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モブ令嬢イェーレ
12. ここまでバカだとは思わなかった
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ダンスエリア中央で踊っていたエルとエリザベスは、それはもうお似合いだった。ダンスに参加していない面々の視線は、ほぼ彼らに向けられているといっても過言じゃない。
人が多いと他のペアとぶつからないように踊る必要がある。ギリギリで避けていくペアが多い中、ステップを踏みながら、スルスルと間を抜けていくのはさすがだと思う。アレでも一応、冒険者だからなぁ。エルは。
一度だけ、兄様、エルと一緒にうちの領内にあった中規模ダンジョンに潜ったことがある。
私が索敵兼後衛、兄様がタンク、エルが前衛だ。もちろん、エルは「冒険者エル」としてだ。ヴェラリオン第一皇子として潜った日にはプレヴェドの王宮内が大混乱である。
一般的に「魔法」と呼ばれる詠唱魔法は、文字通り呪文を詠唱することで魔法を発動させるものだ。詠唱破棄による魔法の発動も可能だけど、大抵は威力が大幅に下がる。
精霊魔法も詠唱するにはするが、それは精霊へのお願いの言葉だ。だから呪文のように長ったらしく詠む必要はない。精霊と契約し、良好な関係を築いている場合はたった一言で精霊が察し、発動させてくれる。代わりに、あくまで精霊へのお願いなので、断られる場合もある。
私と兄様は竜騎士ではあるものの、精霊族の血を引いていることから精霊魔法は息をすることと同じように扱える。私が風の精霊魔法で前方を索敵し、モンスターを発見すれば兄様が闇の精霊魔法でモンスターを足止め、および引きつけ。そこからエルが火と土の精霊魔法を使いながら剣で攻撃を繰り出し、私が補助で弓と風の精霊魔法を使う、という形だ。
エルは一般的などの王族よりも強く、そして逞しい。体幹が良くて、私が模擬戦で風を使ってもバランスを一切崩さないのだ。ちなみに、兄様はグラついた。それをみたお父様が「鍛え直しだな」と笑っていたのを覚えている。
…あれ。兄様で気づいたけど、普段なら常に殿下の傍にいる兄様どこいった?
ざっと見る限り、ダンスエリアにもいない。
「…そういえば、殿下。私の兄はどこへ?」
「ダンスを誘いたい方がいる、と少し前に探しにいったけど…」
いやそれヴィクトリア。めっちゃ私の隣にいる。殿下も困ったような顔だ。
あ、ダンスエリアの向こうに兄様いる。こっちに気づいたようで、ちょっとショックを受けたような表情だった。ここまでまわって来るのはちょっと時間かかりそうだなぁ。
「……ヴィクトリア。個人的なお願いがしたいのですが」
「あら。任務中なのにいいの?」
「今しかタイミングがないのでお目溢しいただければ」
「ふふ、何かしら」
「たぶんもう少ししたら兄のイェソンが来ると思います。ダンスの誘いがあったら、受けていただけないでしょうか」
「イェーレのお兄様?」
「錬金術に少々興味があるようです。近場に話せる知り合いがおらず、私と接点があるヴィクトリアとどうにか話せないか…と最近悩んでいたのを見かけてしまったもので」
嘘は言っていない。
ヴィクトリアと接点が持てないか試行錯誤してて、錬金術について勉強し始めていたし。
この前の生徒会室で「ヴィクトリア嬢にお近づきになりたい…好き…」とか呟いてたし。
ヴィクトリアは何度か目を瞬かせたあと「ええ、いいわ」と快く引き受けてくれた。
ふはは、あとで目一杯褒め称えるがいい。
曲が終わり、皆のステップが自然と止まる。
エルとエリザベスの体が離れて、互いに一礼した。
「ありがとう、フェーマス嬢」
「こちらこそお付き合いいただき光栄でしたわ、殿下」
お互い嬉しいだろうに、微塵も感じさせないほどのただの友好の笑みを浮かべるふたりはある意味凄いと思う。
ダンスエリアを出るために差し出された手をとり、エルとエリザベスは歩き出す。私たちのところまであと少し、というところであの野郎がエリザベスを呼び止めた。
「エリザベス嬢!」
「……殿下、ダンフォール様」
ねぇ、恋のスパイスだかなんだか知らないけどさ。
腕に手を添えて寄り添うだなんて、そこまで露骨なのもどうよ。
すると、エルがすぐに動いた。
「やあ、イーリス殿」
エルがひらりと手を上げると同時に、反対の手でそっとエリザベスを自身の後ろにそっと隠した。
2曲目のダンスタイムが始まり、場内が賑やかになっていく。
「そちらのご令嬢は?」
「…ダンフォール伯爵のご令嬢だ。エリザベス嬢と同じ魔術学科クラスに属している」
「レアーヌ・ダンフォールと申します、殿下」
最敬礼のカーテシーをとるレアーヌに、エルはよろしくと軽く返した。
でも知ってる。この声色出してるとき、結構不機嫌なんだよ。笑いながら目が笑ってないみたいな状態だと思う。私の方でもエルは背中しか見えないけど、たぶんそうだ。
「イェルク殿…ご存じなかったのかもしれないが、エリザベス嬢は私の婚約者なのだ。勉強不足で申し訳ないが、そちらの国ではファーストダンスに婚約者がいるご令嬢を誘っても良いものなのか」
はーーー?バカなの?やっぱりバカなの??
