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12.元魔王、策を考える【3/4】

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「チ、ノマセロ!」

 オークキングとおいかけっこの最中の勇者娘を尻目に作業を開始する。
 まずは魔法障壁を形状変化させる。作り出したるは浅い真四角の桶、それもオークキングがまるまる入れる大きさのものである。

 それを森にポッカリと穴があくように開けた空間に設置。
 ここまで用意したところで魔女娘と交代する。

「それじゃあお願い」

「……うん、【ウォーターシャワー】」

 魔女娘の水魔法によって、作られた巨大な桶に水が注がれていく。
 そのタイミングで勇者娘に声をかける。

「ユウ姉、こっちにオークキングを」

「わかった!」

「マテ、マテ!」

 方向転換の後、こちらへと向かってくる勇者娘。いつの間にか武器が無くなっている。
 辺りを見回してみれば、この開けた空間に唯一ある樹の根本近くに刺さっている。逃げるのに邪魔だから放ったのか。
 一方でオークキングも勇者娘の後を追うように続く。

「おーい、水はこっちだよー!」

「ミ、ミズ……!」

 スカウト娘の誘導の元、そのまま突っ込んでくる一人と一匹。

「そのまま走り抜けて!」

「うんっ!」

 必然的に先に到着した勇者娘が魔法障壁で出来た桶に足を踏み入れる。
 そこにはまだ水はなく、カツカツと足音を鳴らしながら、なおも直進。

 その足音も途中から水たまりに足を踏み入れた時の音に変わる。
 一方で後から来たオークキングはといえば水には足を踏み入れずに、その場で膝をついて水をすすっている。

 ズズリ、ズズリと。

 その間に勇者娘は巨大な桶から脱出。
 それを確認した魔女娘が水を出すのをやめる。
 次は再び我の番である。

「それじゃ、いくよ」

 魔力をひねり出し、桶の側面を上空に伸ばしていく。
 オークキングの全身が入り込んだ所で上空に伸ばすのはやめて、上部に蓋をする。
 これで箱の檻が完成であるな。

「フゥ、イキカエル……デッ、ナンダ!?」

 オークキングが満足げに頭を上げたが、魔法障壁によって阻まれる。
 それによって四つん這いの体勢を強制されている状態だ。
 水を飲んで生き返ったばかりで悪いが、終わりなのである。

 オークキングの尻が見える方向へと移動し、仕上げに箱の上部に人が入れるぐらいの穴を作成。
 さらにその穴に手を加え、ニョッキと煙突のような筒を生やす。

「それじゃあマナ」

「……あとは全力、【ウォーターシャワー】」

 今開けた穴から再び注水が始まる。

「ミ、ミズハモウイイ!」

 オークキングの尻に降り注ぐ水。
 景気よくじゃぶじゃぶと音を立てて、魔法障壁で作られた箱内部の水位が上昇していく。

「……魔力が限界」

「了解、……はい、お姉さん印のマナポーション!」

「……ありがと」

 足りない魔力はスカウト娘による物質創造の出番だ。それでマナポーションを作成することで補う。
 我の魔力にも余裕はあるが、スカウト娘に止められた。
 水が増えればわかると言っていたが……。

 それから水位が上がり、箱の半分が水で満たされた頃だった。
 なんだかゴリゴリ魔力が吸われていくんだが……!?
 これがスカウト娘の言っていた事か。だが理由はわからんな。まあこれは後でいい。

「ダセ、ダセ……!」

 オークキングといえば、あれからかろうじて回転。仰向けになって、未だに抵抗を見せている。
 さらに水は増えて、同時に吸われる魔力の量も増えていく。
 オークキングが天井を叩くものだから、魔力の消費がきっつい。

 マナポーションを飲む魔女娘の表情もだんだん苦しそうな感じに変わってきている。
 魔力はともかく、胃の容量の限界が近いのだろう。タプンタプンと。

「……もうお腹いっぱい」

「お姉さんも魔力が限界かも……」

 そして、その限界の時が来たらしい。我も大分ツライ。
 箱の中といえばほぼ水で満たされている。が、最後の抵抗とばかりに長い鼻を天井に伸ばし息をするオークキング。

 往生際の悪い奴め。
 だが後少しだ。このぐらいなら今の我でもどうにかできる。

「代わるよ、【ウォーターシャワー】」

 そして内部に水が満たされる。
 結果、空気が無くなった事でオークキングがもがき苦しみだす。
 やがて、オークキングは動かなくなった。
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