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Season 1
第18話 ビッチですか?
しおりを挟む憧れのAbyss御一行様と食事を一緒にした翌日。
その日は陽平さんも司さんも仕事で帰りが遅くなるとかで、《夕飯は三人で食べといて》って昼過ぎに連絡があった。
「今日の晩御飯はたこ焼きにしよっ!」
昨日あんなことがあったというのにもうケロッとしている悠那君の提案に、僕も律も異存はなかった。
なんでそんなに元気なの? と疑問に思えそうなものだけど、僕も律もその理由はなんとなくわかっている。だって……。
「悠那君って……司さんとヤりました?」
たこ焼きの材料を用意して、卓上たこ焼き器をセットし、いざたこ焼きを焼き始めるなり僕は悠那君に聞いてみた。
そう。昨日司さんに無理矢理ファーストキスを奪われた悠那君がケロッとしている理由。それは、家に帰って来た後に二人がそういう関係になったからではないか……と思われる。
僕達の住むマンションの間取りだけど、三つある部屋のうち二つは隣り合っている。その隣り合っている部屋が悠那君達の部屋と僕達の部屋だ。
つまり、それぞれの部屋の音が聞こえてきやすい環境ということ。
だから律は自分の発言に過剰なほど気を遣うし、大きな声を出そうものなら、この前みたいに悠那君が何事かと部屋にやって来たりもする。
昨日、如何にも険悪な様子で部屋に入って行った司さんと悠那君。事情を知っている僕達はさぞかし派手な喧嘩が始まるだろうと構えていたほどだ。
最初は確かにそういう流れだった。言い合い……というよりは、悠那君が一方的に怒ってる声が聞き耳を立てているわけじゃない僕と律の耳にも入ってきた。
ところが途中から様子が怪しくなり、何やら甘い声が聞こえてきた時には僕も律もどうしたものかとすっかり焦ってしまった。
一体どういう経緯でそうなった? どうしてそういうことになるの? っていうか、少しは他の住人に気を遣うとかしないの? この二人。
僕はともかく律がパニックを起こしかけていたから、僕は律を連れ、とりあえず陽平さんの部屋に避難した。陽平さんの部屋だけが間にリビングを挟んでいるため他の部屋の音が気にならないようになっていた。
正直、ちょっと聞いていたいという気持ちもなくはなかったけど、この手のことで律を傷つけそうになったことのある僕は、自分の願望より律を守ることを優先させずにはいられなかった。
途中で陽平さんの部屋に避難したから、ことの次第に最後まで耳を傾けていたわけじゃないけれど、あれは明らかにそういうことシてたよね?
「え? あー……うん。シたといえばシたけどエッチはしてないよ? エッチなことしただけ」
こっちが気を遣っているにも拘わらず、なんの恥じらいもなくあっけらかんと答える悠那君に頭が痛い。
この人、陽平さんや司さんの前では恥じらう癖に、僕達の前では一切恥じらわないよね。むしろオープンすぎる。
「な……なんでそういうことになるんですかっ⁈ 付き合ってるとかじゃないんですよねっ⁈」
悠那君の態度に納得がいかないのか、律はバンッ、とテーブルを叩いて立ち上がった。
律の顔は真っ赤だった。可愛い。
「そりゃ付き合ってるわけじゃないけど……。流れでそうなっちゃったんだから仕方ないじゃん」
「流れ⁈ 流れってなんですかっ! 流されてそういうことしたっていうんですか⁈ 司さんにファーストキス奪われて怒ってたじゃないですかっ!」
どうあっても納得がいかないし理解もできない律は、ここぞとばかりに悠那君を責めた。でも、肝心な悠那君は
「エッチしたわけじゃないもん。そこはちゃんと拒んだもん」
少し……いや、かなり見当違いな返事を返してきたりする。
付き合ってなくてもセックスしなきゃ大丈夫。とでも思ってるのかな? ちょっとお尻が軽すぎるよ?
「あの……そもそもなんでそんなことになったんですか? 悠那君はそれで良かったんですか?」
両手で顔を覆い、絶望に打ちひしがれている律(やっぱり可愛い)の代わりに聞くと
「だって……せっかくのファーストキスが無理矢理って嫌じゃん。だから司にやり直してって言ったの。そしたらなんかそんな流れになっちゃって……」
ここで初めて照れ臭そうにしてみせる悠那君だった。
この人、相当変わった思考の持ち主なんだな。やり直すってなんだよ。どうしてそこでやり直そうとするの? そりゃそうなるでしょ。馬鹿なの?
