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悪役令嬢エリザベス

13. つがい *

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 イェルクが留学してきてから、2週間後。
 エリザベスはまたモヤモヤとしたものを心に抱えながら、西棟のいつもの中庭へ足を向けていた。

 イェルクとエリザベスは周囲に婚約しているようだ、と察せられている。時期的に例え婚約していたとしてもまだ公表する段階ではない、というのは皆分かっているようで、連日放課後にエリザベスを迎えに来るイェルクと、エリザベスのやり取りを微笑ましく見守っていた。
 イェルクの黒髪に赤い瞳は、存外すぐに受け入れられた。彼が他国の第一皇子であることもそうだが、本人が気にせず過ごしている上に穏やかな性格であることも一因だろう。

 だが、そのヴェラリオン第一皇子という立場から、学園長直々に頼まれたことがあった。
 それを無碍に断ることもできず、やむを得ず引き受けたときのイェルクはひどく申し訳無さそうな表情をしていたし、後からレオナルドもどうにもならなかったとエリザベスに頭を下げてきた。

 精霊の愛し子である、レアーヌの魔法指導である。

 イェルク自身、詠唱魔法は不得意だ。その点を克服するために魔術学科に途中編入しているわけだが、精霊魔法ではこの学園で右に出る者はいないだろう。つまりは、詠唱魔法も精霊魔法も安定しないレアーヌの指導をしてほしいとのことだった。
 精霊に好かれている上に魔力量も豊富、さらには全属性適正セクステュープルとレアーヌの能力は国の重鎮になれるほど非常に高い。それらを在学中に制御できなければ自身のみならず周囲を危険に巻き込む可能性がある。

 中庭で一緒にランチをする。たったそれだけのことが最初の数日しか出来なかった。
 以降、イェルクは昼休みにレアーヌの指導をしている。
 放課後はその時間を埋めようとなるべく一緒にいてくれるが、それもいつレアーヌに取られるか、エリザベスは気が気でない。


「王太子殿下、小耳に挟んだんですがちょっとよろしいですか」
「なんだ、エレン」
「あの女が第二王子あのバカと婚約してないって本当です?」


 いつの間にか、中庭で一緒に昼食を取るようになったレオナルドにイェーレはそう質問した。
 エリザベスの前でもずいぶんと表情を見せるようになったレオナルドは、イェーレの質問に苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべた。


「本当だよ。私もこんな事態にまでなったのだから最後まで責任を取れ、と言ったのだがな」
「ダンフォール嬢、バッサリと切り捨ててましたね。私は騙されたと」
「騙された?」


 エリザベスが口を挟めば、こくりとイェソンは頷く。


「ドレス、アクセサリーの類はたしかに贈られていたが、それは許される範囲内だと思っていたと。私を愛していると言いながら犯罪を犯すような人を支えるほどの度量はない、贈られた物はお返しすると」
「たしかに一式届いたな。購入された物の値段との突き合わせはまだ途中だが、まあ、量と質からしてほぼ一致しているだろう」


 レオナルドの補足にイェーレは口を真一文字に結び、何か考え込んでいるようだった。

 信じていたイーリスが犯罪を犯してまで自分に貢いでいた、と知ってまでレアーヌは彼を支えようと思えなかったのだろう。ある意味、騙されていたというのは分かるとエリザベスは納得した。
 自分を愛していたとしてもなんてことをしてくれたのだ、という思いを抱くのは想像に難くない。

 その点は共感できる。だが、いまのレアーヌの行動をエリザベスは許容できない。

 レアーヌがただ、イェルクを師と仰ぐだけならば、師として尊敬の念を抱くぐらいならばエリザベスは耐えられる。けれど、伝え聞くにはレアーヌはイーリスのときと同様、徐々にイェルクとの距離を詰め始めてるようだ。昨日にはついに、互いの敬語が取れたらしい。
 それが、エリザベスの胸中にもやを発生させている原因である。

