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第一部ヴァルキュリャ編 第三章 ロンダーネ
人が多くなると自動でスイッチがオフモードになるのですが何か?
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「トロンっ!」
赤いカエデの松の根元に座っていた男は、立ち上がりながら歓喜の声をあげた。
トロンが我先にと駆け寄る。
「スヴェイン~~っっ、良かったっっ、無事だったんだなっ」
半泣きのような力ない声だった。
仕事仲間といってもそこそこ親密な仲のようだ。
緊張の糸が切れ、安心しているのがよく分かった。
「トロンこそ。守り神に追われるなんて、大変な目に合わせてすまなかった。もうダメなんじゃないかと、待つ時間がとても辛かったよ」
「俺もさ。こんな森で誰にも知られずに死ぬのかと、悔しくて、悲しくて。それが、こちらの皆さんに助けて貰ったんだ」
いやいやいやいや、俺ら何もしてないだろ。
「私達は何も。アセウス・エイケンです。ローセンダールからロンダーネへの旅の途中で、エルドフィン・ヤールと、ジトレフ・ランドヴィーク」
アセウスが極めて自然に、そして簡潔に、訂正と紹介を済ませる。
「皆さん《冷たい青布》なんだ。それで、力を貸してくれるって」
「スヴェインです。ありがとうございます、とても心強いです。私達もロンダネへ行く途中なので、よろしければご案内しましょう。無事ここを切り抜けたら、の話ですが」
トロンと同じような年齢、背格好の男は、社交的な笑みで自己紹介を済ませた。
服装に帽子まで同じようなものを身に付けているから、正直俺には区別がつきづらい。
気が付けば、俺は自分の存在感を消しにかかっていた。
俺の対人センサー優秀過ぎる。
「それで、現状は? 残りのお二人と……例の少女は」
アセウスの問いにトロンも言葉を続ける。
「そうだ、計画は失敗したのか? 二人は?」
「失敗した。トロンと俺で二体引き離すのは上手く行ったんだが、もう一体居た。それで、オーレが囮になるって言って」
「オーレがって、崖上に戻ってきたのか?」
「いや、下から。ガチでヒポグリフの前に出て行ったんだ」
「なんてことをっ……」
「でも、相手にされなかった。チラとは見たから、気が付いていたとは思うけど、自分一体だから動くつもりはなかったのかもしれない。オーレとペールは今も下でチャンスがないか狙っている。俺はトロンが戻ってきた時のためにここで待っていたんだ」
言いながら、スヴェインは松の木から赤いカエデの葉を回収した。
「さっき叫んだから、あいつらも下で安心しているはずだよ、崖下に降りて二人と合流しよう」
スヴェインは柔らかい笑みをトロンに向けた後、皆さんも、という表情で俺達を見回した。
「ヒポグリフは。ここから見ることは出来るのだろうか」
歩み寄るジトレフにスヴェインはにっこりと微笑んだ。
「私が引き離した方が先に、トロンを追って行った方が少し前に戻ってきて、今は三体が少女を取り囲んでいます。そこに見下ろし易い石場があるので、見ていきますか?」
案内するスヴェインの後ろにジトレフ、アセウス、俺の順にぞろぞろついていった。
随分と崖っぷちまで進む。
地面に大きな石が埋まっていて足元に不安はなさそうだが、簡単に落ちれそうで足を進めたいとは思わなかった。
崖のきわでは、先頭を行くスヴェインが指を指してジトレフに何か話している。
スヴェインと入れ換えでアセウスが崖下を覗き込み、ジトレフと入れ替わりに俺も崖っぷちへ近寄った。
「あそこだ、エルドフィン。ヒポグリフが三体、陰になって見づらいが確かに子どもらしいのが見える」
「いゃ、いゃ、たっけぇなぁ。みんな怖くねぇのかよ……。この距離で睨まれて追っかけられたトロン、強過ぎだな。俺ならその時点で心が死んでんぞ」
俺はちらっとだけ覗き込んで、ヒポグリフっぽい塊を視界に捉えると、すぐさま崖っぷちから離れた。
長々覗き込んでいるアセウスを待って、一緒に戻ろうとしていると、
「回りに隠れて近付けそうな所もないな。エルドフィン、どう思う? トロンの仲間が居るのって多分あの岩陰の辺りだよね?」
と聞かれてしまった。
えぇ~また見るの? 怖いから嫌なんだけど。
手招きしないでよ。
仕方なく少しだけ歩を進め、へっぴり腰で覗き込む。
「あぁー、確かに。見事に何もないな。岩陰ってどこ?」
「あれ」
「あぁ、あれな。そうだな……ってぇっっ」
アセウス、おいこら、人を呼んどいてサッサと行くなよ。
俺は慌ててアセウスの後を追いかける。
去り際の視界が、眼下のヒポグリフ三体と荒々しい断崖に囲まれた小さな生き物の姿を捉えていた。
あ、女の子、あの位置にいるんか。
確かに、ヒポグリフの陰になっちゃって見にくいな。
あれ?
