7 / 63
第1章 育成準備につき、裏で密かに動いていく
7話 追放と新たな出会い5
しおりを挟む
どうやら俺の名前も知っているようだが、転移について俺よりも詳しい理由もあわせると、やはりスキルに由来したものから知ったというのが妥当か?
そうであるなら聞いても教えてはもらえなさそうだな。
……それにしても、亜人や魔物が安全に暮らせる世界を作るか。
つまりは人間側を裏切って、魔王軍に手を貸す。
そういうことだよな。
「俺に人を裏切れと?」
「うーん、これって裏切りに入るのかな。別に私たちに協力して人を滅ぼそうってわけじゃないよ? ただ、自分たちの身を守れるように助けて欲しいってだけ」
あくまで、自分の身を守れるようにと来たか。
確かに、今の魔物や亜人との戦いは一方的に人間側が被害を与えているといった感じではあるが。
ダンジョンと言った、比較的難易度の高いところでも、そう苦戦はせずに攻略されるからな。
しかし……。
「方法は分からないが、仮に身を守れるようになったとして、そっちが今までやられてきたように無害な人間にもやり返さないという保証は?」
「口約束でいいのなら」
「信じられないな」
やはり、その辺りの保証がないのはな。
亜人の女の子は俺のその言葉に対して苦笑いをする。
「あはは、だよねー。でもさ、魔王軍って言葉で括られた私たちが君たち人間に何かしたのかな? 人間が襲ってきて、亜人や魔物のみんなが身を守る以上のことをしたかな?」
そう言われて思い出してみるが、それ以上の事は記憶にない。
俺が冒険者として勇者パーティーに入ってから、魔物や亜人たちは自分を犠牲にして仲間を助けるという、その光景ばかりを思い出す。
「……いや、見たことはないな。俺が知る限りではどの記憶も仲間を助けるために、誰かが耐えて時間を稼いでいた。それに戦いになってもこっちに犠牲者がでた、なんて話は聞いたことがない、か」
「うん、それが魔王軍のモットーだから。魔王城のみんなはともかくとして、地上の仲間は自らの身を守る力さえ無いのがほとんど。だから誰かを犠牲にして、他の誰かを助けるしか無いんだ」
記憶に新しいオークが仲間に逃げろと言っていた事。
確かにやり返さない保証はないが、俺の記憶と彼女の言っていることを照らし合わせても、嘘だとは思えない。
となると、あとは俺が信じるか否かという話になってくるが、最後に1つ。
小さい頃に教わっていた事が引っかかる。
「だが、魔王軍は血も涙もない悪いやつらだから、倒して世界を平和にしないといけないと」
「そう教えられた?」
そう。この世界の人間であれば、それが常識。
俺はうなずくことで答えを返す。
「でも、リアはそれに疑問を感じたからこそ、亜人や魔物を密かに逃がすって事をしてくれてたんだよね?」
それも間違いではない。
冒険者になって実際に魔王軍を相手にしてきた。
それらはどれも、目撃情報があったから現地に向かって討伐しろというもの。
俺の知る限りではあるが、魔王軍が人間陣営に被害を与えたという事も聞かない。
そうして思った。
本当に魔王軍は悪いものなのかと。
そんな疑問を持った俺は、つい亜人を転移で逃してしまった事がある。
初めは単に出来心だった。
やってしまった。
すると、そう考えていた俺に助けた亜人が言ったのだ。
ーーありがとう、と。
本当に血も涙もない連中であれば、そんな事は言わずに、俺も襲われていたはず。
亜人や魔物を逃がすというのはそれから始めることになった。
そうして今までで、彼らに俺が何か嫌なことをされたということはない。
今では彼らの住処に送り届けたところ、そこで歓迎されるということまであったりもしたな。
「ああ、そうだな。聞かれて考えてみたが、今はもう魔王軍を血も涙もないやつらだとは思えない」
むしろ、今の人間のほうが血も涙もないのではないか、とユウトやマサトたちを始めとする異世界人を見ているとそう思う。
同時に、それに不快を感じる自分がいた。
