僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Season 2

    酒は飲んでも吞まれるな(2)

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 違う……こんなはずじゃなかったんだ……。
「陽平、もう酔っちゃったの? 顔真っ赤だよ?」
「うるへー……人生初飲酒なんだぉ……酔っ払いもすらぁ……」
「呂律が回ってない。可愛い」
「可愛いってゆーなおー」
 結局、0時ジャストにケーキに蝋燭まで立てて二十歳を迎えた湊をお祝いし、プレゼントを渡した後に夕飯を食べた俺達は――プレゼントはそこそこ値の張るブレスレットにした――、そこからの流れで二十歳になった湊と一緒に人生初飲酒をすることになったわけだが……。
 俺が思いの外酒に弱かった。激弱げきよわだった。そんなに飲んだわけでもないのに、しばらくすると顔は真っ赤、呂律は回らず、頭の動きも非常に鈍くなっている。
 初っ端から日本酒を飲んだのがいけなかったのか? アルコール度数を見ると、16度未満って書いてある。初飲酒はアルコール度数の低いビールとか酎ハイにするべきだった。でも、湊が仁さんから貰った誕生日祝いのお酒が日本酒で、それしか湊の家になかったのだ。
らいらいなぁっ大体なっ! 俺のことあ諦れろっれ言ったらろ俺のことは諦めろって言っただろ? 諦えてねーのかおっ諦めてねーのかよっ!」
「えっと……可愛いんだけど、何言ってるのかよくわかんないんだけど」
らからぁっだからぁっ! かあいいってゆーにゃっ可愛いって言うなっ!」
「にゃ⁈ 今、にゃって言った⁈」
いってらい言ってない……ヒック……」
「しゃっくりまで……。可愛すぎるよ、陽平」
 顔が真っ赤になり、焦点の合わない目まで据わっている俺に、湊は肩をぶるぶると震わせている。
 人生初飲酒の俺が、ここまで正体を失いかけているというのに、湊は随分と普通だな。酒は合う、合わないがあるっていうけど、湊は酒に強い体質なんだろうか。
「陽平がお酒に弱いとは思わなかったよ。強そうに見えたのに」
しうかっ知るかっ! のんらころないんらから飲んだことないんだから
「まだ飲む? もうやめとく?」
にょむっ飲むっ! にょんでやらぁっ飲んでやらぁっ!」
 一体どういうテンションなんだよ、俺。弱いんだからやめとけよ。
 心のどこかでそう思いながらも、俺は湊がグラスに注いでくれた日本酒を一気に呷ったりする。
 冷たく冷えた日本酒が喉を通った後に、身体がカッと熱くなる。
「あんまり酔うと後が大変だよ? もうこれで最後にしとこうね」
 日本酒を一気飲みした俺の頭を撫でながら、湊はにこにこ顔でそう言った。
「ん」
 その言葉に、コクンと首を縦に振る俺。子供か。
「まるで子供みたい。ほんと、可愛いなぁ」
 しみじみ言いながら、俺の頭を何度も撫でてくる湊の手を煩そうに払うと
「こんなに可愛くなられたら、俺もムラムラしちゃうよね」
 俺に払われた手なんかまるで気にならないかのように、湊は俺を抱き締めてきたりする。
 ムラムラってなんだよ。ムラムラすんな。
「んー……にゃめろぁやめろー……」
 ただでさえ身体が火照って熱いのに。湊にくっついてこられたら暑苦しくて敵わない。俺は湊の腕の中でむずがるみたいに身体を捩ると、湊の胸をグイ―ッと押し返した。
「抵抗はちゃんとするんだ。そこはちょっと可愛くないな」
 それでも俺を離さない湊は、嫌がる俺にちょっとだけ面白くなさそうな顔をする。
「でも、こんなになったらもう帰れないよね。今日は泊ってこうね」
 面白くなさそうな顔をしたと思ったら、すぐに気を取り直す湊に、俺は嫌な予感がした。
 そもそも、湊の家に上ることすら気が進まなかったのに、こんなに酔っ払ってどうするんだよ。これじゃいざって時にどうにもできないじゃん。仮にも俺を好きだとか言ってる湊の前でガードが甘過ぎる。
