ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ

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第一部ヴァルキュリャ編  第三章 ロンダーネ

綻び

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 ドクンドクンドクンドクンッ
 男二人が一歩一歩慎重に、ヒポグリフに向かって進んで行く。
 あ! 見たっっ
 首を振り向かせて、ギョロリと瞳孔を向けた一体に、男二人の身体はビクッと止まる。
 ぶわぁっっ!!
 すかさず大きな翼が辺りをなぎ払う。
 近寄るな、そんな意思を感じた。
 自分は少し離れた岩陰から隠れて見ているだけのなのに、握った手のひらの汗が止まらない。
 くそっっ落ち着け心臓!

 男二人は風圧に身体を縮め、なんとか凌いだようだ。
 体勢を整え、ヒポグリフの様子を窺っている。
 ヒポグリフの方も、男達を気にするように頭や身体が絶え間なく動く。

 しばらくにらみ合いが続き、男二人に退く気がないと分かったのか、ヒポグリフが大きく鳴いた。
 クァエエェッッ!!  クァェェェッッ!  クァェェェ……
 やまびことなった反響が続く。
 男二人はひるんで腰が引けたが、その場を動こうとはしない。
 ヒポグリフもそれ以上は何もしてこなかった。
 威嚇だ。
 攻撃する気はないのかもしれない。いけるぞっ。
 同じことを思ったのかは知れないが、男二人もじりじりと歩を進める。
 ヒポグリフは落ちつかなげに頭をあちらへこちらへと動かすものの、何もしてこない。
 よし。次は……
 横を見て俺は少し焦った。


「ジトレフっ、お前そろそろ出番だろ、なんで甲冑つけてねぇんだよ。早くしねぇと間に合わねえぞっっ」
 

 順当と言えば順当だが、この作戦の要はジトレフだ。
 ジトレフこいつの力頼みだし、それだけに一番危険な役回りだ。
 防備は十分にして貰わねぇと……


「甲冑はつけない。あのスピードの相手に立ち向かうには不要だ」

「えっ。そ、そりゃそうだけど、あの鉤爪受けたら一撃で……」


 肉塊ミンチだぞ。そう言いかけた言葉は、さすがにデリカシーがないなと飲み込んだ。


「格上が相手では、即死せずとも攻撃を受けた時点でいずれ負ける。生身なのは皆も同じだ」


 そう言うと、ジトレフは岩陰から駆け出した。
 あ。
 ヒポグリフ達に向かって迷いなく一直線に。
 そしてあの轟音・・・・が響いた。

 《 Hljóðaリョーダ !!!! 》 (ゴゴイィィィンッッッ)

 空気が大きく振動する。
 視界が揺れるようだ。
 男達に駆け寄るジトレフの前方をヒポグリフの大きな身体が横方向へ飛ばされて行く。
 いち、にぃ、さん、よしっ成功だ!
 三体が平衡感覚を失ったように、くるくると不安定な体勢で……違うっっ!
 一体だけ、回るように体勢を整えると、大きく翼をはばたかせた!!
 っっヤバいっっ!!!!

 二体のヒポグリフは、そのまま遠くへ遠くへと高速度で飛ばされて行く。
 つくづくジトレフは凄ぇって思わされる。
 だが一体は同じくらい凄い速度でこちらへ戻ってくる。
 一つ目の綻び。
 そして、二つ目の綻び。
 男二人に何があったのか。
 救出に手間取り、布でくるんだ少女を抱え逃げるのが明らかに遅れていた。
 二つの綻びが憎らしいほどに噛み合って、望まなかった事態が起こる。
 必死に走る男達にヒポグリフの鉤爪が伸ばされる。
 ヤバいっっ! 届いちまうっ