そして、俺自身もその枠組みの中にいる。
だから彼らを逃がすことで、そうではないと思いたかった。
それからは彼らを逃がすたびに、その不快感が薄れて行く気がした。
結局の所は自己満足だな。
「だけど、逃してきたのは俺自身の自己満足の結果だ」
それを聞いた亜人の女の子はこちらににこりと笑顔を向けてくる。
「自己満足でもいいよ。私たちはそんな君の行動を見て、リアに助けて欲しいってそう思ったんだ。そして、私たちも行動で示してきた。だから保証はないけれど、リアに信じてもらえたら嬉しいかな」
そうして思う。
人間側に付くか、魔王軍側に付くか。
重要なのはそこじゃなかったんだ。
俺が今までに見てきた現実に対して、どう思ってきたか。
その上でどうしたかったのか。
答えは既に出ていたんだ。
それに今となっては、俺を縛るものは何もない。
「……その上でもう一度言うよ」
そうして、彼女。
「私は魔王の娘クロエ」
クロエはこちらに手を差し伸べて続ける。
「リアに私たちを助けてほしいんだ」
気がつけば、俺は自然と彼女の手を取っていた。
こうして俺の冒険者としての日常は一旦終わりを告げて、魔王軍として動くことになったのだった。
そうであるなら聞いても教えてはもらえなさそうだな。
……それにしても、亜人や魔物が安全に暮らせる世界を作るか。
つまりは人間側を裏切って、魔王軍に手を貸す。
そういうことだよな。
「俺に人を裏切れと?」
「うーん、これって裏切りに入るのかな。別に私たちに協力して人を滅ぼそうってわけじゃないよ? ただ、自分たちの身を守れるように助けて欲しいってだけ」
あくまで、自分の身を守れるようにと来たか。
確かに、今の魔物や亜人との戦いは一方的に人間側が被害を与えているといった感じではあるが。
ダンジョンと言った、比較的難易度の高いところでも、そう苦戦はせずに攻略されるからな。
しかし……。
「方法は分からないが、仮に身を守れるようになったとして、そっちが今までやられてきたように無害な人間にもやり返さないという保証は?」
「口約束でいいのなら」
「信じられないな」
やはり、その辺りの保証がないのはな。
亜人の女の子は俺のその言葉に対して苦笑いをする。
「あはは、だよねー。でもさ、魔王軍って言葉で括られた私たちが君たち人間に何かしたのかな? 人間が襲ってきて、亜人や魔物のみんなが身を守る以上のことをしたかな?」
そう言われて思い出してみるが、それ以上の事は記憶にない。
俺が冒険者として勇者パーティーに入ってから、魔物や亜人たちは自分を犠牲にして仲間を助けるという、その光景ばかりを思い出す。
「……いや、見たことはないな。俺が知る限りではどの記憶も仲間を助けるために、誰かが耐えて時間を稼いでいた。それに戦いになってもこっちに犠牲者がでた、なんて話は聞いたことがない、か」
「うん、それが魔王軍のモットーだから。魔王城のみんなはともかくとして、地上の仲間は自らの身を守る力さえ無いのがほとんど。だから誰かを犠牲にして、他の誰かを助けるしか無いんだ」
記憶に新しいオークが仲間に逃げろと言っていた事。
確かにやり返さない保証はないが、俺の記憶と彼女の言っていることを照らし合わせても、嘘だとは思えない。
となると、あとは俺が信じるか否かという話になってくるが、最後に1つ。
小さい頃に教わっていた事が引っかかる。
「だが、魔王軍は血も涙もない悪いやつらだから、倒して世界を平和にしないといけないと」
「そう教えられた?」
そう。この世界の人間であれば、それが常識。
俺はうなずくことで答えを返す。
「でも、リアはそれに疑問を感じたからこそ、亜人や魔物を密かに逃がすって事をしてくれてたんだよね?」
それも間違いではない。
冒険者になって実際に魔王軍を相手にしてきた。
それらはどれも、目撃情報があったから現地に向かって討伐しろというもの。
俺の知る限りではあるが、魔王軍が人間陣営に被害を与えたという事も聞かない。
