ぽっちゃり精霊王は推しを幸せにしたい

かわもり かぐら(旧:かぐら)

文字の大きさ
上 下
3 / 20
本編

第二話 リオルが立った!!リオルが立った!!

しおりを挟む

 まずはじめに、神様が人間に擬態した。
 私の出番はまだらしい。うそん。

 神父の格好をした神様。
 スレンダーな体型だからかとっても似合ってるし、男性に見える。よくよく思えば、神様って中性的な顔つきなんだよな。

「中性的、じゃなくて実際に中性だよ。両性具有だから」
『えっ』

 それは知りたくなかったかもしれない。

 神様は、アパートメントのある一室のドアをノックした。
 中から「はい」と女性の声が聞こえてくる。

「突然の訪問、申し訳ありません。ウォーレン教会バラディア支部所属の神父、ウォレスと申します」

 首から下げた紋章のペンダントを掲げながら神様 ―― 今はウォレスか。ウォレス様がそう声をかければ、ドアが開いた。
 きょとんとした表情でこちらを見るのは、リオルの母君であるエリー。

 ウォレス様が首から提げている紋章ペンダントは、教会所属の神父にしか持つことができない。
 特殊な加護がかけられており、魔力によって複雑な輝きを見せている。
 加護がなければこの輝きを見せることはできないし、この国に住む人間は皆教会に通って神父と顔を合わせている。そのとき、ペンダントは必ず見るので一般人でも本物かどうか分かる仕組みになってるそうだ。

 ちなみに、ウォレス様が持ってる物は本物。
 なんでも時折色んな国に下りて人間に擬態することがあって、ウォレスはその擬態した姿らしい。
 教会上層部も協力しているから、ウォレスという神父があちこちの国に現れても問題ないようにしてるらしい。すっご。

「まあ、神父様が来てくださるだなんて…どうぞ、中にお入りください」
「ありがとうございます。お邪魔いたします」

 ウォレス様が入るのについて、私も中に入る。
 すると、狭いリビングの中で絨毯が敷かれたところに、コロコロと私の推しが転がっていた。
 私と目が合うと「きゃー!」と嬉しそうに笑う。んあああきゃわいい!!
 私も推しと一緒にリビングにコロコロと転がる。キャッキャと喜ぶ推し最高。好き。

「ご機嫌ですね」
「あら、精霊様が来てくださったのかもしれません」
「精霊様ですか?」
「ええ。この子が生まれてから、時折来てくださるようで…。私は精霊様の存在を感じられる程度ですが、この子はお姿を拝見できているようです」

 ああん、きゃわいい。
 そのよだれでベタベタなおててでも気にならないよぉ~~もちもちおててきゃわいい。

 母君からお茶を出されたウォレス様は、一口飲む。
 それから、ゆっくりと母君に話しかけた。

「本日、突然訪問させていただいた理由は、ご子息のことです」
「リオル…ですか?」
「はい。つかぬことをお聞きしますが、ご夫君は…?」
「夫は騎士を務めておりますが、任務で長期遠征に出ておりまして…まだ戻らないかと」
「そうですか…。本題になりますが、ご子息の魔力保有量は、同世代の子らと比べても多い。それは実力者が近くにいればすぐに分かります。おそらく、ご子息の魔力量の話を聞きつけた者がこの周辺を嗅ぎ回っていることを耳に挟みまして」

 母君が驚愕の表情を浮かべる。それからだんだんと青ざめていった。
 そりゃそうだ。面と向かって「あなたの息子は狙われている」と言われてるのだから。

 お、リオルお座り上手だねェ~~!
 え、待って?待って立っちゃう?立っちゃうの?がんばえ~~~!!

「そこで提案なのですが、ご子息が十五歳になるまで我が教会の庇護下に入りませんか?」
「え?」
「そうですね。避難といった方が正しいでしょうか。あなたからご子息を取り上げようとする輩から逃げるために。十五歳になればご子息の意思によって自らの未来を決めても問題ないでしょう。我が教会はご存知のとおり、王侯貴族からは不干渉を是としています。例え、ご子息を狙う輩が貴族であろうが誰であろうが、神の御下に保護された者を引き渡すことはありません」

 まあ実際神様だしね。
 神様自ら保護するって言ってるんだから、どんな国の偉い人だろうがどうもできないでしょ。むしろ手を出したら神罰下るんじゃね?

 きゃーーーーリオルが立った!!リオルが立った!!
 え、まさか歩いちゃう?歩いちゃう?
 やーーーんよちよち歩ききゃわいい~~~!!あ、あ、あ、私に向かって歩いてきてくれてぽすっと腕の中に倒れ込んできた。私を見上げて、にぱーって、あ、あ、あ、尊死しそう。

「…よろしいのでしょうか」
「ぜひ、頼ってください。教会は神が見守る場所、困っている方々を救う組織ですから。ご夫君にはこちらから連絡を取りましょう」
「……よろしくお願いします」

 ふむふむ。話はまとまったようだ。
 っていうかそんな制度あったの?え?ここに二週間ぐらい前に神託として周知させた?さっすが~。

 リオルを抱っこする。
 きゃっきゃと喜ぶリオルに自然と笑みが溢れる。ああ、可愛い。
 ―― 人間の魂は、幼子の頃はとても綺麗な色をしている。大人になるにつれ、色々と染まっていくのだけれど。

 だから等しく、人の子は皆かわいい。愛しい。
 それは神様も同じようで、だからこそ不幸になる芽をできる限り摘もうと私の案に賛成してくれたのだろう。
 王侯貴族に引き取られて幸せになるケースもあれば、そうでないケースもある。
 けれどそれは子ども本人の意思はない。周囲の大人によって進められるものだ。だから本人が大人同等の判断ができる年齢である十五歳までは保護することにしたそうだ。

『まずは幸せになる第一歩だよ、リオル』
「あい!」
「まあ、リオル精霊様に抱っこしてもらえたのね。良かったわね」

 そっとリオルを母君に渡す。
 母君は愛しそうに、リオルを抱っこした。

 尊い、尊いこの光景を、壊させてなるものか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...