どっちも好き♡じゃダメですか?~After Story~

藤宮りつか

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二章 笠原兄弟の恋愛事情 後編 ~笠原伊織視点~

   僕達の学園祭(9)

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「ミスコンって言うから、どんな可愛い子が出て来るんだろうって期待したけど……」
「全員わりと普通だよな。っていうか、深雪の方が断然可愛い」
 午後四時になり、野外ステージで〈ミス八重塚決定戦〉なるものが始まると、ステージの周りは凄い人集ひとだかりだった。
 ミスコンが始まる少し前から野外ステージを観覧していた僕達は、わりといい位置でミスコンを見ることができたわけだけど、事前投票で選ばれた十人の女の子達全員を見た後の僕と頼斗の感想は、他のどの観客よりも冷めたものだった。
「まあ、所詮校内で開催されるミスコンだからな。そんなにびっくりするほど可愛い奴なんて早々出て来ねーよ」
 あからさまにがっかりした顔をしている僕と頼斗に、お兄ちゃんはやや苦笑いだった。
 でもまあ、びっくりするほど可愛い子がいなくて良かったとも思う。そんな可愛い子がお兄ちゃんと同じ学校に通っていたら、僕もちょっと心配になっちゃうもんね。
 それでも、さすがに全校生徒の中から選ばれた十人だけあって、比較的可愛い子が揃っているとは思った。
 お兄ちゃんが投票したっていう子は、ちゃっかり上位十名に選ばれていて、事前投票では三位だった。
 つまり、この学校では三番目に可愛いとされているってことだよね。
 でも、僕には美沙ちゃんの方が可愛いんじゃないかと思うレベルだったし、今は深雪や頼斗と同じ学校に通っている小日向先輩の方が余裕で可愛いと思った。
 もし、小日向先輩が八重塚に通っていたら、ぶっちぎりで一位だったんじゃないかと思う。
 そう考えると、小日向先輩はもったいない事をしたものだよね。雪ちゃんとの過去を気にせず、普通に八重塚高校に進学していれば、今頃はミス八重塚に選ばれてモテモテな高校生活を送っていただろうに。
 まあ、白鈴でもモテてるっぽいからいいっちゃいいか。ぶっちゃけ、僕には全然関係ないし。
 それはさておき
「ところでさ、深雪は雪音に何の話があんの?」
 実は今、僕達の傍に深雪と雪ちゃんの姿はない。
 ミスコンが始まったとほぼ同時に、深雪が雪ちゃんを連れてステージから離れて行っちゃったから。
 もちろん、普通に考えたら頼斗が深雪と雪ちゃんをそう簡単に二人っきりにするはずがないんだけれど、雪ちゃんを連れて行く直前、僕は深雪から
『俺、今からあの時の話を雪音にしてこようと思うから、その間、頼斗のことお願いね』
 と頼まれていた。
 だから、僕は深雪と雪ちゃんの姿が急に見えなくなって探しに行こうとする頼斗を引き止め、深雪と雪ちゃんが戻って来るまでの間、僕やお兄ちゃんと一緒にミスコンを見ていてもらうことにしたのだ。
 正直、「何で今?」とは思った。
 でも、雪ちゃんは最初からミスコンなんてものには興味が無いみたいだったし、深雪も今日一日、八重塚の学園祭を満喫したことで、あの時の話を雪ちゃんにするなら今だ、って決心が固まったのかもしれない。
 家に帰ってしまうと、深雪の決心がまた鈍ってしまうかもしれないと思ったし、僕としても、折角の深雪の決心を鈍らせるわけにはいかないから、快く深雪に協力してあげたってわけ。
 最初は僕に引き止められて鬱陶しそうにしていた頼斗も
『深雪は雪ちゃんに大事な話があるから、今は二人だけにしてあげて。話が終わったらすぐ戻って来るから』
 そう言って僕が説得すると、不満そうではあったものの、僕達と一緒におとなしく待っていることを選んでくれた。
 で、現在に至る。
「あれ? 頼斗には察しがついているんじゃなかったの?」
「は?」
 僕が深雪と二人だけでその話をしたのは、今からもう一ヶ月以上も前のことだ。だから、頼斗もその時のことはすっかり忘れてしまっているのか、「何の事だ?」って顔をした。
「ほら。前に僕が深雪と二人だけで話をしたことがあるじゃん。その時の話だよ。あの時、頼斗は僕達が何の話をしていたのかが〈何となくわかった〉って言ってたじゃん」
「ああ……」
 僕に言われて、ようやく当時を思い出した頼斗は
「そう言えば、そんな事があったな。あいつ、あの後その話を一切俺にしてくれないもんだから、俺もうっかり忘れちまってたわ」
 まるで遥か昔を思い出すような顔になってそう言った。
 そりゃ一ヶ月以上も経つとうっかり忘れちゃうし、思い出すのにも時間が掛かっちゃうってものだよね。ほんと、深雪は決断するまでに時間が掛かっちゃうんだから。
 でも、ちゃんと僕と約束した通り、自分の口から雪ちゃんに本当の気持ちを伝える覚悟を決めたわけだから、僕に深雪を責めるつもりはない。
「やっぱアレか? 雪音の進路について……なのか?」
「ご明察~♡ 頼斗って鈍そうに見えて、意外と察しがいいんだね♡」
「うるせ。深雪のことなら何となくわかるんだよ。いつも深雪のことばっか考えてっから」
「おやおや~? それは惚気ですかぁ~?」
「そういうんじゃねーよ」
「ふふふ♡」
 最早ミスコンなんてどっちを向いていてもいい感じになっている僕達に、お兄ちゃんは特に何も言ってこなかった。
