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三章 幼馴染みは鉄板だろ? 前編 ~佐々木慧視点~
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しおりを挟む「ねぇ、慧ちゃん」
「うん? どうした?」
「深雪と頼斗ってさ、何か雰囲気変わったと思わない?」
始業式なんて大体どこの学校も同じ日に行われるものだ。
今日は雪音の通う姫ノ塚中学も始業式で、雪音も昼前には学校から帰って来るから、早く帰って昼飯を作ってやらなければならない深雪や頼斗と別れた後の俺は、最早通い慣れた道になっている通学路を岳と並んで歩いていた。
いつもなら、ここに涼介や旭の姿もあるのが普通だったりするが、あの二人は今日、夏休み中に知り合った他校の女子とデートの約束をしているため、放課後になるなり学校を飛び出して行った。
夏休み最後に……と言って、懲りずに先週出向いたプールで知り合った同い年の女子二人だった。
俺と岳もその時プールに行っていたのだが――もちろん、二人の付き合いで――、俺には好きな奴がいるし、岳は岳でナンパで知り合った女とは親密な仲になるつもりはないようで、「また今度」という約束には参加しないことにしている。
出逢ったその日は涼介や旭のために彼女達とも話をするし、その場のノリや流れで一緒に遊びに行くこともあるが、岳が言うには
『ナンパに引っ掛かるような子とは付き合いたくないんだよね。何かすぐ浮気されちゃいそうだから』
とのこと。
ナンパは異性と出逢うための手段の一つでもあるから、ナンパに引っ掛かる女が必ずしも尻軽とは言い切れないが、確かにそういうイメージは俺の中にも少しはある。
しかしまあ、いつも涼介や旭に付き合わされて、ナンパという形で異性と知り合う機会が多い岳が、ナンパで知り合った女に興味を示さないところは助かる。
夏休みが終わっても、女への情熱をギラギラと燃やしている涼介や旭がいないと、俺と岳の日常は至って平和で平凡だ。
あの二人がいると会話のほとんどが女の話か下ネタにしかならないが、俺と二人の時の会話では、岳もそういう話は全く振ってこなかった。
おそらく、俺がそういう話にちっとも乗ってこないのと、涼介や旭のせいでそういう話に飽き飽きしているところもあるからだと思う。
もちろん、岳も男だから女には興味があるし、「彼女が欲しい」「早く童貞を卒業したい」という願望は持っている。
ただ、「女なら誰彼構わず仲良くなりたい」とか、「誰でもいいからセックスしたい」という、性欲剥き出しで肉食な二人とは違い、岳はまだまだ恋愛に夢を見ているところがあるからな。
いつか自分の理想を完全再現したような相手と運命的な出逢いを果たし、ドラマチックな恋愛を経験できると思っているようだった。
だから、異性に対する願望はあれこれ抱いていても、焦る気持ちは全くないようなのだ。
岳も俺と同じで、涼介や旭にあまり感化されない人間で良かった。
しかし――だ。涼介と旭がいない時にする話が、深雪と頼斗のことになられても困る。
しかも、二人の雰囲気が変わったと言われてもなぁ……。俺はどう返せばいいのやら、だ。
「そ……そうか? 俺は今まで通りなんじゃないかと思うけどな」
とりあえず、今ここで余計な発言をしてしまわないよう、細心の注意を払うことにする。
頼斗も深雪には俺の好きな相手をバラしていないから、俺も二人の関係を秘密にしておかなくては。
「え~? そんな事ないよ。絶対変わったって。高校に入学したばっかの頃と今じゃ、明らかに変わってるよ」
「気のせいじゃないか? 一体どこがどう変わったって言うんだよ」
まさか岳からそんな事を言われるとは思っていなかった。人の気持ちに疎いのかと思っていたが、まるっきり鈍いというわけでもないのかもしれない。
しかし、それならば
(こいつ、俺の気持ちには全然気付かない癖に、深雪と頼斗の微妙の変化には気付くのかよ……)
という気持ちにならないでもない。
「うーん……。どこがどうって聞かれると俺もうまく説明ができないんだけどさ。深雪も頼斗も急に大人っぽくなった感じがするし、二人の仲もこれまで以上に親密になった感じがしない?」
「元々あいつらの仲は誰の目から見ても親密だっただろ。それはもう、中学の頃からずっと」
「そりゃそうなんだけどさぁ……」
夏休みの宿題を最終日になるまで終わらせられなかったことからもわかるように、岳はあまり頭を使うことが好きではない。
勉強ができないわけではないのだが、必要以上の勉強はしたがらないというか……。
『俺、自分の親を見てて思うんだけど、今やってる勉強って将来何の役に立つの?』
というのが、勉強というものに身が入らない理由だったりもする。
『頭を使うのって疲れるんだよね。俺は考えるよりも感じるままに生きる人生を送りたい』