 イェルクもイーリスのときと同様に、レアーヌに惹かれたらどうしよう。
 放課後には毎日会いに来て話しているが、ここ数日はもうそればかり考えてしまうような状況だ。


「…わたくし、はやくエルと正式な夫婦になりたいわ」


 ぽつり、とエリザベスの口から思わず言葉がこぼれる。
 学園を卒業するまであと1年ほど。イェルクは短期留学のためあと2ヶ月強。
 レアーヌとの接点を考えれば、あと2ヶ月近くも一喜一憂しなければならないのは辛い。それなら、退学してでも早く、イェルクと夫婦になりたいと思ってしまう。

 あの日見た、イーリスとレアーヌが互いの真名を呼びあった光景。イーリスがイェルクに置き換えられた状態で脳裏に浮かんでしまい、エリザベスは唇を噛んだ。


「…ねえ、兄様。あの女ぶん殴っていい?」
「うん、気持ちはすごく分かるけど駄目に決まってるだろう」
「精霊の愛し子で全属性適正セクステュープルで魔力量も豊富??そんなん情報過多だし制御できないのは第二王子あのバカと遊んでたからでしょうよ。なんでエル引っ張り出してんのよ、エルの立場的に断れないって分かってて…いや、強制力かこれ。次のフラグどこかしら」
「…え、エレン?」


 物騒なことを言い出したかと思えば、ブツブツとつぶやき始めたイェーレに思わず声をかけたエリザベスだったが、イェーレは気づく様子もなくイェソンは呆れたような表情だ。
 レオナルドの方へ視線を向ければ、彼はふふ、と楽しそうに笑みを浮かべていた。


「面白いだろう?時々、エレンはこんな風に暴走するんだ」
「…そういえばこんな風に一気に喋ることがありましたわ」
「表情がほとんど表に出てこないが、彼女が抱えている心の内はこんな風に喜怒哀楽が激しい。それを気味悪く思う人もいるが、私はそう思わない」


 ふと、エリザベスは気づく。
 レオナルドがイェーレに向ける眼差しに、イェルクがエリザベスに向けるものと同じ熱があることを。

 エリザベスの様子に気づいたのか、レオナルドは人差し指を立てて唇にあてた。


「内緒にしててくれ。まだ、頑張りたいんだ」
「…かしこまりました」
「それと…エルのことだが、心配しなくていい。エルはイーリスと違って、君のことをずっと見守ってきていたからな。想いの質が違う。今日の放課後に会ったときにでも、抱きしめてやってくれ。それだけであいつは喜ぶから」


 ああだこうだと騒ぐライズバーグ兄妹を見つめながら静かに告げられた言葉に、エリザベスは少し間をおいて頷いた。
 本当に、そうだといいなと思いながら。


 その日の放課後。
 いつも通り、エリザベスの教室に顔を出したイェルクだったが、顔色が悪い。
 どうしたのかと駆け寄るエリザベスの手を掴む。


「ど、どうしたのエル?」
「うん、ごめんねリズ。説明してる暇ないんだ、こっち」


 イェルクに引っ張られ少々足をもつれさせながら、エリザベスは慌ただしく教室から出ていった。急いでいるようで、イェルクは廊下を早足で移動していく。

 背後の方で「イェルク様!」とレアーヌが呼びかけているような声が聞こえてきたが、イェルクは無視して進み、エリザベスも振り返る暇もなく廊下の角を曲がった。


 連れてこられたのは、西棟の空き教室だった。
 やや駆け足で来ていたエリザベスは息が上がっており、空き教室に入ってからはなんとか荒くなっている息を落ち着かせようと深呼吸する。教室のドアが閉まり、内鍵がかけられた音が耳に届いて思わず振り返った。


