僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Season 1

第17話 ファーストキスの責任 ~前編~

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 どうしてこうなってしまったのかがわからない。
 俺はAbyssを尊敬しているし、Abyssのメンバーに憧れる人間の気持ちもわかるつもりだ。何しろ俺自身がAbyssのファンと言っていいわけだから。
 だから、Abyssの中でも特に一番好きだという朔夜さん相手に、悠那が舞い上がってしまうのも仕方ないと思っていた。
 でも、あまりにも悠那に触れる朔夜さんには正直いい気がしなかった。挙げ句の果て、悠那にキスしようとした時にはハッキリと怒りも感じた。
 心の中で、悠那に触るな! と思ってしまった。





「ちゃんと説明して欲しいんだけど」
「……………………」
 場所は変わって家である。俺達はAbyssとの親睦会を終え、家に帰って来ている。
 あんなことがあって、一瞬気まずい空気に包まれた親睦会ではあったけど、そこはうちの癒し担当の海と、全力でなんとかしようと頑張る陽平、癒し効果は海以上の葵さんがメインになってどうにか取り持ってくれた。場を修復してくれた。
 やや険悪になってしまった俺と朔夜さんも表面上では和解して、悠那の怒りもひとまずは落ち着いたわけだけど……。
「なんで司が俺にキスするの?」
 家に帰って来たらそうはいかない。俺と二人っきりになると俺への怒りがぶり返してきたらしい悠那は、決まり悪そうに肩を竦める俺を不満全開な目で睨んでくる。
「だって……悠那と朔夜さんがキスするの見たくなかったから……」
 親睦会では冷静な態度を貫こうと格好つけてた俺だけど、悠那と二人っきりになるといつもの俺に戻ってしまう。
 あの時は変なアドレナリンが出ていたんだと思う。自分が自分じゃないみたいな感じがしたし。
「だからなんでそうなるの⁈ 俺と朔夜さんがキスしようが司には関係なくない⁈」
「関係あるよ。俺が嫌だと思ったんだから」
「それじゃ理由になってないよっ! 司は俺とキスしたいと思わないって言ったじゃん! 俺と朔夜さんがキスするのが嫌だったとしても、司が俺にキスする必要はなかったよね⁈」
「それはまあ……そうなんだけど。気付いたら身体が勝手に……」
「何それっ! そんな理由でキスされたくなんかなかった! 朔夜さんに奪われた方が全然マシだったよっ! 俺のファーストキスっ!」
 俺が何かを言うたびに、悠那の声は荒く大きくなっていった。
 そりゃそうだろう。こんな頼りない理由でキスされるより、可愛いからキスしたいって言ってくれる朔夜さんにキスされた方が悠那も満足できただろう。
 俺だって悠那のことは可愛いと思ってる。でも、キスしたのは本当に突発的というか、反射的というか……。とにかく、身体が勝手に動いてそうなったって感じだった。
 あのまま朔夜さんに譲れば良かったのかもしれない。と思わなくもないけれど、それじゃ納得できない自分がいるのもわかっていた。
「俺……初めてだったんだよ? そりゃ朔夜さんが俺のことをそういう意味で好きじゃないことくらい知ってるけどさ。でも、キスしたいって言ってくれたのは嬉しかったもん。司みたいに乱暴に俺から奪おうとしたわけじゃないもん」
「ごめん……」
「今更謝られても遅いよっ!」
 ここは嘘でも「悠那が好きだから」とか言ってしまえば、悠那の怒りも少しは収まるんだろうか。
 でも、俺の中にはまだそこまでの感情がない。不確かな感情を恋愛感情にすり替えるなんて無理な話だ。どこかで絶対ボロが出る。
 だけど、悠那と朔夜さんがキスするのが嫌だと思った感情や、反射的に身体が動き悠那にキスしたという事実は、俺が悠那を好きだという証拠になるようにも思う。
 好き……なのか? 俺は悠那のことが。
 可愛いと思う。大事にしてあげたいとも思う。構ってあげたいし甘やかしてあげたいとも思う。キスしたいとも…………思ったことがあったかな?
