僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Season 1

    初恋の行方(下)

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 俺の望み通り、朔夜さんは俺にエッチなことをしてくれて、俺は朔夜さんに二回もイかされてしまった。
 一回目は口で。二回目は指で中をぐちゃぐちゃに掻き回されてイってしまった。
 その後もなんか色々された気がするし、喉も痛くなるくらいに喘がされちゃったし、自分でも引いちゃうくらい乱れもしてしまったわけだけど、セックスまではしなかった。
 正直に言うとスる直前まではいった。
 でも、いざ朔夜さんが俺の中に挿入はいってきそうになると、急に怖くなっちゃって。俺は思わず朔夜さんの胸を押し返してしまった。
 それに、頭からどうしても離れない司の顔に物凄く後ろめたいものを感じちゃったんだよね。
 別に俺、司と付き合ってるわけじゃないのに。
 朔夜さんとエッチなことをした後はシャワーを浴びて、朔夜さんの作ってくれた手料理をご馳走になった。
 朔夜さんは料理も上手で、俺のお腹は物凄く満たされたわけだけど……。
 俺、一体何しにきたの? って話だよね。
「じゃあ、悠那は司とエッチなことはしてるけど付き合ってるわけではないんだ」
「はい。まあ……」
「そうそう。敬語遣うのやめてくれない? エッチなことした仲だし。俺、悠那の素の喋り方の方が好きだから」
「えっと……はい。じゃあ、そうする……」
 確かに、エッチなことをしたのに敬語ってよそよそしいよね。大先輩に対して馴れ馴れしいとは思うけど、朔夜さんが嫌だって言うなら敬語を遣い続ける方が失礼かもしれない。俺も敬語を遣うのにはあんまり馴れてないから、遣わなくていいなら遣いたくないし。
 それにしても
「悠那は俺と司、どっちが好き?」
「え? えっとぉ……」
 どうしてこんな話?
 朔夜さんとエッチなことしちゃったし、その流れで司ともそういうことをしているのがバレちゃったわけではあるから、こういう話を振られてもおかしくはないのかもしれない。
 でも、普通は避けそうなものじゃない? 朔夜さんってそういうことは気にしないのかな?
 もしくは、気になるから素直に聞いてくるのかもしれない。
「どっちって聞かれても……。朔夜さんは憧れの人だから無条件で好きだし。司は同じグループのメンバーだから大事だし好き。どっちも選べないよ」
「欲張りだなぁ。そういうところも可愛いけど。なら、俺と司、どっちにシてもらう方が気持ち良かった?」
「えぇっ⁈」
 そんなことまで聞いてくるの⁈ 朔夜さんって大胆っていうか、ちょっと子供っぽい?
「ねぇ、どっち?」
「~……」
 どっちと言われても……。全然別物みたいな感じがしてどっちがどうかわからないよ。
「朔夜さんは大人っていうか、凄く手慣れてる感じで圧倒されちゃって気持ち良かった。司は……俺に凄く優しくしようとしてくれるのがキュンってなるから、そういうところに感じちゃう」
 朔夜さんに比べると司はちょっと覚束ないところがあるし、不慣れなところもあると思った。でも、そこが逆にキュンとしちゃうんだよね、俺。
 それに対して朔夜さんはもう……なんか凄かった。俺、圧倒されっぱなしだったし“こんなことされたことないよ!”のオンパレードだった。与えられる刺激にどうしていいかわからなくて、始終泣きそうだったもん。
 そういう意味では朔夜さんにシてもらう方が気持ち良かったのかもしれないけど、俺、司にシてもらうのも凄く好き。
(…………あれ?)
 俺、司とエッチなことするのって性欲処理の一つとして考えてたんだけど……。司より圧倒的なテクニックを持ってる朔夜さんにシてもらっても“どっちも選べない”って思うのはどうしてなんだろう。性欲処理の一つとして選ぶなら「朔夜さん」ってなるんじゃないの?
