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14.元魔王、確認される【後編】

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 魔女娘に今までの経緯を説明した。

 過去改変魔法の失敗、それでどういう訳か過去の世界に飛ばされて勇者娘の弟になったこと。
 魔王の証が無いため、今は魔王ではないこと。それに関連した勇者娘の起こす不思議な現象の解明。
 そのあたりを神の存在を省いて。

「……つまり今は魔王様は魔王様ではないと?」

「そういうことになる」

 そもそも魔王の証を持っていたら、七歳の時に行われる適正調査でバレてるし。
 まあその正体も先程バレてしまったわけだが。

「……話はわかった」

 魔女娘よ、短い間だったが楽しかったぞ。
 結局のところ勇者娘のドジの秘密は分からなかったが、そういう運命だったのであろう。

「そういうことで、我はこの地から去ろう」「……そういうことなら、私もお手伝いする」

 放っておいても勇者娘たちは魔王城にはたどり着くであろ……なんか言葉が被った。って、

「……「えっ?」」

「どうしてそうなる」「……どうしていなくなるの」

 またも言葉が被る。

「「……」」

 すると口を開かず、じっとこちらを見てくる魔女娘。
 どうやら先に言えということらしい。

「いや、正体がバレたのでここには居られないと」

「……ちゃんと答えてなかったかもだけど、私はさっきの事を誰にも話す気はない」

 確かにそれっぽいことは聞いたけれども。

「しかし、それでは勇者たちへの裏切りとなるのではないか?」

「……あなたは今、魔王ではない。だから何も問題はない。手伝うのもそう」

 そう言われればそうともいえるが。

「ふむ……」

「……それに、あなたが居なくなったらユウリが悲しむ。もちろん私も。……アリスもある意味そうかも」

「そうか……」

 最後の一言はなんだか含んだ言い方だが、そこまで言われては悪い気はせぬな。
 どうやらまだ別れのときではないらしいな。

「わかった。その約束が違えられない限り、我はこの地に残って共にあろうではないか」

「……よかった」

 そう言って魔女娘は微笑みを見せた、のだが。

「最後に師匠の話だが、これは受けられん」

 我のこの言葉を聞いた途端、絶望した表情へと変わるのだった。

「……なんで?」

「まず第一に我が作った魔法は人に適さないのだ。魔力の消費量が激しすぎて、人では一発撃つだけでも厳しいのだ」

 まあ方法がないわけでもないのだがな。
 魔力の種を複数服用するとかな。これも現実的ではないのだが。

「……つまり魔王様専用?」

 厳密に言えば魔法の得意な種族であるかどうかなのだが、人である魔女娘に言っても仕方のないこと。

「そうなる。だから教えたところで実用は難しいのだ」

「……でも使えなくはない」

「現状のマナの魔力量では到底無理であろう」

「……それなら、一つだけでいいからお願い。いつか使ってみせる」

 なかなかこの魔女娘も頑固なのであるな。

「わかった。それでは何を教えるか考えるから、決まったら声をかける。そういうことでいいな?」

「……うん! 待ってる」

「話は終わりか? それならば我はこのあたりで帰ろうと思うのだが」

「……待って、もう少し魔王様の魔法の話を訊きたい」

 あの話の後でもブレないのはさすがというか。
 いや、最初からこうであったか。

「いいだろう」

「……やった。隣の私の部屋に行ってて。お茶用意する」

「ああ。そうそうマナ」

「……なに?」

「マナがこの部屋を出たら、いつも通りでいい。いつまでも魔王様呼びはな」

「……うん、わかった」

 そう言って部屋の外にでる魔女娘。

「……マオくん」

 それから扉が締まり、我は一人になった。
 すぐにトントントンと魔女娘が階段を降りていく音が聞こえてくる。
 さて、それでは隣の魔女娘の部屋に向かうとするかの。

「ん?」

 そんな時だった。
 ガタガタと窓が音を鳴らし始めたのだ。

 部屋の窓を見れば目深にローブを被った明らかな不審人物の姿がある。
 しかも頭になにかついているのか、フードがツンと上に伸びているようだが。

「む、鍵か【アンロック】」

 そんな人物が魔法を唱えて鍵を開けてきた。
 ……あれ、これって確か我が宝物庫の鍵をなくした時に作った魔法じゃなかったっけ?

 ふと、そんな事を思う間に不審人物が部屋の中に入ってきた。

「誰だ」

「やはり、この魂の色は……しかし、どういうことだ? 何故、魔王様の魂がここにあるのだ」

 無視か。って、魔王様と言ったか? もしかしてこの部屋、我の正体がバレる呪いでもかかってるの?

 そんな我の疑問もよそに、突然現れた不審人物はこちらに近づいてくる。
 警戒は怠らずに相手をよく見ると、近づいて来たことでローブの中に隠されていた中身が薄っすらと見えてきた。

 ……ってあれ、この懐かしい顔はまさか。

「もしや、ウルガルムか……?」

 うむ。どうみても魔王時代に我の右腕だった魔狼大公であるな。
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