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第一部ヴァルキュリャ編 第三章 ロンダーネ
香り松茸、味しめじ
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耳慣れた低音が、動揺した頭の中でベースフレーズのようにリフレインしている。
『アセウス殿にも、私にも、誰にも話していない、一人だけで抱えている事がないか?』
なに?! こいつ、いきなりっ!!
いや、あるけど。いっぱいあるけどっ?!
「え? あるだろそりゃ。誰だってそーだろ。何聞いちゃってんの。お前だってあるだろ?」
「私に? ……誰にだって、ある……」
青春漫画みたいなド直球な質問に、半端ない「照れ」と「緊張」が走った。
けど、俺の返しに真剣に考え込んだジトレフを見て、変な緊張は解けた。
恥ずかしさだけが残る。
なんだ、いつもの無知か。ビビって損したやつーっ!
「逆になかったらヤベー奴だろ。お前ほんとズレてるよな。すげー有能なのに、知ってることと知らないことのバランスがおかしすぎっ……て、師匠がすげかったんだっけ」
「あ、あぁ」
「名門一族の至宝だもんなぁ。優秀な指導者に英才教育して貰って、脇目も振らずに鍛え上げられてきたって感じか。環境ガチャでSSR引いた勝ち組ってずりぃよなぁ。結局は全部運なんだよな」
「環境が、なんと……」
「あー、いい、いい、こっちの話。ジトレフが悪い訳じゃないし。で、話してないことがあると何?」
「……話して欲しい、と思ったのだが」
「は?」
「頼めることではないのか……」
自分が間違えたことに気付いて戸惑っている。
目の前に立ち尽くすのは、そんな思案顔だった。
以前タクミさんが言っていたことが少し分かる。
何て言ってたか、証明欲求だったか。
こういうジトレフには、俺もつい饒舌になってしまう。
「ねぇよ、無理っしょ。話す訳ねぇーだろ。隠したいとか、言えないとか、別にしてさ。話す必要ねぇから話さねぇんだから。お前、他人が全部を話してきたとして、本当に全部知りたいとか思う訳? 思わねぇーだろ。自分に直接関係ねぇもん。そんな興味本位な他人になんか晒せるかよ。お前は話せって言われたら全部話すのかよ」
「――っそうだな。おかしなことを、言った……。話したいとは思わないし、……話したくないこともある」
「当たり前です。それがプライバシーとか距離感ってやつだよっ……て、お前その辺疎いんだっけ。良かったな、一つ大事なこと知れたじゃん」
「プライバシー……」
「えぇと、他人に干渉されない、個人的な情報とか領域とか? ずけずけ行っちゃいけない訳よ」
上から極マリコ、偉そうな俺。
前世だったら辛辣にツッコまれそうなもんだが、ジトレフは考え込むように近くの岩に腰掛けた。
素直というか、真面目なんだよなぁ。
環境SSRが最大限の結果を生み出したのはジトレフのこーゆー性格もあるよな。
まぁ、俺だって? そんな不真面目なわけじゃないから、環境SSR引いてたらそこそこのモンにはなってたと思うけどさ。
「……私はあまり他人に興味がない」
「知ってる。アセウスはなんか言ってたけど、俺は別にいーんじゃねぇかと思うよ」
「だが、知りたいと思うこともある」
「興味のある人間がいたって訳だ。それも別にいー………って、え゛? それ、……俺?」
隠してることを話して欲しいってっ、そーゆーことだよな?
え?? なんで? よりによって――っ。
だって俺、24年間、学校とか、会社とか、いろんな集団に属してたけど、こんな風に誰かに興味を持たれたことなんて一度もなかった!
俺のことなんて知りたい奴、初めてだぞ?!
「興味があるのか、よく、分からない」
「へ、へぇー……」
「ただ、話して欲しいと思ってしまった。知らず、無力なのは歯痒い」
んん??