「最後の質問。俺は悠那が嫌じゃないなら悠那と付き合いたいと思ってる。俺と付き合ったら司とエッチなことなんてさせないけど。どうする?」
「え……」
 そ……そんな質問ってあり⁈ っていうか、朔夜さんは俺と付き合うつもりがあったの⁈ 本気で⁈ 俺があんまりにもチョロ過ぎるから、てっきり遊ばれたんだとばかり思ってたのに。
 憧れの朔夜さんにそう思ってもらえるのは凄く嬉しいと思う。それはもう、こっちからお願いしたくなるくらいに嬉しいと思う。その気持ちに嘘はない。でも、朔夜さんと付き合うことにしたら、司とそういうことができなくなる。
 そりゃそうだ。恋人がいるのに他の人とそんなことしたら浮気になるわけだから。
 俺は朔夜さんに憧れてるし、同じ男の人と付き合うなら朔夜さんみたいな人がいいとも言った。朔夜さんのことは本当に好きだし、これからもずっと憧れの人であり続けると思う。この先もずっと、変わらず好きなままだという自信もある。
 それなら、朔夜さんと付き合えばいいじゃん。って思うし、それが俺の望みなんじゃないの? って気がしなくもないのに……。
(あ……そうか……)
 朔夜さんは俺の憧れの人。それは事実で変わらない。でも、俺は朔夜さんのことを“憧れの人”として好きなだけなんだ。そのことに今気が付いた。
 そして、俺が心の中で求めている本当に好きな人は……。
 ピンポーン
「えー? 誰だろう」
 今まで全く気付かなかった感情に少しずつ気付き始めた俺は、動揺すると同時に物凄く恥ずかしくなってきた。
 だって……この気持ちが本当なら、俺が今までしてきたことってめちゃくちゃ恥ずかしくない? 俺、好きな人に「エッチなことして」って頼んでたってこと?
 それより前は、キスしようとしない同盟結んだり「そういう意味で好きじゃない」とか言ったり「ファーストキスを奪った責任取って」なんてことも言ったよね?
 なんかもう……やりたい放題、我儘三昧していたような……。
「あれ? 葵だ」
 部屋の中からモニターを覗く朔夜さんは、一階のエントランスではなく、玄関の前に立っている葵さんの姿に驚いた様子だった。
 でも、俺が驚いたのは葵さんの姿ではなく、その奥に見える陽平と司の姿だった。
「開けて~」
「ちょっと待ってて」
 ちょっと困ったように笑う葵さんに朔夜さんは玄関へと向かう。
「え……待って。嘘……どうしよう……」
 葵さんと一緒にやって来た陽平と司の姿に俺は激しく狼狽えた。
 なんで二人がここに?
 そうか。俺が朔夜さんと一緒ってことは律が知ってるんだよね? 律から聞いてここに来たってこと?
 玄関のドアが開く音がしたと同時に部屋の中に入って来た足音に、俺はどこか隠れる場所を探してしまう。
「悠那っ!」
 最初にリビングに入ってきたのは司だった。
 司は結局どうしていいかわからないまま突っ立っている俺に駆け寄ると
「何やってんの⁈ 心配するじゃんっ!」
 俺をぎゅぅっと抱き締めてきた。
 俺の胸がキュンってなる。
「も~。高校生拉致らないでよ。おかげで僕、陽平から物凄い鬼電攻撃されたんだからね?」
「すみません。司がどうしても朔夜さんのところに連れてけって言うんで。他の先輩にも電話したんですけど、仕事中で手が離せないって」
「拉致ったわけじゃないんだけどなぁ。ちゃんと律に言ったよ? 悠那を連れてくって」
「それは拉致ってるでしょ。いきなり連れ去ってるんだから」
 司に抱き締められたまま三人の会話を耳にした俺は、三人がここに来た理由を知った。
「司……」
 俺のことが心配でここに来たってこと? どうしよう……嬉しい。
 たった今、司への気持ちを自覚したばかりの俺は、司が俺を迎えに来てくれたことが凄く嬉しい。
 でも、その前に自分がしたことを思い出すと急に青ざめてもしまうのだった。
 ど……どうしよう……。俺、朔夜さんとエッチなことしちゃったよ。なんならセックスする一歩手前までいっちゃったよ。これって非常に不味くない?