と言っていたこともある。
そんな岳が珍しく頭を使っているというか、深雪と頼斗のことで思考を巡らせている姿を見ると
(お前が頭を使うべきところはそこじゃない)
なんて思ってしまう俺がいる。
「夏休みが始まったばっかの時、偶然深雪達とプールで会ったことがあるじゃん? 実は俺、あの時もちょっと〈あれ?〉って思ったんだよね。頼斗が妙に深雪のことを気にするっていうか、まるで自分の彼女みたいな扱いじゃなかった? 深雪もそれが当たり前のような顔してたし」
「……………………」
そりゃそうだ。実際にあの時の二人は既に彼氏彼女の関係になっていたんだから。
だが、俺達がいる手前、あからさまに二人がイチャイチャしていたというわけではないし、俺には普通に水遊びを楽しんでいるだけのようにも見えたんだけどな。
もしかしたら、俺は岳と違って日頃から二人のことを恋人同士だと認識したうえで見ているから、二人の仲睦まじい姿に何も違和感を覚えなかっただけで、二人の関係を知らない岳の目には、いつもと違うように見える何かがあったのかもしれない。
しかし、その違和感を「彼氏彼女みたいだ」と感じた岳の感性は正しいから、岳は思った以上に鋭い一面があるのかもしれない。
その癖、自分に向けられる俺の好意には全く気付いていないのだから、鈍いのか鋭いのかが本当によくわからないところだ。
「あの時、俺達と一緒に伊織君もいたじゃん? 深雪は確かに可愛い顔をしてるけど、あの場で気を遣ってあげるとしたら伊織君にならないかなぁ? パッと見女の子に見えるのって伊織君なんだから」
「うーん……。別に頼斗は深雪に女性に対するような気の遣い方をしていたわけじゃないと思うんだけどな」
「でも、俺達と会った後から、プールに入る時も深雪にTシャツ着せたりしてたじゃん。伊織君にも着せてあげてたけど、それはついでって感じだったし」
「それは、涼介と旭が伊織の性別を間違えて声を掛けたからだろ。深雪もその例外じゃないと思ったから、念のためにTシャツを着せて、深雪の肌を露出させないようにしたんじゃないのか?」
「普通は逆でしょ。Tシャツを着せない方が一目で男だってわかるから安全じゃん。それに、男から変な目で見られないように肌の露出を控えさせるとするなら、やっぱりそれは伊織君にならない? 涼介と旭が女の子だと思ったのは伊織君なんだから」
「そんな事を言われても、俺にはよくわかんねーよ」
くそ……ああ言えばこう言いやがって。
頼斗が深雪に肌の露出を控えさせたのは、元々頼斗にそうさせたい願望があったからなんだと思う。
頼斗的には、たとえ俺達でも深雪の上半身裸の姿を見られたくなかったのだろうし。
涼介と旭が俺と岳に代わって、雪音と伊澄さんをナンパ要員として連れて行ってしまったことも、頼斗にとっては不安要素になってしまったのではないだろうか。
深雪のもう一人の恋人の雪音が傍にいれば、自分と一緒になって深雪の盾になることも可能だったが、自分一人だけでは深雪の白くて滑らかな素肌を隠しきれないと思ったのでは?
どちらにせよ、頼斗が人目に晒したくなかったのは自分の彼女の素肌であり、パッと見は女に見えてしまう伊織の素肌なんてどうでもいいと思っていたのは事実だろう。
それでも、ビーチボールを買いに行ったついでに安いTシャツを購入し、それを深雪に着せている頼斗を見て
『僕もっ! 僕もっ!』
と頼斗にせがむ伊織に、深雪とお揃いのTシャツを買い与えてやっていた頼斗は、一応伊織を男の邪な視線から守ってやるつもりがあったのだと思う。
「あの二人、絶対に何かあったんだと思う。俺、今度二人に何があったのか聞いてみようかな」
「え」
マジか。岳が感じた二人の変化とは、直接二人に何があったのかを聞きたくなるくらい気になるものなのか?
(聞かない方がいい気もするんだが……)
これは俺の推測でしかないが、涼介や旭ではなく、岳が深雪と頼斗に「何かあったの?」と聞けば、俺が岳のことを好きだと知っている頼斗は自分と深雪の関係を岳に話してしまうような気がする。
頼斗の中にも、深雪との関係を公にできないという意識はあるようなのだが、何が何でも隠し通さなければ……というほどの強い意志はない。
特に、相手が同性同士の恋愛に関りがあるとわかれば、同志意識から「言ってしまおう」となってしまう気配すらある。
今のところ、岳本人は自分と同性同士の恋愛は無関係だと信じて疑っていないが、岳は俺の好きな奴だからな。いずれ岳が男同士の恋愛に巻き込まれていくと見越した頼斗は、その時のためにも、自分と深雪の関係を岳に明かしてしまうんじゃないかと思う。
そうなった時の岳を考えると「やめておけ」と言ってやりたいのだが、深雪と頼斗の関係を知らない体で話をしている俺は、岳を思い留まらせるための上手い口上を思いつかなかった。
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