 しようかな。してみようかな。してみてもいい。くらいには思ったことはあるけど。
「せめてもうちょっと優しくして欲しかった。最初に歯がぶつかって痛かったし全然ときめかなかった。やっぱり司ってキス下手じゃん」
「違っ……! あれは勢い任せにやったから!」
「じゃあ、ちゃんとシてよ。もう一回やっちゃったんだからいいでしょ? 俺のファーストキス奪った責任取ってちゃんとしたキスしてよ」
「い……いいけど……?」
 あれ? なんか予想外の展開。え? 俺、また悠那とキスするの?
「今度はちゃんとキスしたいって思いながらして」
「わ……わかった」
「それと、もっと恋人っぽい感じでして」
「う、うん」
「あと、雰囲気とかも作って」
「あ……ぅ……」
 ちゅ……注文が多いっ! 悪戯いたずらに悠那のファーストキスを奪った代償がこれ? ここまで要求されるの? さすがにちょっと恥ずかしいんだけど。
「俺が納得するキスしてくれたら許してあげる」
 俺にキスされて怒ってるんじゃないの? 悠那が納得するキスしたら許すってなんなの? 俺にキスされたのが嫌なわけじゃないってこと?
 悠那の思考はよくわからないけど、キスして欲しいって言うならする。俺も別に嫌じゃないし。恋人っぽい雰囲気を作れと言うなら作ってみせようじゃないか。
「悠那……」
 精一杯優しく悠那の名前を呼び、悠那をそっと抱き寄せる。たったそれだけのことで悠那はちょっと恥ずかしそうな顔をした。
 さっきまで怒っていたし偉そうにもしていた癖に。ほんとチョロいな、こいつ。
 でも、そこがまた可愛い。可愛いと思える。
 いける。悠那を可愛いと思えるなら恋人らしい雰囲気を作ることも可能だ。俺はまず、俺の腕の中で小さく震える悠那のおでこにチュッ、とキスを落とした。
「んっ……」
 俺の唇がおでこに触れると、悠那はキュッと目を閉じ、小さな声を漏らした。
 いや……何それ。非常に可愛い反応なのだが?
「悠那……可愛い」
 今度はほっぺたにキスした。
「ぁんっ……」
 またしても漏れる悠那の声。
 こいつ…………エロくない?
「やだ……スるなら早くシてよぉ……」
「……………………」
 前言撤回。俺、めちゃくちゃ悠那にキスしたい。なんなら犯すくらいの勢いで。
「スるよ? シていいんだもんね?」
「うん……」
 恥ずかしそうに頷く悠那にクスッと笑い、俺は悠那の唇に自分の唇を重ねた。
「んんっ……」
 数時間前の乱暴で強引なキスとは違って恋人にするみたいに優しく、恋人とする時と同じように愛情を込めてキスをする。
 最初は触れるだけのキス。それから啄むように角度を変えて何度も重ねるキスをして、最後に舌を絡め取る。
「んぅ……っ……ぁ、ん……」
 舌を絡ませるキスに悠那は甘くて切なそうな声を上げた。
 声がエロいんだけど……。
「ゃ……舌……気持ちぃ……ん……」
 えぇーっ‼ 可愛いぃーっ‼ エロいーっ‼ エロ過ぎるーっ‼ 無理ぃーっ‼
 なになに⁈ なにこれっ‼ これ、俺にどうしろって言うの⁈
「キス……好き? 気持ちいい?」
「ぅん……もっとシて欲しい……」
 キスの合間に交わす言葉は蕩けそうなほど甘くて、俺は完全にノックアウト状態だった。
 俺、過去に自分の彼女にここまで動揺したり、欲情したことないと思うんだけど。なんで悠那相手だと俺はこんなに興奮してきちゃうんだろう。
 俺は今まで、自分と同じ男になんて欲情できないと思っていた。悠那がどんなに可愛くても、胸もなければナニも付いている悠那を実際にどうこうしたいとは思えないと思っていた。悠那で妄想したこともあるけど、それはあくまで悠那の顔が可愛いからで、顔から下のことは考えてなかった。
 でも、今はそうじゃない。
 俺は悠那に胸がなかろうと、下半身には俺と同じもの付いていようと、悠那なら抱けると思える。
「やっ……な、何?」
 キスをしながら悠那のシャツの中に手を滑り込ませる俺に、悠那の身体がビクッ、と跳ねる。
「悠那……エッチなこと……シよ?」
 熱っぽい声で誘う俺に悠那の瞳が揺れていた。


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