「勝手にうろちょろしないで。心配で死にそうになる」
「ごめん……なさい……」
 俺を抱き締める司の腕に力が入り、もっと強く抱き締められた。
 そんなに心配してくれたの? って思うと、泣いちゃいたい気分になる。
 同時に罪悪感も凄いけど。
 今になって後悔してるけど、司への想いに自覚がなかった時のことだし、仕方ないと言えば仕方ない。朔夜さんとそういうことしたから、司への気持ちに気付けたところもあるし。
 でも、俺が朔夜さんとエッチなことしたって知ったら、司は俺のこと軽蔑するよね? 呆れ果てて、俺のことなんかもう心配してくれなくなるかもしれない。せっかく司への気持ちに気付けたのに、俺、司に嫌われちゃうかもしれない。
「人の家で見せつけないで欲しいんだけど?」
 いつまでも俺を抱き締めたまま離さない司に、朔夜さんの方が呆れた顔になって言ってきた。
 俺、司だけじゃなく朔夜さんにも呆れられてるかもしれない。朔夜さんとあんなことした後に、別の人の腕の中にいるとかさぁ……。ほんと、律の言う通り尻軽ビッチのすることじゃん。尻軽もビッチも良くない。
 朔夜さんの声に司の身体がピクッと反応して
「こいつに何かしました?」
 司は挑むような目で朔夜さんを見た。
 ああ……これはもう親睦会の時と同じ感じ。同じ流れ。
 でも、今回は何かしようとしたとかじゃなくて、ほんとに何かしちゃった後だから更に酷いことになるのでは? 修復不可能なことになっちゃったりする?
 もーっ! 俺ってほんと馬鹿っ! なんでこんなに流されやすいのっ⁈ 自分で自分が嫌になっちゃうっ!
「何かしたって言われたら、何かしたって答えるしかないかな。悠那ってさ、物凄く感じやすくてエッチな身体してるんだね」
 終わった……。俺、絶対司に嫌われた。さようなら、俺の初恋……。
「あ、でも誤解しないでよ? 無理矢理とかじゃないんだから。ね? 悠那」
「ぅ……うん……」
 そこで同意とか求めてくるの? 朔夜さんって意地悪だ。陽平といい朔夜さんといい、俺の周りには意地悪な人が集まる運命なの? アイドルになる前はこんな意地悪されたことなんてないのに。
「……そうですね。朔夜さん相手なら悠那は嫌がらないと思います。むしろ悠那の方から言い出したんじゃないですか?」
「え……」
 司の言葉に俺は一瞬耳を疑った。
 司……俺のことそんな風に思ってたの? 俺が朔夜さん相手なら嫌がらないどころか自分から誘うと思ってたってこと?
 だったら司は最初から俺のことなんか心配してないじゃん。じゃあなんで来たんだよ。俺がそういう奴だと思ってるなら、俺のことなんかほっとけばいいじゃん。
「へー……怒らないんだ。俺が悠那に手を出すのも想定済みみたいだし」
「朔夜さんと二人っきりなればある程度は。悠那が自分からそうして欲しいって言ったなら、俺に朔夜さんを怒る権利もないですし」
 なんだよそれ。なんか別の意味で泣けてきた。司は俺のことなんか全然好きじゃないってよくわかったよ。
 そりゃそうだよね。最初から言ってたもん。俺のこと、恋愛的な意味で好きじゃないって。同じ男に欲情する自信がないとも言ってたし。俺のことは性欲処理の相手としか見てなかったってことなんだ。
 でも……だったら最初から手なんか出さないで欲しかった。優しく扱ったりしないで欲しかった。なんで俺のこと迎えに来たりするんだよ。俺に優しくしたりするの? 司が俺に優しくするから、俺、司のこと好きになっちゃったのに。
「っ……」
 悔しくて涙が出る。なんで俺、司のこと好きになっちゃったんだろう。一度好きって自覚したら、好きって気持ちがどんどん溢れてきちゃってもうどうしようもないのに。
「でも……」
 泣いてることに気付かれたくなくて俯いてしまう俺は、いきなり司の手に顔を強引に上向きにされると、そのままキスをされた。
 司からのキスを唇に感じた瞬間、俺は今までで一番胸がときめいたのを感じた。
 なんで……キスするの? 司は俺のことなんか好きじゃないんじゃないの?
