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2−5−08 こちらマキナ、ずらかるよっ

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 同時に警報が鳴り出した。
 Fってのはここのことだと思うが暗号か何かか?

「むお! ……拙者、またやっちゃったでござるか?」

 しょげてる暇はないぞカゲマル!

「いいや、想定内だ! むしろよくやった!」

「台座を持っていかずに済んだからね」

「どっち道、警報は鳴るんだから気にしないの!」

「む、そうでござったか」

「いいから、影に潜って逃げるぞ!」

「リーさんも私の中に戻って!」

「御意! クロも戻るでござるよ!」

 リーフとクロを退避させて、俺たちはカゲマルの精霊操で再び床の下へ潜る。
 それから手前の部屋を抜けて迷路へと移動していく。

「そういえばエフってなんだ?」

精霊落としエレメンタルフォールの略だね。機密だから大々的に名前を言うわけにもいかないからね」

 なるほど、言われてみれば簡単だった。
 そう納得していた所で異変が起きる。

「あれ、なんか上に浮かんできてない?」

 リースの言う通り、俺たちは揃って床に向かって上昇を始めていた。

「む、これは不味いでござる! 皆の者、着地用意を!」

 そして、次の瞬間には外に弾き出されていた。

「おいおい……どうなってるんだ?」

「上でござる!」

 地面に着地してから言われて気づく。
 さっきまでは薄暗かった迷路が、眩しく照らされている状態になっていた。

「これでは大きな影が無い故、皆で潜ることが出来ないのでござるよ……」

「クロちゃん呼んで暗くしたら行けないかな?」

「やること事態は可能なのでござるが、その場合クロは外に出たままでござるから」

「猫もいるみたいだし大丈夫じゃないか?」

 それぐらいなら、どうとでも誤魔化せそうだしな。
 そう思ったんだが。

「その……見学の際にクロの話をしたら見たいと言われたものでクロを食堂で披露してしまい、誠に申し訳ないのでござるが……」

 無理のようだ。
 ホイホイと手の内を見せるんじゃない!
 忍ぼう?

「それにしても不味いね、あんなのがあったなんて知らなかったよ。まず間違いなく警報が鳴ったせいだろうけど」

「とにかく逃げようよ!」

 ここに留まっても見つかるのは時間の問題だし、その通りだな。

「ああ、行こう!」

 こうして俺達は迷路の入り口へ向かって走り出した。
 元来た道を進んでいくと、遠くからいくつもの足音が響いてくる。

「むむ、かなりの数がいるようでござるね……」

「基本的にはみんな研究所に缶詰だからね。所内のほぼ全員が来るんじゃないかな」

 見つかると不味いのにそれって厳しすぎないか?

「それと見張りの人もいるんだよね?」

「それは機密上の問題で来ないと思うよ」

 つまり研究員だけなのか。
 どちらにしても辛い状況ではあるが。
 すると先に見える迷路の曲がり角に人影が見えた。

「おい、もう来たみたいだぞ!」

「さっき猫を探してた人かも」

「見つかるのは避けたいところだね」

「それならば、こちらへ!」

 俺たちはすぐ横にある通路へと入り込み、やり過ごすことにする。
 息を潜めていると、足音が近づいてきた。

「まったく、今日はどうなってんだ?」

「にゃんこも見つからないしねー」

 どうやら本当にさっきの人たちのようだ。

「こっちに近づいてきてる足音は聞こえてたんだが、この辺りで静かになったんよな」

「そっちの行き止まりに隠れてたりして」

「はは、まさかな」

 するとこっちに足音が近づいてくる。
 そのまさかのようである。

「こっちに来たぞ……どうする」

「わたしの蔓で壁の裏側に逃げるとか?」

 そのリースの案に上を見るが、かなり高い。
 上に隠れようにも、光に照らされているせいで影が出来てバレるな。
 どちらにしても、目の前まで来ているから間に合わない。

「ダメだ。もう来るよ!」

「ここまででござるか……」

 諦めかけたその時だった。
 チリンチリンと鈴の音が聞こえてきた。

「あ、にゃんこいた!」

 どうやら猫がちょうど出てきたらしい。
 そっちに気を逸らしてくれるならどうにかなりそうだが。

「なんでこんな時に……せっかく見つけたところだが、今はそれどころじゃないし猫は後回しだ」

「残念」

 くっ、無理か……。

「にゃあ」

 ああ、猫が呑気に鳴いてら……。
 こっちはそれどころじゃないのに。

 すると直後に風船の割れるような音と、何か大きな物が倒れる音が2回ずつして足音が聞こえなくなる。
 チリンチリンという音が再び鳴って、それからは静寂が流れる。

 それからしばらく経っても、こちらに近づいてくる音がしないので、そっと通路の陰から顔を出すと、男女のダークエルフが倒れていた。
 俺たちは顔を見合わせてから、男女のダークエルフのそばに近づく。

「どうなってんだ?」

「どうやら気絶してるようでござるね」

「もうダメかと思ったよ……」

「あれ?」

 するとマキナさんがなにかに気づいたのか、入り口に繋がる通路の方へと戻っていくと何かを拾って戻ってきた。

「なんですかそれ?」

「これはもしや……」

 マキナさんの手には、ピンポン玉ぐらいのサイズの玉が4つ握られていた。
 カゲマルはどうやら心当たりがあるようだが。

「これは『転写器』だね。姿を誤魔化すときなんかに使うものなんだが、何でこんな所に……」
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