そのままそっくりお前にかえしてやるよ、なんでエリザベスと踊ってねぇんだよ。お前がレアーヌとイチャイチャしてるからだろうがバカなの??
トントン、と腕を叩かれているのに気づいて振り返れば、ヴィクトリアが視線はエルたちに向けたまま、扇子で隠している口元を見せた。唇の動きから、こえ…?あ、やっべ声出てたのか。
きゅっと口を結べば、ふふ、と小さな笑い声が反対側から。殿下、笑わないでください。幸いにして、このふたり以外には聞こえていなかったようだ。
「いや?私の国でも婚約者がいる者は、ファーストダンスは婚約者と踊るかな。事情がない限りは」
「そうでしたか」
「ただ、イーリス殿の正式な婚約者はそちらのご令嬢と聞いてたし、フェーマス嬢のアクセサリーや衣装も君の色ではなかったから…だから、ファーストダンスくらいは良いと思ってたのだけど」
そう、エルは答えた。
場内には曲が流れている。ざわめきも聞こえている。だが、この場、エルの声が届く範囲にいた者たちは皆一斉にエルたちを見て、口を噤んだ。
第二王子の目が大きく見開かれ、レアーヌは淑女の嗜みも忘れてぽかんと口を開けている。
不意に、エルがくるりと私たちの方へ振り返った。うわ、やっぱ目笑ってないじゃん。怖っ。
「…違うの?レオナルド」
「正妃として迎える予定だったのは、エリザベス嬢の方だが…エリザベス嬢、イーリスから今日のためにドレスとアクセサリーを贈られていなかったのか?」
「…いただいておりません」
「そんな馬鹿な!?私は贈ったぞ!!」
「そう言われましても…受け取っておりませんわ。以前まではお贈りいただいていたので、ギリギリまでお待ちしておりました。けれどいくら待っても届かなかったので、侍女も不審がっておりました」
ふ、ふふふ。そうだろう、そうだろう。
「…発言よろしいでしょうか」
手を上げれば、殿下が頷いて許可してくれたので、軽く一礼する。
「イーリス殿下からの荷物が届いた、と先日私の侍女より報告がありました。中身を精査したところ、いまダンフォール嬢が着られているドレスと同じようなものでした」
「なるほど。寮では届けられた荷物は各部屋に振り分けられるが…手違いで君の部屋に運ばれたのか」
「贈り先が違っていたと分かっていたならば、なぜエリザベス嬢に連絡をしなかったのだ。あなたはエリザベス嬢の友人だろう」
はーーー?何言ってんのコイツ?バカなの??
