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Season 2
第1話 ご奉仕したら初エッチ⁈(1)
しおりを挟む夏休みに入ってすぐ、俺にドラマのゲスト出演依頼がきた。
なんでもこのドラマで主演を務める国民的アイドル、Abyssの月城朔夜さんの
『メイド役? 誰がいいかって聞かれたら……悠那がいいな。Five Sの如月悠那』
という一言で決まったらしい。
そんなことってあるんだ。
出演時間は短いから一日だけの撮影で終わるみたいだけど、初めてのドラマ撮影ということと、憧れの朔夜さんと一緒ということで、俺はかなり緊張してしまっていた。
おまけに
「うぅ……スカート短い。足スースーするぅ。恥ずかしい~……」
役が役なだけに恥ずかしいのも加わっちゃう。
何が悲しくて、男の俺がこんな格好してドラマに出なきゃなんないの? 嫌がらせ? 誰得なんだよっ! って話じゃん。
「お、いいね~。やっぱ可愛い~。ってか、髪の毛黒にしたの? ますますメイド服が似合ってるじゃん。悠那を選んで正解。そんな格好すると、どう見ても女の子にしか見えないね」
肩は丸出し。ひらひらがいっぱい付いた黒のメイド服の下は真っ白なニーハイソックス。という、如何にもな格好に着替えて撮影現場に出た俺は、既に何カットか撮影を終えた朔夜さんから真っ先に声を掛けられた。
夏休みに入った途端、それまで明るい色に染めていた髪を黒に戻した。明るい色に飽きてきたというのもあるけど、司が
『黒髪が一番似合ってて好き』
って言ったのが一番の理由。
自分の恋人に“黒髪が一番好き”って言われたら、そりゃもう“してあげようっ!”ってなるでしょ。
朔夜さんだけじゃなく、他のスタッフさん達にもにこにこした顔で見られる俺は、もう恥ずかしくて泣きたい気分。
「なんで俺なんか指名したのっ⁈ 俺、男なのにっ!」
仕事を貰えるのは嬉しいけど、いくらなんでもこんなのあんまりだよ。俺を指名した朔夜さんにも恨み言の一つや二つ言いたくなる。
朔夜さんは恥ずかしそうにスカートの裾を気にする俺の傍にやって来ると
「俺を振った罰」
俺の耳元で、無駄に色っぽい声でこそっと囁いた。
そう言われちゃうと何も言い返せないじゃん。あと、色気の垂れ流しはしないでいただきたい。
「ところでさ、随分スカート短いけどパンツとかどうなってんの?」
「ちょっ……!」
おそらく、こんな格好なんてしたことないであろう朔夜さんは、ひらひらがいっぱい付いたスカートの裾を摘み、ペラッと捲ってきたりする。
「マジか……紐なの? しかも白?」
「馬鹿っ! エッチ!」
「痛っ……」
思わず手が出てしまった。
だってしょうがないじゃん。衣装と一緒に置いてあったんだもん。
俺だって最初はこんなの穿くつもりなかったけど、俺が穿いてたボクサータイプのパンツだと、スカートの裾からちょっとだけ生地が見えちゃって……。仕方ないから穿き替えただけだもん。
「あはは。ダメだよ? 朔夜君。高校生のスカートなんか捲っちゃ。捕まっちゃうよ?」
「監督~。これ、なんのサプライズ? 悠那にこんなの穿かれたら、俺、悠那のこと襲っちゃうよ?」
「ごめんごめん。悠那君ドラマ初めてって聞いたから。役になりきってもらおうと思って冗談で用意させたんだけど。まさか本当に穿いてくれるとは思わなかったよ」
「だって! スカート丈が短いから見えちゃうんですもんっ! 俺の穿いてたパンツっ!」
「いいねぇ。そういうところに気が遣えるのは大事だよ。可愛いメイドさん、期待してるからね」
撮影現場は和やかな雰囲気だった。朔夜さん以外の共演者の人も優しいし、監督さんやスタッフさんもいい人ばっかり。現場のチームワークも良さそうだった。
このドラマは私立探偵役の朔夜さんがいろんな事件を解決していく推理もののドラマで、去年放送されて人気が出たから、第二弾として今年も放送されることになったシリーズドラマだ。監督さんやスタッフさん、メインの役は引き続き一緒だから、現場の雰囲気も自然と良くなるのかもしれない。