「…エル?」
「まあ、たぶん大丈夫だと思うけど…」


 イェルクが空中を指でスッと切ると、空気が変わったような感覚をエリザベスは覚える。これはあの舞踏会の夜、イェーレが部屋に張った防音結界と同じ感覚だった。
 結界を張り終えると、イェルクはドアを背にしてずるずるとその場に座り込む。具合でも悪くなったのかとエリザベスは慌ててイェルクの傍に寄って手を伸ばすと、その手を掴まれた。ぐい、と強く手を引かれ、そのままイェルクに抱き込まれる。


「リズ、リズ…」


 苦しいぐらいに力強く抱きしめられるが、エリザベスの名を呼ぶイェルクの声は震えていて。エリザベスはゆっくりと腕をイェルクの背に回して抱きしめ返した。

 しばらくして、ようやく落ち着いたのかイェルクの腕の力が緩む。エリザベスがイェルクの胸を軽く押して、少し体を離せばイェルクの顔が覗き込めた。
 顔色の悪さは相変わらずで、エリザベスは思わずイェルクの頬に手を伸ばし、撫でる。するとイェルクは猫のように瞳を細めて、その手に自ら擦り寄ってため息をつく。


「リズ…リズだ」
「どうしたの?」
「うん…そう、そうだね…リズには話しておこう。その前に、僕の膝に座ってくれる?こう、後ろ向きで。抱きしめたまま話したい」
「え?ええ…構わないわ」


 放課後にふたりきりの逢瀬を重ねて、手を繋ぐこと、抱きしめることまではできるようになっている。まだ恥ずかしいと思うことはあるものの、エリザベスとしては最初の頃よりは抵抗感がなくなってきていた。2週間、毎日となると慣れるものだ。
 キスはまだ恥ずかしい気持ちが強く、キスする前に宣言してもらわないとパニックになるためイェルクとのキスはまだ片手で数えるほどしかしていない。

 イェルクの望むまま、エリザベスは背を向けたままイェルクの胡座をかいた足の上に腰を下ろした。ゆっくりとイェルクの腕がエリザベスの腹に回って、エリザベスの肩にイェルクの顎が乗る。エリザベスはほんの少しだけ首を傾げて、イェルクの頭に頬を寄せる。
 腹の前に回されたイェルクの手にエリザベスが触れるとそっと手を絡められた。温かい手にエリザベスがうっとりとしていると、イェルクがぽつりと話し始める。


「ダンフォール嬢のことなんだけど」
「…ええ」
「あれ、僕も知らなかったんだけど精霊の愛し子って精霊族にも影響出るみたいでさ…愛し子は精霊に好かれる魂を持っているって聞いてたけれど、僕も必要以上に構ってあげたくなるみたいなんだ。精霊たちと違って自制が効くけど毎回緊張してるみたいな、そんな感じでねぇ」


 はあ、とイェルクはため息をつく。


「2週間近く昼休みに緊張を強いられている、ということかしら?」
「うん。それが今度は放課後もって言われて、無理って言って逃げてきた」
「ああ…それで彼女が…」
「大体、名前で呼ぶことを許可してないのに呼んでくるようになったし、彼女の周りにいる精霊たちも彼女を助けることこそが正しい、みたいな感じで付き合いにくい」


 ここにいる子たちはそうでもないんだけどね、とぼやいたイェルクは、右手をエリザベスの手から離すと、エリザベスの目の前で指を滑らせる。何か文字か絵を描いているような、不思議な挙動をするその指を目で追っていると、エリザベスの視界の端で何かが横切った。
 え、とエリザベスがそちらへ視線を向けると、にこりと微笑む手のひらサイズで、ぼんやりと体に光を纏わせた小人 ―― 精霊。すると次々とエリザベスの前に精霊たちが現れ、ひらひらと手を振ったりしている。この前の手紙の返事にお願いした精霊とは異なる姿ばかりだ。