ちょっと待て、いや、まさかな。
「……アセウス、あのさぁ」
「エルドフィン、下へ降りるから急げって。もう、ジトレフ達進んでる。はぐれるなよ」
アセウスはそう言うなり、早足で山道に進む。
追う視界には、確かに小さくなった人影しか見えない。
「えぇっ? ちょっっ、はぁあっ? のんびり見てたんはお前だろー。どんだけ先行ってるんだよっ。あいつら、ひでぇー、いや、まぢはぐれるってっっ」
「エルドフィンこっちっ! 早くっ!!」
「待ってよぉー(必死)」
ジトレフの姿なんて最早見えない。
多分トロン、がかろうじて見える範囲で目印となって手を大きく振ってくれている。
俺は口にしかけた疑問を飲み込んで、林の中を遠ざかっていくアセウス達の姿を、必死で追いかけて行った。
赤いカエデの松の根元に座っていた男は、立ち上がりながら歓喜の声をあげた。
トロンが我先にと駆け寄る。
「スヴェイン~~っっ、良かったっっ、無事だったんだなっ」
半泣きのような力ない声だった。
仕事仲間といってもそこそこ親密な仲のようだ。
緊張の糸が切れ、安心しているのがよく分かった。
「トロンこそ。守り神に追われるなんて、大変な目に合わせてすまなかった。もうダメなんじゃないかと、待つ時間がとても辛かったよ」
「俺もさ。こんな森で誰にも知られずに死ぬのかと、悔しくて、悲しくて。それが、こちらの皆さんに助けて貰ったんだ」
いやいやいやいや、俺ら何もしてないだろ。
「私達は何も。アセウス・エイケンです。ローセンダールからロンダーネへの旅の途中で、エルドフィン・ヤールと、ジトレフ・ランドヴィーク」
アセウスが極めて自然に、そして簡潔に、訂正と紹介を済ませる。
「皆さん《冷たい青布》なんだ。それで、力を貸してくれるって」
「スヴェインです。ありがとうございます、とても心強いです。私達もロンダネへ行く途中なので、よろしければご案内しましょう。無事ここを切り抜けたら、の話ですが」
トロンと同じような年齢、背格好の男は、社交的な笑みで自己紹介を済ませた。
服装に帽子まで同じようなものを身に付けているから、正直俺には区別がつきづらい。
気が付けば、俺は自分の存在感を消しにかかっていた。
俺の対人センサー優秀過ぎる。
「それで、現状は? 残りのお二人と……例の少女は」
アセウスの問いにトロンも言葉を続ける。
「そうだ、計画は失敗したのか? 二人は?」
「失敗した。トロンと俺で二体引き離すのは上手く行ったんだが、もう一体居た。それで、オーレが囮になるって言って」
「オーレがって、崖上に戻ってきたのか?」
「いや、下から。ガチでヒポグリフの前に出て行ったんだ」
「なんてことをっ……」
「でも、相手にされなかった。チラとは見たから、気が付いていたとは思うけど、自分一体だから動くつもりはなかったのかもしれない。オーレとペールは今も下でチャンスがないか狙っている。俺はトロンが戻ってきた時のためにここで待っていたんだ」
言いながら、スヴェインは松の木から赤いカエデの葉を回収した。
