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Season 2
好きだけじゃたりない(3)
しおりを挟む「で? どうすんの?」
「どうしよう……」
部屋に戻った俺は、もう自分の部屋に戻ったらしい彰人に少しだけ申し訳なく思いながら、早速陽平に相談してみた。
陽平は、俺がありすさんに告白されてしまったことに驚いた様子だった。でもそれは、ありすさんが俺を好きだということに驚いたのではなく、撮影ロケの間に、俺に告白してきたありすさんの大胆さに驚いたみたいだった。
しかも、これから撮るキスシーンで、実際にキスして欲しいと言われたことには、最早呆れ顔にさえなっていた。
「なんでお前を好きになる奴は、どいつもこいつもそう大胆なの? “エッチしたい”とか“キスして欲しい”とかさぁ。欲望溢れ過ぎてない?」
「知らないよっ! なんでなのっ?」
それはこっちが聞きたい。
「ああ、あれか。お前ぽやっとしてるから、押せば堕とせると思われてるんだろ。お前も来るもの拒まずなところあるし」
「そこは否定しないっ! 確かに、昔の俺にはそういうところがあったと思うっ! そこは認めるっ! だけど、今は違うのにぃ~っ!」
悠那と付き合う前。もっと言えば、悠那と出会う前の俺は、押せば簡単に堕とせる、攻略しがいのない奴だったんじゃないかと思う。実際、過去に付き合ったことがある二人の彼女とも、告白されたからはもちろんだけど、強引に付き合って欲しいと迫られた結果、付き合ってしまったところもあるし。
断っておくけど、一応タイプはタイプだったんだよ? 告白されたから、強引に迫られたから、って理由だけで付き合ったわけじゃないからね? そこは誤解しないで欲しい。
悠那と付き合う前。悠那が好きかどうかもわからない時に、悠那とキスしたり、エッチなことしたのだって、流されやすく、来るもの拒まずな性格故だったと思う。
だけど、今は悠那としかキスしたくないし、しなくていいキスをわざわざしようとも思わない。
それならば、ハッキリ断ればいいと思うのに、ありすさんとの共演がここで終わるわけじゃないということが、俺の中では悩ましいところなのである。
「断ったら気まずくなるよね?」
「そりゃなるだろ。つまりは振るんだから」
「う~……」
ありすさんとは付き合えないけど、ありすさんを振ってしまうことで、今後の仕事にどんな影響が出てくるのかは想像もつかない。朔夜さんはよく、振られた後も悠那と普通に接することができるな。やっぱりあの人は凄い。尊敬する。
「そんなに悩むならキスすりゃいいじゃん。お芝居なんだし」
「それは無理。悠那が悲しむ」
「だったら断れよ。別にお前が悪いわけじゃないんだから」
「そうなんだけどぉ……」
陽平の言う通りである。ありすさんが俺を好きになった理由はよくわからないけど、俺がありすさんを好きになれないのは俺のせいじゃない。そんなこと、ありすさんだってわかってるだろう。
でも、どうしてもその後が……。その後のことがあるから、決断を下せないのだ。
「相手を傷つけずに振る方法って何?」
「そんなものはない」
「だよね~……」
ありすさんを好きになれない。キスもしたくない。でも、ありすさんを傷つけたくない。
この問題に解決策なんてあるのだろうか。全く……ありすさんもどうして俺なんか好きになるんだよ。
「ま、せいぜい誠心誠意込めて振ることだろうな。変に誤魔化したり、嘘ついて逃げようとしないように。自分の気持ちを正直に伝えることくらいじゃね?」
「正直に……ねぇ……」
陽平が言うように、自分の気持ちを正直に伝えるなら
『ありすさんを好きになれません。キスもしたくないです。ごめんなさい』
ってことになるわけだけど。
どう考えても酷くない? 何様だよっ! って話だ。そんなこと、言えるわけないじゃん。
『実は俺、付き合ってる奴がいるんです。だから、ありすさんとは付き合えないし、キスもできません』
なんて言ったとしても、最初に好きな人はいない、彼女もいない、と言ってしまった手前、嘘がバレて傷つけそう。
「うーん……」
結局、何をどう言ったところで、ありすさんを傷つけることにはなりそうだ。そこはもう避けられないのか。
「誰彼構わず優しくしようと思うから悩むんだ。一番大事にしたいものを優先させりゃいいだけの話じゃね?」
「陽平って……ほんと大人だね。さすが、成人した男は違うね」
「俺とお前、一つしか違わないんだけど? 何が大人だよ。成人したのだってついこの間だし。俺にもまだわかんないことくらいいっぱいあるわ」
「そんな風に見えないけど」
「あんのっ!」
「ふーん……」
ありすさんを傷つけることは確定だけど、陽平にアドバイスしてもらったおかげで、少しだけ勇気が出た。
そうだ。俺が一番大事にしたいものを守るためなら、誰かを傷つけることも仕方がないことなんだ。ありすさんを振ることで、今後の仕事に支障が出たとしても、それはそれで対応していくしかないんだよね。
「んなことより、そろそろ風呂行こうぜ。あんま遅くなると旅館の人にも迷惑だし」
「うん。それもそうだね」
今回俺達が泊っている旅館は、出演者と撮影スタッフで貸し切りになっている。そんなに大きな旅館というわけでもないし、旅館なのか民宿なのか……って感じのところではある。
でも、従業員の人達はとてもいい人達で、全部こっちの都合に合わせてくれるみたいだった。食事の時間やお風呂の時間も。
大浴場の前に宿泊者リストがあるらしく、お風呂に入った人はチェックを入れるシステムになっている。全員のチェックが付いているのを確認してから、従業員さんがお風呂掃除をするためだ。
今日は暑かったし、夏の日差しをたっぷり受けたから、みんな帰って来るなりお風呂には入ったんだろうな。俺達が最後だったら申し訳ない。
「おい。手ぶらで出てくんな。着替えは?」
「あ……そうだった」
「ったく。ほんとぼやぼやしてるな、お前は」
「ははは……」
陽平と一緒にいると、ついついここが旅館であることを忘れそうになる俺だった。
着替えを持って部屋から出た俺は、どう言ってありすさんを振ればいいのかと、ずっと考えていた。
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