「これは俺のです。二度と手なんか出さないでください」
 みんなの前で俺にキスした後、司はキッパリとそう言った。
 え……ちょっと待って? それ、どういう意味? これ? 俺の? え? “これ”って俺のこと?
「これって……俺のって何? 物扱いしないで。どういうこと?」
 あまりにも突然のことに涙も引っ込んだ。混乱し過ぎて腹も立った。
「え? いや……だから……悠那を人に渡したくないなぁ~……って」
 さっきまでクールにしてた司は、怖い顔の俺に突っ込まれてたじろいだりする。
 なんでそこでたじろぐの。ちゃんと説明してよ。俺がわかるように。
「お前が朔夜さんに連れて行かれたって聞いて、司は初めてお前のことが好きだって気付いたんだってさ」
「…………は?」
 しどろもどろになる司の代わりに陽平が説明してくれた。
 え? 司って俺のこと好きなの?
「だから俺は最初っから言ってんじゃん。好きなの? どうなの? って。付き合うならさっさと付き合えとも言ってやったのにさ。なんでこうなるまで気付かないの? ほんと馬鹿。鈍感。大体な、はたから見たらお前ら完全に好き合ってんだけど?」
「……………………」
 そ……そうなの? でも待って? じゃあさっきまでの司の発言は? 俺を軽蔑してたとかじゃないの?
「ごめん、悠那。俺、めちゃくちゃ鈍くて全然気付かなかった。考えてみたら、悠那のことを可愛いって思ったり、大事にしてあげたいって思う時点で悠那のことが好きってことなんだよね」
「……………………」
「そもそも、キスしたりエッチなことするのだって好きだからするものだし。悠那に欲情しちゃうのも悠那が好きって証拠なんだよね」
「……………………」
「悠那が朔夜さんにキスされるのが嫌だと思ったことも悠那を誰かに取られたくないからで、悠那が朔夜さんに連れて行かれたって聞いた時、悠那が朔夜さんに何かされたらって思うと居ても立っても居られなくなった」
「……………………」
「それで俺、悠那のこと好きじゃんって気付いた」
「……………………」
「悠那?」
「……………………」
 ああ……もうほんと……俺達ってほんとにもう……。
「何それっ! 司の馬鹿っ!」
「悠那⁈」
「嫌われたかと……思ったのにぃ~……」
 俺の涙腺は崩壊した。
 司も司だけど俺も俺だよ。俺達って二人揃って超鈍感だし、呆れるくらいに馬鹿なんだ。
 でも
「嫌いになんてならないよ。むしろ好き。大好き」
「俺も~……大好き、司ぁ~……」
 司と出逢い、同じ部屋での共同生活を始めてから一年弱。紆余曲折あったけど、俺と司はこうして両想いになった。
「何これ。俺、振られてんじゃん。俺の家で何事なの?」
「あはは~。悠那君もやるね。国民的アイドル月城朔夜を振り回した挙げ句、振っちゃうなんて。よしよし。今日はお兄ちゃんが慰めてあげるよ~?」
「ほんと、お騒がせしてすみません」
 陽平、朔夜さん、葵さんの見守る中、俺の初恋は見事に実ったのであった。


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