僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Season 2

    離れない(2)

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「久し振り~っ! 陽平っ! 二週間振り? 元気にしてた?」
 朔夜さんの言った通り、楽屋に入って間もなく、湊さんがCROWNのメンバーを引き連れて遊びにやって来た。
「お……おう。久し振り」
「何? どういう顔なの? それ」
「いや……うん……」
 二週間振りに会った湊さんに、陽平はなんだかぎこちない様子だった。
 いくらなんでも恥ずかしがり過ぎじゃない? それもう失礼に思える域なんだけど。そこまで照れる必要ある? お互いアイドルとして初めて会うことになるわけだから、実は感動してるってことなのかな。
 でも、せめて笑顔くらい見せてあげればいいのに。
「律。海」
「一学期以来だね、陸。それに京介も」
「まさか二人がCROWNのメンバーだなんて知らなかったよ。言ってくれれば良かったのに」
「びっくりさせようと思ったんだ。二人は夏休みの宿題もう終わった?」
「余裕。一昨日済ませたよ」
「さすが律。優等生。海は?」
「僕も終わったよ」
「どうせ海は律の写しただけだろ?」
「失敬なっ! 写してなんかないよっ! 大体律、宿題写させてくれないしっ!」
「あはは。律ってそういうとこ厳しいもんな」
 CROWNのメンバーの水瀬陸みなせりく君と成宮京介なりみやきょうすけ君は、律や海と同じ学校のクラスメートらしい。ただ、律も海も二人がCROWNのメンバーだとは知らなかったようだから、CROWNのデビューをテレビの前で見た時は、二人とも物凄く驚いていた。あの時の律と海の驚きようは面白かったな。
 うちの最年少組とCROWNの最年少組が同級生っていうのも、なんだか運命的。陽平と湊さんのこともあるし、CROWNとは仲良くできそう。
 残るもう一人のメンバーは羽柴玲司はしばれいじさん。司と同い年の、司と同じくらい背が高い人だった。
「どうも初めまして。リーダーをはじめ、Five Sのみなさんにはうちのメンバーがお世話になってるみたいですね」
 うちのリーダーの司に挨拶をする玲司さんはとても礼儀正しく、爽やかな人でもあった。CROWNってみんな爽やかさんだよね。さすが王子様グループ。
 CROWNのリーダーはグループ最年長の湊さんらしいけど、玲司さんの方が大人っぽいし落ち着いて見える。
 これは後で聞いた話だけど、朔夜さんが言っていた、陽平とトレードしたレッスン生っていうのが、この玲司さんらしい。
 玲司さんはもともと俳優志望だったみたいだけど、アイドルに興味がないわけじゃなかったうえ、アイドルの素質も充分にあるとかで、陽平が移籍する際、Zeus側に求められた人材だったらしい。きっとそのうち俳優業も始めるんだろうな。玲司さんってドラマとか似合いそうだし。
「そうだ、陽平。今日BREAK来てるの知ってる?」
「ん? まあ……一応」
「気をつけろよ? あの人達、陽平がLightsに行ったこと、まだグチグチ文句言ってるから。ま、こっちから近づかなきゃ、向こうから絡んでくることはないと思うけど」
 BREAKのメンバーが陽平のことを快く思っていないことは、湊さんも知るところらしい。心配して忠告してくる湊さんに、陽平の顔がちょっとだけ曇った。
 近づかなくても充分絡んでこられたけどね、さっき。あの時は、朔夜さんがいたから声を掛けてきたんだと思うけど。
「事務所の先輩とは言え、どうもあの人達を好きになれないんだよね。人気はあるけど尊敬できないし。プライベートも荒れてるっていうしさ。陽平も知ってるとは思うけど」
「俺達がレッスン生から特待生になったばっかりの頃にデビューしたからな。噂はいくつか聞いたことある。全部事務所が揉み消したけど」
「うちは品行方正が売りなのにさ。BREAKはそうじゃないから困るよ」
「BREAKの売り方はZeusの中でも異色だから。あんまアイドルを意識したくないんじゃないの? 本人的にも」
「でもさ、それでも一応はアイドルなんだから。私生活くらいはちゃんと管理して欲しいよ」
「そりゃそうだ。アイドルじゃなくても芸能界は人気商売なんだからな。でも、昔はそんなんじゃなかったと思うんだけど……」
「売れたから調子に乗っちゃったんじゃないの? いつか俺達の手で引き摺り下ろしてやる。Abyssの先輩達にも態度デカくてムカつくし」
