ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ

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第一部ヴァルキュリャ編  第三章 ロンダーネ

星降る夜空に

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 目に映る景色は、昔見た映画みたいだった。
 字幕で見た海外の映画だ。確かこんな感じの場面シーンがあった。
 モミの木みたいなギザギザの背の高い木が、どこまでも重なるように生えている。
 他に何もなく、方向感覚を失うような森の中、主人公達は目的の場所を探して彷徨さまようのだ。

 ローセンダールでのあの夜、アセウスは躊躇ためらった末、やっぱり盗みは良くない、二度目が・・・・あったら・・・・俺は看過できない・・・・・・、と伝えた。
 アイドと、タクミさんとに。
 腕前を確認するというなら、返すことまで含めてやればいい。
 もし次にアイドが盗みをしたと知った時は、犯罪者として扱う。
 そう、告げた。

 アセウスがそう言うなら、俺も次は庇わないよ。
 真剣に切り出したアセウスに応えるように、タクミさんも言った。
 今までは関係者に被害者がいなかったってだけで、潮時だってことかもな。
 俺の言葉に耳を貸して貰えるくらいには支援してきたつもりだ。
 応えてくれないか、もう盗みはしないって。

 分かった分かった、俺も命が惜しいからな。もうしねぇよ。
 アイドはあっさりと約束した。
 あまりに即答だったから、またでまかせの嘘なんじゃないかって思った。
 そう思ったのはきっと、俺だけじゃないと思う。
 でも、それ以上は誰も何も言えなくて、気まずさを残したまま早くに夜が終わった。
 翌朝、俺達が起きた頃にはアイドはもうどこかへ居なくなっていて、俺達もロンダーネへと出発することにしたんだ。

 ゴロンッと寝返りを打つと、頭上の壮大な星空が目に飛び込んできた。
 距離感から解き放たれた、無限の空間、限りなく黒に近い濃紺。
 その中に、やはり全てから解き放たれた無数の光、星。
 濃紺、星、濃紺、星、濃紺、星……


「エルドフィン、起きてるのか?」


 アセウスが遠慮がちに聞いてきた。
 寝ずの番は交替ですることになって、今はアセウスの番だ。


「んー。夜空、すげぇなって」
 
「あー、空……?」


 今一つわからねぇっつー反応だ。
 だろぉな。
 この夜空はずっと俺達の上にあった。
 凄ぇけど、何を改まって、て感じなんだろ。
 俺も正直、驚いているんだ。
 転生して、この世界に来て、何度も野宿なんてしてるのに、今までまともに空を見上げたことがなかったのかって。
 

「確かに、高い山の上だからかな? 空がいつもより近く感じるな。星が、手を伸ばせば掴めそうだ。っって、やっぱ無理か」


 アセウスのやつ、やった・・・な。
 陽キャ人種め。
 お陰で、後でこっそり試してみようと思ってた俺は、恥ずかしい思いをしなくて済んだけど。
 空が近い、か。
 夜空が綺麗な場所ベスト3に長野県が入っていて、周囲に街や光がなくて暗いこと、標高が高いことで星空が綺麗に見えるんだって話を思い出した。
 ほんとかよって信じてなかったけど、こんな感じなんだろうか。
 ずっと眺めていると、無限の夜空の中から無数の光が降ってくるみたいだ。
 それと同時に大地や自分の存在も曖昧になっていく。
 真っ直ぐ伸びるトウヒの木と共に、自分の身体が夜空へと吸い込まれていくようだ。
 

「……凄ぇ綺麗だ」


 無意識に獣皮を掴んでいた。
 大地に寝ている自分を確認できて安心したからなのか。
 綺麗な星空をこうして自由に味わえるからなのか。
 なんだろう、この凄く満ち足りた気持ちは。
 なんか良く分からないけど、今、この時間を迎えられる自分を、良かったって感じていた。
 

「うん、綺麗だなぁー……ずっと見ていると、吸い込まれて星の一つになりそうだ」

「……うん」

「……でも、程々にして寝ろよ? 休める時には休んでおかないと、この先どーなるか分かんねーんだし」

「そぉだな。何が魔法陣ゲートは町の中にある、だよ。町どころか、人影すらねぇじゃねぇか」


 また寝返りをうって身体を丸めると、俺は目蓋を閉じた。
 タクミさんの転移魔法で移動するのは俺でも五回目だった。
 もう慣れたもんだ、なんて思ってたんだが……。


「エルドフィンの声にはびっくりしたなー、すっげぇ声出すんだもん」

「うるせぇ、アセウスだってビビって変なポーズとってただろがっ。俺ちゃんと見てんだからな」

「えー?」


 魔法陣ゲートは大きな川が二つに分かれる、その角地に設置されていた。
 たまたま(か? )俺達の向いている方向が川上を臨むように転移したもんだから、想像せよ。
 広大な川が、水流が、自分達目掛けて向かってくるのだ。
 流されるっっっって思うだろっ!! 誰だって!
 アセウスだって両腕で必死に顔と上体を庇ってたんだぜ。


「タクミさんもさぁ、よりによって何であんな場所ところ魔法陣ゲート作ったんだよ。ちゃんと吊り橋は架かってたから、まぁ、渡りゃぁいいんだけどさ」

「なんでだろーなー? 帰ったら聞いてみよーぜ。それまでに俺らも考えるってことで」

「え?」

「ほんと、エルドフィンは知・り・た・が・り、のー当・て・た・が・り、だなー」


 つい目を開けて、アセウスの方を見上げる。
 愉しそうに微笑わらいながら俺を見るアセウスと目が合った。
 馬っ鹿、俺っ。見んじゃなかった。
 すぐ目を閉じて腕に顔を埋める。


「……俺も、もーちょっとエルドフィンみたいに探求心を持とーかなぁ。あの時もさ、川の激流に流されるって焦った瞬間、あ、でも俺、泳げる・・・んじゃんって緊張が緩んだんだよなー。エルドフィンのお陰だよな。俺ってほんと恵まれてる、すげぇー相棒がいて」


 あーもーっ、なんだコイツ。
 そぉゆーことサラッと言うの止めろよ。
 前世あっちのせかいはそーゆーことは思っても口にしないんだよ。
 そもそも思わねぇし!
 そう言いたかったけど、言える訳もない。


「……寝たかな? ジトレフ見ててさ、ジトレフはかなり極端だと思うけど、俺も人のこと言えないのかなーとか思ったんだよなぁ……。夜空、ほんと、綺麗だな。エルドフィンに言われなければ、気づかなかった」


 なんて返事したらいいのか分からねぇよ。
 だから、俺は寝た振りをした。
 寝たかなって言ってから話してるんだし、アセウスだって、半分は聞かれてなくても良いと思って話してるんだろ?
 スルーだスルー。


「寝たみたいだな。おやすみ、エルドフィン」


 おやすみ、アセウス。
 俺はそう心の中で呟く。
 やがて、穏やかな睡魔の波が訪れて、俺は眠りに落ちていった。

 

 





 
 
 
 

 
 

 
 
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