犬も歩けば時代を超える

有馬 優

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2話 犬千代、現代へ!

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 薄暗くて窮屈な中を必死の思いで通り抜けると、そこは眩しくて目も開けられないような世界だった。というより、自分の目がずいぶんと開きづらいような気がした。

「ここはどこなんだ?」

周りを見回してみるが、よく見えない。嗅ぎ慣れない匂いがする。人の話し声もするし、動物の鳴き声もする。しかし暗いトンネルを抜けるのにかなり疲れてしまって、私はそのまま眠りについてしまった。

 再び目を開けると、そこにはボンヤリと小さな生き物たちが見えた。同時に私の身体をぺろぺろと舐める者もいる。よく見ると、小さな生き物は子犬で、私を舐めているのは親犬のようだった。

「そうだ、私は仏様と閻魔大王の配慮によって、犬になって転生したんだった。」

 暗いトンネルは、おそらく母親の胎内から産まれてくる際の道のりだろう。周囲の匂いが嗅ぎなれないのは、私が元住んでいた戦国時代から数百年も経った時代だからかもしれない。周囲は見慣れないものばかりのようだ。

「かわいい!かわいいね!」

 人間の子供の声がする。甲高い小さな男の子の声だ。見るとおかしな着物を着ていて、頭もまるで出来損ないの僧侶のような頭をしている。

「お母さん、すごくかわいいね!抱っこしていい?」

男の子は母親にねだるように言うが、母親はまだ早いと注意していた。確かにあの無遠慮そうな手で鷲?拙みされたらたまらないと思う。やれやれ、命拾いだ。いや、ちょっと待てよ。あの母親が、私の母の桔梗の方の生まれ変わりなのだろうか?私の心臓は飛び出しそうなくらいドキドキしていた。時代は同じに生まれ変わっても、再会できるかは分からないと言われて送り出されてきた。それがもう再会になるのか?

「もしもし、こちらを向いてもらえますか?」

私は男の子の母親が背を向けているので呼んでみた。声は言葉にはならず、生まれたての子犬の「ちーちー」という小さな鳴き声にすぎなかった。このような有様で、果たして再会できたとして私の気持ちをお母様に伝えることができるのだろうか?

「あら、お腹すいたのかしら?お母さんのおっぱいはあっちよ。早くしないと飲みはぐってしまうわよ」

男の子の母親は振り向くとにっこり笑って言った。振り向くと確かに私の犬としての兄弟が母親の乳首に飛びついている。でも、私の犬としての声に振り向いてくれた男の子の母親は、桔梗の方ではないことがすぐに分かった。生まれ変わっても、そういうのは分かるものなのだなということは分かった。

「なに分にもこれからだ。もっとも長くて15年という年月で再会して気持ちを伝えて、一緒に過ごせる時間を長くとりたいのだから頑張らねば!」

 私は決意も新たに天井を仰いだ。そして気づいた。私は大きな檻の中にいる。フワフワで居心地の良い入れ物に入っていたので誤魔化されてしまったが、これは捕らわれの身のようだ。そうだ、今現在は私は人間に飼われている犬にすぎないのだ。

「それとて、自由になるチャンスはあるだろう。私の新しい人生はこれからなのだ!・・・いや、人生ではなく犬生か?」

 確実なのは、お母様が同じ空の下に生きていらっしゃるということだ。必ず探し出す。戦国の世では悲しませて親不孝だったと思う。今度こそ、今度こそは・・・・!ああ、お母様に会いたい。



 それから日にちが飛ぶように経っていった・・・と思う。何しろ人間の時と違って、暦を見ることもなく、室内なのにいつも昼間のように明るくて、どれだけ時間と日にちが経ったのか分からない。しかし一つ気がついたのは、どうやら私は見たこともない小型犬に生まれ変わったようだ。母犬を見れば分かる。大人だというのに、それほど子犬との開きがない。薄い茶色の毛の母犬は非常に優しく、時に厳しく、母親として完璧だなと思わせる節がよくあった。言うことなど聞こうともしない6匹の子供たちを前に、慈悲深い視線を注いでいる。

「ねぇ、うちの犬は純粋なチワワなんだよね?高く売れるんでしょう?」

人間の男の子が母親に尋ねている。どうやら私は「チワワ」という犬に生まれ変わったらしい。

「そうよ、純粋のチワワだから、大人になってもお母さんのマナちゃんくらいにしか身体は大きくならないの。狭い部屋でも飼えるからチワワは人気があるのよ。でもそんなに高く売ろうとは思わないけどね」

母親は優しく男の子に話している。私のお母様はどのような話し方をしていたっけ。どのような目をしていたっけ。なんだかうろ覚えになってきた。いや、そうではない。私が戦国の世の時には、小さいときには乳母と過ごし、少し武道をやり始めると爺やと一緒にいる時間が多かったからだ。あの頃、お母様とはどんな話をしていたのだろうか? 遠くでいつも私を見ているお母様の視線は感じていたような気がする。でも、いつも一緒にはいなかった。なんてもったいない時間を過ごしてしまったのだろう。

 私が下を向いて親指の爪を舐めていると、母犬がそばに寄ってきて口元を舐めてくれた。その動作に深い愛情を感じずにはいられなかった。

「このまま、この母犬と一緒にずっと過ごすというのもいいかもしれない」

そんな考えもよぎった。しかしそれはダメだ。私の真の母は他にいて、再会するためにこの世に降ろしてもらえたのだ。それにこのままでは母犬と一緒どころか、どこかへ売られてしまいそうだ。

「困ったな。この檻を抜け出すのも大変だし、ご飯は与えられるだけしかない。人間だったら台所に忍び込んで握り飯などを作って出て行くんだが。」

 これからどうしたら良いのだろう?ここを抜け出して、生き抜くと同時にお母様を探さなければいけない。

「さて、少しでも策を練らなければ」

そう思うと同時に、また眠気がおりてきた。子犬というものは人間の赤ん坊と同じでやたら眠っているものなのかもしれない。




























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