僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

文字の大きさ
上 下
26 / 286
Season 1

第20話 曖昧な関係

しおりを挟む
 


「んっ……ぁ、ん……司ぁ……」
「悠那……気持ちいい?」
「ぅん……っ……気持ち…ぃ……」
 あの一件があって以来、俺と悠那は時々そういうことをスる仲になっていた。
 一人でスるより二人でスる方が気持ちいいと知った悠那は思った以上に積極的で、俺が誘うというよりは悠那からおねだりしてくるって感じだった。
 今夜も
『司……シたいんだけど……ダメ?』
 とか言われて。
 ダメなわけないじゃん。ってか、そんな可愛くおねだりしてこないで欲しい。ただでさえ最近は仕事中も思い出しそうになってヤバいのに。
 俺の中のエロカワ悠那コレクションが増えたら増えただけ、性欲コントロールが難しくなるんだよ。わかって。
「司……キス……キスして欲しい……」
「ん……悠那は好きだね。俺とちゅーするの」
「うんっ……好き……キス好き……」
 濡れた悠那の唇を吸い上げると、俺の手の中の悠那がピクンッ、と反応する。
 いちいち反応が全部可愛い。ほんとどうしてくれようかな。
 エッチなことは時々するけど、さすがに後ろを使ったセックスはしていない。やっぱりそこは勇気がいるっていうか……そこまでしなくても充分気持ちいいしいいかな? って思っている。
 俺と悠那は付き合ってるわけでもないし。
 悠那の方もそこまでは求めてこないから、俺達の関係は見せっこや触りっこより一段階上の“エッチなこと”をする仲に留まっているわけだ。
 海に言わせればこれも立派な性行為らしいけど、俺の中での性行為は肉体的繋がりを持つセックスというイメージだから、悠那としていることが性行為ともあまり思ってはいなかった。
 とはいえ
「司っ……もっと……もっとがいぃっ……」
 このエッチで可愛い悠那が一体いつまでこの行為だけに満足しているのかがわからない。そのうち更なる快楽を求めてくる日が来るのではないか……と、そう思っている。





