僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Season 2

    初体験の後遺症(2)

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 海が帰ってきたら、昨日のことで話をしよう思っていたけれど、もうすぐ夕飯になるからと、込み入った話は夕飯の後にすることにした。なんだけど……。
(あれ? なんか僕……)
 夕飯が終わり、部屋に戻ってきた僕は、改めて海と向かい合って座るだけで、どうしようもなく胸がドキドキしてしまうことに戸惑った。
 やっぱり、昨日あんなことをしてしまったからだろうか。初めてのことですっかりテンパってしまったとはいえ、海にイかせてもらったことはどう考えても恥ずかしいし、まともに海の顔が見れなくなるほどだ。
 しかも、そのあとすぐに意識を手放してしまい、朝までぐっすり寝てしまったうえ、翌朝には熱まで出して学校を休む始末。これはもう、人生最大の汚点と言ってもいい。
 僕がそうして寝ている間に、海は僕の身体を綺麗にしてくれて、パジャマにまで着替えさせてくれていた。さすがの海も、あまりにも子供過ぎる僕に呆れてしまったかもしれない。
「具合が良くなったみたいで安心した。今日一日中、律が心配で学校どころじゃなかったよ」
 元気そうな僕を見て、海はホッとした様子だった。
(元気は元気なんだけど……)
 さっきからやたらと騒がしい心臓に、僕は気が気でない。なんでこんなにドキドキしちゃうんだ。こんなにドキドキしっぱなしだと、また変な気を起こしそうで怖いよ。
「あれ? また顔が赤くなってる」
 海の顔を見れなくて、ついつい俯いてしまう僕の顔を覗き込まれて、僕の心臓はドキンッ、と大きく脈打った。その瞬間、胸がぎゅぅっと締め付けられる感じがして、身体が一気に熱くなった。
 そして、海の手が優しく僕の頬に振れてくると、そこから身体が溶けてしまいそうな甘い感覚に包まれて……。
「さ……触らないで……」
 僕は思わず海から身体を遠ざけてしまった。
 不味い。こんなことを言ったら、絶対海が傷ついてしまうのに。
 自分の発言にすぐさま後悔した僕が慌てて海を見上げると、案の定、海は悲しそうな顔で僕を見下ろしてきた。
「ごめん。違うんだ。僕、海に触られるとやたらと胸がドキドキしちゃって……。身体も熱くなって困るから……」
 別に海に触られるのが嫌じゃないことを必死に伝えようとすると、悲しげだった海の顔は急にパッと明るくなり
「何それ。可愛い」
 触らないで、と言っている僕の身体を、ギュッと抱き締めてきたりする。
 海の腕に包まれると、とろんとした目になってしまう僕がいる。これまで海に抱き締められても、こんな甘い感覚に支配されることなんかなかったのに。
 僕は躊躇いながらも海のシャツをギュッと握ると、味わったことのない感覚に身を委ねてみることにした。身体がふわふわして、夢の中にいるみたいだ。海に抱き締められていることが、心地いいと感じる。
「律。こっち向いて」
 耳元で甘く囁かれ、言われた通りに海を見上げた僕は、そのまま海に唇を奪われ、ゆっくりとその場に押し倒された。
「んっ……んんっ……」
 絡め取られる舌が消えてなくなってしまいそう。海からのキスに身体は甘く痺れて、どんどん所在を失っていきそうだ。
 こんなのは物凄く困る。自分が制御できなくなりそうで……怖い。
「今日は随分おとなしくしてくれるんだね。もしかして、僕とキスするのが好きになっちゃった?」
 海の口許が小さく笑い、僕は泣きたいくらいに恥ずかしくなる。
 そんなつもりはなかったのに。自分でもびっくりするくらい、僕は海からのキスを受け入れてしまっていた。
「前から可愛いと思ってたけど、ますます可愛い顔するようになったね」
「そんなこと……ない……」
 海の傍にいるとドキドキするのが止まらなくなったけど、表情まではそこまで変わってないと思う。ただ、すぐ顔が熱くなっちゃうし、どうしていいのかわからない顔をすることが増えたくらいだ。
「そんなことあるよ。それに、ほら。律のココ、僕とキスしてるだけでも少し反応するようになった」
 言いながら、ズボンの上からツンとアレをつつかれた僕は、昨日に引き続き、今日も少しだけ勃ち上がりかけている自分にびっくりした。
「嘘……またなの?」
 自分では全然気付かなかった。だって僕、海とキスしただけなのに……。
 勃起と射精を経験した僕の身体は、ほんの少しのことでも反応するくらい、馬鹿になっちゃったんだろうか。
「こんなの……困るよ……」
 キスするだけでもこんなになるのなら、もう海とキスなんてできないよ。キスだけで反応しちゃうなんて恥ずかしすぎる。
 それとも、慣れたら反応しなくなるもの? 今の僕の身体は新しい感覚に敏感で、なんにでもすぐ反応してるだけ?
「どうして? 可愛いのに」
