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悪役令嬢エリザベス
08. 舞踏会 2
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ダンスタイム前の一時のこと。
「エリザベス」
「ヴィクトリア」
声をかけられた方向に振り返る。するとそこには、クランク公爵家令嬢のヴィクトリア・クランクの姿があった。
白銀の髪にサファイアの瞳を持つ彼女は幼馴染も同然で、昼休み時に中庭以外で過ごす場合は主に彼女とランチをしていることが多い。学園では高位貴族の娘としては珍しく錬金術科に所属しており、最近のイーリスとレアーヌの言動に眉をひそめているうちのひとりだった。
「イェーレ、あなたドレスじゃないのね」
「はい、クランク嬢。私は只今フェーマス嬢の護衛の任を務めておりますゆえ」
「やだ、口調まで変わってない?いつも通りヴィクトリアで良くてよ」
「申し訳ありません。公私は分けなければなりませんから」
そういえば、会場についてからのイェーレはやけに堅苦しい喋り方をしているな、とエリザベスは気づいた。馬車の中で多少砕けていたのは、ふたりきりだったからだろう。
「ところでエリザベス。あなた、今日は本当ならあそこで第二王子殿下と一緒のはずでしょう。どうしたの?まさか、妃教育をお休みしていることに関係があるの?」
そう。本来ならば第二王子の婚約者であるエリザベスは、イーリスのエスコートを受けながらあの王族たちと共に登壇するはずだったのだ。
実は、王族の中で婚約者がはっきりと決まっていたのはイーリスだけだった。王太子であるレオナルドにも婚約者がいない。
イーリスより先に婚約者が決まっていてもいいはずだが、噂では幼い頃から慕っている令嬢に振り向いてもらえるようアプローチをしているとのことだった。また、そのアプローチが実らずにいるとも。その噂を聞いたエリザベスは、理想の王子様を体現したかのようなレオナルドのアプローチをスルーしているという令嬢に色んな意味で感心している。
メリーベル王女はまだ10歳。そろそろ婚約者候補の選定が始まっている頃であろう、といった具合だ。
ヴィクトリアの質問は想定されていた質問だったが、その辺りの打ち合わせなど全く行っていない。エリザベス自身だって今日初めて知ったのだから。
エリザベスがなんとか返そう、と口を開きかけたそのとき。
「私の方からご説明してもよろしいでしょうか?」
「…ええ、いいわ。イェーレ、説明してちょうだい」
「今回、国賓であるヴェラリオン皇国第一皇子殿下をお迎えするにあたり、国王陛下より本日は王族のみで対応するとのお達しがありました。理由は、まあ…」
ちら、とイェーレの視線がヴィクトリアから外れる。つられて、エリザベスとヴィクトリアがイェーレが向けた先に視線を向けると、ヴィクトリアから「…まぁ」と不機嫌を隠さない声が漏れた。
そこには、仲睦まじい様子のイーリスとレアーヌがいた。レアーヌは黄色ベースに金の刺繍が入ったドレスを身にまとっており、オレンジレッドの髪は緩やかに巻かれて、首元にあるネックレスは遠目からでも分かる大振りのエメラルドがメインに据えられているものだった。
明らかに、イーリスの色合いだ。
「…ご理解いただけましたでしょうか」
「ええ。それはもう。ありがとうイェーレ」
扇で口元を隠しながらも呆れた眼差しはイーリスに向けられたままだ。
エリザベスも苦笑いを隠すように、扇を口元で広げる。
「それもそうよね。婚約者ではない令嬢を壇上にあげる可能性が否定できないなら、王族のみでお迎えした方が良いわよね」
周囲の様子を伺えばイーリスたちのことに気づいたか、エリザベスたちの会話を耳にしていたか。現役世代の貴人たちが面白そうにイーリスたちを眺めているようだった。
醜聞は社交界が好む話題のひとつだ。それが王族のものともなれば、面白くて仕方がないだろう。
(婚約者ではないという意味では、わたくしも当てはまるわね)
書類上はすでにイーリスとの婚約は破棄されている。
