上 下
6 / 44

2.元魔王、姉がドジっ子だと気づく【後編】

しおりを挟む
 顔を出したのは勇者娘の母親だ。

「貴重な鳥が取れたんですって?」

「うん。ギルドに持っていけばいいお金になると思う」

「なら今夜はごちそうね! いつも助かるわ」

「助かるって、鳥を落としたのはユウ姉だよ」

「マオもいつもそうやって面倒な事をやってくれるじゃない」

「慣れればどうということはないよ?」

「そう、でもやっぱり助かってるのは本当だもの。ありがとね」

「うん」

「それじゃ、とりあえずご飯にしましょ! ユウリも待ってるから」

「すぐ行くよ」

 勇者娘の母親は頷くなり、家へと戻っていった。

「ふぅ、あとは鳥を袋に詰めるのみか」

 過去改変魔法は失敗したものの、結果的にこのような生活ができるというのは悪くない結果である。
 本来であれば宿命の呪いで魔王城に存在を縛り付けられていたからな。

 魔王城に引きこもり、魔法研究の日々も悪くはなかったが、長すぎてさすがにな。
 勇者との戦いにも毎度同じやりとりで飽き飽きだったが、勇者娘のドジは何が起こるかわからない故、退屈せずに過ごせている。
 そう考えると、悪くはない生活であるな。

「マオ、まだー?」

「今いくよ」

 さて、そんな勇者娘を待たせるのも忍びないので、さっさと食事へ向かうとしようか。

 ◇◆◇

 昼食も終えて一息ついた頃だろうか。

 先程も勇者娘が率先して食器の後片付けをしようとしたところ、食器をぶちまけたので初級の風魔法でフォローを行ったところである。
 その時にスプーンを取りこぼし棚の隙間に入ったのだが、指を入れて拾ったところ、スプーンに硬いものが当たったので、中を見れば銀貨が落ちていた。

 マジでなんなのこれ?
 相変わらずの不可解な出来事に首を傾げていると、それを起こした本人から声がかかった。

「あ!」

 そんな勇者娘は我にじいっと視線を送ってくる。
 何か顔に付いているのだろうか。
 触ってみたが、特に何もない。

「どうしたの?」

「えっとね、マオに会いたいって子がいるんだけど」

「俺に?」

「うん。ちょうどその子と遊ぶ約束してたから一緒にいこ」

「えー、どうしようかな」

「おねがい。マナに会わせるって言っちゃったの」

「ん……?」

 マナ?
 確か食事中などに、勇者娘が話す時にたびたび出ていた名前であったか。
 我とは特に面識は無いはずだが、何用であろうか。

「何で俺に?」

「んー、確かだけど。マナと話してた時に、マオが魔法障壁を使えるって教えたら会いたいって言ってた。あの子、魔法に興味があるらしいの」

 魔法か。そういえば我の記憶が確かであれば、魔王城にいた魔女娘もマナだとかアリスだとか呼ばれておったよな。
 たまたま名が一致したという可能性のほうが高いだろうが、確認しておいて損はないか。

「わかった。行くよ」

「ほんと? よかったー。ありがとねマオ!」

「すぐ行くの?」

「うん、お昼すぎにマナの家に行くって約束」

 そういうことで我は魔女娘と思わしき人物に会いに行くことになった。
しおりを挟む

処理中です...