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三章 幼馴染みは鉄板だろ? 前編 ~佐々木慧視点~
(3)
しおりを挟む二学期が始まった。
始業式が終わった後の教室は、夏休み中の話で盛り上がる生徒の声でうるさいくらいだったが、それも担任の先生が教室に入って来たことで次第に収まっていった。
おそらく、放課後になればまた再開されるだろうとは思うが、一応夏休みはもう終わったわけだからな。いつまでも夏休み気分でいるわけにはいかない。
教室では二学期の主な学校行事やそれについての簡単な説明等があり、先生の話が終わると夏休みの宿題を提出させられた。
まだ一年生だからだろう。あまり口煩いことを言われるまでもなくホームルームが終わり、放課後へと突入したわけだが――。
「ねーねー、聞いてよ、深雪。慧ってばさ、結局夏休み中も俺に好きな人を教えてくれなかったんだよ? どう思う?」
放課後になると同時に帰り支度を始めている深雪の元へ駆けて行った岳が、深雪に向かって余計な事を言っている姿が目に入ってきた。
「え? そうなの?」
岳の言葉に目を丸くして驚いている深雪を見て、俺は深雪もまだ俺の好きな奴が誰なのかを知らないのだと確信した。
深雪には俺に好きな奴がいることを伊織にバラされる前から知られてしまっているのだが、それが誰なのかは教えていなかった。深雪が知らなくても仕方がないと言えば仕方がない。
ただ、頼斗には知られてしまっているから、深雪と付き合っている頼斗の口から聞いている可能性があったんだけどな。
しかし、俺のことを考慮してなのか、頼斗は恋人の深雪にも俺の好きな相手が誰なのかを話していないようである。
岳と深雪の会話をすぐ傍で聞いていた頼斗がチラリと俺の方を見てきたが、俺は苦笑いを返すくらいしかできなかった。
「俺もう夏休み中ずっと気になっちゃってさぁ。夏休みの宿題どころじゃなかったんだよね~」
こらこら。何を大袈裟な。
確かに岳は俺の好きな奴が誰なのかをずっと気にしている様子ではあったが、夏休み中ずっと気になって仕方がないという感じではなかった。日によっては完全に忘れてしまっている日もあっただろう。
夏休みの宿題が昨日になるまで終わらなかったのは事実だが、それはただ単に岳が勉強をサボっていただけの話だ。
「どういうわけだか、いくら聞いても頑として教えてくれないんだよね。どうしてだと思う?」
「うーん……。どうしてなんだろうね? でも、俺も佐々木の好きな人が誰なのかを知らないから、気になると言えば気になるかも。頼斗は知ってるっぽいんだけど……」
「え」
あー……。そこで頼斗の名前を出してしまうのか。深雪に名前を出されてしまった頼斗も「マジか」という顔をしている。
深雪に俺の好きな奴を明かしていない頼斗だが、頼斗が俺の好きな奴を知っていることは深雪にバレているらしい。
まあ、当然と言えば当然だ。俺は頼斗に恋愛相談というやつをしているし、深雪の前でも岳の名前を伏せたまま、頼斗と似たような会話をしたことがあるからな。
引っ込み思案な深雪は、そこで「佐々木の好きな人って誰なの?」と口を挟む勇気がなかったようだが、俺の好きな相手を知っている前提で俺と話す頼斗の姿は見ている。
俺と頼斗の間で交わされる「あいつ」が、同一人物であることは確認しなくてもすぐに気が付いたのだろう。
「え。マジ? だったら深雪が頼斗から聞き出して俺に教えてよ」
「え⁉ あぅ……えっとぉ……」
岳からのお願いで自分が余計な発言をしてしまった事に気が付いた深雪は、急に困った顔になって頼斗を見上げた。
その顔は明らかに頼斗に助けを求める顔だったから、深雪からそんな顔で見詰められてしまった頼斗は
「やめてくれ。そんな顔で俺を見るな」
自分の恋人の可愛さに悶絶しているのか、額に手を当てて苦悶の表情だった。
自分を頼ってくる好きな奴の姿に悶絶したくなる気持ち……。俺にはめちゃくちゃよくわかる。
岳もよくそういう顔を俺に向けてくるのだが、男としては嬉しいものだよな。好きな人に頼ってもらえるのは。
「えー? 頼斗も教えてくんないの? 何でぇ?」
俺ではなく、頼斗なら簡単に教えてくれるとでも思ったのだろうか。
だがしかし、自分の恋人にも俺の好きな相手を黙ってくれている頼斗が、そう簡単に口を割るとは思えない。