俺の役は朔夜さんが演じる探偵が聞き込みに来るお店の店員役で、セリフはそんなにないけど、とにかく可愛いメイドを演じて欲しいという要望だった。
この話がきた時、俺の恋人の司は物凄く嫌そうな顔をしたけれど、仕事だから仕方ないよね。俺だって好きでメイドの格好なんてするわけじゃないんだから。
実際のメイド喫茶が撮影現場に使われているわけだけど、メイド喫茶に来るのも初めて。凄いピンク色の世界って感じ。まさにお花畑。メルヘン。
リハーサルをして、アドバイスをもらって、何テイクか撮ると撮影は終了した。
「凄く良かったよ。めちゃくちゃ可愛かった。悠那君、全然メイド役いけちゃうね」
「あ……ありがとうございます」
初演技を褒めてもらったのは嬉しいけど、褒めてもらった役がメイドっていうのもなぁ……。ちょっと複雑。
「その衣装あげるよ。今日の記念に。下着も一緒にね」
「~……」
別に欲しくないけど。
でも、パンツは穿いちゃったし、返すわけにもいかないよね。
「それ着て彼氏とセックスするんだろ? やらしいな~、悠那は」
「しないもんっ!」
撮影が終わった後も、朔夜さんは俺に意地悪なことばっかり言う。撮影中は凄く格好良かったのに。
さすが陽平の元先輩って感じ。いい人だし優しいけど、時々意地悪なところがそっくりだよ。
「大体、司とはまだエッチしてないもん」
「え? そうなの?」
「うん」
意地悪なことばっかり言ってくる朔夜さんからプイッと顔を背けて言うと、朔夜さんは意外そうな顔になって聞き返してきた。
そんな顔されても……。事実なんだから仕方ないじゃん。
司に「エッチして欲しい」って言ってるのに。いつまでたってもシてくれないんだよね。勉強中とか言って。ほんとは俺とシたくないのかな。
でも、エッチなことはちゃんとしてくれるし、キスもいっぱいしてくれる。俺のことはちゃんと好きだと思ってくれているみたいではあるけど。
「なんだよ、あいつ。俺から悠那を取り上げておいて、意外とチキンだな」
「司には司のペースがあるのっ! チキンじゃないもんっ!」
自分の彼氏を悪く言われると俺も黙ってはいられないから反論する。
司はチキンなんかじゃないもん。ちゃんと朔夜さんに自分の気持ちをはっきり言えるし。朔夜さんに向かって、俺に二度と手を出さないでくださいって言ってくれたもん。
「でも、悠那はエッチな子だからシたいんでしょ?」
「そりゃまあシたいけど……。って、エッチな子は余計っ!」
「事実じゃん。俺の前で二回もイっちゃったもんな。悠那は」
「それはもう言わないでよっ!」
思い出すと恥ずかしくなる。こんな風に普通に話しているし、傍から見ると仲良しって感じに見えるのかもしれないけど、俺と朔夜さんって危うくエッチしそうになった仲なんだよね。
朔夜さんに憧れていた俺は、単に遊ばれちゃったのかと思ってたけど、朔夜さんはわりと本気で俺のことを想ってくれていたみたいで……。俺はちょっと申し訳なく思ってしまうところがある。
「いつまでたってもシてくれないなら、俺が相手してあげるよ? 悠那のいいところは知ってるし」
「もーっ! さっきからそんなことばっかりっ! 意地悪だよっ!」
「妬いてるの」
「どうだかっ!」
司と付き合うことになった結果、朔夜さんを振ってしまう形になってしまった俺としては胸が痛い。
でも、司と恋人同士になったんだから、今までみたいにふらふら流されてちゃいけないよね。やっぱり大好きだし憧れの朔夜さん相手にも、強気の態度でいかなくちゃ。
「彼氏とシたいならいいこと教えてあげようか?」
「え?」
ここでの撮影は俺の出るシーンが最後だったみたいで、撮影現場は撤去作業が始められていた。
いつまでたっても衣装を着替えに行かせてくれない朔夜さんは、俺の耳元に唇を寄せると、司とエッチする秘訣を伝授してくれた。
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