今日、準備中に読んでいたクリストフからの手紙によると、王家から王印で割り印された婚約破棄と責任を明記した書類が届いたらしい。慰謝料等はイーリスに真実を告げてからになるため遅くなるとの謝罪文もつけられていたそうだ。
また、イェルクとの婚約を進めるにあたり必要な書類なども同封されていたそうだ。
―― かのお方にお会いしたが、とても誠実な方だったよ。ベスの言う通りだった。
クリストフが外交長官として国賓のイェルクを迎えた際に、ふたりきりで話す機会があったそうだった。今回の婚約に関して手順を飛ばして申し出て申し訳なかったと謝罪されたこと、エリザベスを必ず幸せにすると力説されたとクリストフは綴っていた。
「エリザベス、大丈夫?」
ヴィクトリアの声に、は、とエリザベスは我に返る。
ヴィクトリアの方を見れば、心配そうな表情を浮かべていた。
「…ええ、大丈夫よ」
「本当…彼女も、どうかしてるわ」
少し考えれば、婚約者がいる殿方にあんなにスキンシップをするのは常識外れだ。
この後に控えているダンスのファーストダンスもレアーヌと踊りそうだな、なんてエリザベスが考えていると、周囲がざわめいた。ヴィクトリアも何かしら、という風に周囲を見渡して、ある一点を見つめて固まってしまった。
何だろうとエリザベスもそちらへ意識を向ける。
ルビーの瞳が、エリザベスを捕らえた。ひゅ、とエリザベスは思わず息を呑む。
こちらに向かってきていたのはイェルクだった。少し後ろにレオナルドもいる。まるで、示し合わせたかのように人々がさあっと引いてエリザベスまでの道を作っていた。
先ほどまで遠いと感じていたイェルクが目の前に現れたのに少し狼狽えたが、すぐに切り替えてエリザベスはイェルクに向けて最敬礼のカーテシーを行う。エリザベスのカーテシーに我に返ったらしいヴィクトリアも最敬礼のカーテシーを行った。
「あなたが、フェーマス卿のご息女かな」
「お目にかかれて光栄です。クリストフ・フェーマスが娘、エリザベス・フェーマスでございます」
「フェーマス卿から話を聞いて、少し話をしてみたかったんだ。急にごめんね。そこまでかしこまらなくていいよ、これから学友となるのだから。そちらは?」
「ヴィクトリア・クランクと申します」
「イェーレ・ライズバーグと申します」
「よろしくね」
ふわりと微笑んだイェルクを見て、エリザベスはきゅうと胸を締め付けられた気がした。ここ最近、イェルクを見るとおかしい。顔が火照っている気がして、落ち着こうとエリザベスはそっとヴィクトリアを見やった。
(…怯えてる?)
ヴィクトリアの様子が少しおかしい。表面上はいつもと変わらないが、そこは長年付き合っている友人だからこそ見抜ける些細な変化。
イェルクへ視線を戻してみるも、イェルクの表情は穏やかだ。どこに怯える要素があるのだろう、と考えていると、ふと思い出した。
『エリザベス、許してあげてくださいませ。エルの色合いは、こちらの国では不吉な組み合わせなのです』
ああ、そうだ。イェルクは黒髪にルビーの瞳、この国では不吉な組み合わせの色。
イェルクがこちらに歩いてきたときに人が道を作ったのももしかしたら、とエリザベスは思わず目を伏せる。胸が締め付けられる。
「…君に悲しい顔は似合わないよ」
ぽつりと響いた言葉にエリザベスはイェルクを見上げた。
「ありがとう。私のこの容姿のことで、心を痛めてくれたんだね」
「あ…」
「大丈夫。もともと覚悟していたことだし、理解してくれているレオナルドも…君もいてくれるから」
「…え…で、殿下…」
思わずエルと呼びかけて取り繕ったエリザベスの目の前に手が差し出される。イェルクは胸元に手を添えて、エリザベスに向けて微笑んだ。
「君に婚約者がいたことは知っている。ただ、まあ彼は彼で踊る相手がいるようだし、私はフェーマス嬢と踊りたい。良ければ、手を取ってもらえないかな?」
イェルクと、踊れる。ルビーの瞳がエリザベスを見てくれている。
その事実にエリザベスは内心歓喜に震えた。その声でたくさん聞きたい、頭を撫でてほしい、その手で触れてほしい。どんどん欲が溢れ出てくる。
(ああ…これは…ほんの少しだけ、あのおふたりの気持ちが分かった気がしますわ)
