうか。
「でもさ、考えてもみてよ。自分の好きな奴が目の前で可愛く酔っ払ってる姿見て、手を出さないでいられる? そもそも、こっちの気持ちを知っていながら、二人っきりになってくれること自体、そういう流れになると思うんだよね」
 あ……反省してないわ。この人、自分が悪いことしたなんて絶対思ってないな。
「司だって、俺と同じ立場だったら絶対同じことするだろ?」
「うーん……」
 そんなことはない。と言いたいところだが。
 もし、俺が悠那と付き合う前で、悠那のことを好きだったとしよう。悠那はまだ未成年だから、お酒に酔っ払うという状況は想像できないけど、悠那は俺の気持ちを知っていながら、今みたいに俺に好意的な態度を見せていたら……。
「……しますね」
 確かに、手を出すだろうな。そうじゃなくても、俺はまだ悠那を好きかどうかもわからない時点で、悠那と二回もキスしそうになったことがあるし、実際にキスもした。付き合う前にキスをして、そのままエッチなことまでしてしまったわけだから、手を出したってことにもなる。
「だろ?」
「うー……」
 ここは湊さんを非難して、陽平のことを諦めさせる努力でもしてみようかと思ったのに。俺のおかげで湊さんが陽平を諦めてくれたら、陽平も俺に感謝して、俺と悠那のイチャイチャに寛大な陽平に戻ってくれていただろうに。
 なのに、あっさり言い負かされてしまう俺は、商談や交渉向きの人間ではないのかもしれない。
「でも、無理矢理は良くないですよ。湊さんだって陽平の性格はわかってるでしょ? そんなことしたら、陽平が怒って会ってくれなくなることくらいわかってたんじゃないですか?」
「それはまあ……そうなんだけど……」
 それでも、諦めずに強気な態度を続ける俺に、今度は湊さんが口籠ってしまう番だった。
「でも……好きなんだから仕方ないじゃん」
「そんな言い分は通用しません。好きだからって何してもいいわけじゃないですからね」
「それもわかってるんだけどさ。俺もそこまでできた人間じゃないんだよ」
「そう開き直られましても……」
 ここで人間性を持ち出されてしまっては、こちらも打つ手がなくなってしまう。なかなかこちらの思うような反応を返してくれない湊さんに
(これじゃ陽平が手を焼くのも仕方ないか……)
 と、改めて陽平に同情してしまった。
 湊さんは決して悪い人ではないけれど、やや自分に甘いところはありそうだ。思考も頗るポジティブで、どんな窮地に立たされても“なんとかなるでしょ”と楽観的になれる人間のようでもある。
「陽平にいくら連絡しても全然まともに取り合ってくれなくて、取り付く島もないって感じなんだよね。だから、司……」
 再び捨てられた子犬のような顔になる湊さんに、俺はもう嫌な予感しかなかった。





 テレビ局を出た俺が、マネージャーの運転する車に湊さんを乗せ、湊さんと一緒に家に帰って来ると……。
「……………………」
 キッチンで夕飯を作っていた陽平が一瞬にして石化し、その数秒後には
「出てけーっ!」
 鬼の形相になって、呑気に俺の隣りで陽平に手を振っている湊さんを怒鳴りつけてきた。
 怒りの矛先は当然俺にも向くわけで
「司。お前は何考えてんの? どういうつもり? 嫌がらせが過ぎない? 死にたいの? 俺に殺されたいの?」
 ちょうど包丁を持っていた陽平は、包丁を握ったまま俺のところにやって来ると、俺に向けて包丁の刃先を突き付けてきたりする。
 やめてやめて。そんな危険なものをこっちに向けないで。ほんとに俺を刺さんばかりの怖い顔もやめて欲しい。
「ちょっ! ちょっと! 何やってるの⁈ 陽平っ! 危ないじゃんっ!」
「落ち着いてくださいっ! 陽平さんっ!」
「とりあえず包丁は置きましょ? ね?」
 陽平の怒声に部屋から出てきた面々は、俺が陽平に包丁を突き付けられている状況に酷く慌てた。慌てて、俺を守ろうと必死に陽平を宥めようとしてくれた。
「安心しろって。ほんとに刺したりしねーよ。脅してるだけだから」
 三人の高校生の狼狽えっぷりを見た陽平は、少し冷静さを取り戻したのか、素直に包丁を調理台の上に戻した。
 脅してるだけって……。脅しに刃物なんか持ち出したら、もう罪に問われるレベルじゃん。
「で。お前はなんでこのクソ連れて帰ってきたわけ?」
 最早、湊さんの名前さえ呼ばなくなっている。湊さんをクソ扱いする陽平だった。
「それはまあ……たまたま収録後に湊さんと会って、湊さんに陽平に会わせて欲しいって頼まれたからなんだけど……」
「ふーん。で、そのままこのクソ連れてのこのこ帰ってきたのか。お前、それで俺が納得するとでも思ってんの?」
「いえ……思ってないです……」
 こうなることは予測していたけど、連れて帰ってきてしまったものはしょうがない。縋る目で俺を頼ってくる湊さんを冷たくあしらうこともできなかった俺は、何をどう言って陽平を説得すればいいのかもわからなかった。
 そこへ
「いいじゃん。むしろ、この機会に色々ハッキリさせちゃえば? 陽平がいつまでも機嫌悪いままなのも困るし。ちゃんと話し合って、早く二人のゴタゴタ解決してよ。じゃないと、俺や司も迷惑なんだから」
 ムスッとした顔の悠那が口を挟んできた。
 陽平が俺に包丁を向けたことにも怒っているんだろうけど、日頃、俺とのイチャイチャに口出しされるのも限界だからだろう。
「そうですよ。言いたいこと言ってスッキリしましょ。僕達もちゃんと見届けますし、お力添えしますよ」
 悠那の言葉に、若干好奇心に勝てない様子の海が乗っかり
「このままほったらかしにしていて解決する問題でもありませんし。ここは一つ、話し合いで解決しましょう」
 至極真面目な顔の律も意見を述べた。
 三人に言われた陽平は少し迷った様子だったけど、どんなに無視したり素っ気無くしても湊さんからのメールは途切れないし、俺を使って家の中まで乗り込んできた湊さんを考えると、話し合いも必要だと思ったようだ。そうしないと、延々と同じような日々が繰り返されるであろうことは、当事者ではない俺でもわかる。
「わかった。してやろうじゃないか。話し合いってやつを」
 フーッと溜息を吐いた後、陽平は覚悟を決めたようにそう言った。
 中断されてしまった夕飯作りはそのまま放置されることになるようで、今日の夕飯はちょっと遅くなりそうだ。



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