「……それは興味じゃねぇよ」
ホッとするような、残念のような。
複雑な気持ちの俺。
身体中を駆け廻っていた恥ずかしさと興奮が、すんっと消えた。
「そうかもしれない。エルドフィン殿は師に似ている」
「ふぅーん(棒)。え? あのすげー師匠? あぁ、そゆこと。そりゃ、知りたくなるかもね。俺のどの辺が?」
「……分からない。似ているようで、全く似ていない、だが、思い起こさせるのだ」
「なんだよ、それ。似てねぇんじゃん。ホームシックか? 会ってきたんじゃねぇーの? お前のお師匠さん、オッダ部隊にいるんだろ?」
「……いや」
「違ぇの? 意外。どこにいんの?」
「……話したくない、ことだな。すまない、こういうことか」
ジトレフは、何かを悟ったような顔をして、目線を遠くへ飛ばした。
それから、額を押さえて俯いた。
ジトレフにしては珍しい、自嘲的な笑いを隠したように見えた。
へぇ、ちょっと意外。
ジトレフにもこんな一面があるんだ。
剣バカ100%って訳でもねぇのか。
ま、あるか。ジトレフだって、めんどくせぇ人間なんだもんな。
「別に謝ることねぇよ。言ったろ? 誰だってそーなんだって。うっかり立ち入っちゃってもさ、ずけずけ踏み荒したりしないで触れないようにしてれば、誰も怒ったりしねぇよ。そんなん、よっぽど親しい相手じゃなきゃ知りたいとも、話したいとも思わねぇって」
「!?」
「あ、アセウス達終わったらしい。行くか、重い荷物を増やしに。あぁ~嫌だけどなぁ」
俺が立ち上がると、足元の変な生き物がぴょんっと岩場を飛び下りて俺を振り返った。
こいつ、言葉分かってんのかねぇ。
数歩進んで、ジトレフがまだ腰掛けたままなのに気が付いた。
「? ジトレフ、ボォーっとしてんなよ。行くぞ」
「あ、あぁ。わかった」
俺は近付きながら「司祭」達を眺めた。
見れば見るほどに、異世界観を感じる光景。
見れば見るほどに……
……シメジだな。
『アセウス殿にも、私にも、誰にも話していない、一人だけで抱えている事がないか?』
なに?! こいつ、いきなりっ!!
いや、あるけど。いっぱいあるけどっ?!
「え? あるだろそりゃ。誰だってそーだろ。何聞いちゃってんの。お前だってあるだろ?」
「私に? ……誰にだって、ある……」
青春漫画みたいなド直球な質問に、半端ない「照れ」と「緊張」が走った。
けど、俺の返しに真剣に考え込んだジトレフを見て、変な緊張は解けた。
恥ずかしさだけが残る。
なんだ、いつもの無知か。ビビって損したやつーっ!
「逆になかったらヤベー奴だろ。お前ほんとズレてるよな。すげー有能なのに、知ってることと知らないことのバランスがおかしすぎっ……て、師匠がすげかったんだっけ」
「あ、あぁ」
「名門一族の至宝だもんなぁ。優秀な指導者に英才教育して貰って、脇目も振らずに鍛え上げられてきたって感じか。環境ガチャでSSR引いた勝ち組ってずりぃよなぁ。結局は全部運なんだよな」
「環境が、なんと……」
「あー、いい、いい、こっちの話。ジトレフが悪い訳じゃないし。で、話してないことがあると何?」
「……話して欲しい、と思ったのだが」
「は?」
「頼めることではないのか……」
自分が間違えたことに気付いて戸惑っている。
目の前に立ち尽くすのは、そんな思案顔だった。
以前タクミさんが言っていたことが少し分かる。
何て言ってたか、証明欲求だったか。
こういうジトレフには、俺もつい饒舌になってしまう。
「ねぇよ、無理っしょ。話す訳ねぇーだろ。隠したいとか、言えないとか、別にしてさ。話す必要ねぇから話さねぇんだから。お前、他人が全部を話してきたとして、本当に全部知りたいとか思う訳? 思わねぇーだろ。自分に直接関係ねぇもん。そんな興味本位な他人になんか晒せるかよ。お前は話せって言われたら全部話すのかよ」