「可愛くないよ。泣きたい……」
 緩く勃ち上がりかけている自分を抑えたいのに、海はズボンの上から僕を撫でてきたりする。そんなことされたら、鎮まるものも鎮まらないじゃないか。
「やだ……ソコ、触らないで……」
「ダメ。我慢するのは身体に良くないよ? 律は今までずっと我慢してきたんだから。少しは自分を解放してあげなくちゃ」
「僕は別に我慢してたわけじゃ……んんっ!」
 ゆるゆると優しい手つきで撫でられていた僕を、いきなり意地悪くギュッと握られ、僕の腰は思わず跳ねてしまった。
 海の手に弄ばれた僕は完全に勃ち上がってしまい、また、あの淫らな行いをしないといけないのかと思うと、心の底から泣きたくなった。
「今日は自分でシてごらん? ここで見ててあげるから」
「そんなの嫌だよ。恥ずかしい……」
「今更恥ずかしいも何もないでしょ? 昨日は僕にイかされたんだよ?」
 そう言われてしまうとその通りなんだけど。でも、いくらこれが男なら当たり前のことでも、海の見ている前でスるのはなんか違う気がする。こういうのって、普通は一人でスるものだよね?
「それとも、今日も僕がシてあげようか? でも僕、律をイかせてあげるだけで終わる自信ないけど?」
「~……」
 やや脅しまでしてくる海に、僕は無言のまま首を横に振った。
 海に恥ずかしい姿を見られたからといって、海とセックスする心の準備はまだできていなかった。
 それに、自分達以外の人間がいる場所で、そんな淫らな行いに身を投じる勇気もない。
「自分でスるよ」
 昨日は勝手がわからなくて、結局海に委ねてしまった僕だけど、これからは自分で処理するようにしなくては。いくら幼馴染みで恋人だからって、性欲処理まで海にシてもらうのは甘えが過ぎるってものだし。
 勃っちゃったものは仕方ないから、今日こそは自分で処理しようとする僕を、海が嬉しそうな顔で眺めている。
 何がそんなに嬉しいんだ。僕はほとほと困っているのに。僕が性に目覚めたことが、そんなに嬉しいものなんだろうか。
「えっと……できれば見ないで欲しいんだけど」
 渋々ズボンを下ろそうとした僕は、一部始終を見逃すまいと僕を見ている海に戸惑った。
 そんなにガン見されたら、やりにくくてしょうがないじゃないか。
「えー。見たい。見せてよ」
 少しだけ海に背中を向けるようにすると、海は拗ねた顔になって抗議してくる。
 そこで拗ねられても困るんだけど。
「だって、僕だけ恥ずかしいじゃないか。僕が海がシてるの見たいって言ったら、海は見せてくれるの?」
「別にいいよ。じゃあ一緒にスる?」
「え……」
 自慰行為なんて至極プライベートな時間のはずで、人に見られながらシたいと思う人なんかいないと思っていたのに。海はそうじゃないらしいから、僕は酷く焦ってしまった。
 海が嫌がらなかったら、僕の立場がなくなるじゃないか。そこは嫌がって欲しかった。
 なんで、司さんにしても、悠那さんにしても、海にしても、うちのメンバーは性に奔放なの? そういうお年頃だからか? こうなると、うちでまともなのは陽平さんしかいないじゃないか。
 陽平さんはたまに下ネタ発言とかかましてくるけど、実際は一番ちゃんとしてるっていうか……卑猥な姿を僕達に見せることがない。裸でうろうろすることもないし――司さんはたまにパンツ一丁でうろつく――、密かにシているだろう性欲処理も、僕達に一切悟られないようにしている。本来、それが普通だと思うのに、どうしてあとの三人はそうじゃないんだ。
 まあ、海も性欲処理を僕に気付かれないようにシていたみたいだから、最低限の節度はあると思うけど。僕の前だとそうじゃなくなるらしい。
 恋人の前でもそこの節度は守ろうよ。それってマナーじゃないの?
「律が勃ってるの見たら、僕も勃っちゃったし」
 恥じらいも臆面もなく言う海に、僕は軽く眩暈を起こしそうだ。
 海ってこんなにオープンだったっけ? 性に対する興味があるのは知っているけど、ここまで堂々とこんな発言をする人間ではなかったと思うんだけど。
 これは司さんや悠那さんの影響なのだろうか。あの二人、僕達にあまりいい影響を与えないな。自分の欲望に忠実で、素直なところは尊敬するけど。
「見せ合いっこするのもエッチだよね。いつか律としたいって思ってたし」
 もう……それ、絶対悠那さんの影響だろ。これまでも何度か悠那さんに唆されそうになった海は、完全に悠那さん寄りの思考になっているに違いない。前に三人で見せ合いっこしようって悠那さんが言い出した時も、海は戸惑ったものの反対はしなかったもんな。
 悠那さんって何気に影響力が大きいんだろうか。司さんも、悠那さんと似た発言するようになってるし。
「ほ……ほんとにスるの?」
 最早逃げ場を失った僕が、恐る恐る聞き返すと
「うんっ」
 海はにっこり微笑んで、元気良く頷いたのであった。



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