 何も言ってこなかったけれど、頼斗とばかり話をしている僕の手を、黙ってそっと握ってきた。
「っ……!」
 お兄ちゃんに手を握られた瞬間、僕の心臓はドキッと跳ね上がり、物凄くときめいてしまったけれど、周りに沢山人がいるっていうのに、僕の手を握ってくれるお兄ちゃんが嬉しくて仕方なかった。
(ひょっとしてお兄ちゃん、ヤキモチ焼いてくれたのかな?)
 そんな期待に益々嬉しくなりながらも、僕はお兄ちゃんの手を黙って握り返した。
「で、深雪は雪音に何を言うつもりなんだよ。俺の前では〈雪音は白鈴よりもっといい高校に進学するべきだ〉って言ってたけど、本当は深雪も雪音と同じ高校に通いてーの?」
「さあ? それは後で深雪から直接聞いてみなよ」
 深雪が雪ちゃんの進路について本当はどう思っているのか……。それは、相手が頼斗でも僕の口から言うべきことじゃないと思った。
 多分、自分の本音を雪ちゃんに話した後の深雪は、頼斗にも同じ話をしてあげるつもりでいると思う。
 僕が今ここで深雪の本音を頼斗に伝えるよりも、後で頼斗が深雪から直接聞いた方が、頼斗も安心できると思うんだよね。
「ああ、そうかよ。教えてくんねーんだ。ってことは、俺には言えない本音ってやつが深雪にはあるってことだな」
 あらら。僕が深雪の本音を教えてあげないことで、頼斗が完全に拗ねちゃったよ。
 ほんと、頼斗は深雪のことになるとすぐに機嫌が悪くなったり、良くなったりするよね。
「違う違う。後で深雪に直接聞いた方が、頼斗は頼斗で深雪と二人だけで話ができるでしょ? だから、僕からは教えてあげないの♡ 頼斗に深雪と二人だけの時間を作らせてあげるために♡」
 どうして僕が年上であるはずの頼斗を宥める側に回らなくてはいけないのやら。
 それもこれも全部深雪のせいではあるけれど、深雪には後でしっかり頼斗とも話をしてもらって、頼斗の機嫌を直してもらうしかないよね。
「ていうか、頼斗って深雪のことになると結構ネガティブだよね。もしかして、深雪からの愛を疑ってるの? 深雪は自分よりも雪ちゃんの方が好きなんじゃないかって、不安になっちゃうの?」
「なっ……!」
「心配しなくても、深雪は頼斗のことが物凄ぉぉぉ~く大好きだよ♡ 確かに、僕は深雪と雪ちゃんの話をいっぱいしたけど、それと同じくらい、深雪は僕に頼斗の話もいっぱいしてくれたんだから。その全部が僕にとってはただの惚気にしか聞こえなくて、〈深雪って本当に頼斗のことが好きだよね〉って、しみじみ思っちゃったくらいなんだから」
「そ……そうなの?」
「うんっ♡」
 別に頼斗の機嫌を直すために嘘を言ってるわけではなくて、紛れもない事実だった。
 深雪は恥ずかしがり屋で、僕達の前では雪ちゃんや頼斗に対する好きって気持ちを隠そうとすることもあるけれど、小学校の頃からずっと一緒にいる頼斗のことは、わりと素直に好きだと認めているところがある。
 だから、頼斗が雪ちゃんのことでヤキモチを焼く必要は無いんだってことを伝えてあげると、頼斗の顔はちょっとだけ嬉しそうになった。
「全くもう。雪ちゃんも頼斗もヤキモチ焼きなんだから。三人で付き合っているから、気持ちはわからなくもないけどさ。雪ちゃんには雪ちゃんの良さと魅力があるし、頼斗には頼斗の良さと魅力があって、それは比べてどうこうってものでもないんだよ? 二人の魅力は深雪にとって甲乙つけがたいものでもあるんだから。だから、お互いにヤキモチを焼く必要なんてないんだってば」
 今現在、お兄ちゃんを巡って美沙ちゃんと三角関係状態になっている僕は、雪ちゃんや頼斗がちょっとした事ですぐに不安になってしまったり、ヤキモチを焼いてしまう気持ちはよくわかる。
 でも、それは深雪やお兄ちゃんもよくわかっていることだと思う。わかっているからこそ、僕達を不安にさせない努力をしてくれているんじゃないかと思う。
 僕に慰められた頼斗は
「何かさ、お前にそういう事を言われるのって、ちょっと気持ち悪いな」
 なんて失礼なことを言ってきたけれど
「でも、サンキュー。ちょっと元気出た」
 一応僕にお礼も言ってくれた。
 頼斗の機嫌が直ったところで
「ほんとさぁ、お前って深雪のことになるとマジで余裕がなくなるよな。ガキの頃からずっと一緒にいるんだから、少しはドーンと構えてろって。どっからどう見ても、深雪はお前に惚れてるんだから」
 ずっと僕の手を握ってくれているお兄ちゃんが口を挟んできて、頼斗を元気づけるために一役買って出てくれた。
「ん……」
 お兄ちゃんの言葉に照れ臭そうに頷く頼斗の横顔が、ちょっとだけお兄ちゃんに似ていて可愛かった。



 その後。ミスコンも結果発表を待つだけという頃になって戻って来た雪ちゃんと深雪の二人に合流した僕達は、今年のミス八重塚に選ばれた女子生徒を見て
「うーん……いまいち」
 五人揃って失礼極まりない感想を口にしたのであった。
 深雪の本音を聞かせてもらった雪ちゃんが、今何を考えているのかはわからなかったけれど、先を見据えているような雪ちゃんの表情を見ると、雪ちゃんの心は決まったんだと確信した。
 ミスコンの終わりと共に学園祭の幕を閉じた八重塚高校は、〈二日間やりきった〉という生徒達の満足感と達成感で満たされているように感じた。


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