 驚いた?と囁くイェルクに、エリザベスは目の前の光景に目を奪われながらこくりと頷く。この部屋にいるだけでも10匹近くはいるだろう。


「精霊魔法の一種で、精霊を感知できないひとでも一時的に分かるようにするものだよ」
「とても綺麗だわ…」

『きれいだって』
『うふふ、ありがとう。エリザベスもきれいよ』

「まぁ、言葉を交わすこともできるのね!すばらしいわ!」
「ふふふ…喜んでくれてよかったよ」

『エルのつがいは、とてもいい子』

「つがい…」


 すでに精霊たちからはイェルクの番…妻、あるいは伴侶と認識されているらしい。そのことに嬉しいと思いつつも恥ずかしくなって、エリザベスは頬を赤らめて少し俯く。
 くすくすと笑ったイェルクは、うん、とエリザベスの頬に頭を擦り寄せた。


「かわいいだろう。僕の番だよ」

『とてもかわいいわ。だから、愛し子につられちゃだめよ』
『あの子、愛し子だけどそれだけじゃない方法もつかってる。ちかよるの、だめ』
『つがいがいるのだもの、つがいとまぐわえばどうってことないよ』

「まぐ…?」
「うん、待って。そういう話は僕だけのときにして」


 精霊たちが話す内容についていけず混乱するエリザベスだったが、イェルクは分かっているらしい。しかも、慌てたように止めるものだからどんな話なのかとますます分からなくなる。

 だが、精霊たちはそんなイェルクの言葉が不満だったようだ。
 ぷくりとその小さな頬をふくらませる精霊もいれば、ムッとした表情を浮かべる精霊もいた。そのうちの1匹は、ふんと胸を張ると声を上げる。


『なにをいっているの?これは、エルとエリザベスのためよ。エリザベスもりかいしていないと、だめよ』

「彼女はそっち方面は詳しくないんだよ」

『だからよ。りかいしなければ、エレンが言うとおり、エルのそのきもちがエリザベスじゃなく、あの子にむけるようになってしまうわ』
『それをふせぐためには、エリザベスの協力がひつようふかけつなんだよ』


 イェルクの気持ちがレアーヌに向けられる。つまりは、いま、エリザベスに向けられているこの優しい時間がなくなってしまう。


(それは、いや)


 イェルクのこの気持ちはエリザベスだけのものだ。エリザベスのこのイェルクに向ける気持ちも、イェルクのものだ。
 それをレアーヌに奪われるなんて、耐えられない・・・・・・

 添えられているイェルクの手をぎゅ、と握ると、エリザベスは精霊たちを見上げた。


「精霊様、どうかわたくしに教えてくださいませ。わたくし、エルと離れたくないのです。もう、彼女に奪われたくない…!」
「…リズ」
「どうしたら、ずっとエルと一緒にいることができますか?わたくしは何をすれば良いのでしょうか?」


 イェルクと一緒にいられるのであれば、エリザベスはもう何でもする気だった。
 退学する必要があるのであれば退学するし、精霊魔法を極める必要があるのであれば極めて見せよう。

 エリザベスの意気込みを見た精霊たちは一度顔を見合わせ、それからこくりと頷く。


『愛し子にあいじょうを向けやすくなるのは、わたしたちにとってはあたりまえ。でも、精霊族はそれをふせぐことができる』
『それには、つがいがひつよう』
『つがいとまぐわって、魔力をかよわせるとふせげる』

「その、不勉強で申し訳ないのですがまぐわうとは…?」


『まぐわうは、まぐわう。ひとはどう表現するんだっけ?』
『エル、おしえてあげて』


 精霊の言葉にエリザベスは後ろのイェルクを見るため、体を捩って振り返った。
 すると、至近距離に顔を真っ赤にしたイェルクがエリザベスの目に入る。え、と目を瞬かせていると、イェルクが視線を彷徨わせて答えるのに逡巡した。
 僅かな時間をおいて、イェルクはようやく口を開く。


