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Season 2
3Days(3)
しおりを挟む意外なことに、お風呂での水遊びは結構楽しかった。
うちのお風呂はそんなに広くはないけれど、一般家庭のお風呂としては狭いわけでもない。部屋が三つもあるわけだから、一応はファミリー向けの部屋。お風呂も一人用のマンションよりは広い造りになっているのだろう。
陽平さんの部屋から持ってきた水鉄砲以外にも、お風呂場にあった小型の水鉄砲やお風呂で遊ぶためのおもちゃ――これらは全て陽平さんが買ってきて置いている――を使って、ゲームをしたり水を掛け合ったりして遊んだ。
あっという間に一時間くらい経っていて、僕達三人は全身びしょ濡れになっていた。
「あー、楽しかった。今度は司や陽平とも一緒に遊ぼ」
「その時はさすがにどこか行きましょう。ここじゃ狭すぎて危ないですよ」
「そうだね」
言いながら、悠那さんは一度湯船のお湯を抜き、新しくお風呂を入れ直した。
ほぼ水をしこたま頭から被ったせいで、身体は消耗しているし、冷えてもいた。
「もうびしょ濡れだね。早くお風呂入らないと風邪引いちゃう」
「そうですね。律もTシャツ脱いだら? 風邪引くよ?」
「え……ああ……うん……」
お風呂場での水遊びは楽しかったけど、この期に及んでまだ三人で一緒にお風呂に入ることに抵抗がある僕は
「ほらほら。ばんざーいして」
「へ? わぷっ……」
半ば強引に悠那さんの手によって、Tシャツを剝ぎ取られてしまった。
全く……本当にこの人は強引だ。
「え……律って凄く綺麗な身体してるじゃん。これの何が恥ずかしいの?」
まるで追い剝ぎかのように、僕からTシャツを奪った悠那さんは、二人の前に初めて晒されることになってしまった僕の頼りない上半身を、まじまじと見詰めてきたりする。
「そっ……そんなことないですっ!」
自分の身体を悠那さんと海の目がじっくり眺めてくる恥ずかしさに耐えられない僕は、ついつい身体を縮込めてしまう。
綺麗な身体ってなんだよ。
「無駄なお肉とか全然付いてないし、筋トレしてるからちゃんと引き締まってるよ? ちょっと線が細いかもしれないけど、そこがまた綺麗に見えるし」
「そんな……人の身体に真面目な感想とか言わなくていいですよ」
「だって、ほんとのことだもん。俺なんか、最近ちょっとお菓子食べ過ぎて、お腹がぽよってしてきたもん。ヤバいよね」
「そこは自制してください」
なんでお菓子とか食べ過ぎてるんだよ。最初に感じた“柔らかそう”って印象はそのせいか?
そう言えば、最近悠那さんは筋トレサボりがちだよね。司さんが甘やかすからいけないんだ。今度キツく言っておかなきゃ。
「ね? 海も綺麗だと思うよね? 律の身体」
僕がもじもじしている横で、悠那さんは海に同意を求めたりする。
悠那さんに見られるより、海に見られる方が恥ずかしいと思ってしまう僕は、海がどんな感想を口にするのかなんて聞きたくない。聞きたくないけど、気にならないわけではない。
「あ……はい。その……」
いつもなら、嬉々として感想を述べてくるところであるはずの海が、困ったように口籠ってしまうことに引っ掛かる。
(僕の身体が思いの外に貧弱だから、驚きのあまり言葉も出ないのかも……)
なんて思ってしまった僕が、恐る恐る海の顔を見上げてみれば
「っ!」
物凄く熱い視線で僕をガン見している海にビクッとして、思わず目を逸らしてしまった。
(見てる……めっちゃ見てるぅ……)
そんな真剣な眼差しで見られたら、僕の恥ずかしさも倍増して困るのに。
「あれ~? もしかして、律の身体に見惚れて声も出ないの? 可愛いな~、海は」
僕と海の間に何やら気まずい空気が流れる中、悠那さん一人が楽しそうだった。
余計なこと言うな。
「まあ……はい。そうですね。見惚れちゃいました。凄く綺麗で」
悠那さんの冷やかしにハッとした様子の海は、気恥しそうに笑ったりする。
その笑顔をチラッと横目で見た僕は、胸がギュっとなるのを感じた。
(海もこんな風に笑うんだ……)
少し困ったような、照れ臭そうな感じで笑う海の笑顔は初めて見る笑顔で、子供っぽく見えるのに、妙に大人っぽくも見えてドキッとしてしまう。そして、海がそんな笑顔になったのも、僕の裸を見たからだと思うと、僕の顔は熱くなるのだった。
「ほんと、律って自分の魅力に気付いてなさ過ぎ。律は確かに男らしい体格じゃないかもしれないけど、だからって自信が持てないような身体じゃないのに。律のしてる努力だってちゃんと報われてるし、充分自信を持っていいと思う」
珍しく真面目なことを言う悠那さんに、僕はちょっとだけ救われた気持ちになった。
特に、僕のしている努力が報われてるって言われたことは、素直に嬉しかった。
「ぁ……ありがとうございます」
そんな風に言ってもらえたら、“そんなことないですっ!”って言うのも逆に失礼だから、僕は素直に礼を言った。
「そんなわけだから、堂々と一緒にお風呂に入ろうねっ!」
結局はそうなるのかよっ! って話である。
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