 でも、自分がここまで酒に弱い可能性は考えていなかった。多少は酔っ払うかもしれないと思っていたけど、こうなる前にやめられると思っていた。まさか、グラス一杯飲み干しただけで、ここまで酔っ払うとは思ってなかったんだよ。最初の一杯でこうなってしまっては、セーブのしようもないじゃんか。
 お猪口より少し大きいグラス一杯で既にデロデロになっているのに、二杯目まで一気に飲み干してしまった俺は、ふわふわした気分に包まれ、目もとろんとしてきた。
「眠たくなっちゃった? ベッド行く?」
 相変わらず俺を抱き締めたまま離さない湊に顔を覗き込まれた俺は
「うん。いく」
 とりあえず横になりたいのと、そのまま寝てしまいたいのとで頷いた。
「連れてってあげるね。ほんとは抱っこして連れてってあげたいんだけど、陽平って抱っこするにはちょっと大き過ぎるから。俺が陽平を抱っこできるようになるまでちょっと待ってね」
「?」
 あまり働かない頭では、湊が言っている言葉の意味がよくわからなかった。
 別に俺、抱っこして連れてってくれなんて一言も言ってねーし。今後湊に抱っこされる予定もないんだけど。
「はい。到着~」
 結局、俺の手を引いて俺をベッドまで誘導した湊は、俺をベッドの上に寝かせると、何故か自分もベッドの上に横になり、俺の上に覆い被さってきた。
「……みなとぉ?」
 顔は物凄くいい笑顔なのに、無言の圧を掛けてくる湊に、俺は不安になって湊を見上げた。
 意識は朦朧としているし、今すぐ寝てしまいたいくらいに眠い。俺のことはそっとしといて欲しいのに。
「俺、誕生日プレゼントに陽平が欲しいな」
 …………は? プレゼントならさっき渡しただろ。更に欲しがるとは何事だ。図々しいにもほどがあるだろ。強欲か?
 大体、俺は物じゃねーぞ。俺が欲しいってなんだ。
「俺の気持ちを知ってるのに、こんなになっちゃう陽平も悪いよね? それ、もう俺に襲ってって言ってるようなもんだから」
「んにゃっ……!」
 ベッドに連れてきてくれたのに、俺を休ませてくれない湊にふて腐れていた俺は、俺のシャツの中に手を突っ込んでくる湊に、身を捩って抵抗した。
 待て待て待てっ! 何しようとしてんの?
「ゃ、らぁ……」
「そんな泣きそうな顔しないの。めちゃくちゃ可愛いから」
「んんっ……!」
 興奮した顔の湊に唇を奪われ、俺はバタバタと足をバタつかせて暴れたけど、そんなの湊はお構いなしだった。
「陽平の唇熱いね。溶けちゃいそ」
「んっ……」
 解放したかと思ったら、すぐに角度を変えて重ねられる唇に、俺は抵抗する気力をどんどん奪われていった。
 暴れたことによって更に身体が重くなったのと、疲れてどうでもいいって気分になってしまったのもある。どうでもよくないんだけど。
「お酒が回って身体も熱いんじゃない? 服脱がせてあげよっか。ほら、腕上げて?」
「いぃっ……いらない……ふく、ぬがないっ……」
 いいって言ってるのに。湊は抵抗力のない俺の腕を無理矢理上げさせると、俺のシャツを脱がせてしまった。
 実際、アルコールの回った身体は熱く火照り、冷房のおかげでひんやりした空気に素肌が触れるのは気持ち良かった。でも……。
「思ったより華奢だね。もう少ししっかりした身体してるかと思った」
 湊に裸を見られるのは嫌だ。これ、もうそういう流れになってるじゃん。
「やっ……やめろぉ……」
 俺はどうにか身体を捻ると、ベッドの上にうつ伏せになり、湊の視線から自分の身体を隠した。
「あ。そういうことするんだ」
 頭の上でムッとした湊の声が聞こえてきたけど、そりゃするだろ、って話だ。お前こそ、俺が酔っ払ってるのをいいことに何しようとしてんだよ。
「いいよ。陽平がそうするなら、違うとこ見るから」
 うつ伏せになったついでに手元のシーツを握り込み、身体が動かされないようにしていた俺は、湊の手が俺のズボンを掴み、ズボンを下ろしてきたのにびっくりしてしまう。
「こらぁ~っ!」
「わ~い。陽平のお尻~♪」
 俺も俺で酔っ払っているけれど、湊は湊でどういうテンションだ? 人の尻見て喜ぶなよ。実は湊も酔っ払ってんのか?