「あのさぁ……いい加減にしてくんない?」
 翌朝。高校生達を送り出した俺は、さっきからずっと物言いたげな顔で俺を見ていた陽平に開口一番にそう言われた。
「えっと……何が?」
 一体何をいい加減にしたらいいのかな?
「今週二回目じゃね? なんか間隔狭くなってない? 大丈夫?」
「ああ……」
 なんのことかと思ったら。俺と悠那が二人エッチするのをいい加減にして欲しいわけか。
「だって悠那が誘ってくるから……」
「誘われたからってホイホイ乗んなよ。ゴキブリか? お前は。お前らがおっぱじめると、律と海が俺の部屋に逃げ込んで来るんだよ。律なんて毎回泣きそうな顔になってんだぞ? 可哀想だとは思わないのかよ」
「それは申し訳ないと思うんだけど……俺も男だから」
「反省の色が一切ないじゃん。震えるわ」
 申し訳なさそうに頭を掻くけど、反省しているようには見えないらしい。
 悪いとは思ってるんだけどな。特に律には。
「せめてもうちょっと気を遣えよ。共同生活してんだからさ。声を抑えるとか回数減らすとか。なんかやりようがあんだろ」
「俺もそう思うんだけどさ。悠那の声が可愛いからついつい聞きたいって誘惑に負けちゃうんだよね」
「今度マネージャーに頼んで防音グッズでも買ってもらおうかな」
「あ、それいいね」
「いいね、じゃねーんだよっ! 反省しろっ! 改めろっ! 自重しろっ!」
「はーい……」
 怒られた。そりゃ怒られるか。
「で? まだ付き合ってないの? いつ付き合うの? 付き合うならさっさと付き合っちまえよ。面倒臭いから」
 俺と悠那が付き合うことに反対する気は更々ないらしく、むしろ最近は勧めてきている節さえある陽平。律と海が付き合っていることを知ってグループ内恋愛に寛大になったんだろうか。
「それなんだけど……俺も悠那も今の状況に満足しちゃってるところがあって、付き合うとかまで考えてないんだよね。だってさぁ、付き合ったりすると別れた時に嫌じゃない? 同じグループ内にいるのに」
「知るかっ! 別れるの前提みたいに言うなよっ! そんなことしておいて平気で仲良しアイドルしてる方が怖いわっ! 頭湧いてんの? なんなの? お前らっ!」
 正直なところを素直に告白する俺に陽平は猛反発してくる。そして
「はぁ~……」
 あからさまな溜息を吐いたりする。
 そもそも、俺も悠那も自分達のしていることは見せっこや触りっこの延長みたいなもので、恋愛的行為だとは思っていない。あくまで性欲処理の一貫として考えているから“付き合おう”ってならないし、“好き”ともならないのかもしれない。
「お前さぁ……そんなことしてっとそのうち悠那を誰かに取られちまうぞ? いいの?」
「誰かって? 誰に?」
「朔夜さん……とか」
「……………………」
 しばらく忘れていた名前を急に出され、俺はちょっとだけムッとした。
 そういえばあの人、悠那にはかなりご執心みたいな感じだったよね。本気かどうかは知らないけど。
「日本を代表する国民的アイドルのメンバーが、デビューしたばかりの高校生アイドルと付き合うの? それも男と」
「逆にバレにくいだろ? 男同士の方が。一緒にいたって不自然じゃないし。現にお前と悠那のことや、律や海のことだって誰も疑ってないじゃん」
「それは同じグループのメンバーだからじゃない? Abyssのメンバーと俺達が一緒にいたらやっぱりちょっと不自然だと思うけど」
「言い訳なんていくらでもできるよ。男同士ならな」
「……………………」
 陽平の言葉には一理ある。確かに、どんなに不自然に見えようと男同士なら
『仲良しなんです』
 の一言で済まされちゃうと思う。Abyssのメンバーとは共演したこともあるし、いざとなったら陽平の名前を出せば仲良くなった経緯も明確になるだろうし。
 でも、だからってそんなことになるかな。朔夜さんにしたって、ただ悠那が可愛いから構って甘やかしたいだけなんじゃないの? 言ってみれば俺と似たような感じなんじゃないかと思う。
 あ……でもそれじゃ不味いのか。俺と似たような感じってことになると悠那ともそういうことができちゃうわけだから。悠那の方も朔夜さんに迫られたら簡単に堕とされちゃうよね。
 もしかしたら、自分から「エッチしたい。セックスして」とか言い出しかねない。それは嫌。
「朔夜さんって悠那に本気なの?」
 気になるから聞いてみると
「さあ? わりとマジかもって話しか聞いてない」
 という返事。
 わりとマジって? それ、一体誰情報? ソースはどこ? え……朔夜さんって本気で悠那を狙ってるの? 冗談とかその場のノリとかじゃなくて?
「っつーかさぁ、お前も男としての責任みたいなもんはないわけ? いくら一つ違いって言っても悠那はまだ高校生なんだぞ? それも初恋もまだなお子様なんだぞ? その悠那に手を出しておいて性欲処理のためだけの関係ってさぁ……さすがにクズ過ぎると思うんだけど」
「だって……悠那がそれでいいと思ってるみたいだから……。それに、悠那は女の子ってわけじゃないから責任って言われても……」
 もし、悠那が俺と付き合いたいって望むなら俺だって考える。ちゃんと考えるし、付き合うって選択をするかもしれない。
 でも、悠那の方が性欲処理だけの関係を望んでいるようにも思えるんだよね。
「お前が彼女に振られた理由がなんとなくわかるわ。お前さ、基本的に受け身すぎるんだよ」
「そう言われるとそうなのかも。でも恋愛って一人じゃできないし、俺は自分より相手がどうしたいかを優先させたいと思っちゃうんだよね」
「それは随分とお優しいな。だけど、それってあんまり良くないと思うぞ?」
「そうなのかなぁ……」
 自分が相手にどうしたいかとか、何を望んでいるのかを伝えるのは苦手だった。相手を傷つけるのが怖かったし、嫌われるのも嫌だったからだと思う。