「でも、おかげで無理矢理キスされたことも許せたし、すっごく気持ちいい体験しちゃった」
「~……」
付き合い始めて半年以上経つのにキス以上の何もない僕達の前でよくもまあ……。律の言う通り、悠那君ってチョロいしビッチ要素満載なんだな。
「具体的にどのようなことを?」
悠那君の軽さには頭が痛いけど、エッチなことの内容は気になる。参考のためにも聞いておきたいと思ってしまう僕がいる。
「司と俺のを一緒に擦るの。びっくりするくらい気持ち良くてすぐイっちゃった」
「ああ……」
それはいわゆる兜合わせというやつですね。と言おうとしてやめた。そんな言葉を口にしたら律にドン引きされてしまう。
律はもう何も聞きたくないのか、今度は両手で両耳を押さえていた。そんなことをしても、この距離なら嫌でも僕達の会話が耳に入ってくるんだろうけど。
「二人もやればいいのに。絶対気持ちいいよ?」
「えーっとぉ……」
急に真剣な顔になって勧められてもねぇ……。僕はシたいけど律は絶対嫌がるから。やればいいと言われてできるものじゃないんだよね。
「それで、悠那君と司さんは付き合うとかにはならないんですか?」
そんなことまでしておいてそういう話が一切出てこないのも気になる。さっき“付き合ってるわけじゃない”とも言っていたし。
「うん。ならない。だって、俺は司にファーストキスを奪った責任取ってもらっただけだもん。あ、これもう焼けてない?」
ならないらしい。なんで?
ファーストキスを奪った責任っていうのもどうかと思うけど、兜合わせまでしておいて“付き合おう”ってならないのもどうなの? むしろ責任取るならキスよりそっちの責任じゃない? 悠那君も悠那君だけど司さんもそれでいいの? 呑気にたこ焼きつついてる場合?
「美味し~。たこ焼きってたまに食べると美味しいよね」
「そうですね……」
「律も食べなよ。なんでさっきから耳なんか塞いでるの?」
焼き上がったたこ焼きをお皿に移し、二巡目の生地を流し込む悠那君は、自分と司さんがしたことになんの疑問も抱いていないようだった。
何かしらのきっかけさえあればあっさりくっついてくれると思ったのに。どうやらここの二人はそうすんなり行かないらしい。
「キスして……エッチなことまでしたのに……付き合わないってなんだよ……」
律のお皿にたこ焼きを乗せてあげると、律もようやく耳から手を放してお箸を手に取った。
その目は完全に据わっているし敬語も忘れているみたいだった。
「それとこれとは話が別だもん。司のことは好きだし、昨日はちょっとキュンってなったりもしたけどさ。俺、同じ男の人と付き合うなら朔夜さんみたいな人がいいし」
ああっ! 昨日イレギュラーにAbyssの皆さんと交流してしまったことが仇になってるっ!
僕達が憧れるAbyssは確かに格好いいし、朔夜さんが最推しなうえ、その朔夜さんからあんなに可愛がられてキスまでされそうになった悠那君が、そう思ってしまうのも仕方ないのかもしれない。
「それに、こういうのって別に珍しいことでもないんでしょ? 見せっことか触りっことか。結構やったことあるって奴多かったよ? 前の学校とか」
「見せっこや触りっこならまあ……やったことある人もいますでしょうけど……」
兜合わせまでは普通やらないよ。それもう男性同士の性行為の一つだし。友達同士のエッチな体験を超える行為なんだけど。
大体、キスしてる時点でもう普通じゃないってことをわかって欲しい。友達同士はキスなんかしないから。
「海……この人に何を言っても無駄だよ。マジでクソビッチだから」
すっかり荒んだ顔でもそもそとたこ焼きを口に運ぶ律は珍しく人前で口が悪い。が、僕もそれには同意かな。
「ビッチじゃないもん。ビッチって言うな。律こそ恋人がいるのにそういうことしないなんておかしいよ」
機嫌の悪い律に嫌味を言われた悠那君も黙っていない。
「律って海とキスはしてるのに。どうしてエッチなことは嫌なの? キスしてるだけでも気持ち良くなるじゃん。触って欲しくなったりしないの?」
「気持ち良くなるってなんですか。ドキドキはしますけど気持ち良くなんてなりませんよ」
「なるもん。俺、司とちゅーして凄く気持ち良くなったもん」
「それは悠那さんが淫乱だからでしょ? キスされただけでエッチな気分になんかなりません」
「あ……そっか。律ってベロチューもまだなんだもんね」
「ベロチュー? ベロチューってなんですか?」
「舌を絡ませるキス。気持ちいいよ?」
「~っ⁈」
ペロッと舌を出し、たこ焼きについたソースを舐めて見せる悠那君に律は耳まで真っ赤になった。
「海~っ! この人ほんとに卑猥だよっ! 信じられないっ!」
泣きそうな顔になって怯え、僕にしがみ付いてくる律。
そこにも激しく同意かな。この人、あと二、三年もすればそのへんの男を誑かし放題になると思う。
「卑猥って……。あのねぇ、律。男って大概エッチなこと考えてる生き物なんだよ? 律の純粋なところは可愛いと思うけど、やってみなきゃわかんないことだってあるじゃん」
「それはわかってますけどっ……僕にはまだ早いんですっ! 無理なんですっ!」
「もう……ほんとお子様だね」
ほんの少し前まで初恋もまだの悠那君が一番お子様扱いされていたのに。キスを経験し、兜合わせまで経験した今となっては僕のピュア天使律が一番子供扱いされる対象になってしまった。
人の成長って恐ろしく早いんだな。人にもよるだろうけど。
「でも、一回ヤったら癖になると思うよ? 一人でスるより全然気持ちいいんだもん」
全く悪びれる様子もなく、満面の笑みさえ浮かべて言う悠那君に、まさかこの人、これからも司さんとそういうことするつもりじゃないだろうな……と、不安を感じずにはいられない僕だった。
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