僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Season 2

    離れない(5)

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「ほんっっっとうにっ! 申し訳ありませんでしたっ!」
 俺達が無事救出された後、いろんなところでバタバタと動きがあったけど、事が事なだけに公にはならなかった。
 司達に助けてもらって安心した俺は、気の済むまで大泣きしたわけだけど、落ち着いた頃には俺達の出演時間も迫っていたから、衣装やメイクを整え、とりあえずはステージに集中することにした。
 なんかあまりにも衝撃的すぎる事件だったから、いざ落ち着いてみるとショックというより、夢だった気さえする。そのせいか、不思議とパフォーマンスには全くと言っていいほど影響がなかった。
 それは律も同じなのか、今日の俺達のステージを見て、裏でそんな大事件があったと気付く人間はいないだろうと思った。
 ステージを終え、楽屋に戻ってきた俺達は、俺達の帰りを待っていたAbyssとCROWN――CROWNは俺と律が楽屋を出た後にまた遊びに来ていたようで、俺達を探すのも手伝ってくれたらしい――、さっきまではいなかったBREAKのマネージャーさんに迎えられ、楽屋に入るなり、BREAKのマネージャーさんから深々と頭を下げられたのだった。
 タレントと違って、マネージャーさんは腰が低くていい人そうである。きっと、この人も凄く苦労してるんだろうな。あんなグループのマネージャーで。
「この度のことはなんと言ってお詫びを申し上げたらよいのか……。Lightsプロモーションの大事なタレントさんに手を出した罪。どんな罰でも受けるつもりです」
「はあ……」
 そんな仰々しく謝られても……。こういう場合、なんて答えていいのかわからないんだけど。
「全く! どういう教育をなさってるんですか? 聞けばそちらのグループは日頃から問題が多いというじゃありませんか。こうなる前に、何かしらの指導や対処をするべきだったのではありませんか? 最悪の事態にはならなかったから良かったものの、拉致に強姦未遂ですよ? これはもう歴とした犯罪です。それなりの処分をして頂かなければ、こちらとしても納得いきませんっ!」
 俺達のマネージャーは怒りを押し殺したような怖い顔でBREAKのマネージャーさんを睨み付け、毅然とした態度を見せつける。
 うちのマネージャーは怒るとそこそこに怖い。基本的には俺達に凄く優しいけど、たまに怒られると怖いなって思う。
 美人だから、怒った顔が余計に怖いのかも。
 ちなみに、BREAKのメンバーはここにはいない。既に事務所から強制退去を命じられ、車の中で待機中である。三人を事務所に連れて行く前にせめてもと、マネージャーさんだけが単独で謝りにきているのだ。
「それはもちろんです。処分の一切はそちらの意向に従います。それを誠意と受け取ってもらえれば……」
「わかりました。社長と話し合いの末、改めてご連絡致します」
「はい。それでは……」
 なんか……凄い大事になっちゃってる。
 あんまり素行の良くないグループみたいだから、いつか大きな事件を起こすんじゃないかと思ったけど。まさかそれに自分が巻き込まれるとは思ってなかったよ。
 BREAKのマネージャーさんが出て行くと
「もーうっ! ほんとに許せないっ! うちの大事な子達にっ! でも良かった! 何事もなくてっ!」
 さっきまで毅然とした態度を見せていた俺達のマネージャーは、急に幼い顔になって、俺と律を抱き締めてきた。
 全く何事もなかったわけでもないんだけど、そこはマネージャーに黙っていようと思う。誰の口からも言い出しにくい内容だし。マネージャーに知られることで、もっと事件が大きくなりそうだし。
 でも、いろんな人に心配掛けちゃったみたいで申し訳ないな。
「二人とも本当にすまなかった。同じ事務所の先輩として、あいつらの非礼を詫びさせて欲しい」
 BREAKのマネージャーさんに引き続き、Abyssのメンバーが頭を下げると、CROWNのメンバーまでもが頭を下げてくる。
 どうして悪いわけでもない人達から頭を下げられなきゃいけないんだろう。って気もする。悪いのはBREAKの三人であって、それ以外の人には全然腹を立ててないのに。
 むしろ、AbyssもCROWNも俺達二人を探すの手伝ってくれて、感謝してるくらい。
「僕はともかく、悠那さんが一番の被害者です。僕は悠那さんが必死に守ろうとしてくれて……。悠那さんに嫌な思いをさせてしまっただけですから」
「何言ってるの? 律だって俺を助けようとしてくれたじゃん。お互い様だよ」
「でも……僕のせいで悠那さんは三人掛かりで……」
「そんなこと、律が気にしなくてもいいの。律だって被害者なんだから。マネージャーも言ったけど、最悪なことにはならなかったんだから、それで良しとしよ? ね?」
「悠那さんがそう言うなら……」
 完全には納得できない顔の律だけど、一番の被害者である俺が言うならと、律はそれで納得することにしたようだった。
 実際、律が捨て身になってドアに体当たりしてくれなかったら、俺達の発見はもっと遅れていたかもしれない。そうなると、最悪の事態ってやつになっていたかもしれないんだ。律が罪悪感に苛まれる必要はない。
 ほんとに嫌な思いをしたし怖かったけど、それを引き摺ってしまうのも嫌だった。俺が引き摺ってしまうと、律だってずっと気にするだろうし。
 これが最悪の事態になっていれば、ここまであっさりとした考え方もできなかったんだろうな。ほんと、律には感謝する。
「悠那君。本当にありがとうございました。律を守ってくれて」
「海までやめてってば。これでも俺、年上だから。律や海のことは守ってあげたいってなるの」
「そういうところの正義感は強いっていうか、男前なんだよな。悠那は」
 海から感謝され、陽平からは感心されているのか呆れられているのやら――だ。
「事務所としても、今回の目に余る行為には厳重な処罰を下すと思う。BREAKの素行の悪さにはそろそろ手を打とうとしていたところだしな。活動休止はまず免れないだろうし、解散、及び解雇も検討されるだろう」
「え……」
 一真さんの重苦しい口調に、俺はなんだか違うって気がして顔を上げた。
「どうした? 悠那」
「いえ……あの……」
 何か言いたそうな顔の俺に気付いた朔夜さんに聞かれ、俺はどう答えようかと迷ってしまった。
 今回の件に関して、それなりの処罰は必要だと思う。だってあの三人、それくらいのことはしたわけだし。
 でも……。
「言いたいことがあるなら言ってごらん。この件に関して、うちの事務所は被害者である二人の意思を一番に尊重するよ」
 葵さんにも優しく促された俺は、意を決して口を開いたのであった。



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