イーリスに対して抱いていた感情とは違う。勝手が違うことに戸惑いつつも、エリザベスは心を落ち着かせながらレオナルドへと視線を向けた。レオナルドは、にこりと微笑んで小さく頷く。
「わたくしで良ければ、喜んで」
笑みを浮かべ、エリザベスはイェルクの手をとった。イェルクにエスコートされ、エリザベスはダンスエリアへと進む。周囲のざわめきは気にならなかった。
ダンスは好きだった。踊っているのは楽しいから。最近はイーリスの方から避けられて最低限の練習しかしていないが大丈夫だろうか、と思いながらイェルクを見上げる。
(そういえば、エルはわたくしよりも背が高いのね)
中庭ではお互い座っていることが多いから気づかなかった。
エリザベスの視線に気づいたのか、イェルクがうん?と首を傾げる。
「どうかした?」
「…いえ。実は、最近ダンスから離れていまして…万が一がありましたら申し訳ありません」
「あはは、そんなこと気にしてたの?例え踏んでしまっても気にしないで。私、従妹との練習でさんざん踏まれ慣れてるから」
「まぁ」
イェーレはダンスが苦手なのだろうか。竜騎士だからダンスも上手そうだとは思っていたが、それは偏見だったらしい。
これは内緒ね、とイェルクはいたずらっぽく笑う。第一皇子としての雰囲気が少し崩れていつものイェルクになってきたのに、エリザベスはクスクスと笑った。
ダンスエリアにつくと、そこにはすでにイーリスとレアーヌがいた。すでに相当数のペアがエリア内にいるが、ふたりはイェルクとエリザベスたちに気づくと大きく目を見開き、固まった。
礼儀としてイーリスに向かってカーテシーをしたエリザベスは、イェルクと向き直り右手を絡めて腰に手を添えられる。
ここまで密着したことがなかったため知らなかったが、イェルクはパッと見た感じよりも意外とがっしりとした体型のようだった。
音楽が流れ始める。
それに合わせて、エリア内にいたペアが一斉に踊り始めた。
「エリザベス」
「ヴィクトリア」
声をかけられた方向に振り返る。するとそこには、クランク公爵家令嬢のヴィクトリア・クランクの姿があった。
白銀の髪にサファイアの瞳を持つ彼女は幼馴染も同然で、昼休み時に中庭以外で過ごす場合は主に彼女とランチをしていることが多い。学園では高位貴族の娘としては珍しく錬金術科に所属しており、最近のイーリスとレアーヌの言動に眉をひそめているうちのひとりだった。
「イェーレ、あなたドレスじゃないのね」
「はい、クランク嬢。私は只今フェーマス嬢の護衛の任を務めておりますゆえ」
「やだ、口調まで変わってない?いつも通りヴィクトリアで良くてよ」
「申し訳ありません。公私は分けなければなりませんから」
そういえば、会場についてからのイェーレはやけに堅苦しい喋り方をしているな、とエリザベスは気づいた。馬車の中で多少砕けていたのは、ふたりきりだったからだろう。
「ところでエリザベス。あなた、今日は本当ならあそこで第二王子殿下と一緒のはずでしょう。どうしたの?まさか、妃教育をお休みしていることに関係があるの?」
そう。本来ならば第二王子の婚約者であるエリザベスは、イーリスのエスコートを受けながらあの王族たちと共に登壇するはずだったのだ。
実は、王族の中で婚約者がはっきりと決まっていたのはイーリスだけだった。王太子であるレオナルドにも婚約者がいない。
イーリスより先に婚約者が決まっていてもいいはずだが、噂では幼い頃から慕っている令嬢に振り向いてもらえるようアプローチをしているとのことだった。また、そのアプローチが実らずにいるとも。その噂を聞いたエリザベスは、理想の王子様を体現したかのようなレオナルドのアプローチをスルーしているという令嬢に色んな意味で感心している。
メリーベル王女はまだ10歳。そろそろ婚約者候補の選定が始まっている頃であろう、といった具合だ。
ヴィクトリアの質問は想定されていた質問だったが、その辺りの打ち合わせなど全く行っていない。エリザベス自身だって今日初めて知ったのだから。
エリザベスがなんとか返そう、と口を開きかけたそのとき。
「私の方からご説明してもよろしいでしょうか?」