「――っそうだな。おかしなことを、言った……。話したいとは思わないし、……話したくないこともある」
「当たり前です。それがプライバシーとか距離感ってやつだよっ……て、お前その辺疎いんだっけ。良かったな、一つ大事なこと知れたじゃん」
「プライバシー……」
「えぇと、他人に干渉されない、個人的な情報とか領域とか? ずけずけ行っちゃいけない訳よ」
上から極マリコ、偉そうな俺。
前世だったら辛辣にツッコまれそうなもんだが、ジトレフは考え込むように近くの岩に腰掛けた。
素直というか、真面目なんだよなぁ。
環境SSRが最大限の結果を生み出したのはジトレフのこーゆー性格もあるよな。
まぁ、俺だって? そんな不真面目なわけじゃないから、環境SSR引いてたらそこそこのモンにはなってたと思うけどさ。
「……私はあまり他人に興味がない」
「知ってる。アセウスはなんか言ってたけど、俺は別にいーんじゃねぇかと思うよ」
「だが、知りたいと思うこともある」
「興味のある人間がいたって訳だ。それも別にいー………って、え゛? それ、……俺?」
隠してることを話して欲しいってっ、そーゆーことだよな?
え?? なんで? よりによって――っ。
だって俺、24年間、学校とか、会社とか、いろんな集団に属してたけど、こんな風に誰かに興味を持たれたことなんて一度もなかった!
俺のことなんて知りたい奴、初めてだぞ?!
「興味があるのか、よく、分からない」
「へ、へぇー……」
「ただ、話して欲しいと思ってしまった。知らず、無力なのは歯痒い」
んん??
「……それは興味じゃねぇよ」
ホッとするような、残念のような。
複雑な気持ちの俺。
身体中を駆け廻っていた恥ずかしさと興奮が、すんっと消えた。
「そうかもしれない。エルドフィン殿は師に似ている」
「ふぅーん(棒)。え? あのすげー師匠? あぁ、そゆこと。そりゃ、知りたくなるかもね。俺のどの辺が?」
「……分からない。似ているようで、全く似ていない、だが、思い起こさせるのだ」
「なんだよ、それ。似てねぇんじゃん。ホームシックか? 会ってきたんじゃねぇーの? お前のお師匠さん、オッダ部隊にいるんだろ?」
「……いや」
「違ぇの? 意外。どこにいんの?」
「……話したくない、ことだな。すまない、こういうことか」
ジトレフは、何かを悟ったような顔をして、目線を遠くへ飛ばした。
それから、額を押さえて俯いた。
ジトレフにしては珍しい、自嘲的な笑いを隠したように見えた。
へぇ、ちょっと意外。
ジトレフにもこんな一面があるんだ。
剣バカ100%って訳でもねぇのか。
ま、あるか。ジトレフだって、めんどくせぇ人間なんだもんな。
「別に謝ることねぇよ。言ったろ? 誰だってそーなんだって。うっかり立ち入っちゃってもさ、ずけずけ踏み荒したりしないで触れないようにしてれば、誰も怒ったりしねぇよ。そんなん、よっぽど親しい相手じゃなきゃ知りたいとも、話したいとも思わねぇって」
「!?」
「あ、アセウス達終わったらしい。行くか、重い荷物を増やしに。あぁ~嫌だけどなぁ」
俺が立ち上がると、足元の変な生き物がぴょんっと岩場を飛び下りて俺を振り返った。
こいつ、言葉分かってんのかねぇ。
数歩進んで、ジトレフがまだ腰掛けたままなのに気が付いた。
「? ジトレフ、ボォーっとしてんなよ。行くぞ」
「あ、あぁ。わかった」
俺は近付きながら「司祭」達を眺めた。
見れば見るほどに、異世界観を感じる光景。
見れば見るほどに……
……シメジだな。
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