いやほんとこんな奴が攻略対象者とか…あ、でもイーリス第二王子は二番目に攻略しやすい相手だったなそういや。
「届いたのは女子寮です。贈り先がフェーマス嬢なのかダンフォール嬢なのか分からなかったので、城に問い合わせておりました。届いたものが実は別のご令嬢宛でした、なんてことがないように」
それすらも想像できないのかこの王子は。
まあ明らかエリザベス宛って分かってましたけど?デイジーがレアーヌの侍女から「ここだけの話、うちのお嬢様、第二王子殿下の色合いに似せたドレス等を用意してまして…」って愚痴聞いてたから。でも私はその話を聞いていない。
私の反応に戸惑ったのか、第二王子は言葉を少しつまらせた。仮にも王族なんだからそんな反応しちゃダメでしょうが。まあ、私も反応してよく怒られるけど。
「…っ、そう、か。それは悪かった。だがイェルク殿、その話はどこで」
「うん?どこだったかな…」
「その話はここでするものじゃないだろう。後にしてくれ」
「ああ、そう、そうだな…兄上…」
混乱している様子の第二王子は、殿下の言葉に頭を抱える。ちらとその隣にいるレアーヌへと視線を向ければ、彼女は扇子で顔を隠したまままっすぐエリザベスを見つめていた。
―― 周囲の精霊たちが騒いでいる。
『レアーヌ、いいの?』
『わざと効果を下げるなんて』
『せっかくつかまえたのに』
…効果?
ぱちん、と扇子が閉じる音で意識をエリザベスに戻す。彼女は一歩下がり、殿下とエルに向けてカーテシーをした。
「…申し訳ありませんが、気分が悪いので退出させていただきますわ。王太子殿下、ヴェラリオン第一皇子殿下、どうかお許しくださいませ」
「エリザベス嬢、あとで話がある…すまないが、城内で待機してくれ。ライズバーグ嬢、付き添いを」
「承知しました」
「フェーマス嬢」
エルがエリザベスに声をかけ、立ち止まった彼女の左手を取った。流れるようにそのままとった左手に、手袋越しに挨拶のキスを落とす。
いやホント、こういうの見ると様になるからやっぱりエルは皇族なんだなって思う。
「今宵は、ありがとう。あなたに会えて良かった」
「わたくしも、素敵な夜を過ごせましたわ」
ざわめく周囲を無視してエリザベスは踵を返した。
ヴィクトリアが小声で「後で教えなさいよ」と言ったので「可能であれば」と答えた。じっと、エリザベスにも視線で訴えるヴィクトリアにエリザベスは微笑んだ。
「ヴィクトリア様。また学園で」
「ええ、また」
「ライズバーグ様」
「はい」
さっと近づき、腕を差し出す。
エリザベスが私の腕に手を添えたのを見計らって、会場の出入り口に向かって歩き始めた。
人が多いと他のペアとぶつからないように踊る必要がある。ギリギリで避けていくペアが多い中、ステップを踏みながら、スルスルと間を抜けていくのはさすがだと思う。アレでも一応、冒険者だからなぁ。エルは。
一度だけ、兄様、エルと一緒にうちの領内にあった中規模ダンジョンに潜ったことがある。
私が索敵兼後衛、兄様がタンク、エルが前衛だ。もちろん、エルは「冒険者エル」としてだ。ヴェラリオン第一皇子として潜った日にはプレヴェドの王宮内が大混乱である。
一般的に「魔法」と呼ばれる詠唱魔法は、文字通り呪文を詠唱することで魔法を発動させるものだ。詠唱破棄による魔法の発動も可能だけど、大抵は威力が大幅に下がる。
精霊魔法も詠唱するにはするが、それは精霊へのお願いの言葉だ。だから呪文のように長ったらしく詠む必要はない。精霊と契約し、良好な関係を築いている場合はたった一言で精霊が察し、発動させてくれる。代わりに、あくまで精霊へのお願いなので、断られる場合もある。
私と兄様は竜騎士ではあるものの、精霊族の血を引いていることから精霊魔法は息をすることと同じように扱える。私が風の精霊魔法で前方を索敵し、モンスターを発見すれば兄様が闇の精霊魔法でモンスターを足止め、および引きつけ。そこからエルが火と土の精霊魔法を使いながら剣で攻撃を繰り出し、私が補助で弓と風の精霊魔法を使う、という形だ。
エルは一般的などの王族よりも強く、そして逞しい。体幹が良くて、私が模擬戦で風を使ってもバランスを一切崩さないのだ。ちなみに、兄様はグラついた。それをみたお父様が「鍛え直しだな」と笑っていたのを覚えている。
…あれ。兄様で気づいたけど、普段なら常に殿下の傍にいる兄様どこいった?
ざっと見る限り、ダンスエリアにもいない。
「…そういえば、殿下。私の兄はどこへ?」
「ダンスを誘いたい方がいる、と少し前に探しにいったけど…」
いやそれヴィクトリア。めっちゃ私の隣にいる。殿下も困ったような顔だ。
あ、ダンスエリアの向こうに兄様いる。こっちに気づいたようで、ちょっとショックを受けたような表情だった。ここまでまわって来るのはちょっと時間かかりそうだなぁ。
「……ヴィクトリア。個人的なお願いがしたいのですが」
「あら。任務中なのにいいの?」
「今しかタイミングがないのでお目溢しいただければ」
「ふふ、何かしら」
「たぶんもう少ししたら兄のイェソンが来ると思います。ダンスの誘いがあったら、受けていただけないでしょうか」
「イェーレのお兄様?」
「錬金術に少々興味があるようです。近場に話せる知り合いがおらず、私と接点があるヴィクトリアとどうにか話せないか…と最近悩んでいたのを見かけてしまったもので」
嘘は言っていない。
ヴィクトリアと接点が持てないか試行錯誤してて、錬金術について勉強し始めていたし。
この前の生徒会室で「ヴィクトリア嬢にお近づきになりたい…好き…」とか呟いてたし。
ヴィクトリアは何度か目を瞬かせたあと「ええ、いいわ」と快く引き受けてくれた。
ふはは、あとで目一杯褒め称えるがいい。
曲が終わり、皆のステップが自然と止まる。
エルとエリザベスの体が離れて、互いに一礼した。
「ありがとう、フェーマス嬢」
「こちらこそお付き合いいただき光栄でしたわ、殿下」
お互い嬉しいだろうに、微塵も感じさせないほどのただの友好の笑みを浮かべるふたりはある意味凄いと思う。
ダンスエリアを出るために差し出された手をとり、エルとエリザベスは歩き出す。私たちのところまであと少し、というところであの野郎がエリザベスを呼び止めた。
「エリザベス嬢!」
「……殿下、ダンフォール様」
ねぇ、恋のスパイスだかなんだか知らないけどさ。
腕に手を添えて寄り添うだなんて、そこまで露骨なのもどうよ。
すると、エルがすぐに動いた。
「やあ、イーリス殿」
エルがひらりと手を上げると同時に、反対の手でそっとエリザベスを自身の後ろにそっと隠した。
2曲目のダンスタイムが始まり、場内が賑やかになっていく。
「そちらのご令嬢は?」
「…ダンフォール伯爵のご令嬢だ。エリザベス嬢と同じ魔術学科クラスに属している」
「レアーヌ・ダンフォールと申します、殿下」
最敬礼のカーテシーをとるレアーヌに、エルはよろしくと軽く返した。
でも知ってる。この声色出してるとき、結構不機嫌なんだよ。笑いながら目が笑ってないみたいな状態だと思う。私の方でもエルは背中しか見えないけど、たぶんそうだ。
「イェルク殿…ご存じなかったのかもしれないが、エリザベス嬢は私の婚約者なのだ。勉強不足で申し訳ないが、そちらの国ではファーストダンスに婚約者がいるご令嬢を誘っても良いものなのか」
はーーー?バカなの?やっぱりバカなの??
そのままそっくりお前にかえしてやるよ、なんでエリザベスと踊ってねぇんだよ。お前がレアーヌとイチャイチャしてるからだろうがバカなの??