「さっき叫んだから、あいつらも下で安心しているはずだよ、崖下に降りて二人と合流しよう」
スヴェインは柔らかい笑みをトロンに向けた後、皆さんも、という表情で俺達を見回した。
「ヒポグリフは。ここから見ることは出来るのだろうか」
歩み寄るジトレフにスヴェインはにっこりと微笑んだ。
「私が引き離した方が先に、トロンを追って行った方が少し前に戻ってきて、今は三体が少女を取り囲んでいます。そこに見下ろし易い石場があるので、見ていきますか?」
案内するスヴェインの後ろにジトレフ、アセウス、俺の順にぞろぞろついていった。
随分と崖っぷちまで進む。
地面に大きな石が埋まっていて足元に不安はなさそうだが、簡単に落ちれそうで足を進めたいとは思わなかった。
崖のきわでは、先頭を行くスヴェインが指を指してジトレフに何か話している。
スヴェインと入れ換えでアセウスが崖下を覗き込み、ジトレフと入れ替わりに俺も崖っぷちへ近寄った。
「あそこだ、エルドフィン。ヒポグリフが三体、陰になって見づらいが確かに子どもらしいのが見える」
「いゃ、いゃ、たっけぇなぁ。みんな怖くねぇのかよ……。この距離で睨まれて追っかけられたトロン、強過ぎだな。俺ならその時点で心が死んでんぞ」
俺はちらっとだけ覗き込んで、ヒポグリフっぽい塊を視界に捉えると、すぐさま崖っぷちから離れた。
長々覗き込んでいるアセウスを待って、一緒に戻ろうとしていると、
「回りに隠れて近付けそうな所もないな。エルドフィン、どう思う? トロンの仲間が居るのって多分あの岩陰の辺りだよね?」
と聞かれてしまった。
えぇ~また見るの? 怖いから嫌なんだけど。
手招きしないでよ。
仕方なく少しだけ歩を進め、へっぴり腰で覗き込む。
「あぁー、確かに。見事に何もないな。岩陰ってどこ?」
「あれ」
「あぁ、あれな。そうだな……ってぇっっ」
アセウス、おいこら、人を呼んどいてサッサと行くなよ。
俺は慌ててアセウスの後を追いかける。
去り際の視界が、眼下のヒポグリフ三体と荒々しい断崖に囲まれた小さな生き物の姿を捉えていた。
あ、女の子、あの位置にいるんか。
確かに、ヒポグリフの陰になっちゃって見にくいな。
あれ?
ちょっと待て、いや、まさかな。
「……アセウス、あのさぁ」
「エルドフィン、下へ降りるから急げって。もう、ジトレフ達進んでる。はぐれるなよ」
アセウスはそう言うなり、早足で山道に進む。
追う視界には、確かに小さくなった人影しか見えない。
「えぇっ? ちょっっ、はぁあっ? のんびり見てたんはお前だろー。どんだけ先行ってるんだよっ。あいつら、ひでぇー、いや、まぢはぐれるってっっ」
「エルドフィンこっちっ! 早くっ!!」
「待ってよぉー(必死)」
ジトレフの姿なんて最早見えない。
多分トロン、がかろうじて見える範囲で目印となって手を大きく振ってくれている。
俺は口にしかけた疑問を飲み込んで、林の中を遠ざかっていくアセウス達の姿を、必死で追いかけて行った。
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