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第1章 育成準備につき、裏で密かに動いていく

7話 追放と新たな出会い5

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 どうやら俺の名前も知っているようだが、転移について俺よりも詳しい理由もあわせると、やはりスキルに由来したものから知ったというのが妥当か?
 そうであるなら聞いても教えてはもらえなさそうだな。

 ……それにしても、亜人や魔物が安全に暮らせる世界を作るか。
 つまりは人間側を裏切って、魔王軍に手を貸す。
 そういうことだよな。

「俺に人を裏切れと?」

「うーん、これって裏切りに入るのかな。別に私たちに協力して人を滅ぼそうってわけじゃないよ? ただ、自分たちの身を守れるように助けて欲しいってだけ」

 あくまで、自分の身を守れるようにと来たか。
 確かに、今の魔物や亜人との戦いは一方的に人間側が被害を与えているといった感じではあるが。

 ダンジョンと言った、比較的難易度の高いところでも、そう苦戦はせずに攻略されるからな。
 しかし……。

「方法は分からないが、仮に身を守れるようになったとして、そっちが今までやられてきたように無害な人間にもやり返さないという保証は?」

「口約束でいいのなら」

「信じられないな」

 やはり、その辺りの保証がないのはな。
 亜人の女の子は俺のその言葉に対して苦笑いをする。

「あはは、だよねー。でもさ、魔王軍って言葉で括られた私たちが君たち人間に何かしたのかな? 人間が襲ってきて、亜人や魔物のみんなが身を守る以上のことをしたかな?」

 そう言われて思い出してみるが、それ以上の事は記憶にない。
 俺が冒険者として勇者パーティーに入ってから、魔物や亜人たちは自分を犠牲にして仲間を助けるという、その光景ばかりを思い出す。

「……いや、見たことはないな。俺が知る限りではどの記憶も仲間を助けるために、誰かが耐えて時間を稼いでいた。それに戦いになってもこっちに犠牲者がでた、なんて話は聞いたことがない、か」

「うん、それが魔王軍のモットーだから。魔王城のみんなはともかくとして、地上の仲間は自らの身を守る力さえ無いのがほとんど。だから誰かを犠牲にして、他の誰かを助けるしか無いんだ」

 記憶に新しいオークが仲間に逃げろと言っていた事。
 確かにやり返さない保証はないが、俺の記憶と彼女の言っていることを照らし合わせても、嘘だとは思えない。

 となると、あとは俺が信じるか否かという話になってくるが、最後に1つ。
 小さい頃に教わっていた事が引っかかる。

「だが、魔王軍は血も涙もない悪いやつらだから、倒して世界を平和にしないといけないと」

「そう教えられた?」

 そう。この世界の人間であれば、それが常識。
 俺はうなずくことで答えを返す。

「でも、リアはそれに疑問を感じたからこそ、亜人や魔物を密かに逃がすって事をしてくれてたんだよね?」

 それも間違いではない。
 冒険者になって実際に魔王軍を相手にしてきた。
 それらはどれも、目撃情報があったから現地に向かって討伐しろというもの。

 俺の知る限りではあるが、魔王軍が人間陣営に被害を与えたという事も聞かない。
 そうして思った。
 本当に魔王軍は悪いものなのかと。

 そんな疑問を持った俺は、つい亜人を転移で逃してしまった事がある。
 初めは単に出来心だった。

 やってしまった。
 すると、そう考えていた俺に助けた亜人が言ったのだ。
 ーーありがとう、と。

 本当に血も涙もない連中であれば、そんな事は言わずに、俺も襲われていたはず。
 亜人や魔物を逃がすというのはそれから始めることになった。

 そうして今までで、彼らに俺が何か嫌なことをされたということはない。
 今では彼らの住処に送り届けたところ、そこで歓迎されるということまであったりもしたな。

「ああ、そうだな。聞かれて考えてみたが、今はもう魔王軍を血も涙もないやつらだとは思えない」

 むしろ、今の人間のほうが血も涙もないのではないか、とユウトやマサトたちを始めとする異世界人を見ているとそう思う。
 同時に、それに不快を感じる自分がいた。

 そして、俺自身もその枠組みの中にいる。
 だから彼らを逃がすことで、そうではないと思いたかった。

 それからは彼らを逃がすたびに、その不快感が薄れて行く気がした。
 結局の所は自己満足だな。

「だけど、逃してきたのは俺自身の自己満足の結果だ」

 それを聞いた亜人の女の子はこちらににこりと笑顔を向けてくる。

「自己満足でもいいよ。私たちはそんな君の行動を見て、リアに助けて欲しいってそう思ったんだ。そして、私たちも行動で示してきた。だから保証はないけれど、リアに信じてもらえたら嬉しいかな」

 そうして思う。
 人間側に付くか、魔王軍側に付くか。
 重要なのはそこじゃなかったんだ。

 俺が今までに見てきた現実に対して、どう思ってきたか。
 その上でどうしたかったのか。
 答えは既に出ていたんだ。

 それに今となっては、俺を縛るものは何もない。

「……その上でもう一度言うよ」

 そうして、彼女。

「私は魔王の娘クロエ」

 クロエはこちらに手を差し伸べて続ける。

「リアに私たちを助けてほしいんだ」

 気がつけば、俺は自然と彼女の手を取っていた。
 こうして俺の冒険者としての日常は一旦終わりを告げて、魔王軍として動くことになったのだった。
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