「……精霊たちが言う、まぐわうは、その、つまりは…僕とリズが、つまりは、子どもができるようなこと、なんだ」

『ちゃんと、子どもができるようなふうにしなゃだめ』
『エルのせーえきを、エリザベスのおなかのなかに出さないとだめ』


 理解したエリザベスの顔が瞬時に真っ赤に染まった。
 イェルクが言いたくなかった理由が分かり、エリザベスは思わず俯いてイェルクの胸に頭を押し付ける。聞こえてくるイェルクの心音はとても早く、エリザベスの心音とほぼ変わりない速度で彼が緊張しているのが分かるほどだ。


『キスでもいいけど、それはその場しのぎ』
『エルが愛し子といるじかんがふえればふえるほど、キスじゃ間に合わなくなる』

「あの、もしかして、そのキスって」
「…あの馬車の中で、僕がリズにしたようなやつ」

『ほんとうは今からでもすべき』
『エルはまだじりきでなんとかしてるけど、抱きしめるだけじゃたりない』


 う、とイェルクがうめき声を上げる。精霊に言われた内容が図星だったのだろう。
 顔色が悪かった原因はそうだったのか、とエリザベスは納得すると同時に考えを巡らす。

 放課後、毎日会って徐々にスキンシップを増やしてきたのはそういう事情もあったのだ。
 もちろん、やり取りをしている中で本当にイェルクがしたいからしているというのも分かっている。たった2週間しか一緒に過ごせていないが、それでもイェルクはイーリスと比べものにならないぐらいにエリザベスに対して愛を伝えてくれているのだ。

 エリザベスはゆっくりと、イェルクの胸に押し付けていた頭をあげて、イェルクを見上げる。
 彼は先ほどよりは幾分か落ち着いた様子ではあったけれど、まだ顔は少し赤い。

 イェルクが気づいたのだろう、エリザベスと目を合わせる。
 そのルビーの瞳には、エリザベスが映っていた。


「…分かりましたわ」
「リズ?」
「まず、その、キスをしましょう。でも、精霊様でも、見られているのはちょっと恥ずかしいので…」

『いいよ、この部屋から出てる』
『愛し子がこの部屋にこないように、やってみる』
『がんばってね』


 ふわり、と精霊たちが一瞬光ったかと思うと、エリザベスの目に精霊の姿は見えなくなった。
 イェルクを見れば、この部屋にはもういないよ、という答えが返ってくる。


「リズ、いいの?この前みたいなキスだよ?」
「…構わないわ。だって、それでエルが楽になるのでしょう?顔色が悪くて心配していたのよ」


 正直、怖いところもあるがイェルクのことだ。エリザベスの嫌がることはしないだろう、とこの短い付き合いでもエリザベスは分かる。


 イェルクがエリザベスの腹にまた腕を回して、今度はより体を密着させるような体勢にする。後ろを見るような形でエリザベスはイェルクへと顔を向けると、もう鼻がくっつきそうなぐらいの距離まで顔が近づいていて、その近さに恥ずかしくなって顔をそらしそうになるのをエリザベスはぐっと堪えた。
 腹の前に回された手にそっと触れれば、手を絡め取られる。

 うっとりとした表情で、リズ、とイェルクが呟く。
 エリザベスがゆっくりと瞳を閉じると、それに応じてイェルクと唇が重なった。

 ちゅ、ちゅ、と音を立ててキスが繰り返される。
 それから唇をぬるりと舌で舐められて、エリザベスは薄く唇を開いた。開いた隙間からイェルクの舌がエリザベスの口内に入り込み、舌を絡め取られる。


「ぁ、ふ…っ、ん…」


 まるでエリザベスを食べようかとしているのかと錯覚するぐらい、イェルクはエリザベスの舌を吸った。流れ込んでくる唾液が飲み込みきれず、エリザベスの口の端からこぼれて首筋へと伝っていく。
 その感覚に身を震わせていると、するりと太ももを撫でられ、そのまま足の付根へとイェルクの手が伸びる。きゅう、と下腹部が切なく震え、ぁ、とエリザベスの口から声が上がる。