「まあ……頑張れ」
 陽平と湊さんの話を聞いている限りでも、BREAKが同じ事務所の人間からあまり好かれている感じじゃないのがわかる。
 きっと、CROWNのメンバーも嫌なことの一つや二つ言われてるんだろうな。特に、うちからZeusに移った玲司さんとか。一瞬会っただけの俺でさえ、ガキ臭いって言われたんだから。
 そんな嫌なグループなのに、なんで事務所もほったらかしにしとくんだろう。人気があるから? 王道アイドルじゃないから、素行の悪さにも多少は目を瞑るってことなの?
 でも、そんな問題が多いようなグループじゃ、いつか大きな事件とか起こしそうだよね。俺の知ったこっちゃないけど。
「あ、この前テレビで見た可愛いメイドさん。メイド服着てなくても可愛いね。俺、可愛い子大好きなんだ。握手してもらってもいい?」
「え? あ、うん」
 陽平と湊さんの会話に耳を傾けていた俺は、相変わらず爽やかな笑顔のまま、俺に握手を求めてくる玲司さんに、自然と手を差し出してしまった。
 俺の手を握った瞬間、玲司さんの顔が至福の笑顔へと変わる。そして、それを見た司の顔が怖くなる。
 心配しなくても、俺は司一筋なのに。
 地方ロケから帰ってきた後、司と濃厚なエッチをした俺は、ますます司に首ったけなのだ。
 だって司、俺に
『愛してるよ』
 って言ってくれたんだもん。
 今まで「好き」とか「大好き」って言われたことはいっぱいあるけど、「愛してる」って言ってもらえたのは初めてだったから、俺、泣きそうなくらい嬉しかった。
 もう俺、司以外の人間のことなんて考えられないよ。
「ちっちゃくて可愛い手~。萌える~」
「え……」
 も……萌える?
「あー、ごめんごめん。そいつちょっとオタク入っててさ。美少女とか美少年大好きなんだよ。どっちにも見える悠那なんか完全にストライクゾーンなわけ。でも、単に可愛い子好きなだけだから心配しないで。悠那に邪な感情とか持ってないし、至って人畜無害で安全な奴だから」
「はあ……って! オタクっ⁈」
 戸惑う俺にそう説明してくれたのは湊さんで、俺はその説明に目を剥いて驚いてしまった。
 玲司さんってオタクなんだ。全然そんな風に見えないのに。人って見掛けによらないものだよね。人の趣味や嗜好にケチをつけるつもりはないけど。
「ねえ、陽平。8月最後の日って暇?」
「え? えっとぉ……仕事は入ってないけど」
「じゃあ俺と遊ぼ。今月全然陽平と遊べてないからさ。俺に陽平補充させてよ」
「う……うん。いいけど……」
 再び陽平に向き直った湊さんは、二週間振りに会った陽平に、早速遊びに行く誘いをかけていた。
 陽平は戸惑いながらそれを承諾したわけだけど……。
 一体いつまで恥ずかしがってるの? いい加減にしなよ。せっかく湊さんと会えたのに変な陽平。
 これまでだって、そんな毎日会ってたとかじゃないのに。二週間会わなかったくらいで、そこまでぎこちなくなるもの? 陽平ってたまに凄く謎だよね。
「っと。そろそろ戻らないと。また後で遊びに来るな。俺達トップバッターだから、リハも一番最初なんだ」
「ん。頑張れよ」
「本番もちゃんと見てね」
「当たり前だっつーの。早く行けよ」
「はいはーい」
 デビューしたばかりのCROWNは、今一番勢いがあるといってもいいかもしれない。トップバッターを飾るには相応しいって思う。
 CROWNのステージは楽しみだけど、俺達も負けてられないって感じだよね。特に今日は樹さんに嫌な思いさせられたから、そのぶんステージではっちゃけたい気分だし。
 湊さんじゃないけど、あんな人達に負けたくないって思っちゃうんだよね。
「僕達のリハーサルって何時からでしたっけ?」
「23組目だから結構先だよね」
「タイムテーブル貰ってるだろ。確認しとこう」
「今年もトリはAbyssですね」
「そりゃそうだよ。他にトリに相応しいグループなんていないもん」
「Abyssのステージ凄く楽しみですね。最近、歌番組にあんまり出ないじゃないですか」
「Abyssはテレビに出るよりライブ中心だからな」
 出演者が多いから、リハーサルのスケジュールは結構タイトだ。音源確認や位置取り、照明を合わせて、一回通すくらいで終わりそうな時間しかない。
 リハーサルが終わると観客入れが始まって、その後が本番になる。
 まだリハーサルが始まる前だと言うのに、ドーム全体は早くも熱気に包まれてるって感じだった。



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