トントン、と腕を叩かれているのに気づいて振り返れば、ヴィクトリアが視線はエルたちに向けたまま、扇子で隠している口元を見せた。唇の動きから、こえ…?あ、やっべ声出てたのか。
きゅっと口を結べば、ふふ、と小さな笑い声が反対側から。殿下、笑わないでください。幸いにして、このふたり以外には聞こえていなかったようだ。
「いや?私の国でも婚約者がいる者は、ファーストダンスは婚約者と踊るかな。事情がない限りは」
「そうでしたか」
「ただ、イーリス殿の正式な婚約者はそちらのご令嬢と聞いてたし、フェーマス嬢のアクセサリーや衣装も君の色ではなかったから…だから、ファーストダンスくらいは良いと思ってたのだけど」
そう、エルは答えた。
場内には曲が流れている。ざわめきも聞こえている。だが、この場、エルの声が届く範囲にいた者たちは皆一斉にエルたちを見て、口を噤んだ。
第二王子の目が大きく見開かれ、レアーヌは淑女の嗜みも忘れてぽかんと口を開けている。
不意に、エルがくるりと私たちの方へ振り返った。うわ、やっぱ目笑ってないじゃん。怖っ。
「…違うの?レオナルド」
「正妃として迎える予定だったのは、エリザベス嬢の方だが…エリザベス嬢、イーリスから今日のためにドレスとアクセサリーを贈られていなかったのか?」
「…いただいておりません」
「そんな馬鹿な!?私は贈ったぞ!!」
「そう言われましても…受け取っておりませんわ。以前まではお贈りいただいていたので、ギリギリまでお待ちしておりました。けれどいくら待っても届かなかったので、侍女も不審がっておりました」
ふ、ふふふ。そうだろう、そうだろう。
「…発言よろしいでしょうか」
手を上げれば、殿下が頷いて許可してくれたので、軽く一礼する。
「イーリス殿下からの荷物が届いた、と先日私の侍女より報告がありました。中身を精査したところ、いまダンフォール嬢が着られているドレスと同じようなものでした」
「なるほど。寮では届けられた荷物は各部屋に振り分けられるが…手違いで君の部屋に運ばれたのか」
「贈り先が違っていたと分かっていたならば、なぜエリザベス嬢に連絡をしなかったのだ。あなたはエリザベス嬢の友人だろう」
はーーー?何言ってんのコイツ?バカなの??
いやほんとこんな奴が攻略対象者とか…あ、でもイーリス第二王子は二番目に攻略しやすい相手だったなそういや。
「届いたのは女子寮です。贈り先がフェーマス嬢なのかダンフォール嬢なのか分からなかったので、城に問い合わせておりました。届いたものが実は別のご令嬢宛でした、なんてことがないように」
それすらも想像できないのかこの王子は。
まあ明らかエリザベス宛って分かってましたけど?デイジーがレアーヌの侍女から「ここだけの話、うちのお嬢様、第二王子殿下の色合いに似せたドレス等を用意してまして…」って愚痴聞いてたから。でも私はその話を聞いていない。
私の反応に戸惑ったのか、第二王子は言葉を少しつまらせた。仮にも王族なんだからそんな反応しちゃダメでしょうが。まあ、私も反応してよく怒られるけど。
「…っ、そう、か。それは悪かった。だがイェルク殿、その話はどこで」
「うん?どこだったかな…」
「その話はここでするものじゃないだろう。後にしてくれ」
「ああ、そう、そうだな…兄上…」
混乱している様子の第二王子は、殿下の言葉に頭を抱える。ちらとその隣にいるレアーヌへと視線を向ければ、彼女は扇子で顔を隠したまままっすぐエリザベスを見つめていた。
―― 周囲の精霊たちが騒いでいる。
『レアーヌ、いいの?』
『わざと効果を下げるなんて』
『せっかくつかまえたのに』
…効果?
ぱちん、と扇子が閉じる音で意識をエリザベスに戻す。彼女は一歩下がり、殿下とエルに向けてカーテシーをした。
「…申し訳ありませんが、気分が悪いので退出させていただきますわ。王太子殿下、ヴェラリオン第一皇子殿下、どうかお許しくださいませ」
「エリザベス嬢、あとで話がある…すまないが、城内で待機してくれ。ライズバーグ嬢、付き添いを」
「承知しました」
「フェーマス嬢」
エルがエリザベスに声をかけ、立ち止まった彼女の左手を取った。流れるようにそのままとった左手に、手袋越しに挨拶のキスを落とす。
いやホント、こういうの見ると様になるからやっぱりエルは皇族なんだなって思う。
「今宵は、ありがとう。あなたに会えて良かった」
「わたくしも、素敵な夜を過ごせましたわ」
ざわめく周囲を無視してエリザベスは踵を返した。
ヴィクトリアが小声で「後で教えなさいよ」と言ったので「可能であれば」と答えた。じっと、エリザベスにも視線で訴えるヴィクトリアにエリザベスは微笑んだ。
「ヴィクトリア様。また学園で」
「ええ、また」
「ライズバーグ様」
「はい」
さっと近づき、腕を差し出す。
エリザベスが私の腕に手を添えたのを見計らって、会場の出入り口に向かって歩き始めた。
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