ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ

文字の大きさ
108 / 123
第一部ヴァルキュリャ編  第三章 ロンダーネ

「綺麗」な理由

しおりを挟む
「なるほど、経緯は分かった。まずはアイドから説明をして貰うかな?」


 ほどなくして戻ってきたタクミさんは、お茶を飲みながらでもいいかな、と俺らをローテーブルへ促した。
 その時点でなんとなく、俺には結末が見えたような気がした。
 

「説明も何もねぇよ。あれは俺の副業だ。人の良さそうな持ってる奴らから少し恵んでいただく。トラブることもない訳じゃねぇから、身を守るために薬を使ってる。タクミも知ってるだろ。はぁぁあっっ(わざとらしいため息)。あっ、そちらの皆さん、タクミは知ってるんだよぉ~」


 皆の視線がタクミさんに集まる。
 まぁ、想定内だよな。
 折角整って生まれた綺麗な顔を、ニヤニヤ得意気に歪めるアイドも想定内だ。
 

「手癖が悪いのは俺が知り合った時からなんだ。めるように勧めてはいるんだが、こいつの苦労も知ってるからなぁー。足を洗えるように、本業ではなるべく支援してるつもりなんだけどねぇ、まだ足りないか」

「足りるとか足りねぇーとか、仕事ってそーゆーもんじゃねぇーだろ? ……タクミがいっぱい仕事くれるから、最近は気が向いた時しかしてねぇよ」


 ドキュメンタリー番組で見た、非行少年や犯罪少年の更正保護事業を思い出してしまった。
 タクミさん、そんなことまでしてたのか。
 これは、俺達には何も出来ない流れだよな。
 殺すなんて論外だし、犯罪者として突き出すのも……。


「事前に説明しなかったのは結果として悪かったな。俺の見える範囲ところでやったことはないし、念のため寝る時は俺の部屋で目を光らせとくつもりだったから、言わなくても問題は起こらないだろーと、まぁ、面倒から逃げたわけだ。さて、アセウス達の話を聞こうか。皆はアイドをどうしたい?」

「……」


 誰も言葉を発しない。
 いや、これ、無理だろーっ。
 俺はもーどーでも良くなったし。


「足りるとか、足りないとかじゃないって、どーゆうことですか? アイドさんは、なんで俺達から、エルドフィンから青い塊を盗ろうと思ったんですか」


 あぁ、そーいえば、そんな疑問を抱いたっけ?
 金も金目のものもあったのに、なんであんな得体の知れない塊をって。
 アセウスのまっすぐの視線を前に、アイドはこれみよがしにキョドってみせた。
 何度もタクミさんに目で助けを求めては、イケオジスマイルに負けてを繰り返す。


「……お前、仕事したことねぇーのかよっ」

「! ありますよ」


 ちーんっ
 可愛いゴングの鳴る音が聞こえた。
 厨ニ少年VSバーサス天使。
 しかし、この勝負はどうだろう。
 ……アセウス、お前、仕事したことあるって言えるのか?
 部隊入りを蹴って、そのまま放浪の旅だろ。
 どちらかといえば放蕩生活では。 
 それ以前に、物盗りを仕事というのはどーかとも思うが。
 
 
「それで説明しねぇーとわからねぇのかよっ」
 
「説明してください」
 
「説明してあげてよ、アイド」

「なんでだよっっ」

「そーゆー場なんだよ、今この時間は。そーそーある場じゃぁない、サービスしてやって」


 ちっっ!!
 盛大に舌打ちが聞こえた。
 アイドの顔芸も激しさを増してくる。
 折角の美形が勿体ない。


「お前は仕事やってて誇りプライドって生まれねぇーのかよっ! 普通生まれんだろっ。誇りプライドだ、腕前だ。自分の審美眼と掠め盗る技術が腐っちゃいねぇか、確かめてなきゃ誇りプライド持てねぇだろーがっっ!」
 
「……腕試しだってゆーんですか」

「腕試しじゃねーよっ。本気の仕事だ。捕まっちまったけど」


 アイドはジトレフに向けて忌々しそうに舌打ちをした。
 うんうん、あれは忌々しかった。
 アセウスは黙ってしまったし、ついでなので聞いてみよう。


青い塊あれは価値があるものなのか?」


 実は、アイドにずっと聞きたかったことだ。
 何度も邪魔が入ったけど。
 もしかしたら、アイドは何か知ってるかもしれない、なんて。


「お前話聞いてたのかよ? それを確かめるために盗ったんだろが。頭ん中までおぎょーぎ良くなっちまったのかぁ~」

「いっちいちうるせぇなぁーっ! 価値がありそーに思った理由があるんだろ、それを聞ぃてんだよっ。結局盗れてねぇ癖にっ。身内の男しかいねぇ場でイキられてもこっちが困るわ! 斜に構えてカッコつけてねぇーでポンポン答えろよっ」

 
 はっっ!!!!
 と気づいた時はもう遅いものだ。
 ふるふると震えながら赤面するアイドの表情に、自分が何をしてしまったのか気づかされる。

 しまった。
 顔芸につい、また釣られてしまった。
 言わんでいい本心が……。


「あっははははーっっ」


 盛大にタクミさんが笑い出す。
 続いて控え目にアセウスも笑い出す。
 陽キャとはなんでこーすぐに笑うのか。全く理解できねぇー。


「ぷははっくっはっはははっっアイドっっ、諦めろ、お前の負けだっははははっ。ちょっ、ちょっと、カッコつけすぎたなっっぷははははっ。ほんっと、エルドフィン面白いわっあはははっやべーっツボに入ったっははっ」

「か、かっこつけてなんかねーしっ。なんなんだよ、まぢこいつらっ」


 白い肌を桃色に染めて、アイドは頭を搔きながら伏せた。
 ふんわりした金髪だけがキラキラとこちらを向いている。
 ほんとは俺も結構恥ずかしかったが、俺以上に恥ずかしい奴がいると思うとダメージが緩和された。
 タクミさんの爆笑が収まりかけた頃、ぽそりとアイドが呟き始めた。


「……綺麗だったんだよ。多分今まで見た石の中で一番、綺麗なんじゃないかと思ったんだ」


 誰も想定してなかった答えだと思う。
 

「それは、俺も見てみたいなぁー」


 タクミさんの優しい声が響いた。
 アイドは突っ伏したままだし、
 タクミさんは笑い疲れたといった感じでお茶をすすっているけど、
 目を閉じたら、アイドの頭を優しく撫でているタクミさんが見えてくる。
 そんな声だった。


「そーゆー時は、言ってくれれば良いのに。見せるくらい、別に……なぁ、エルドフィン? ジトレフだって、咎めないよなぁ?」


 アセウスが気まずそうに問い掛ける。
 まぁ、そうなるわな。


「私は任務中だ。任務以外に優先されることはない。お二人が良いことに私が口を出す筋もない」


 予想通りの結末だったな。
 俺はアセウスの表情を見て、立ち上がった。
 ここ・・までは予想してなかったけど。
 だってまさか、換金目的じゃないとか思わねぇだろ。
 そんな子どもみたいな理由でなんて。
 俺は荷物袋からそれを取り出して戻ると、ふわふわキラキラ光る金髪の前に置いた。
 青い光が影を落として、海の中にアイドの黄金きんの髪が揺れているように見えた。


「好きなだけ見ろよ、綺麗だから。やんねぇけどな」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】 魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。 ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。 グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、 「・・・知ったからには黙っていられないよな」 と何とかしようと行動を開始する。 そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。 他の投稿サイトでも掲載してます。 ※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...