そうして思った。
本当に魔王軍は悪いものなのかと。
そんな疑問を持った俺は、つい亜人を転移で逃してしまった事がある。
初めは単に出来心だった。
やってしまった。
すると、そう考えていた俺に助けた亜人が言ったのだ。
ーーありがとう、と。
本当に血も涙もない連中であれば、そんな事は言わずに、俺も襲われていたはず。
亜人や魔物を逃がすというのはそれから始めることになった。
そうして今までで、彼らに俺が何か嫌なことをされたということはない。
今では彼らの住処に送り届けたところ、そこで歓迎されるということまであったりもしたな。
「ああ、そうだな。聞かれて考えてみたが、今はもう魔王軍を血も涙もないやつらだとは思えない」
むしろ、今の人間のほうが血も涙もないのではないか、とユウトやマサトたちを始めとする異世界人を見ているとそう思う。
同時に、それに不快を感じる自分がいた。
そして、俺自身もその枠組みの中にいる。
だから彼らを逃がすことで、そうではないと思いたかった。
それからは彼らを逃がすたびに、その不快感が薄れて行く気がした。
結局の所は自己満足だな。
「だけど、逃してきたのは俺自身の自己満足の結果だ」
それを聞いた亜人の女の子はこちらににこりと笑顔を向けてくる。
「自己満足でもいいよ。私たちはそんな君の行動を見て、リアに助けて欲しいってそう思ったんだ。そして、私たちも行動で示してきた。だから保証はないけれど、リアに信じてもらえたら嬉しいかな」
そうして思う。
人間側に付くか、魔王軍側に付くか。
重要なのはそこじゃなかったんだ。
俺が今までに見てきた現実に対して、どう思ってきたか。
その上でどうしたかったのか。
答えは既に出ていたんだ。
それに今となっては、俺を縛るものは何もない。
「……その上でもう一度言うよ」
そうして、彼女。
「私は魔王の娘クロエ」
クロエはこちらに手を差し伸べて続ける。
「リアに私たちを助けてほしいんだ」
気がつけば、俺は自然と彼女の手を取っていた。
こうして俺の冒険者としての日常は一旦終わりを告げて、魔王軍として動くことになったのだった。
0
お気に入りに追加
1,426
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
(完)私の家を乗っ取る従兄弟と従姉妹に罰を与えましょう!
青空一夏
ファンタジー
婚約者(レミントン侯爵家嫡男レオン)は何者かに襲われ亡くなった。さらに両親(ランス伯爵夫妻)を病で次々に亡くした葬式の翌日、叔母エイナ・リック前男爵未亡人(母の妹)がいきなり荷物をランス伯爵家に持ち込み、従兄弟ラモント・リック男爵(叔母の息子)と住みだした。
私はその夜、ラモントに乱暴され身ごもり娘(ララ)を産んだが・・・・・・この夫となったラモントはさらに暴走しだすのだった。
ラモントがある日、私の従姉妹マーガレット(母の3番目の妹の娘)を連れてきて、
「お前は娘しか産めなかっただろう? この伯爵家の跡継ぎをマーガレットに産ませてあげるから一緒に住むぞ!」
と、言い出した。
さらには、マーガレットの両親(モーセ準男爵夫妻)もやってきて離れに住みだした。
怒りが頂点に到達した時に私は魔法の力に目覚めた。さて、こいつらはどうやって料理しましょうか?
さらには別の事実も判明して、いよいよ怒った私は・・・・・・壮絶な復讐(コメディ路線の復讐あり)をしようとするが・・・・・・(途中で路線変更するかもしれません。あくまで予定)
※ゆるふわ設定ご都合主義の素人作品。※魔法世界ですが、使える人は希でほとんどいない。(昔はそこそこいたが、どんどん廃れていったという設定です)
※残酷な意味でR15・途中R18になるかもです。
※具体的な性描写は含まれておりません。エッチ系R15ではないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる