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本編
第十話 定期的にプチっとしないといけないかな、百年単位で。
しおりを挟む人間態から精霊態へ変化すると、ふわりと体が浮く。
ギリシャ神話にあるようなキトン式の衣服を纏い、素足に。頭には神様がくれた世界樹で作られた冠。両手首には魔力を制御する神造魔導具。
髪の色も、瞳の色も漆黒に戻った。
世間一般に広まっている精霊王像は、初代のものだから今の私とは全然違う。
でも初代と同じ世界樹の冠を被っているということは、それは精霊王であることの証。
『―― いてもいなくても良いものなのであれば、私もお前たちのことを認識するつもりはないから』
「尊き王よ!此度のことは、」
『ソリューズ魔法学園の学園長。残念ね、とても』
振り返って、手を軽く振って魔法を発動させて精霊もどきにされていたみんなをもとに戻した。
制服まではさすがに用意できないから、それぞれにただの布を羽織らせた状態にしたけど。許して。
「メディフェルア、が精霊王?で、でも」
『うーん黙っててごめんねリオル。いつも通りの”メディ”でいいよ』
「…わ、かった。メディ、あの、ミラン先輩が」
『王よ、どうか我が友を』
『うん、うん。大丈夫よリオル、ミスト。治すからね…あ、ジェーン。ちょうどいいから手伝って』
「えっ…、わたくしですか?」
『私が直接すると強すぎるから。ジェーンが媒介してくれれば、ちょうどよくなるの』
「わかりました」
『ユリウスは念のためあいつら警戒しといて。他の子はユリウスの味方してあげて』
「はい」
『はーい!』
『みかた!』
邪魔されちゃ困るもんね。
ツェルンガ皇国の皇子に危害を加えるとは思えないけど、念のため野良精霊たちにも与力をお願いした。
何をすれば、というジェーンの後ろに浮かぶ。
両肩に手を添えて、ゆっくりと魔力を流した。
『治癒はしたことがあるね?それと同じように』
「はい」
虫の息のミランは、人の姿に戻ったら酷い火傷を負っていた。
皮膚は焼けただれて、むくんでいる。たぶん、火傷のレベルで言えばⅢに値するだろう。
こんなもの、深窓のご令嬢は目にする機会は絶対なかったものだ。
ジェーンには悪いけど、適任なのは彼女しかいない。ヴァネッサは土属性だったし。
ジェーンを通して、高濃度の魔力がミランに流れ込む。
ちなみにジェーンを介さなかった場合、これほどの高濃度の魔力はミランの体にとっては毒になる。あれだよ。健康体には影響ないレベルだけど、弱った体には無理ってやつ。
一旦、ジェーンという健康体を通すことによって濃度はやや落ちるけど、これほどの大怪我を負った人間を治すには最良になる。ようするにフィルターの役割だね。ジェーン側も自分の魔力を使わずに治療できるから、疲れるようなこともないしWin-Winでしょう。
徐々に、徐々にミランの体が修復されていく。
ほ、とリオルが安堵の表情を浮かべる。ああ、でもあそこまで火傷があったのなら、多少跡は残るだろうな。
精霊王も、神様も万能ではあるけれど、無条件で手を差し伸べる訳にはいかない。
いつだってなんだって、代償は必要なんだ。
「ど、どうして…どうして精霊王がそっちにつくの!?僕につくべきじゃないか!」
うるさい背後にジェーンの集中が乱れた。
集中するように忠告すれば、ジェーンはミランに再び集中する。
誰かの治療中は原則、治療師の邪魔をしてはならないことになっていると聞いている。それがこの国の、この世界の人間の世界での常識だとリオルは言っていたんだけど…通じないモノもいるのかな?
リオルが背後に立った。
「メディフェルア様はすべてをご覧になった上で、カリスタ様に力をお貸しいただいている。畏れ多くもメディフェルア様に意見が?」
「っ、や、やっぱり…!やっぱりリオルは悪役なんだ!貴族の子になれなかったくせに、僕の邪魔ばっかりして!」
「…いつもそう言いがかりをつけられていましたが、僕は別に今の身分で十分満足しています」
え、いつもって何?
もしかして男子寮とかで言いがかりつけられてたわけ!?やっぱり私も男として入学すべきだったか!?
けれどリオルは主人公のキャンキャンを無視して、テオドールとフィリップとジャックを睨みつけた。
「第一王子殿下と第三王子殿下は陛下の臣たるグランツ伯爵のご令息を傷つけて、そしてビュエラ様はご婚約者が大怪我を負ったにも関わらず何もないんですね」
「…それは」
「っ、」
「…」
「テオもフィリップもジャックも悪くないよ!向こうが攻撃してこようとしたんだから、防衛行動でしょう!?」
「悪くない?防衛行動だ?すでに彼らは精霊もどきにされるという加害行為を受けているというのに?彼らの行動こそ防衛行動だ!あの姿にされて、更になにか得体のしれない魔法を投げつけられそうになったのだから!」
すっごいリオル。
どこぞの貴族の令息だって言っても過言じゃないくらい、凛としてる。
ゲーム上ではグランツ伯爵家の養子として受け入れられるだけもあるね。素養がいいんだよ、うん。
…ああ。ミランの顔色が良くなった。
けれどやはり、火傷の跡までは無理か。
『ジェーン。もう終わりだよ』
「で、でも…!」
『命は助かっている。体を動かすにも不自由はないよ。私が力を貸せるのはここまで』
ジェーンの肩から手を離す。
彼女はミランの火傷の跡まで治したかったようだけど、私がどうして手を引いたのか理解はしているらしい。
少し黙り込んだあと「ご助力いただきありがとうございました」と頭を下げてくれた。
うん。理解して、素直に引いてくれる子はいい子だ。誰かジェーンの相棒になりたい子いる?って聞いたらめっちゃ集まった。ジェーンとヴァネッサが慌ててるのを見て、笑う。
リオルとアルスが睨み合いしていた中、しばらく黙っていたユリウスが、ゆっくりと口を開いた。
「学園長は、なんとお伝えしたかったのだ?」
「えっ」
「精霊王は、今は直接あなたとやり取りしたくないようだから、代わりに私が承ろう。私でも罷りならぬというのであれば、諦めた方が良いと思うが…学園長は、精霊王に何を伝えたかったのか」
あら、ユリウスってば優しい。
今はフラッグ学園長と関わるつもりはない。残念に思ってるから、改善が見られれば今まで通りに戻すつもりだけど。
今はユリウスやジェーン、リオル経由だったら聞いてやらんことはない。直接回答しないけど。
ふわり、とユリウスの傍に寄った。
気づいたユリウスが「勝手に申し訳ありません」と目を伏せたけどいーよいーよ。
にっこりと笑って親指立てたら、微笑んでくれた。あらやだイケメン。
「…至らぬ点があったことは、此度の騒動でわかりました。ええ、お怒りになるのも当然です。副学園長の考えは特にあってはならぬこと」
「学園長!」
「黙らんか!!お前は今、この場にいる人間どころか国全体を危機に陥れているという自覚がないのか!!」
困惑した様子のリオルとジェーンに、ユリウスが苦笑いしながら私がプチっとした国のことを話してくれた。
そんなに知られてないの?あれ。結構大々的にやったと思ったんだけどな~。
と呟いたら、ユリウスから人間界ではあれからすでに三百年ほど経ってると教わった。時代の流れで記憶が薄れてる状況らしい。マジか。
『定期的にプチっとしないといけないかな、百年単位で』
「ヒィ!」
私の呟きが聞こえたらしくフラッグ学園長が震える。
「た、立場に関しては国王陛下に奏上し、必ずや、数十年以内にはなんとかいたします。まずは学園内から意識改革を進めていき、国民に浸透させるよう努力をいたします!!」
数十年、数十年ねぇ。
まあ、人の意識が変わり切るのはそのぐらい時間がかかるか。数年、と言い出さないだけフラッグ学園長は考えていると思う。
この学園を卒業する若い世代から意識改革を進めていけば、たしかに早ければこの学園の卒業生の次世代、もしくはその次にはだいぶ浸透するだろうね。
でも、ねぇ。
『ねぇ、ジェーン』
「なんでしょうか?」
『次期国王ってだぁれ?』
にっこり、と微笑めばジェーンの表情が強張った。
数十年かかるなら、国王だって代替わりする。
第二王子はオーランド帝国の王配の予定だ。現国王の子どもは三人しかいない。
「……まだ、立太子されていないため確定ではありませんが、テオドール第一王子殿下が最有力と」
だよねー。
かといってフィリップもその地位に相応しいかというと否だと思う。
この子の学園の成績知ってる?座学はハイグレードのDクラスレベルよ。実技とその立場で辛うじてAクラスに引っかかってるようなもんだからね、この子。
…そして彼らは、闇属性なんざ実験対象だ、人権なんてないとのたまう連中のひとり。
まあ、テオドールは躊躇してたから心底そう思ってるわけじゃないようだけど。
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