僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Season 1

第19話 Best Friend

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 ドラマの撮影もクランクアップを迎え、しばらくはFive Sの仕事だけになった俺は、勇気を出し、久し振りに懐かしい相手に電話を掛けることにした。
 一年以上音沙汰のなかった俺から今更連絡される相手は、さぞかし素っ気ない態度を取るんだろうと覚悟していたけれど――。
「陽平~」
 電話に出た時と同様、湊は何一つ変わっていない様子だった。
 背は少し伸びて、顔つきも大人っぽくはなっていたが。
 俺は電話で話すだけのつもりだったのに、結局“会おう”という話になり、電話を切った一時間後、俺はこうして湊と再会することになったわけだ。
「ひ……久し振り……」
「ほんとだよ。俺、全然連絡してきてくれない陽平にマジで凹んでたんだからな」
「ごめん……」
 待ち合わせ場所に現れた湊に俺はまず謝ることしかできなかった。
 そんな俺を
「こうして連絡してきたから許す。もう無視とかすんなよ」
 湊は快く許してくれた。
 別に無視してたとかじゃないんだけど……。
「昼飯食った?」
「まだ」
「俺も。なんか食いに行こ。腹減ってんの」
「うん」
「陽平は食べたいものある?」
「いや。別に」
「じゃあさ、俺が気になってる店に行ってもいい? 新しくできたハンバーガー屋さんなんだけど、めちゃくちゃ美味しそうなんだよね」
「いいよ」
 電話では普通に話せたけど実際に会ったらもう少しギクシャクすると思ったのに。湊は本当に昔のままだった。昔のノリで俺に接してくれた。
 それが俺は嬉しいし、泣きそうになってしまう。
 先日、久し振りに再会したAbyssの先輩達の時もそうだけど、俺って案外涙腺弱いのかな。ちょっと恥ずかしい。
「ん? ちょ……なんで泣きそうな顔してんの? せっかく久し振りに会ったんだから笑おうよ。俺、陽平のこと全然怒ってないよ? 連絡してくれないのは寂しかったけど、陽平の性格考えたら仕方ないなって思ったし」
「だってさ……」
「はいはい。“だって”は禁止。俺、陽平と楽しく飯食いに行きたいの。しんみりするの無しな」
「……わかった」
 こういう奴だ。湊って。いつも底抜けに明るくて、底抜けに優しくて。でも、自分の中で絶対譲れないものとかあって格好いい。
 湊の明るさに引っ張り上げられるような感じがした俺は、いつまでもうじうじするのはやめようと思った。
「そうだ。デビュー決まったって聞いたけど」
「うん。8月。8月10日。陽平の誕生日と一緒だな。運命っぽいでしょ?」
「俺の誕生日は関係ないだろ。グループ名は?」
CROWNクラウン。王冠って意味なんだぜ? 格好いいだろ」
「王冠?」
「コンセプトは王子様な四人だから」
「四人グループなんだ」
「そう。Five Sにだってちゃんとグループ名に意味あるじゃん?」
「まあ」
「Five はそのまんま数字の5だよね。Sの意味がstarと、えっと……」
「star、special、shine、sense、sweet」
「そう、それ! 格好いいよな。五個も意味がるのって」
「五人グループだから“5”には拘ってるんだよ。デビュー日も5日だし」
「だよな。それもそっか」
 湊と並んで歩く道は会話が途切れることがなかった。一年以上も会ってなかったから話すことも話したいことも山のようにあったんだろう。目的の店に着いて注文を済ませた後も、話は全く尽きることがなかった。
「あ……ところでさ、この前Abyssの先輩達と親睦会したんだってな」
「え? あ……うん」
 一通りの近況報告が終わる頃には、お目当てのハンバーガー(結構なボリュームだった)も食べ終わり、お互い知りたかった情報のやり取りが終わると、湊は思い出したように言ってきた。
 あの親睦会は楽しかったは楽しかったんだけど……。ちょっと不味い場面もあったから俺としてはあまり湊に知られたくないと思ってしまう。
 先輩達には後日改めて謝罪したし、先輩達の方も謝ってくれたからわだかまりが残っているわけじゃないけどさ。
 司と朔夜さんは別として。
「なんか大変なことになってたりすんの? お前のとこ」
 先輩達から何を聞いたのやら。湊はちょっと心配そうな顔になって聞いてくる。
 大変と言えば大変なのかもしれないけど、当の本人達があまり大変だと思っていないみたいだから俺もあんまり気にしないようにしている。
 っていうか、気にしたくないし考えたくもないんだよな。意味わかんな過ぎて。
 先輩達と親睦会があった日の夜。俺は司と悠那のことが気になってはいたものの、あえて口を出さないようにしていた。二人とも話し合うつもりでいたみたいだし、俺が口出しすることでもないと思ったし。
 一人のんびりと部屋で寛いでいた俺は、いきなり部屋に飛び込んで来た律と海にびっくりした。理由を聞いても二人とも話したがらなくて、だったら……と、司達の部屋に行こうとすると二人から物凄い勢いで止められた。
 さっぱりわけがわからない俺は、翌日、仕事終わりに司を捕まえて、外で夕飯を食べながら話を聞くことにした。
 その結果、事態が更に悪化というか、とんでもない方向に進んでいることを知り頭を抱えてしまったわけだ。
 何やってんの? なんでそうなんの? っていうか、それもうセックスしてるのと何が違うの?