 陽平の言う通り、俺は基本的には受け身な人間なんだと思う。
 だから、悠那に感情を左右されることには戸惑いを覚えるし、身体が勝手に動く現象にも困惑することがある。
「彼女とスる時もそんな感じだったわけ? 自分からこうしたいとかじゃなくて、彼女にどうしたいか言わせてたの?」
「え? 俺、彼女とはシたことないけど?」
「…………は?」
 どうやらそこのところを誤解されているようだから訂正しておいた。
 彼女持ち=経験者。ではないことを陽平は知っておいた方がいいと思う。現に俺と元カノより交際期間が長い律と海も、セックス経験はまだ無いわけだし。
「え? どういうこと? シたことないって……。え? 司、お前……童貞なの?」
「うん」
 別に隠すようなことでもないから素直に認めると、陽平は信じられないとでも言わんばかりに目を見開いた。
 だから、彼女持ち=経験者じゃないんだって。
「おまっ……! 女とヤるより先に悠那とヤってんの⁈」
「ヤってるって言わないでよ。れてないんだから」
「いやいやいや。そういう問題?」
「それを言うなら悠那だってそうなるじゃん」
「あいつはいいの。手遅れ。多分もう女と付き合えねーから」
「なんで?」
「シてもらうのがくなってる時点で女抱けないだろ」
「そういうもの?」
「そういうもんじゃん? お前が悠那をそっちに目覚めさせちゃったんだよ」
「えー……」
 そういう言われ方をしたら、確かに責任を取らなきゃいけない気持ちにもなってくる。
 でも、もしかしたら物凄くSっ気の強い女の子もいるかもしれない。自分がイくより相手をイかせる方が好きとか。そういう相手なら悠那も付き合えると思う。
 悠那が女の子に攻められて可愛く喘ぐ姿は想像したくないけど。
「マジか……彼女がいたって聞いたからてっきり……」
「前から言おうと思ってたけど、なかなか言うタイミングがなかったんだよね。隠してるつもりもなかったけど」
「あー……でもだからなのか? お前が性的行為に音痴っつーか、どうしてそうなるの? ってことすんの」
「さあ? それはどうだかわかんない」
 性的行為に音痴って言われた。音痴なのかなぁ……。自分ではわりと普通だと思ってたけど。
「悠那とやらしいことして女に興味がなくなったとかはないの?」
「それは多分大丈夫。もし今彼女ができたら普通にシたいってなると思う」
「そうか……」
 俺は元々そんなに積極的に恋愛しようってタイプの人間じゃないから、普段は女の子とセックスしたいって感じにもならないんだけど。彼女ができれば別だと思う。悠那とエッチなことをし始めてから性欲も前より強くなったと思うし。
 同性相手のセックスには積極的になれないけど、相手が異性ともなれば積極的になるだろう。
「いっそのこと彼女でも作ったら? バレないようにこっそりと」
「作ろうと思って作れるもの?」
「このまま悠那と曖昧な関係を続けるのも良くないと思うんだよ。女に興味がないわけじゃないなら彼女を作るのもありなんじゃね? って話」
「彼女ねぇ……」
 そう簡単に作れるものではないと思う。バレた時も面倒臭い。そもそも出逢いの場だってそんなにないし。
 歌番組の収録で女の子のアイドルグループと一緒になることはあっても、基本的には向こうもこっちもグループ同士で固まっているからあんまり交流とかないし。挨拶する程度で終わるのがほとんどなんだよね。
 個人的に交流できるとなると、俺が今任されているランキング番組で一緒にMCを務めるありすさんになるけど……。
 ありすさんはなぁ……。付き合いたいってちょっと思わないんだよね。
 ありすさんの誕生日パーティーがあった後、酔っ払って俺に絡んでしまったことを後悔したらしいありすさんは、俺にめちゃくちゃ謝ってきた。
 確かにベタベタされたのはちょっと焦ったし、面倒臭いとも思ったけど、酔っ払っていたことを考えると仕方ないって気持ちもあるから快く許してあげた。
 でも、その後から妙に親しげな感じになられちゃって、俺はちょっと困っていたりする。
 スタッフからも
『あれあれ~? 最近なんか親密だねぇ。もしかしていい感じなの?』
『お似合いだから付き合っちゃいなよ』
 と囃し立てられたりして、俺は苦笑いするしかないって感じ。
 ありすさんのマネージャーさんからも
『仲良くしてあげてくださいね』
 なんて頼まれるし。
 俺、なんかありすさんに気に入られるようなことしたのかなぁ……。全然身に覚えがないんだけど。
「橋本ありすとかどうよ。共演してるしいけるんじゃね?」
「それ、今ちょうど考えてたとこ」
「で?」
「……無理」
「あっそ。お前の女子のストライクゾーンってほんと狭くね?」
 別にストライクゾーンが狭いわけじゃないと思う。元カノだってめちゃくちゃ可愛かったってわけでもないし。
 ただ、フィーリングっていうか、相性? この子なら付き合ってみたいっていうのがなかなか無いだけなんだと思う。





 陽平の言うように、彼女を作った方がいいのかどうかであれこれ考えているうちに日が暮れて、夕方になって帰って来た律と海に
「あれ? 悠那は?」
 と聞くと――。
「それが……学校帰りに朔夜さんに連れて行かれました。この前のお詫びがしたいって。今日中には帰すから司さんに伝えてくれって言われたんですけど……」
 戸惑いながら答える律に、俺の足は無意識のうちに床を蹴っていた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

父のチンポが気になって仕方ない息子の夜這い!

ミクリ21
BL
父に夜這いする息子の話。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

処理中です...