 ガキィィィンッッ!!
 弧を描く、黒い軌跡がヒポグリフの鉤爪をはじいた。


「全員で逃げろっっ!! 一体なら十分な時間を稼ぐっ!」


 重低音がビリビリと響いた。
 ジトレフは迫り来るもう一方の鉤爪をかわしながら、片方の鉤爪だけを黒い長剣で弾き続けている。
 そうか、相手は二刀流みたいなものなのかっ。
 それも凄いスピードの。
 対して、ジトレフこっちは長剣一刀。
 ふと、巌流島の戦いが頭をよぎった。
 武蔵と小次郎。
 確か勝ったのは……
 そんなことを考えていると、血相を変えた男二人が俺達の潜んでいる林の中へと飛び込んできた。
 目標の確保に成功、作戦前半は終了だ。


「女の子は無事か?! そのまま逃げろっ! ロンダーネで会おうっ」


 アセウスの呼び掛けに、男二人は一度だけこちらを向いた。
 

「すみませんっ……」


 一言だけ言い残して、崖上に向かって走り抜けた。
 なんだ今の・・・・・
 もやっとした違和感が俺の元に残される。
 ヒポグリフが一体残ってしまい、逃げきるためにはなんらかの対応をしなければならない。
 楽観できる状況ではないが、作戦としては概ね成功と言えるだろう。
 そうなのだが。
 俺は二人が残した、なんとも苦しげな表情が気になった。
 相応ふさわしくないんだ、この状況には。
 あれ・・は仲間を危険に残す悲しさの表情じゃない、あれは、あれはなんだっけ。確か……


「エルドフィンっっ、俺達も行こう! 俺達じゃレベルが違い過ぎて、近付いたらかえって足手まといになるけど、ジトレフ一人に防がせとく訳にはいかない。他の二体もあるし、何か支援しないと」

「あ、あぁ。そうだな」


 思考を遮られた俺は、アセウスに続くように岩陰を出た。
 ヒポグリフの鉤爪と、黒い長剣のせめぎ合う音が絶えず響いている。
 ジトレフの邪魔にならないように、十分に間合いを取って、気が付く。
 あ。
 岩陰から遠ざかるように、ヒポグリフを押し返したのか?
 そういや、鉤爪や翼による攻撃を避けてあれだけ体勢は変わりまくっているのに、さっきからジトレフあいつ、鉤爪を弾いてばかりで他の部位を攻撃してなくないか?
 一つの仮説が生まれて、その瞬間にゾッとした。
 いやいやまさかだ。トロルの時だって一体も倒せてはいなかったし、逆にヒポグリフが強いってことだろ。
 ジトレフのあらゆる部位への攻撃を、全部片方の鉤爪で受けきり防いでるってだけだ。
 それより飛ばされた二体。
 あの魔法の仕組みは知らないが、ジトレフが斬り合いを始めた時点で魔法の効力も切れたと考えるのが普通だ。
 つまり……、俺は二体が飛ばされていった方向を見据えた。
 戻ってくる・・・・・。戻ってっ


「キタァァァアアアッッッッ!!」


 ヒポグリフが二体、戦闘機のようにこちらへ向かってくる!
 支援するって、どーするっっ?
 俺とアセウスじゃヒポグリフと一対一タイマンなんて無理だっ。
 だからって、ジトレフが三体相手するなんてもっと無理だしっ
 飛んで来るヒポグリフあいつらをどーにかするなんて、魔法が使えない俺らじゃできねぇっ
 どーするっ?! 呼ぶ・・か?!
 今なら口止めが済んでるジトレフ以外の知らねぇ奴らはいねぇっ
 魔物を一緒に呼んだりはしねぇはずっっ
 ゴンドゥルの魔法ちからならヒポグリフだって敵じゃない。
 一気に倒すなり、……なにかしら逃げきる手段がきっとっっ

 アセウスを見る。アセウスからは何の指示もない。
 ヒポグリフを見る。小さな点みたいだった姿が、手足や顔が判別つくくらいまで近付いてきていた。
 どーするっっ?! どーするよっ?!




 
 
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