「…ええ、いいわ。イェーレ、説明してちょうだい」
「今回、国賓であるヴェラリオン皇国第一皇子殿下をお迎えするにあたり、国王陛下より本日は王族のみで対応するとのお達しがありました。理由は、まあ…」
ちら、とイェーレの視線がヴィクトリアから外れる。つられて、エリザベスとヴィクトリアがイェーレが向けた先に視線を向けると、ヴィクトリアから「…まぁ」と不機嫌を隠さない声が漏れた。
そこには、仲睦まじい様子のイーリスとレアーヌがいた。レアーヌは黄色ベースに金の刺繍が入ったドレスを身にまとっており、オレンジレッドの髪は緩やかに巻かれて、首元にあるネックレスは遠目からでも分かる大振りのエメラルドがメインに据えられているものだった。
明らかに、イーリスの色合いだ。
「…ご理解いただけましたでしょうか」
「ええ。それはもう。ありがとうイェーレ」
扇で口元を隠しながらも呆れた眼差しはイーリスに向けられたままだ。
エリザベスも苦笑いを隠すように、扇を口元で広げる。
「それもそうよね。婚約者ではない令嬢を壇上にあげる可能性が否定できないなら、王族のみでお迎えした方が良いわよね」
周囲の様子を伺えばイーリスたちのことに気づいたか、エリザベスたちの会話を耳にしていたか。現役世代の貴人たちが面白そうにイーリスたちを眺めているようだった。
醜聞は社交界が好む話題のひとつだ。それが王族のものともなれば、面白くて仕方がないだろう。
(婚約者ではないという意味では、わたくしも当てはまるわね)
書類上はすでにイーリスとの婚約は破棄されている。
今日、準備中に読んでいたクリストフからの手紙によると、王家から王印で割り印された婚約破棄と責任を明記した書類が届いたらしい。慰謝料等はイーリスに真実を告げてからになるため遅くなるとの謝罪文もつけられていたそうだ。
また、イェルクとの婚約を進めるにあたり必要な書類なども同封されていたそうだ。
―― かのお方にお会いしたが、とても誠実な方だったよ。ベスの言う通りだった。
クリストフが外交長官として国賓のイェルクを迎えた際に、ふたりきりで話す機会があったそうだった。今回の婚約に関して手順を飛ばして申し出て申し訳なかったと謝罪されたこと、エリザベスを必ず幸せにすると力説されたとクリストフは綴っていた。
「エリザベス、大丈夫?」
ヴィクトリアの声に、は、とエリザベスは我に返る。
ヴィクトリアの方を見れば、心配そうな表情を浮かべていた。
「…ええ、大丈夫よ」
「本当…彼女も、どうかしてるわ」
少し考えれば、婚約者がいる殿方にあんなにスキンシップをするのは常識外れだ。
この後に控えているダンスのファーストダンスもレアーヌと踊りそうだな、なんてエリザベスが考えていると、周囲がざわめいた。ヴィクトリアも何かしら、という風に周囲を見渡して、ある一点を見つめて固まってしまった。
何だろうとエリザベスもそちらへ意識を向ける。
ルビーの瞳が、エリザベスを捕らえた。ひゅ、とエリザベスは思わず息を呑む。
こちらに向かってきていたのはイェルクだった。少し後ろにレオナルドもいる。まるで、示し合わせたかのように人々がさあっと引いてエリザベスまでの道を作っていた。
先ほどまで遠いと感じていたイェルクが目の前に現れたのに少し狼狽えたが、すぐに切り替えてエリザベスはイェルクに向けて最敬礼のカーテシーを行う。エリザベスのカーテシーに我に返ったらしいヴィクトリアも最敬礼のカーテシーを行った。
「あなたが、フェーマス卿のご息女かな」
「お目にかかれて光栄です。クリストフ・フェーマスが娘、エリザベス・フェーマスでございます」
「フェーマス卿から話を聞いて、少し話をしてみたかったんだ。急にごめんね。そこまでかしこまらなくていいよ、これから学友となるのだから。そちらは?」
「ヴィクトリア・クランクと申します」
「イェーレ・ライズバーグと申します」
「よろしくね」
ふわりと微笑んだイェルクを見て、エリザベスはきゅうと胸を締め付けられた気がした。ここ最近、イェルクを見るとおかしい。顔が火照っている気がして、落ち着こうとエリザベスはそっとヴィクトリアを見やった。
(…怯えてる?)