 突っ込み満載な司の話を聞いた俺は、呆れを通り越して悟りが開けそうなくらいだった。
 エロそう、ビッチ臭いと思っていた悠那はやっぱりエロビッチで、クズなのか? と疑問を抱いていた司は男としてはやっぱりクズ野郎だった。
 しかも、そんなことまでしておいてまだ“好きかどうかわからない”とか、“付き合ってない”とか言うもんだから、もう勝手にしろよって話。
 なんで付き合ってる律と海より付き合ってもいない司と悠那の性生活が乱れるんだよ。律と海を見習え。と言いたい。
「大変っていうより、意味わかんないって感じ」
 湊がどこまで知っているのかがわからないからどう答えるべきかで悩んだ。でも、司と悠那がキスした話は聞いているんだろうな。
「悠那だっけ? 確かにあの子可愛いもんな。俺もちょっと“お?”ってなった。うちの朔夜先輩もかなり気に入ってるみたいだし」
 やっぱり知ってるみたいだ。まあ、湊がその話を誰かに言い触らすとは思わないし、先輩達も話す相手は選んでいるだろうから、事が公になるとは思わないけど。
 そもそも原因は朔夜さんにあったわけだから、公になったらそこも公になっちゃうよな。先輩達が自分で自分の首を絞めるようなことをするはずがない。
「朔夜さんも悪ノリし過ぎ。司は悠那のことスゲー可愛がってるからさ。悠那が朔夜さんにキスされると思ってついあんな行動に出たんだろう」
 あえて恋愛云々という話には持っていかない。実際、恋愛云々という話にはなっていないし。
 それに、うちには律と海というリア充カップルが既に存在している。今のところ二人の関係はメンバー以外の誰にも知られていないし、疑われてもいない。が、万が一にもそれが先輩や湊達に知られてしまった時にはどうよ。益々“うちのグループどうなってんの?”って話だろ。
 だから、司と悠那のことも一時の気の迷いとして片付けてしまいたかった。
「それがさ……朔夜さんわりと本気みたいなんだよね。あの後“譲るんじゃなかった。なんで譲ったんだろう”って、思い出すたびに言ってるみたいだよ?」
「え……」
 いや……それは困る。それはやめて? ただでさえグループ内でわけわかんないことになってるのに。そこに朔夜さんまで入ってきたらもうカオスじゃん。俺はどうしたらいいの?
 それに、朔夜さん推しのエロビッチ悠那が朔夜さんに迫られて貞操守れるわけないじゃん。あいつ、絶対簡単に股開くに決まってんじゃん。司に対してもあっさり股開いたようなもんなんだから。
 そもそも、朔夜さんにキスを迫られた時点で完全に受け入れモードだったもんな、悠那は。
「いや……それは困るからやめてもらえるように言ってくんない?」
「俺が? 嫌だよ。自分で言ってよ」
「どう言えばいいの? “うちの悠那に手を出さないでください!”って言うの? そんなこと大先輩に向かって言えるわけないじゃん。勘弁して」
「俺だって言えないよ。そもそもその場にいたわけでもない部外者なのに」
 今後どういう形で会うかわからないAbyss。でも、次に会った時も朔夜さんは悠那に絡んでくるんだろうな。でもって、悠那もそんな朔夜さんにデレデレするんだろう。
 そうなると、俺の与り知らぬところで連絡先とか交換して、プライベートでも会うようになったりして、気付いた頃にはもうグチャグチャのドロドロな関係になってて……。
 嫌だ。考えたくない。無理。朔夜さんのイメージも崩れる。
「朔夜さんってそっちの気あったっけ? 昔こっそり彼女とか作ってなかったっけ?」
「昔はいたけどね。ここしばらくはいないみたいだよ? もしかして女の子に飽きちゃったんじゃない?」
「飽きるって何。なんで飽きるの? 男である以上飽きないだろ」
「もしくは元々どっちもイけるのかも」
「うぅ……考えたくない。朔夜さんのイメージが……」
 ここでも頭を抱えたくなる俺。
 俺、こんなに悩まされてばかりだとそのうちストレスで禿げない? 大丈夫?
「湊……」
「何?」
「もしその手の情報が入ったら俺に教えて。朔夜さんに何か変な動きがあったら教えて。お願い」
 もし悠那と朔夜さんがそういうことになったら、今度は司もおとなしくしていないだろう。
 外では朔夜さん。家では司。悠那の性生活は乱れに乱れ、司と朔夜さんの関係も頗る険悪に……。
 耐えられない。そんなの俺には耐えられない。なんとしてでも阻止したい。
 縋る思いで湊の手を掴んで握る俺に
「まあ……わかる範囲でいいなら教えるけど……」
 湊はちょっと困惑した顔になった。が――。
「その代わり、たまにはこうして俺と一緒に飯食う約束な。最低でも月一……いや、月二。俺、今まで会えなかったぶん陽平といっぱい会いたいし」
 次の瞬間には満面の笑みになって言ってきた。
 なんなの? こいつ。天使? 天使なの? 俺の荒んだ心を潤し、癒す、天使なの?
「もちろん。ってか、そんな約束がなくても会うけど? 俺も湊に会いたいし」
 俺が普通に返すと湊は一層嬉しそうな顔で笑った。
 今日湊に会うまでは、湊に対して後ろめたい気持ちや申し訳ない気持ちしかなかった。でも、今はこうして面と向かってちゃんと「会いたい」って言えるようになっている。俺の中で、ようやく湊に対する罪悪感も消えてなくなったってことなのかもしれない。
「んじゃ、悠那君防衛網作戦でも立てますか」
「おう」
 一方的に俺が握っていた手を湊が握り返し、固い握手をする俺達は、あの頃一緒にレッスンに励んでいた時の俺達だった。


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