 唇が離れ、イェルクはエリザベスの口の端からこぼれた唾液を舌で辿っていく。首筋をつぅ、となぞられて、エリザベスの背筋にゾワゾワとしたものが走る。思わず首を反らしてしまい、イェルクに首をさらせばイェルクはそこに吸い付いた。


「ゃ、エルぅ…」
「ん…」
「ふぁ…ま、って、そこ、ぐりぐりしないでぇ…っ」


 イェルクの右手は、下着越しにエリザベスの秘部に触れていた。イェルクが何をしようとしているのか、仮にも王子妃教育を受けていたエリザベスは知っていた。
 何度も擦り付けられるそれから与えられる刺激に、エリザベスの背が震える。次第にとろりと奥から何か出てくるような感覚があり、にちゃ、と水音が聞こえてくるようになった。

 はぁ、とイェルクは熱い吐息を吐いた。


「リズ、リズ」
「ぁ、あんっ」
「きもちいい?」
「ま、って、んぅ…ぁあっ、そこ、だめっ」


 下着の脇から指がぬるりと入った。
 ぐちゅぐちゅと水音が響いてきてエリザベスは羞恥のあまり腹に回されているイェルクの手を強く握る。イェルクの手が花芯に触れると、あぁ!とエリザベスは悲鳴をあげた。

 ぐり、とエリザベスの臀部に固いものを押し付けられる。
 それが何なのか、エリザベスには分かる。それがエリザベスのここに入るのだ、と思うと中を擦るイェルクの指を締め付けた。


「ぁ、ぁっ、ひゃう?!」
「あ、見つけた。ここか」
「や、やぁ…っ、える、えるぅ!」


 思わず足を閉じようとするが、イェルクの手が入っているために閉じることができない。むしろ、狭めたことによりイェルクの指がはっきりと感じ取れてエリザベスは身を捩らせた。
 イェルクはエリザベスが感じるところを何度も擦っていく。いつの間にか膣には指が二本入り、バラバラに動かされてエリザベスは何か迫ってくるものを感じた。
 これ以上されると、どうなるか分からない。エリザベスはイヤイヤと首を横に振るが、イェルクは止めるどころかもう片方の手で花芯までいじり始めてしまい、エリザベスの腰が跳ねる。


「ぁー!や、だ、やだぁ!」
「リズ、かわいい。リズ、僕のリズ」
「ひ、ぁ、あっ」


 瞼の裏がチカチカとスパークする。思わずイェルクの腕を掴み、腰を浮かしかけるがそれをイェルクに押さえつけられた。その拍子に先ほど感じたところを強く擦られ、エリザベスは嬌声を上げた。


「ぁ、あぁああーっ!」


 ガクガクと足が震え、視界が一瞬真っ白に染まる。
 これが絶頂なのだ、と分かったのは、イェルクがひくつく膣から指を引き抜いて、何度もエリザベスにキスの雨をふらせているときだった。

 荒い息を落ち着かせようと何度か深呼吸をして、それからイェルクへと視線を向ければイェルクの顔色はいくぶんか落ち着いていた。ぷぅ、とエリザベスは頬を膨らませ、イェルクから視線を外す。


「…エル、ひどいわ」
「ごめんね。キスだけにしようと思ったんだけど、我慢できなかった」
「…エルは、大丈夫なの?」
「うーん…本当は続きしたいけど、初めてがここはちょっとあれかなと思って」


 イェルクの言葉にはた、と我に返る。
 そういえばここは空き教室だったのだ。学園でなんてことを、と真っ赤になるエリザベスにイェルクはふふ、と笑ってまたエリザベスの額にキスを落とす。


「リズ、僕のいとしい番。早く連れて帰りたい」
「…わたくしも」


 あと、たった2ヶ月。
 それだけの期間が、とても長く感じられてしまうのは、なぜだろうかとエリザベスは瞳を閉じて思った。
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