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10.元魔王、魔法のタクトが気になる【中編】

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 昨日に引き続き、街から近い森へとやって来た。

「ゴブブ、ゴブッ!?」

 森に入って早々、出会い頭でのナイフ投げ。
 現れたゴブリンに向かって吸い込まれるようにナイフが飛んでいく。
 ゴブリンがそれに気づいた時には既に遅く、スカウト娘によって倒された。

 それからその場で、スカウト娘が離れたゴブリンに向かって手をかざす。
 すると刺さっていたナイフは跡形もなく消えてしまう。

「こんな感じで作ったものを回収できれば魔力の殆どが戻ってくるから、長期戦でも行けると思うよ。あとはお姉さん自身のスタミナ次第かな」

「なかなかやるわね。前に出るのはわたしだけだったから、アリスのこと頼りにさせてもらうわね」

「うん、まっかせて!」

 一方で我と魔女娘は辺りをチェック。
 警戒は勇者娘とスカウト娘にまかせて、光る樹の幹を探す係となった。

「……見つかった?」

「ううん。今のところはまだ見つかってないかな」

「……こっちもダメ。あと、思ったこと言っていい?」

「なに」

「……光るなら夜のほうが見つけやすいんじゃ」

「あー、確かに。まあでも幹が光ってるって言うぐらいだから、見つけられないわけじゃないと思うけど」

「……そっか」

 そう魔女娘と話していたところ、ゴブリンをギルドカードで回収した勇者娘とスカウト娘が戻ってきた。

「どう? それっぽいのあった?」

「見つからないね」

「……もっと奥のほうかも」

「ゴブリンは余裕みたいだから、お姉さんは奥へ行くのもありだと思うけど、どうかな?」

 それもそうか。
 思ったよりも加護による力の上昇は大きいようで、三人ともゴブリンであれば危なげな様子は一切見られない。
 まあ、前回のように囲まれでもしない限り問題はないだろう。

「この四人なら平気だと思うよ」

「そうね。わたしも賛成」

「……森の奥行こ」

「決まりだねっ」

 満場一致で森の奥へ進むことが決まり、先程と同じように前に勇者娘とスカウト娘。それに我と魔女娘が続く形で、一行は昨日よりも森の深くへと足を踏み入れる。

 それからしばらくして、動きがあった。

「止まって。何か聞こえる」

 そう小声で言ったのはスカウト娘。
 全員が足を止めたことで、余計な雑音がなくなり耳に音が伝わってきた。

「なんかゴブゴブ聞こえる?」

「うん、多分ゴブリンよね」

「……それもたくさんいるみたい?」

 ゴブゴブ。ゴブゴブ。
 そんな声がいくつも風に乗って聞こえてくる。

「ちょっとお姉さん偵察してくるね」

「大丈夫?」

「うん、平気ー」

「それじゃお願いしようかしら」

「……気をつけて」

「はーい、行ってくるね」

 それからスカウト娘が先へと進む。すると宙でも浮いているかのように移動による音がほとんど聞こえない。
 これも加護による力か。

 ゴブリンたちの声の方へするりと進んでいったスカウト娘を見送ったが、一分もしないうちにすぐに戻ってきた。

「ただいま。ゴブリンが二十匹ぐらいいたよ。今は休憩中みたいだったけど、どうする?」

「今日は奥に行きたいから、戦わずに済むのならそのほうがいいわよね」

「……魔力温存しないとね」

 昨日の反省を今日に生かせるのは素晴らしいことであるな。
 さて、どうするべきか。ふーむ。……む?
 そうだ。これはあれを試すべきではなかろうか。

「それなら試したいことがあるんだけど」
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