 酔っ払い二人とか、もう救いようのない最悪な状況じゃん。
「可愛いお尻だね。すべすべ~」
「さわるなぁっ! さわるなぁ~っ!」
 俺のお尻を撫でてくる湊の手に、俺はどうやって抵抗しようかと必死に考えた。身体を反転させようかとも思ったけど、そしたら今度は前を見られることになってしまう。前と後ろ、どっちが見られたくないかと言ったら、前だろ。
「こら、暴れないの」
「ひっ……」
 ほんとは指一本動かすのも億劫だけど、湊にお尻を好き放題触られるのは困るから、背中に回した手で湊の手を払おうとしたら、湊にお尻を叩かれた。
 この歳になってお尻を叩かれるというのも、案外ショックなものだった。
「あれ? 今ちょっとビクッてしたね。お尻叩かれて感じちゃった?」
「んなわけあるかぁ……」
「どうかなぁ? 確認するね」
「やめっ……」
 俺の身体を仰向けにするのは無理だと思ったのか、湊は俺の腰を掴むと、グイっと上に持ち上げて、俺をうつ伏せのまま膝立ちにさせた。
 そんな格好をさせられると、湊に向かってお尻を突き出すみたいになるじゃんかっ! バックでスる時の格好みたいになるじゃんかっ! ほんと、勘弁しろよっ!
「ん? 陽平ちょっと勃ってない? ゆる勃ちしてない? 酔っ払って馬鹿になってるの? ココ」
「しっ……しらないっ……おれは勃ってなんか……」
「酔っ払うとシたくなるって聞くけど、陽平もそうなの? 飲み過ぎると勃たなくなるとも言うけど、陽平そんなに飲んでないもんね」
「んんっ……!」
 この格好自体が恥ずかしいのに、湊の手が後ろから俺を握ってくるから、俺は息を詰めて身体を強張らせた。
 一体どこ触ってんだ。そんなとこ、勝手に触っていいもんじゃないだろ。
「ピクッてしたね。感じた?」
「ばかっ……ばかぁ……」
「ほんと、いちいち可愛い反応してくれるね。堪んない」
「んぁっ……」
 握った俺を扱いてくる湊の手に、俺の膝がぷるぷると震える。酔っているせいなのか、与えられる刺激を強く感じてしまう。
「ゃっ……まて……まってぇ……」
「凄いね。すぐおっきくなったし濡れてきた。気持ちいいんだ」
「ちがう……ちがうからぁ……」
「この調子じゃすぐイっちゃいそうだ。イかせてあげるね」
「ゃ、んんっ……!」
 湊の手が俺を少し強く握ってきて、俺は激しく上下に擦り上げてきた。そうされると、自分でもびっくりするくらいに早々に追い詰められてしまい
「イっていいよ。俺の見てる前でイってよ」
 湊が俺を扱きながら、俺の背中にチュッ、ってキスをした瞬間、俺は身体を震わせながら射精してしまった。
「はぁ……ん……」
 意識が朦朧としているところにもってきて射精なんかしてしまったら、その後の倦怠感もいつもの倍で、俺はベッドに深く沈みこむと、そのまま意識を手放した。
 ほんともう……マジ最悪過ぎる……。



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