元々頼斗は伊織のように口が軽い人間でもないし。
「何でって言われても……。佐々木が言いたがらないことを俺が他人に話すわけにはいかないだろ」
「でも、頼斗は慧の好きな人が誰なのか知ってるんだよね? それって慧が頼斗には自分の好きな人を打ち明けたってことだろ?」
「いや。俺は佐々木から直接好きな奴の名前を聞いたわけじゃなくて、佐々木を見ていて気が付いたんだよ。まあ、一応〈あいつだろ?〉って確認はしたけど、俺が佐々木に好きな奴を打ち明けられたわけじゃねーんだよ」
自分はいくら尋ねても俺に好きな相手を教えてもらえないのに、俺が頼斗には好きな奴を打ち明けているのだと思った岳は完全に拗ねモードだった。
しかし、何も俺から好きな奴の名前を聞いたわけではない、と頼斗の口から聞かされた岳は
「え? そうだったの?」
不満全開な顔から一気にきょとんとした顔になっていた。
ナイスだ、頼斗。さすが名前通りというか、お前は頼りになる奴だよ。
「だから、お前も佐々木の好きな奴が誰なのかを突き止めて佐々木に聞けば、佐々木は教えてくれるんじゃねーの? 正解していたら、の話だけど」
「えー……」
結局、頼斗からも俺の好きな奴を聞き出せなかった岳は、目に見えてがっかりした顔になった。
そして
「そんなのわかるわけないじゃん。だって俺、伊織君から慧に好きな人がいるって話を聞くまで、慧に好きな人がいることにすら全然気が付かなかったんだから。夏休み中も散々〈誰なんだろう?〉って考えてみたけど、思いつく女子なんて一人もいなかったし」
諦めにも似た愚痴を零していた。
そんな岳の姿に同情したのか
「佐々木に好きな人がいることはわかっているのに、その相手が誰だかわからないともやもやしちゃうよね。俺も一緒に考えるから、二人で佐々木の好きな人を突き止めようよ」
深雪が岳を励ましてあげていた。
「深雪……。お前はいい奴だなっ! 頼斗とは違って!」
「ぅわっ……」
俺と頼斗にそっぽを向かれた岳は、自分の味方をしてくれる深雪の存在に感動したのか、その感動を深雪に抱き付くことで表現していた。
(すまん、頼斗……)
俺のせいで岳から悪者扱いされてしまったうえに、恋人の深雪に岳が抱き付くような真似をしてしまい、俺は頼斗に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
この学校の中で深雪と頼斗の関係――ついでに雪音も――を知っているのは俺だけではないが、人前で堂々と深雪との関係を公言できるわけでもない頼斗は、深雪に抱き付く岳の姿に怖い顔だった。
(本当にすまない、頼斗……)
頼斗は深雪のことになると独占欲が剥き出しになるヤキモチ焼きな一面もあるようなのだが、岳には全く悪気がないし、深雪に邪な感情を持っているわけでもないから許してやって欲しい。
そうは言っても
「ほんとさぁ~、子供の頃からの付き合いで、誰よりも一緒に過ごす時間が長い俺に好きな人も教えてくれないって何なの? 水臭いと思わない?」
頼斗の目の前で深雪に抱き付いた挙げ句、盛大に嘆きながら深雪に頬擦りするのはやり過ぎだと思った。
友達同士の戯れ――と言ってしまえばそれまでではあるのだが、目の前でこれ見よがしに自分の恋人にベタベタされれば、嫌な気分にならない男はいないよな。
案の定
「そのへんにしろよ、桐原。深雪が潰れる」
見るに見かねた頼斗に首根っこを掴まれ、深雪から引き剥がされてしまう岳だった。
しかし、頼斗の気持ちを知らなければ、深雪と頼斗が付き合っていることも知らない岳は
「いやいや。潰れないでしょ。俺と深雪ってそんなに体格も変わらないし」
と、納得がいかない顔だった。
だが、今後もむやみやたらと深雪にベタベタして欲しくない頼斗は
「確かに、お前と深雪の体格差は些細なものだけど、深雪の方がお前より非力で華奢なんだ。それに、男のお前が深雪に抱き付いている絵面も良くない」
と言って譲らない。
日頃の深雪に対する頼斗の態度。そして、今の発言を聞けば、勘のいい人間なら頼斗の気持ちにすぐ気付きそうなものだが、他人の感情に疎い岳は
「ちぇっ……」
拗ねるように唇を尖らせるだけだった。
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