ヴィクトリアの様子が少しおかしい。表面上はいつもと変わらないが、そこは長年付き合っている友人だからこそ見抜ける些細な変化。
イェルクへ視線を戻してみるも、イェルクの表情は穏やかだ。どこに怯える要素があるのだろう、と考えていると、ふと思い出した。
『エリザベス、許してあげてくださいませ。エルの色合いは、こちらの国では不吉な組み合わせなのです』
ああ、そうだ。イェルクは黒髪にルビーの瞳、この国では不吉な組み合わせの色。
イェルクがこちらに歩いてきたときに人が道を作ったのももしかしたら、とエリザベスは思わず目を伏せる。胸が締め付けられる。
「…君に悲しい顔は似合わないよ」
ぽつりと響いた言葉にエリザベスはイェルクを見上げた。
「ありがとう。私のこの容姿のことで、心を痛めてくれたんだね」
「あ…」
「大丈夫。もともと覚悟していたことだし、理解してくれているレオナルドも…君もいてくれるから」
「…え…で、殿下…」
思わずエルと呼びかけて取り繕ったエリザベスの目の前に手が差し出される。イェルクは胸元に手を添えて、エリザベスに向けて微笑んだ。
「君に婚約者がいたことは知っている。ただ、まあ彼は彼で踊る相手がいるようだし、私はフェーマス嬢と踊りたい。良ければ、手を取ってもらえないかな?」
イェルクと、踊れる。ルビーの瞳がエリザベスを見てくれている。
その事実にエリザベスは内心歓喜に震えた。その声でたくさん聞きたい、頭を撫でてほしい、その手で触れてほしい。どんどん欲が溢れ出てくる。
(ああ…これは…ほんの少しだけ、あのおふたりの気持ちが分かった気がしますわ)
イーリスに対して抱いていた感情とは違う。勝手が違うことに戸惑いつつも、エリザベスは心を落ち着かせながらレオナルドへと視線を向けた。レオナルドは、にこりと微笑んで小さく頷く。
「わたくしで良ければ、喜んで」
笑みを浮かべ、エリザベスはイェルクの手をとった。イェルクにエスコートされ、エリザベスはダンスエリアへと進む。周囲のざわめきは気にならなかった。
ダンスは好きだった。踊っているのは楽しいから。最近はイーリスの方から避けられて最低限の練習しかしていないが大丈夫だろうか、と思いながらイェルクを見上げる。
(そういえば、エルはわたくしよりも背が高いのね)
中庭ではお互い座っていることが多いから気づかなかった。
エリザベスの視線に気づいたのか、イェルクがうん?と首を傾げる。
「どうかした?」
「…いえ。実は、最近ダンスから離れていまして…万が一がありましたら申し訳ありません」
「あはは、そんなこと気にしてたの?例え踏んでしまっても気にしないで。私、従妹との練習でさんざん踏まれ慣れてるから」
「まぁ」
イェーレはダンスが苦手なのだろうか。竜騎士だからダンスも上手そうだとは思っていたが、それは偏見だったらしい。
これは内緒ね、とイェルクはいたずらっぽく笑う。第一皇子としての雰囲気が少し崩れていつものイェルクになってきたのに、エリザベスはクスクスと笑った。
ダンスエリアにつくと、そこにはすでにイーリスとレアーヌがいた。すでに相当数のペアがエリア内にいるが、ふたりはイェルクとエリザベスたちに気づくと大きく目を見開き、固まった。
礼儀としてイーリスに向かってカーテシーをしたエリザベスは、イェルクと向き直り右手を絡めて腰に手を添えられる。
ここまで密着したことがなかったため知らなかったが、イェルクはパッと見た感じよりも意外とがっしりとした体型のようだった。
音楽が流れ始める。
それに合わせて、エリア内にいたペアが一斉に踊り始めた。
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